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帰路  作者: まるだまる
152/406

151 大事なもの3

 駅に戻り荷物を取り出した俺達はそこで解散することにした。

 響に迎えが来るので、それにアリカと愛が便乗していくらしい。

 最初はアリカ達も遠慮していたのだが、家も近いし無下に断るのも悪いと思ったのだろう。


 アリカの横で愛が俺にじーっと視線を飛ばしてきているけれど何だろう?


 迎えの車が到着するまでの間に、翌日の予定を再確認する。

 予定としてはみんなでカラオケ。

 人数が人数なので部屋は広い方がいい。


 店のチョイスは当日の混雑具合によって、変更も考えなければならない。

 駅周辺にはカラオケ店が複数有り、競争も激しいので人気の店が毎月コロコロ変わる。

 的はある程度絞っておいた方がいいだろう。


「えーと、大きい店なら『ランカーズ』か、びっくり鈍器の横にある『アダムのリンゴ』かな」

「あとは『ビックマウス』と『こぶし』ですね。愛達は『こぶし』が多いです」


 アリカと愛が駅周辺の聞いたことのあるカラオケ屋の名前を出した。

 こぶしは高一の時、バイトで雇って欲しいと言ったら、高校生だから駄目だと断られた店だ。

 店員の服装が和装で、着てみたかったんだよな。


 駅から近い順で考えると、ランカーズ、アダムのリンゴ、ビックマウス、こぶしの順番。

 こぶしは繁華街の外れにあって、駐車場もついている。

 徒歩で行くとちょっと時間がかかるのが難点か。

 響が危険すぎる気がする。


「とりあえず、集合は決めとくか?」

「そうしよう」 

「昼食は各自済ませた上で、午後一時にランカーズ前、現地集合でどうよ?」


 太一が現地集合と言った途端、響の肩がピクッと動く。


「一時にたどり着ける自信が無いわ……」


 おい。駅からカラオケまで歩いて五分もかかんないから。

 駅から真っ直ぐ来ればいいだけだから。


「おいおい、駅に張ってある地図見りゃ分かるだろ?」

 呆れながら太一が言う。


「そんなことが出来るならとっくにやっているわ」

 無表情に響が答える。

 地図も駄目なタイプか……。


「それなら響あたしらと一緒に行こうよ。家も近いんだしさ。今日もそうすれば良かった」

 アリカがそう言うと、響が無表情に首を少しだけ傾ける。


「アリカの家にもたどり着く自信が無いのだけれど……」

「あんたどんだけ方向音痴なのよ? このあいだ来たばっかでしょ?」

「奥の大きいマンションですよね? 愛の家まで一本道ですよ?」


 アリカと愛からの突っ込みが入る。

 俺も突っ込み入れていいかな?


「私の方向音痴は筋金入りよ? いまだに学校でも迷うもの」

 口端を少し上げていう響。


 自慢げに言ってるけど、自慢になんねえよ。


「……響さん。もしかして、この間のあれって迷いかけてたんですか?」

 愛が聞いているが、いつのことだろう。


「ええ、そうよ。戻ってこれる自信が無かったから愛さんを誘ったのよ」

「何の話だよ?」

 太一が不思議そうに聞いた。


「一緒にお昼食べた時の話ですよ。太一さん固まったじゃないですか」

「あ~、あの時か。二人でトイレ行ったときだよね?」

「ですです。響さんトイレから出た後、校舎に行きそうになったんですよ」

 ……そこでも方向音痴が出てたのか……。


「自覚がないのだからしょうがないわ」

「あー、もういいわ。あたし達があんたんちまで迎えに行くから」

 アリカが言うのを諦めた口調で言った。


「あら、そうしてくれると助かるわ。駅までは車で行きましょう」

「それじゃあ、仕切りなおすぞ。一時にランカーズ前に集合な」

 太一が言いみんな了承した。


 響の迎えが来る所で雑談を続けていると、黒塗りの高級外車がハザードランプを点けて、近くの路肩で停車した。

 助手側の窓が開き、中から運転手が顔を見せる。

 運転手は白髪頭で白髭をたくわえた人の良さそうな老年の人だった。

 車に近付いていく響。どうやら、響を迎えにきた車のようだ。


「ひーちゃん。お待たせ」

 響を見て運転手がにっこりとして言った。

 この人も三鷹さんと同じように響を『ひーちゃん』と呼んでいる。

 三鷹さんだけでなく、響と親しい人はそう呼ぶのだろう。


「轟さんありがとう。いつもごめんなさい。今日は友人も一緒なの」

 響がアリカと愛を指し示して言う。

 轟さんが車から降りて後部座席の扉を開けると響は乗り込んだ。

 轟さんはアリカと愛に、にっこり笑って続いて乗るように促した。


「二人とも乗ってちょうだい」

 車の中から二人を呼び込む響。


「お世話になります」

「うわー。愛、外車って乗るの初めて」

「こら、愛。ちゃんと言わないと駄目でしょ」

「はーい。お世話になります」

「はいはい。安全運転で行くから安心してね」

 轟さんはにっこり笑ったまま答えた。 

 

 愛とアリカが乗り込むと、轟さんがゆっくりとドアを閉めて、運転席に戻った。

 響が中で轟さんに何か言ったようで、後部席の窓が開かれる。


「それじゃあ、みんなまた明日ね」

 アリカが手を振りながら言う。


「おう、また明日な。響が迷わないようにつれてきてやってくれ」

「うん。任せといて」


 挨拶をそれぞれ終えると、響が轟さんに「お願いします」と言うと車が動き出した。

 俺達は走り行く車に手を振り、中の三人もそれぞれ手を振っていた。

 車が交差点を曲がったのを見届けてから、俺達もバスのロータリーまで移動する。

 

「あ~、今日は何かあっという間だったね」

「ですねー。あっという間でした」


 美咲と綾乃が楽しげに今日の話をしている。


 俺は今日が楽しかっただけに、この後の反動が怖い。

 また母親がどこかへ行っていてくれると助かると思う自分がいる。

 帰るにしても、バイトをやっている頃に比べるとまだ少し早い。

 どうせなら、どこかで時間を潰して少しでも遅らせて帰りたい。

 

 ああ、そうだ。


 美咲を送っていこう。

 美咲は太一らと同じバスだけど、途中で降りて少し歩かないといけない。

 バス停から暗い夜道を一人で帰すのも不安が残る。

 どうせならそうさせてもらおう。


「俺も一緒にバス乗って行くわ」

「え?」

 太一が驚いたような顔をした。


「美咲さん送ってく。途中から一人になるだろ。夜道危ないし、お前は綾乃ちゃんいるしな」

「あ、ああ、そういう意味か。どっか行くのかと思っちまったぜ」

「それはねえよ。美咲さん送ったら家に帰るさ」


 嫌だけどな。


「ええ? 明人君も疲れてるだろうから今日はいいよ!」

「いやいや、疲れてないから。それに帰り危ないから念のためね」

「そう言ってもらえると嬉しいけど……。ほんとにいいの?」

「気にしないで。俺がそうしたいだけだから」

 そう言うと、美咲が少し顔を赤らめて「うん。ありがとう」と頷いた。


 それから少ししてバスがターミナルに到着した。

 この時間になると、二〇分に一本くらいの間隔のようだ。

 俺達はガラガラのバスに乗り込み、先に降りる俺と美咲、太一と綾乃の組み合わせで座った。

 窓際席に美咲と綾乃、通路側に俺と太一が座る。

 出発時刻になり定刻通りバスは出発した。

 乗客は俺達の他に五人程。

 今日も仕事だったのだろうか、スーツ姿のサラリーマンぽい人もいる。


 バスの中では静かな時間が流れている。

 後ろにいる千葉兄妹を見ると、空調の効いたバスのせいか、綾乃がうとうとして太一にもたれかかっている。

 通路側にいる太一は何も言わず、ただ綾乃を受け止めていた。

 太一って、ちゃんと兄貴してるんだよな。

 横にいる窓際の美咲は、遊園地で買った絵本と土産物を大事そうに抱えている。

 ときおり、袋の中を覗き込んで読むのが待ち遠しいような顔をしていた。


 バス停をいくつか通り過ぎ、その都度次のバス停の案内がアナウンスで流れる。 

 美咲が降りるバス停の名前が言われたのだろう。

 美咲は顔を上げて、車内にある案内表示板を見て確認する。


「明人君。次で降りるよ」

「うん。わかった」 


 美咲が窓際の降車ボタンを押すと、紫色のカプセルが点灯した。

 少しして、俺達が降りるバス停に到着して停車した。


 太一らに声をかけようとしたら、もう綾乃は完全に眠っているようで太一にもたれかかったままだ。 

 起こさないように静かに太一に声をかける。


「それじゃあ、太一。また明日。遅れんなよ」

「ああ、お前こそ遅れんなよ」

「太一君も帰り気をつけてね。それじゃあ、おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい。また明日」


 小さく手を振って太一が言った。

 俺達はバスを降りて出発するバスを見送った。

  

「それじゃあ美咲、行こうか。荷物重いだろ。俺持つよ」

「うぅ。何から何まで、恐縮です」

「気にしないでいいよ。俺が好きでやってるんだから」


 いつもの帰りとは違った道だけど、美咲と並んで帰路を進む。

 ここから徒歩だと美咲の家まで時間にして一〇分ほどらしい。


 美咲と今日の出来事を振り返り話しながら進んでいると、あっという間に美咲の家までたどり着く。

 部屋の明かりがついているので、春那さんは在宅しているのだろう。


「明人君送ってくれてありがとう。本当に嬉しかった。帰り気をつけてね」

「いや、マジで気にしなくていいから。はい荷物」


 美咲の土産物を渡す。

 美咲は受け取ると大事そうに胸に抱えた。


「それじゃあ、おやすみなさい。また明日ね」

「はい、おやすみなさい。また明日」


 美咲が部屋へと戻っていく。

 少しして扉が開く音と「ただいま~」と美咲の声がした。

 少ししていつものように窓を見上げると、春那さんと美咲が俺を見て小さく手を振っている。

 手を振り返し、帰りたくない我が家へと進んだ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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