159 Walk around1
あてもなく繁華街をぶらついていると、太一がゲームセンターに寄ろうと言い出した。
俺には願ってもない誘いだ。まだ家に帰るには時間が欲しい。
昨日、総合会場で見たゲーセンよりも面積は狭いが、表と中にUFOキャッチャーが並び、中の一部にはプリクラがあったり、体感ゲームが置いてあったりと中身はさして変わらない。
中に入ってみると階段があって、上の階にはアーケードゲームやメダルゲームがあるようだ。
奥の方には太鼓のゲームやギターにボタンがついたものもある。
美咲と綾乃が突然「おおっ、これは⁉」と声を上げて一台のクレーンゲームに張り付いた。
後ろから覗いてみると、五人のアニメキャラぽい女の子のフィギュアが並んでいる。
「うんうん。やっぱりラウ○は可愛いなー」
「シャ○ロットも負けてませんよ」
どうやら昨日遊園地で盛り上がっていたラノベの登場人物のフィギュアらしい。
こういうのが好きなのか……。よくわからんな。
フィギュア自体は箱に入って並んでいる。
上の部分の箱にアームが引っかかれば取れそうだ。
見た感じ四頭身。
デフォルメのフィギュアで可愛いといえば、確かに可愛い。
「とっくの昔になくなってると思ったんですけどね」
「随分と前だもんね。何となく欲しいなー」
周りのUFOキャッチャーを見ると、確かに新しいものというよりも、少し前のものが多い気がする。
こういうものって流行廃りが激しいから、入れ替えって大事じゃないのかな。
そういうことを考えていると、綾乃と美咲は手に入れたくなったのか、
「美咲さん一回だけ挑戦しちゃいます?」
「しちゃう? しちゃおっか?」
やるならさっさとやれよ。
結局、二人とも挑戦するようで、先行は綾乃からになった。
こういうのって、あまりしたことが無い。
後ろから二人の挑戦を見守ることにした。
箱は並んでいるが、お互い邪魔する位置には無いので、客受けのいい親切な置き方だと思う。
綾乃が一番のボタンを操作し、UFOが横に動き出し真ん中くらいで止めた。
見た感じ狙いは黄色い髪のフィギュアっぽい。
綾乃が横に回り奥の止める位置を確認した後、今度は二番のボタンを押して奥に向かってUFOが動き出す。
見た感じちょうど真上辺りでUFOが止まった。
UFOからアームが伸び出てフィギュアの入った箱を掴みにかかる。
「おお、これいけるんじゃない?」
横から見ていた美咲が期待の声を上げる。
開いたアームの爪部が閉じていき、景品の箱を掴みにかかる。
アームの爪部が箱の上部隙間にするっとはまった。
そのまま箱は持ち上げられ、ぎこちなく揺れながらUFOはスタート地点まで移動する。
アームが開き景品がゴトンと音を立て落ちた。
「一発きたああああああ」
歓喜の声を上げて抱き合う綾乃と美咲。
一喜び終えたところで綾乃は景品を取り出し嬉しそうに景品を眺めていた。
「よーし、私も続くぞー」
美咲が狙いを定めているのは視線の先からすると、左奥にある眼帯をつけた女の子のフィギュアのようだ。
なんとなくだけど、アリカに似てるような気もする。
これでツインテールならより似てるだろう。
美咲はほんのわずかUFOを動かすと、
「あ! 早く離しすぎた。こ、これいけるかな?」
と、横に移動して奥行きを確認する。
……見た感じで、既に無理だと思うの俺だけか?
綾乃の表情を見ると俺と同じことを思ったのか、神妙な顔をしていた。
美咲が操作してUFOが奥に進む。止めた位置は悪くない。
ただ、アームと箱の位置を見比べると箱が右にずれている。
やはり横の動きが足りなかったようだ。
アームが開き、下に伸びて景品に近づいていく。
閉じたアームは景品を掴み損ねて空を切った。
「あああああ」
美咲が空を切ったアームを見つめて残念そうに言った。
いや、あれは無理だろ。
何も得ずに戻って来たUFOがスタート地点に戻ってアームを開く動作をした。
虚しい動きだと思う。
「ふ。ふふふ。もっかい! もっかいいくよ!」
そのUFOの動きが美咲に火を点けたのか。
その後、三回挑戦するも全て失敗に終わった。
一度惜しいのがあったが、爪が上手く引っかからず持ち上げることが出来なかった。
「私ってセンス無いのね……あうう」
がっくりと頭を垂れて言う美咲。
綾乃の表情を見ると、自分は景品を取れているので何だか申し訳無さそうな顔だ。
「こういうのって人が変わると上手くいくとかあるよね?」
そう言って俺は美咲と変わってコインを入れた。
「取れるかわかんないけど一回やってみる」
美咲のを見ているうちにUFOを持っていく位置は概ね覚えた。
後は爪が上手く引っ掛かってくれれば、持ち上げることも出来るだろう。
まずは、横移動。
後ろから見ていてボタンを離してもほんの少しタイムラグがあったので気持ち早めに離す。
美咲がその位置を見て「おおっ!」と期待の声をあげた。
次に、奥移動。
爪部の先端が箱の真ん中になれば引っ掛かることもできるだろう。
一旦、横から見て位置を確認。ボタンを押して移動開始。
「ここだ! ――ってあれ?」
……今タイムラグまったく無しで止まりやがった。
ちょっと手前のような気がする。
アームが開き、下に伸びて景品に近づいていく。
箱の真ん中よりも手前側に爪部が当たった。
閉じたアームはそのまま上に上がっていき、箱を掴む。
だが、爪部が片方だけ箱の上部に引っ掛かってしまい、フィギュアの入った箱はずるりと斜めにずれてしまった。これだとセンターが狙いにくくなる。
「最悪だ……」
うわ、俺、超格好悪い。
「しょ、しょうがないよ」
慰めてくれる美咲の言葉が余計辛かった。
「――さっきから来ないと思ったらそれやってたのか?」
奥に先に入っていた太一が俺らが来ないからか様子を見に来た。
「あー悪い。これが欲しいらしいんだけど俺も失敗した。しかも最悪な方向に」
太一に美咲が狙っているフィギュアを指差して答える。
「えーどれどれ?」
太一はUFOと爪部、そして景品をまじまじと見つめると、
「おし、任せろ!」
そう言ってコインを入れて操作を開始した。
慣れた手つきでUFOの動きを見る太一。
「んー。ここかなー?」
横移動も奥移動も何だか適当にやってるように見えたがいい位置にある。
景品がまっすぐだったら取れそうな操作だ。
アームが開いて下に伸びていく。アームが閉じて爪部が景品に当たった時わずかに動いた。
「お、いけたな」
太一がまだ爪も引っ掛かっていないのに声を上げた。
だが、太一の言ったとおり爪が上部にかかった時、箱の隙間にするりと爪が入る。
「ええ? 今の何?」
美咲が驚いて声をあげた。
景品は爪にしっかりと捕まってゆらゆらと揺れながら持ち上がった。
ゴトンと音を立てて落ちた景品を太一が取り出して美咲に手渡す。
「えと、美咲さんでいいのかな? はい」
「う、うん。ありがとう。すっごいね太一君。一発で取るなんて」
「いやいや、まぐれっすよ」
太一は照れ笑いを浮かべた。太一格好いいぞお前。
「兄はこういうの得意ですからねー」
横で綾乃も兄の快挙に嬉しそうだった。
太一がはっとした顔をして、
「あー、そうそう。響とアリカちゃんが勝負するんだった。早く来てくれ」
奥を指差して歩き出す。
――響とアリカが勝負?
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