15 子供と大人2
裏屋から戻った俺が目にしたのは、レジのイスに座りながら、にへら~としまりなく笑ってる美咲さんだった。ちょっと怖いですよ美咲さん? あなた顔は綺麗なんですから、もっと上品に笑いましょうよ?
「遅かったね?」
俺に気付いた美咲さんが聞いてくる。
アリカと喧嘩してて時間がかかったなんて、とても言えない。
「ちょ、ちょっと店長に待たされちゃって、どうしたんです?」
「え? なにが?」
「なんか、にやついてますよ?」
そう言うと、美咲さんは待ってましたと言わんばかりに、椅子から立ち上がり俺を指差しながら、
「明人君が帰ってきたからって、喜んでるんじゃないんだからね!」
「はいはい、そのツンデレはもういいです」
「いやーん、明人君が冷たい」
「いやいや、そのツンデレもう三回目ですから慣れましたよ。いい加減」
俺が冷めた風に答えると、美咲さんは俺の顔をじっと見つめていた。
なんだ?
俺を窺うような顔でじっと見詰める美咲さん。
「ん~? 明人君何かあったの? 何か雰囲気が違うような」
「え?」
アリカに言われた事を気にしていたのが、ばれるほど顔に出てるのか?
美咲さんは、はっと何かに気付いたような顔をすると、もじもじとしはじめる。
「あ! だ、駄目だよ? まだ私達、そ、その……」
「美咲さん?」
「ほら。まだ、し、知り合って、そ、そんなに経ってないじゃない?」
「あの、美咲さん?」
「た、確かに恋に落ちるのに、時間なんて、か、関係ないかもだけど…」
「ちょっ? 美咲さん?」
「わ、私にも心の準備ってものがね。その、いるじゃない?」
「どこまでひっぱるんじゃああああああああああああい!」
「ふへ? ち、違うの?」
後ずさりながら、驚愕の顔を浮かべる美咲さん。
「違うわい! どういう思考してんだ? あんた」
「くっくっくっ、知りたくば、わしの屍を超えてゆくのじゃ」
「だああああああああああああああ、もぉいいいいいいいいいいいいいい!」
駄目だ、どっと疲れが……。
さっきまでアリカに言われた事を焦って考えてたのが馬鹿らしくなってきたな。
いや、考えなくちゃいけない事だけど、焦らずに考える事にしよう。
「そういえばさ、明人君アリカちゃんに会った? 今日は来てるはずだけど」
「あ、会いましたよ」
会って、おもいっきり口喧嘩してきましたけど。
「あの子可愛いでしょう? なんかお人形さんみたいで」
「そうですか? いい様に見過ぎじゃないですか?」
「あら? 明人君アリカちゃん好みじゃないの?」
「俺はロリコンじゃないんで、あーいうのはちょっと」
確かに顔は可愛いかったような気がするけど、怒った顔ばっかり見てたからな。
「こっちこそ、願い下げよ! ばーか」
裏の扉から聞こえた声は噂の張本人のもので、手には大きな箱を持っている。
「げ⁉ お前なんで表に来てんだよ?」
「人がいないと思って、好きな事言ってくれんじゃない? あんた最低ね」
「へ? へ? え?」
俺とアリカの顔を交互に見ながら慌てる美咲さん。
「さっきだって、お前から喧嘩吹っかけてきたんだろうが」
「あんたがつまんないこと言うからでしょ? 美咲さん、はい、これ店長から」
俺に文句を続けながら、荷物を美咲さんの前で降ろすと俺に向きなおし、
「それより陰口だなんて、情けない男ね」
「陰口じゃねーよ! 見たまんま言ってるだけだろ!」
「あー! ちょっと待って! 待って!」
慌てた美咲さんが俺達の間に割って入り、俺を指差しそれからアリカを指差し、そして何を思ったのか腕を交差させ、
「ファイト!」
「「ファイトじゃない!」」
突込みがハモった……煽ってどうするんだ、美咲さん。
この状況でそれができるあんたが凄いわ……。
しかも何? その、『私は見事成し遂げました』みたいなドヤ顔は。
「んも~、美咲さんのせいで気がそがれたわ。ごめんね、美咲さん驚かせちゃったね」
素直に謝るアリカ。
「わ、私は大丈夫だけど、ちょっとだけ、びっくりしちゃった」
「すいません。美咲さん」
俺も一応美咲さんに謝っておく。
そりゃ目の前でいきなり喧嘩始めるの見たら、誰だって驚くよな。
「知らなかった、二人がこんなに……仲がいいなんて!」
「「よくないし!」」
高槻さんといい美咲さんといい、どこが仲良く見えるんだ? こんな口の悪い女と、どうやって仲良くなれって言うんだ。
「まあ、用事が済んだから戻るわ。またね、美咲さん。お騒がせしました」
美咲さんに頭を下げると、踵を返し入ってきた扉へと向かっていく。
「本当にお騒がせな野郎だ」
俺がボソッと呟くと、その声が届いたのかアリカは俺をチラリと見ると、中指を立てて無言で扉から出て行った。むかつく奴だ。
「アリカちゃん野郎じゃないよ?」
いや美咲さん、そこは突っ込むところが違うと思う。
しかし、これから先、アリカと顔を合わせることを考えると、喧嘩ばかりしてるわけにもいかない。せっかく見つけたバイトをこんなんで潰したくない。
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