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帰路  作者: まるだまる
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149 大事なもの1

 シューズロッカーに行って靴を履き替え、使用済みの靴を専用の箱に放り込む。

 何かゴミを捨ててるみたいで違和感を感じるのは俺だけだろうか。


 それぞれ料金を支払いボウリング場を後にする。

 ボウリング場で遊んでいた時間は九〇分ほどで、それほど時間は立っていなかった。


 次の目的地はラーメン屋龍由、駅へ向かうためにバスターミナルを目指し移動する。

 俺の前を歩くアリカと綾乃がボウリングを振り返って話している。


「ああ~、いいところまでいけたのに~。惜しかったよねー」

「ほんとですね。チーム戦だといい勝負してたんですね」

 結果としては負けたが、意外と接戦だったことを知って、アリカと綾乃は話に盛り上がっていた。

 後ろを並んで歩く太一と響の声が聞こえる。


「どうせならチーム戦でも何か賭けてよかったか?」

 太一がおどけた声で響に言うと、

「それだとしこりが残る場合もあるわ。これで良かったのよ」

「お前、勝負事好きなのに、そういうのは固いのな」

「あら、報酬が無くても勝負と思えばやる気は上がるでしょう?」

「まあ、そりゃそうだな」


 響とは友達になってからそれほど経っていないけれど、長く付き合ってるような感じがした。

 響を見ていると今までなぜ友達が出来なかったのか不思議なくらいだ。


 俺の横に美咲が並び、その横で頬に手を当てて思い出し笑いしているような愛が並ぶ。


「愛は大満足です。うへへへへ」 

「愛ちゃんがんばってたもんね~」

 美咲が愛に微笑みながら言った。


 俺はどっちかというと、愛がボウリングのスコアの事を言ってる気がしないんだけどな。

 美咲あまり深追いしないでくれよ。

 また俺に悪夢が降りかかってきそうな気がするから。


 俺自身といえば、今日の出来事は色々あったはずなのにあっという間だった。

 それだけ楽しかったのだろう。楽しいと思える時間は瞬く間に過ぎていく。

 高校に入ってからというものバイトばっかりで遊びにいく機会もほとんど無かった。

 自分で選んだ生活とはいえ、やはり寂しいものだったとそう思う。



 バスターミナルまで戻った俺達は駅方面のバスに乗車した。

 増発便のおかげで、それほど待たなくても乗車することができた。

 駅のバスターミナルに降り立って空を見上げると、日はかなり傾き、空がオレンジ色がかっていた。

 龍由に着くころには薄暗くなっているかもしれない。


「それじゃあ龍由目指すか。ちょっと歩くけど勘弁な。混んでないこと祈ろうぜ」


 俺達の目指す龍由までは駅から歩いて三〇分はかかる。

 バスのルートに龍由が無いため徒歩での移動がどうしても必要だった。

 土産を持ちながらの移動は煩わしかったので、駅のロッカールームにまとめて預け入れることにした。

  

 駅の裏側の繁華街を抜けて、駅から西側の奥へと進んでいく。

 店舗の数が少しずつ減っていき、交通量が少ない市道に行き当たる。

 この市道沿いを北へ行ったところに俺達の目指すラーメン屋『龍由』がある。


「龍由って随分とへんぴな所にあるのね」


 アリカが周りをキョロキョロ見ながら言う。


「駅に近いとテナント借りるにしてもテナント料が高いからじゃねえかな」

「あーなるほどね」

「愛はこの辺来たの初めてのような気がします」


 愛もキョロキョロと周りを見渡して言った。


「有名だけどなかなか足を向けられない理由ってこれなんだよな」

「確かにこれは足が運びにくいわね。もう駅がどっちか分からないわ」

「相変わらずの方向音痴ね。それあんただけだから。まだ一回しか曲がってないわよ」


 響は方向音痴ぶりをフルに発揮し、アリカが言いたいことを言っている。

 この二人は中学の時もこんな感じだったのだろう。


 市道を進み始めてから十五分ほど経ったころ、黄色くて大きな看板が見えてきた。


「お、あれだな。みんな見えてきたぞ」

 太一が言うと、そろそろ歩き疲れ始めていたみんなの目が輝いた。

 たどり着いて外観を見てみると田舎にあるような木造家屋で、どちらかというと和食屋に見える。  

 小さなラーメン屋を想像していたが、中は広そうな感じだ。

 店の前の駐車場は満車状態。窓から見える店の中も人で一杯だった。


「うわ、これ混んでるっぽいな。どれくらい待つだろ?」

「長いと危ないです。香ちゃんが餓えてきてます」

 ぼそっと愛が言った。

 アリカを見ると確かに目つきが怪しくなってきている。

 腹が減るとわかりやすいな、あいつ。


 入り口をくぐると、タオルをバンダナのように頭に巻いた若い店員から「らっしゃい! 何名様で?」と威勢のいい声で声をかけられる。


「七名ですけど、空いてますか?」

「大丈夫ですよ。奥の座敷が空いてますんで、ご案内します」

 店員は俺達にそう答えると店に響くような大声で「七名様ご案内!」と大きく声を上げた。


「活気のあるお店だね。こういうとこ初めてだ」

 と、後ろにいる美咲が呟いた。


 案内される途中見えた厨房には湯気が立ち込め、周りからはラーメンのうまそうな匂いが鼻腔をくすぐる。

 座敷の入り口前に給水器が設置してあり、その脇にはコップが並んでいる。

 どうやら水はセルフサービスらしい。

 セルフサービスの店も多いので、ここもその仕組みを使っているのだろう。


 案内された座敷は木目の長テーブルが置いてあり、片方に四人くらいは十分座れそうだ。

 足元は掘りコタツのようになっていて、足をおろすことができる。


「こちらでお願いします。お水はセルフサービスとなってます。ここの入り口にあるのでご利用ください。ご注文お決まりになりましたらベルを押して下さい。すぐに伺います」

 そう言って店員は退出した。


 テーブルの左側奥から愛、アリカ、俺の順で座り、右側奥から響、美咲、綾乃、太一の順で座る。

 綾乃と太一が響と目が合って固まっては困るのでこのパターンにした。


 テーブルの上に置いてある、やけにでかいメニュー表をテーブルの上に置いてみんなで覗きこむ。

 ここで評判なのは、屋号の入った龍由ラーメン。味はとんこつ醤油らしい。

 去年テレビでやっていたラーメン勝負で優勝したのがこれだ。

 俺は当然これをチョイスするつもりだ。


 値段は一杯七〇〇円。まあ、普通の値段だろう。

 後は大盛りや替え玉などのオプションもあれば、温泉卵乗せなどのトッピングメニューもある。

 普通の値段に五〇円から一〇〇円ほど上乗せでできるようだ。


 その他のラーメンは、味噌、塩、坦々麺と複数用意されている。

 その他にもチャーハンや天津飯、野菜炒め、八宝菜があり、サイドメニューは、から揚げ、餃子と中華料理屋にあるようなメニューが並ぶ。


 セットメニューもあって、ラーメンセットは餃子または半チャーハンが選べる。

 ラーメンの代金に二〇〇円追加でセットに出来るようだ。思っていたよりも良心的な値段だった。


「そういや五周年記念とか言ってたよな? なんかあんの?」

 太一がメニューを見ながら言った。


「チラシに内容は書いてなかったけどな。注文の時にでも聞いてみようぜ」


 横にいるアリカをちらりと見る。

 アリカは壁に貼られた特盛りチャレンジラーメンの広告に釘点けになっていた。

 本当にチャレンジャーだな、こいつ。


 奥にいる愛にコソコソ何か聞いている。

 愛は顔を横に振り、アリカががっくりと頭を垂れた。

 どうやら駄目だと言われたのだろう。


「注文決まったら教えてくれ」

 

「龍由ラーメンの大盛りセットのチャーハン。綾乃は龍由ラーメンに温玉トッピングだけでいいって。あとキムチもよろしく」

「私はチャーハンと野菜炒めのセットで」


 美咲はラーメンはパスのようだ。

 話し合いした時もそういうこと言っていたしな。

 やはり麺類は避けたいのだろう。


「あたしが龍由ラーメン大盛りのチャーハンセット、それから愛が龍由ラーメンだけ」

「私も龍由ラーメンだけでいいわ。まだお昼のが残ってる感じするの」 


 身体の大きさを考えるとアリカと響は逆でもいいのになと思ってしまう。

 アリカのちっこい身体のどこに消えていくんだろう。


「オッケー。それじゃあ、愛ちゃんベル押してくれるかい」

「はい。わかりましたー」


 愛がベルを押すとすぐに店員が座敷に現れた。


「大盛りの龍由ラーメンセットでチャーハンのほうを三つと、龍由ラーメン単品が三つ。そのうち一つを温玉トッピングで。それから野菜炒めとチャーハンのセット一つ、それとキムチ一つでお願いします」

 俺が言い終わると店員も復唱して、確認をとる。

「それと五周年記念ってチラシ見たんですけど、なんかあるんですか?」

「すいません。ご紹介して無かったですね。当店五周年記念に伴いまして、オプション、トッピング、サイドメニュー以外の全品をレジにて百円引きさせてもらってます。セットメニューにも適用しております」


 なるほど、値引きだったのか。

 そっちのほうが店も簡単だよな。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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