163 Walk around5
太一が自分の撮った写真を数枚『てんやわん屋』にアップロードした。
俺が見ている『てんやわん屋』のアルバムに、太一がアップロードした写真が増えていく。
「ほら、これでみんな見れてるだろ? みんなが共有してもいい写真とか動画は入れとけばいいじゃん。個人的なのは別に載せなくてもいいし」
「便利な世の中になったもんだな……」
「明人。お前その言い方じじ臭いぞ。いつの生まれだよ」
うるせえよ。いいじゃねえか。
「これってグループ内の人しか見えてないの?」
美咲は自分の携帯で太一がアップロードした写真を見ながら言った。
「そうですよ。今回で言うなら俺ら七人だけの専用です。他の人からは見れません」
「なるほど……私達だけのアルバムって事だね」
「そそ。一応親しき中にも礼儀ありってことで、微妙なのは載せていいか確認しあえばいいじゃないかなってことで、明人これ載せていいか?」
そう言って差し出された太一の携帯に写っていたのは、俺が美咲に首を絞められ、腹をアリカに殴られ、左右の腕に響と愛がくっついている写真だった。
「……お前、いつのまに撮ってたんだよ」
「ふふん。そこはほれシャッターチャンスは逃すなって言うじゃん」
「……まあいいよ。別に恥ずかしくないし、みんなに自戒してほしいしな」
俺がチラリと視線を飛ばすと当事者たちは揃って視線を逸らした。
君達に言っています。
各自がアルバムにアップロードを開始。
ときおり写真を載せていいかどうかの確認が飛び交い、また賑やかになる。
「香ちゃんこれいい?」
「どれ? ちょっ? それ駄目! 絶対駄目!」
大きな声だったので逆に気になるじゃねえか。
みんなもそう思ったのか視線がアリカに集中する。
視線を受けて冷や汗をかいたアリカが指で小さくバツを作って「これはNGで」と呟いた。
「あ、載せちゃった。ごめーん」
平気で姉を裏切る妹がいる。
「愛いいいいいいいいいいいいいいいい!」
愛の首を掴んでぶんぶんと揺さぶるアリカ。
時すでに遅く、画像はアルバムにアップロードされた。
愛からアップロードされた写真は、テレビでも見てるのかアリカがソファーに座って、恐らくスーさんだろう大きな熊のぬいぐるみを大事そうに抱えて笑う姿だった。
何、この女の子。クマの縫いぐるみを抱く姿が超可愛いんですけど。
「か、可愛すぎるっ!」
美咲が写真を見て変な声を上げて口元を押さえる。
どうやら何かの一撃を受けたらしい。
鼻を触っては手を確認しているところを見ると、鼻血が出ていないか確認しているぽかった。
「全然いいじゃん。恥ずかしくないだろ」
「くうううううう。愛覚えてなさいよ」
アリカは恥ずかしいのか顔を真っ赤にして愛を睨んでいた。
エプロン姿で料理をしている愛の写真があった。
幸せそうな顔で料理を作っている姿だ。
本当に料理が好きなんだなと思えるほど楽しそうに作っている。
これはボウリングの時だろう。綾乃がガッツポーズを決めている笑顔の写真があった。
これもいい表情だ。
これはいつの写真だ?
写真の中の響が笑っている。多分カラオケのときのだろう。
基本無表情だけど、ときおり見せる笑顔はやはり眩しい。
元々、顔立ちが整っているだけに、いつも見せて欲しいような気もする。
アリカと太一が遊園地の迷路で買った写真もあった。
四股を踏んだ様に疲れた様子を見せる太一とアリカが元気一杯の表情でゲームに挑む姿。
昨日の事なのに、随分と前の事のようだ。
…………。
これはどうかと思う写真。アリカに絡みつく美咲の写真。
どう見ても美咲の表情が変態の粋に入っている。アリカは青ざめた必死の表情を浮かべ抵抗が見える
これもカラオケの時だな。可哀想に。でも助けようって気にならないんだよな。
響がいくつかの写真を眺めて、「これはいつの写真なんです?」と美咲にスマホを見せて聞いていた。
「……これはお店でバーベキューやったときの写真だね。……ねえ、明人君?」
気のせいか、美咲の声のトーンが急に下がったんですけど?
響が見せた写真を見ると、春那さんに抱きしめられ胸に顔を埋めた俺がいる。
こんな危険な写真誰が撮ったんだよ。てか、なんで上げたの?
あの時は美咲とアリカに拉致られて地獄を味わった。
終わったことなのに狩人達の気配が怖い。
横にいるアリカが凄い冷たい視線を送ってくるんだけど、怖いから止めてください。
「……この写真の人、どこかで会った事がある気がするんですけど」
「私と同居してる牧島春那って人だよ。就職する前まで私達と同じバイトしてたの。響ちゃんとは仕事の接待で会った事あるって言ってたよ」
「私の事知ってたんですか? 父の手伝いをしていた時かしら?」
「多分そうじゃないかな?」
「……綺麗な人ですね」
「でしょでしょ? 春ちゃんには何やっても勝てる気がしないんだよね~。ねえ明人君?」
何でそこで俺に振る? しかもなんで名前呼ぶときだけ声のトーン下げんだよ。
どう答えても詰んでるだろそれ。
怖いから止めてくれ。あえてノーコメントを貫こう。
引き続き、賑やかにアップロードと鑑賞会が行われ、そうこうしている内に注文した品が届いた。
しばらくの間、食事を楽しむ。
みんなと食事をしながらの会話も弾み、ふと終焉に近付く寂しさを感じた。
食事も終わり、雑談は続く。
前に愛を驚かそうとした動画を太一と綾乃に見てもらい、二人とも大いに笑った。
愛は気恥ずかしそうだったけど、一緒になって笑っていた。
楽しかったこの二日間は、俺にとってもいい思い出になるだろう。
いつまでもこんな感じが続けばいいなと心から思ってしまう。
店内の様子をチラリとみるとラッシュタイムに入っており、慌しい感じがする。
店先には待っている人達もいて、席が空くのを待っている。
元店員としては、少しでも回転をよくして上げたい気分になる。
ちらりと太一を見ると、太一がそろそろ出るか? と目配せしてきた。
こういう時、気遣い屋の太一は理解が早い。
「みんな残念だけど、お店混んできているから場所空けてあげようぜ」
太一がみんなに言うと「そうだね」と美咲も同意して席を立った。
清算しにレジまで向かうと、店長の中村さんが立っていた。
「あら木崎君、まいどどうも」
「こんばんは。忙しいですね」
「そうね。慣れてない子もいるからちょっと大変かな」
「何か懐かしいです」
他愛も無い話だったけれど、中村さんは少し疲れているように見えた。
実際大変なのだろう。
挨拶も程ほどにして、それぞれ清算を済ませ、店を一歩出る。
すでに日は沈み、雲も少なく星がよく見える。
「あー、終わっちまったなー。残念だー」
太一が伸びをしながら言った。それは俺も同じだ。
まあ、それはさておき愛との約束がある。それに美咲も送って行ったほうが時間も潰せる。
それぞれ家まで送っていくことにして、その後はどこかで時間を潰そう。
先に美咲に言っておくか。美咲にちょいちょいと手招きする。
「美咲。愛ちゃんを送っていく約束しちゃってさ」
「え、そうなの?」
「美咲を送っていくつもりだったんだけど。一緒にどうかな?」
「ええ? 今日も私を送ってくれる気だったの?」
美咲が目を見開いて驚いた顔をする。
「え? そのつもりだったけど?」
「も、申し訳ないけど……相変わらず紳士ごにょごにょ……うん、分かった。一緒に行く」
ごにょごにょと口が動き赤らんでいく美咲。
俺と美咲は、アリカと愛、響が話している場所に行こうとすると、
「あれ? 明人らどこ行くんだ?」
太一が言い、一緒にいた綾乃が揃って首を傾げた。
「愛ちゃんら送っていく。バスの時間もあるし。約束したし」
「それだったら俺らも一緒に行くわ。行くぞ綾乃」
「はーい」
と、高らかに手を上げて返事する綾乃。
まあ、延長戦だと思えばいいか。
俺ら四人が送っていくことを告げると、
アリカは「近くだからいいのに!」と言い、
響は「目印ならあるから大丈夫よ?」
と、マンションを指差す
その傍らで愛が無言で俺を見つめ、肩を落とした。
お読みいただきましてありがとうございます。
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