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帰路  作者: まるだまる
157/406

156 歌ってみた1

 落ち着きを取り戻した美咲は横で綾乃となにやら雑談中。

 会話の中身からライトノベルの話のようだ。

 お互い嗜好が似ているのだろう。とても楽しげだ。


「こっちに来る時からずっとあの話してるんだぜ」

 太一が二人をチラリと見て言った。


「まあ、趣味が合うんだからいいんじゃないか?」

「たまに美咲さんの目が怪しい時あるんだけどさ。気のせいか?」


 ……もしかして美咲……綾乃も毒牙にかけようとしてるんじゃ……。

 これ以上犠牲者を増やさないで欲しい。


「き、気のせいかじゃないか?」

「そうか。お! 明人、響らが来たぞ」


 太一が指差す方を見てみると、アリカと愛が響を挟むようにして向かってきていた。

 響は無表情に手を振ってくるが、アリカと愛は疲れたような表情で手を上げた。

 アリカと愛の疲れた表情はなんだ?


「……遅れたかしら?」


 合流した響が開口一番に聞いてきたが、時間的には五分前。

 何の問題も無い。


「いや、大丈夫だ。遅れてないぞ」

「そう、良かったわ。一時はどうなることかと思ったわ」


 響の言葉にアリカと愛がプルプルと身体を震わせて口を開く。


「あんたのせいでしょうが!」

「かなり余裕もって来てたのに、なんで駅についてから一時間もかかるんですか!」

「一時間? 何やってたんだよ?」

 太一が聞くと、

「響さんが急に消えて、香ちゃんと二人で探し回ってたんですよ」

「無茶苦茶焦ったわよ。ちょっとよそ見してる間に響が消えてるんだもん」

「仕方ないじゃない。子犬を見つけてしまったんですもの」


 無表情に二人を見つめて言う響。

 響の話では、駅から三人で集合場所に向かう途中、細い路地中に子犬を見つけて寄って行ってしまったらしい。

 子犬には逃げられたのだが、ふと周りを見るとアリカと愛の姿も無い。

 その時点で響は自分の位置がわからなくなったらしいのだ。


「あたしと愛がどんだけ走り回ったと思ってるのよ!」

「その件については謝ったじゃない。それに私は動いてないわよ? 最悪は回避しようと努力はしたわ」

「だから、なんで細い路地の中にずっといるんですか⁉ せめて表に出てきてれば、発見が早かったのに!」

「むやみに動くと危険だと思ったのよ」

 響の言葉にプルプルと身体を震わせるアリカと愛だった。


「……うん。とりあえず事情は分かった。二人はお疲れさん」

「明人さん。愛は疲れてしまいました。愛には愛情の栄養補充が必要です。ハグしてください」

 そう言いながら俺の腕をがしっと掴んで、擦り寄ってくる愛だった。


「あ、愛ちゃん、ちょっと離れてくれる?」

「嫌です。愛には栄養が必要なんです。ハグを要求します」


 いや、離れてくれないとさ。

 色々と大変なことが予測できるんだ。

 ……ほら、予測が当たって、美咲と響が手刀片手に近付いて来たじゃないか。


「あ~~~~い~~~~~」


 顔をヒクつかせながらアリカも近付いてくる。

 アリカさん、その表情は怖いから止めてください。

 アリカは俺と愛の間に腕を割り入れると、べりっと愛を引っぺがすアリカ。


「あん、香ちゃん何するの?」

「うるさい! いちいち明人にくっつかないの!」


 文句を言う愛に顔を引きつらせたまま言い返すアリカだった。

 だが、離れたぐらいで手刀を納めてくれる響と美咲ではなかった。


「明人君、何してるの?」

「誰がくっついていいと言ったかしら?」

「ぐあっ!」


 俺の両脇腹に繰り出される二本の手刀。

 ……俺が何をした?


「よーし、揃ったところで行こうか?」


 俺の受けている仕打ちを見てみぬ振りして、太一がのほほんとした声で言った。

 助けてくれ。まだ手刀が継続中なんだ。


 ☆


 ようやく開放された俺は、痛む脇腹をさすりつつ店の入り口に向かう。


 太一が店の受付で手続きすると、店員にすぐに部屋へと案内された。

 部屋は二階にある大き目の203号室。十人くらいまでなら入れそうな大きさだった。

 シンプルな黒地の革ソファー、これまたシンプルなガラスのテーブル、薄型のモニターが二つ、奥側と右手側の壁に据え付けられている。ソファーに座っていても、画面が見やすいように配慮しているようだ。

 

 太一達が響とかち合って固まらないシフトを考えた上で、奥側からアリカ、響、愛、俺、美咲、綾乃、太一の順に座る。

 店員がタッチ型のリモコンとマイクの入った籠をテーブルの上に置いて、ドリンクの注文を聞いた後に退出していった。


「さて、誰から行く?」

「いっちゃっていいんですか?」


 太一がリモコンを籠から取り出していうと、即座に愛が反応して手を伸ばした。

 何か違う事言ってる気がしたけど、気のせいだろう。


「愛ちゃん、一発目だなんて度胸あるねー」

「せっかく来たんですもん。歌ってなんぼですよ美咲さん。続いて下さいよ」


 手慣れたようにリモコンを操作する愛。


「あ、入ってる。これはぜひ挑戦」

 歌いたい曲が見つかったのか、愛はそう言ってリモコンを操作して送信。

 モニターに登録された曲名が浮かぶ。


『荒削りな君達へ』


 知らない曲名だ。イントロを聞いても聞いたことが無い気がする。

 イントロの間に愛はマイクを手にしてスタンバイ。

 モニター画面には、青緑色した長い髪の子がイントロにあわせて踊っている。

 どうやらボカロのようだ。ボカロって曲が多すぎて知らないの多いんだよな。

 愛が歌のテロップに合わせて歌いだす。いつも聞いている愛の声より一段高くて甘い感じがした。


 歌詞を見ている限りだと、不器用な若者達に贈る応援歌だった。

 理解してもらえないこともあるけれど負けないで、諦めないでと歌詞に綴られていて、聞いていても心地よかった。


 愛が歌っている間に太一、綾乃、美咲がリモコンで曲を入れていく。

 俺にリモコンが回ってきたが、先にアリカ達に入れてもらうことにした。

 横でアリカが響に、自分が歌う曲の入力を例にリモコンの使い方を教えている。

 ふむふむと無表情に頷く響。

 操作を教えてもらった響が入力を終えて、俺にリモコンを回してきたと同時に愛の曲が終わった。


「あ~、ちょー気持ち良かった~」

 と、満足気な愛。

 なんかセリフが引っかかるんですけど。


「お~、初めて聞いたけど、いい曲だね~。愛ちゃんも声可愛い~」

「これボカロランキングにも入ってましたよ」


 美咲と綾乃がやんややんやと愛と曲を褒め称える。

 確かに曲も良かったし、歌声も可愛かった。


「ありがとうございまーす。次、誰ですかー?」

 マイクを差し出す愛に太一が手を上げる。


「俺、俺!」

「おれおれ詐欺ですか?」

 そう言って太一にマイクを渡そうとしない愛。

 それをここで持ってくるか。 


「冗談です。はいどうぞ、太一さん」


 悪戯っぽく笑って太一にマイクを渡す愛。  

 太一の選んだ曲名がモニターに映し出される。


『ReBirth~再生~』


 これは俺も知っている。フォークデュオ、プライドの代表する有名な曲。

 もう十年以上前の震災後につくられた歌らしいが、カバーも多く、今なお人気の曲である。

 太一のチョイスにしては渋めだと思った。


 さて、俺はどうしよう?

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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