161 Walk around3
その後、ゲームセンターを出てまた繁華街をぶらつく。
時折、それぞれが気になる店に立ち寄ったりとして時間を過ごす。
本屋に寄ったり、アクセサリー屋に寄ったり、CDショップに寄ったりと色々回った。
女の子はこうも揃うと話題は尽きず、延々と話は止まらない。
姦しいとはよく言ったものだ。
響もしっかりその輪に入っていて、基本無表情だが、ときおり緩い表情がこぼれることがある。
映画館前を通ったとき、俺と愛以外はどんなのがやってるか見てくると言って、並んである映画のポスターを見に行った。愛がチャンスとばかりにじわじわと俺に近づいてくる。だるまさんが転んだを思い出すからやめなさい。
今がいい機会だ。姫愛会の動きはどうなってるのだろうか。
愛の機先を制するにもいいだろう。
愛に小さな声で話しかける。
「愛ちゃん。頼んでたやつ分かったかな?」
「はい? ああ、お調べの件ですね。ばっちりですとは言えないですけど。明人さんに言われたとおり、ろむるだけにしておきました」
愛は小さく手でオッケーサインを作っていった。ところで、ろむるって何?
「なんだかですねー。響さん絡みになると上から口調というか指示を出してる人が確かにいるんです。でも、なんとなくなんですけど、常に同じ人って感じもしないんですよ」
「……ふむ」
「それと……愛達と一緒にいたことも書いてましたよ。昨日の事ですけどね……」
「え?」
「昨日の夜に見たときですね。総合会場にいたと報告がありました。時間的にぼうりんぐの前くらいですかね。たいむらーな報告でした」
えーと、タイムリーでいいのかな?
田井村さんが報告したわけじゃないよね?
それはさておき、確かに総合会場ですれ違っていてもおかしくは無い。
総合会場でイベントをやっていたのだから、響の信者が一人くらい混ざっていて、すれ違ったとしてもおかしく無い。それに響や美咲は、普通にしていてもその美貌からみんなの目を引く存在だ。
さっきから繁華街を歩いていても、響や美咲はちらちらと男女問わず羨望の視線を集めている。
一緒にいる俺や太一に敵意むき出しの視線を送ってくる男もいる。
そんな注目を集める存在だけに、響を知っている誰かに見られた偶然性は否定できない。
実際、ボウリング場に最初に足を運んだ時に響の知り合いである生徒会長の北野さんに遭遇した。
二度目に足を運んだ時には北野さんの姿はすでに無かったし、関係があるとも思えない。
もしかしたら姫愛会の関係者かもしれないが、見た感じでそんなことをするような人には見えなかった。
「それで?」
「報告に対してすぐに監視希望ってのが出まして、そのまま監視されてたかもしれないです」
「俺達ずっと見られてたのか?」
俺の質問に愛はふるふると首を振って答えた。
「……それはわかりません。その後は報告自体が板には上がっていませんでした」
「……そうか。何だか薄気味悪いな」
「……ですよね」
「その他は?」
「過去のを見てみたんですが、響さんのここが格好いいとかいうネタがありました」
「…………それはいいわ」
「あと、半年くらい前に一年の女子、今の二年生でしょうね。誕生日プレゼントを渡そうとした事件があったみたいです。そのときのログが抜け駆けだの自己中だの非難轟々で荒れてました」
愛の表情的にうんざりした感じが見えたので、内容にあまりいい感じがしなかったのだろう。
「…………それか」
川上らが言った抜け駆け禁止令の期間とほぼ合うな。
これが原因か。
「その後、みんなの約束事という記事が出来まして。その中に抜け駆け禁止とかいうのができたみたいです」
「……査問委員会とかいうのは?」
「あ。その話もちらほらとありましたよ。やっぱり抜け駆けする子とかいたようなので……でも詳細が記事に載ってなくてよく分かりませんでした」
どういう心境になったのか分からないが、川上や柳瀬も、俺という"つて"が出来た途端、響に接近しようとした。
なんかしらのきっかけがあれば、他にも近付きたいと思っている子もいるだろう。
「実際処分的なものとかって話はあったのかな?」
「んーと、都市伝説みたいになっててですね。実際にされたのかわからないんですよ。でも、勝手なことしようとすると責める人たちがいるような感じもしてます」
何となくみんなが勝手に想像上のモンスターを作っているだけのような気もしてきた。
「もうちょっと踏み込みますか? なんなら実際に周りも調査しますけど」
「いや、愛ちゃんに被害が出ても困る。尻尾が掴めたらいいんだけどね」
「今の状態だと多分無理ですね。明人さんはどうしたいんですか?」
愛は俺の目をじーっと見つめて言う。
なんだか腹の底を探られているような気分だ。
「出来れば会の頭と接触したい。今みたいなやり方は響を孤立させる。愛ちゃんも見たろ。響は普通に友達として付き合っていけるんだ。俺達以外とだっていけるはずだ」
「……そうですか。分かりました。愛は引き続き調べてみます。もう少し細かく見てみますね」
「ありがとう。ごめんね。家の事で忙しいだろうに」
「いいえ。明人さんのお役に立てるのなら愛はがんばりますよ」
そう。俺達以外とだって仲良くやれる。俺はそう確信している。物事をストレートに言ったりするところもあるけれど響だって人間だ。いいところもあれば悪いところだってある。要は許容できるか否かだ。
不意に思い浮かんだのは坂本先生の顔。
そうだ。生徒とよく話すし、響のクラスでの状況を心配してくれている。ちょっと相談してみようか。
「ところで明人さん」
愛が俺の顔をじーっと見つめたまま言う。
そう、まじまじと見られると照れるんだけど。
「何?」
「……愛との"でーと"はいつなんでしょう?」
ぶわっと背中の汗腺全部が開いた気がした。
そうだ、愛とデートの約束してたんだった。
自分から申し込んだじゃないから、すっからかんに忘れてた。
「えと、あの、その、ごめん。……忘れてた。まったく計画立ててない」
まったく忘れていたこともあり、正直に謝る。
しかし、愛は怒った様子も無く次の質問をしてきた。
「明人さんはいつお休みなんですか?」
「えーと、俺基本毎日あるんだけど……土曜日はもしかしたらバイトが無い日があると思う」
「では、土曜日にお休みが貰えたらしてもらえますか?」
いたって真面目な顔でいわれているからか、妙に迫力を感じるのは気のせいか。
「う、うん。わかった。約束する。元々約束してたからね」
焦って答えると愛はニッコリ笑って俺の腕を取った。
「んふふ。愛との約束、今度は忘れないで下さいね。あーそうだ。忘れてた罰として今日は愛達を家まで送って下さい」
「え? そんなんでいいの?」
「いいんです。これも約束ですよ」
そういった愛は嬉しそうに俺の腕をぎゅっと強く抱きしめた。
「――誰がくっついていいと言ったかしら?」
背後から背筋がぞっとするような冷気を含んだ声がする。
一瞬、肩がびくっとなったが振り返ると、こめかみ辺りがぴくぴくっと動いている響がいた。
こいつよく見ると部分的に動いていることが多い。
基本無表情と思っていたけど、そうではないようだ。
愛は俺の腕を握る手に力を込める。腕を解く気は無いようだ。
「あら? 愛さんは離れる気が無いようね? いいわ。では……」
響はツカツカと俺に近付くと、愛とは逆の腕を取った。
「これで勘弁してあげる」
そう言いながらも頬の辺りがわずかに赤くなっている響だった。
え、何こいつどうしたの急に?
両手に華の状態なんだけど、これって喜んでいいの?
どうしていいか戸惑っていると、響が愛の顔を覗き込んで無表情に言った。
「勝負というのなら受けて立つわ」
響が言うと、愛は笑顔で(目が笑ってない)返す。
「望むところです。こればっかりは譲れませんけど」
二人して火花を散らすのいいんだけどさ。
俺の目には、別の二人が笑いながらこっちに向かっているのがとても気になるんだわ。
アリカさんってば、腕まくりまでしちゃって超怖い。
美咲にいたっては、絶対零度の微笑みを浮かべてやがる。
どうやら俺の地獄はいつでもリピートできるらしい。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。