表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
168/406

167  Walk around9

 敵意ある眼差しとはこういうものか。

 美咲に見せていた慈愛ある眼差しと違って冷たい目。まるで存在自体を許さないような目。


 ただ、美咲と一緒にいた。


 その理由だけで、牧島晃は俺を敵と認定したということか。

 声のトーンからして威嚇しているような感じもした。

 美咲もその声を聞いて慌てたように離れて、晃に俺を紹介する。


「え、えとね。この子は木崎明人君。同じところでバイトしてる子なんだ」


 美咲の声を聞こえているだろうけど、敵意ある視線は変わらずのままだった。

 晃は俺を上から下まで満遍なく値踏みするように見つめている。


 美咲に紹介された以上、こちらも挨拶をおくるのが礼儀。

 頭を下げて挨拶しておく。


「木崎明人です。こんばんは」

「えと、この人が私の幼馴染で春ちゃんの妹の晃ちゃんね。前に話したでしょ?」

 美咲が俺に改めて晃を紹介。


 晃は紹介されても挨拶を返すことなく、

「バイトの子? 何でそんなのが美咲と一緒にいるの?」

 俺の挨拶を当たり前のようにスルーして美咲に聞く。

 ちょっとどころではなく、かなり印象が悪いんだけど。


「帰り送ってもらっただけだよ。一人じゃ危ないからって」


 美咲がはらはらした表情で俺と晃を交互に見て言った。

 そりゃあ、はらはらもするよな。


「あ、そう。君もう帰っていいよ。ご苦労様。後は私が美咲の面倒見るから」


 俺にさっさと消えろと言わんばかりに聞こえる。


「ちょっと晃ちゃん。そんな言い方よくないでしょ?」


 流石に美咲も今の言い方が気になったようで晃に詰め寄る。

 美咲にさっと片手を上げて美咲が近づくのを止めさせた。

 まるで美咲が近づくのがわかっていたかのようだ。


「美咲はいいから。姉さんも帰りを待ってるから行こう。ほら姉さんも出てきたでしょ?」


 上げた手で美咲の腕をぱっと掴み、美咲の家の方向を指差す晃。

 晃が指差す方向には家から出てきたばかりの春那さんが見えた。

 俺達の状態を見て、間に合わなかったかというような残念そうな表情をしていた。


「さあ美咲。家に入ろう。話したいことがたくさんあるの」

「ちょっと晃ちゃん!」

 晃に手を取られ引っ張られていく。

 美咲は俺に申し訳無さそうな顔している。


「明人君ごめんねー。また明日おやすみなさい」


 ずるずると引っ張られながらも俺に手を振る美咲に、俺も手を振って返しておく。


「おやすみなさい」


 俺の声が美咲に聞こえたかどうかは分からない。ただ呆然と二人を見ていることしか出来なかった。

 春那さんの前を通り、美咲は晃に引っ張られて家の中に連れて行かれてしまった。

 二人が家に入っていくのを無言で見送った春那さん。

 ため息を一つつくと呆然とする俺に近付いてきて頭を下げた。


「……すまない。妹が変な事言ったんじゃないかな?」

「いや、大丈夫ですけど。あの人が妹さんなんですね」

「うん。恥ずかしながらね。君達が戻ってくる前に追い返すつもりが、いつの間にか外に出てて。……あいつ、私にはトイレに行くと誤魔化してまで。私を欺くとは教育が足りなかったようだ」

 言葉の節々に春那さんの怒りが伝わってくる。

 怖い。普通に怖い。


 しかし見たことがあると思ったはずだ。

 やっぱり春那さんに似ている。

 妹なのだから当然かもしれないが顔が調っていて美人だった。

 春那さんをボーイッシュにしたらあんな感じになるんだろう。


「あいつは……美咲の事となると病的なまでに行動するんだ。私でも止めるのは苦労する」


 春那さんはまた深いため息をつくと、晃が急に現れた事情を説明してくれた。

 春那さんの話によれば、GWを利用して実家に戻った晃が美咲の家を訪ねたことがきっかけらしい。

 せっかく会えると思って帰って来たのに美咲がいなくて、いても立ってもいられなくなって美咲のもとまでやってきたらしいのだ。美咲から聞いていたことも合わせると確かに病的だ。

 しかし、美咲を大事にしているが故の行動なのだから俺としても否定しきれない。

 今までもああやって美咲を守ってきたのだろう。


 俺は美咲を送り届けるのが目的だったから、まあよしとしよう。

 この後はどうせ時間を潰しにどこかをぶらつくだけだ。


「すまないね。君達の邪魔をさせないようにしたつもりが」

「いえいえ。気にしなくていいですよ。それじゃあ俺も帰ります」

 ちらりといつものように窓を見上げるとそこには美咲の姿は無く少し寂しい気がした。


「うん。帰り気をつけてね。美咲を送ってくれてありがとう」

 春那さんが小さく手を振って言った。


「いえいえ。それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」

 春那さんに挨拶を交わした後、ゆっくりと来た道を戻っていく。


 ☆


 独りになった途端襲われる虚無感。

 自分は何をしているんだという自己嫌悪に陥った。

 漫画喫茶やコンビニに行った時間潰しも結局悪あがきにしかならならなかった。

 家に帰ってもまだ父親がいると思うと帰路に足を向けるのが嫌になる。

 それでも自分が帰路へと進む矛盾にまた嫌気がさす。


 自分の家が見えてきたとき、家の駐車場に母親の車が見えた。

 どうやら今日は家にいるようだ。父親が帰ってきているんだ当たり前だろう。

 玄関にたどり着いたとき、頭痛がした。

 自分の家なのに安らげないなんて滑稽な話だ。

 

 玄関を開けて「ただいま」と呟く。

 当然、返事は返ってこないし、顔も出さない。

 両親ともに俺の事を気にしていないのだろう。

 靴を脱いで、俺はそのまま自分の部屋に行こうとした。

 上がろうとしたとき、リビングから母親の声が漏れ聞こえてくる。


「――私からの話は以上です。早めに返事を下さい」


 夫婦なのに父親には敬語で話す母親。

 俺が見てきた母親はいつもそうだった。

 何の話をしているか知らないが、相談事でもあったのだろう。

 俺は気にせず自分の部屋へと逃げ込んだ。


 

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ