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帰路  作者: まるだまる
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165  Walk around7

 回復した俺は太一達と合流して響のマンションを目指す。

 マンションまで歩く道筋で、響から昨日の話を静さんと三鷹さんにした話を聞いた。

 響の話を聞いて静さんが嬉し泣きして大変だったらしい。


「母は大袈裟なのよ」


 そう言う響だったけれど、静さんからしたら本当に嬉しかったはずだ。

 俺達が立ち寄っただけであんなに嬉しそうだったから。


「ぬいぐるみは気に入って貰えたのか?」


 響が静さんのために表情のいいぬいぐるみを選んでいた。

 何十個と並んだ中から響が厳選したぬいぐるみ。

 それを渡した時なんとなくだけど満面の笑みでぬいぐるみを抱く静さんが思い浮かぶ。


「ベッドにまで連れて行ってたわ。まったく……行動が子供過ぎて困るわ」


 何となく想像がつくだけに思わず顔が緩んでしまう。

 静さんにとって宝物になったのだろう。



 マンションに近付くにつれ、千葉兄妹がその大きさに驚いていた。

 俺と美咲も最初は驚いたものだ。

 マンション前に着いた時、太一と綾乃はマンション前の設備にまた驚いていた。

 柔らかな光の補助灯が歩道を照らす。歩道脇には均等に植えられた木々が丸く形を整えられて、しっかりと手入れされているのが分かる。エントランスまで延びる車寄せはどこかのホテルのようにも見える。

 周りと上を見上げて、は~っと感嘆の声を上げる千葉兄妹。 


「……これ高級マンションってやつじゃねえの?」

「おっきいマンションですねー。響さんここに住んでいるんですよね。羨ましい」

 響はマンションの上の階をチラリと見て、太一達と目を合わせないようするためか、俺に視線を送ってくる。

 いい加減これも対策を何とかできないものかな。


「私としては前の家の方が落ち着けて良かったんだけど。父の仕事上問題があったから仕方がないわ。……送ってくれてありがとう。ここで大丈夫よ。本当は母に会っていって欲しいけれど、みんなも疲れているでしょうから」

「それはまた今度の機会にさせてもらうよ。できれば全員が揃っている時にな」

 俺がそう答えると、響の目が柔らかくなった気がした。

 今、ちょっと笑ったか?


「そうね。アリカ達も一緒の時がいいわね。母も喜ぶと思うの。それじゃあ、また学校でね」

 そう言って響はマンションの中へと入っていく。

 きっと静さんや三鷹さんに今日の話もするのだろう。

 

 俺達は来た道を戻り、ファミレス近くのバス停まで戻って来た。

 バス停でバスを待っていると、太一が空を見上げて口を開いた。


「本当に昨日と今日はあっという間だったな。当日が来るまですっごく長く感じたのに」

「だよねー。私もそうだったよ。もう何日も前から待ち遠しくて。前の晩はなかなか寝付けなかったし」

「美咲さんもだったんですか? 私もなんですよ」

「よく言うわ。お前夕方寝てたからじゃねえか」

「――お兄ちゃん。今、何か言った?」

 ぎらりと綾乃に睨まれそっぽ向く太一。

 殺気のこもった綾乃の目つきが怖い。


 向こうの交差点にホワイトカラーにオレンジラインの入ったバスが見える。

 バスが停留所に止まり、俺達はバスに乗り込んだ。

 数人の乗車客が先に乗っていていたが、座席は空いていて太一と俺、美咲と綾乃でそれぞれ座った。


 バスが出発して、街灯に照らされた道路を走り出す。

 車の交通量はあるが混雑はしていない。

 美咲と綾乃は読んでいる小説が同じ嗜好だからか、今も俺達の後ろで話題が尽きないようで、ときおり「だよねー」とか「ですよねー」とか小さな声が聞こえてくる。

 俺も太一と他愛の無い話をしていた。

 まあ、主に昨日今日と起きた事の振り返り話がほとんどだった。

 

 俺との話で相変わらずしまりの無い幼さの残ったような顔で太一は笑う。

 そんな太一は俺に愛のことが好きだと言ってライバル宣言までしてのけた。

 自分なりにアタックするとも言った。

 でも、あれから太一の様子に変化は見られない。

 今の現状を楽しんでいるように見える。太一は何かしらの行動をしているのだろうか。俺の覚えがあるのはメルアドを交換した時くらいだ。確かにあの時の太一は嬉しそうな表情をしていた。

 つい、こういうことを考えてしまうのは、自分の中で恋心と言うものが理解できないせいか。

 太一が不意に俺の顔をまじまじと見つめて眉間にしわを寄せた。


「……お前、今余計なこと考えてるだろ?」


 どきっとした。俺ってマジで表情に出やすいのかな。


「……俺、どんな顔してた?」

「いや、たまにだ。あ、こいつ話を聞いてねぇなって思うときがある」

「マジで?」

「マジマジ。思えば最初バッティングセンター行った時あるじゃん。あん時からそうだぜ?」

「自分では気付かんかった。てか、分かってたなら教えろよ」

「だからお前に声掛け捲ってたんだよ。場の空気を壊すようなら言うさ」

 と太一は笑う。


 それがきっかけで俺と太一は学校でも仲良くなった。

 何かと太一が気を遣ってくれてきたから、俺は太一を親友だと思えるようになったんだ。

 そんな太一がため息一つ漏らすと、呆れた顔をして顔を近づけて小声で言う。


「まあ、お前のことだからアレの事だろ? 特にライバルって件かな?」

 太一は頭をぼりぼりと掻きながら、窓の外に視線を移す。


「まあ、そんなところだ」


 どう答えていいか分からずに曖昧な返事で答えた。

 何だか誤魔化す方が悪い気がしたからだ。


「見てる限りだと太一は全然変わって無いからさ」 

「俺も何していいかわかんねえんだ。メルアド貰ってもメール送るのに勇気がいる。たんなる連絡事でもだ。この俺がだぜ? 自分でもびっくりしてんだよ。今までこんなこと一度も無かった」


 歯がゆそうに言う太一。

 ああ、太一は俺と違ってやっぱりちゃんと恋しているんだ。


「とりあえずだ。俺は俺なりのやり方考える。明人が気にする方がおかしいぞ。それこそ相手に、いや、俺に失礼だ」

 

 普段のちゃらんぽらんはどこへ行ったのか。

 いつものしまりの無い顔ではなく一人の男の顔になっている。

 俺の目の前にいる太一は以前までの太一ではない気がした。

 恋が太一を成長させたのか。


 何だか羨ましく感じた。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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