148 ボウリング6
アリカにとって不幸な出来事が少しばかりあったが二ゲーム目が開始された。
響は初っ端からストライクを出し、俺はスペア。
スタートとしては悪くない。
太一、綾乃の兄妹は共にストライクスタート。
アリカは精神的ダメージを引き摺りながらもスペアスタートを切ることができた。
愛の一投目は五本倒したがスプリットに泣かされ、二投目はど真ん中に行ってしまい外した。
美咲は一投目で一本残したのをスペアで切り抜けた。
ゲームを続けていくと、変わらずダントツの成績で進む響。
二番手には太一が続き、点差はそれほど離れず俺、綾乃、アリカが追走中。
それから調子の上がってきた美咲と点数の伸び悩み始めた愛となっている。
アリカの雄叫びが響く。
「おりゃああああああ!」
パッカーンと音が響き、ピンが全て倒された。これでダブル達成。
「来た来た来たよー。調子が戻ってきたー」
完全に精神的ダメージから復帰したアリカはダブルを出して喜んでいた。
これで俺と綾乃はアリカに抜かれた。
同じチームなのでいいのだが、負けるのはちと悔しい。
「うーん。またよくわからなくなってきました」
頭をかしげながら投げる愛だが、確かに微妙にフォームにまとまりがなくなっているように見える。
だが最初に比べると投げ方はましなので、そのままやった方がいい感じだ。
「まあ、しょうがないよ。でもガターが無いからオッケーじゃね?」
戻って来た愛に太一が言った。
「そうですね。贅沢言ったらきりが無いですよね」
太一に笑い返して言う愛だった。
第9フレーム好調だった響の勢いが止まる。
8フレームでスペアを取りそこなった後、一投目がスプリットになった。
「端と端なんて無理ね。コースが無いわ。倒せる人いるのかしら?」
そう言って手堅く一本だけ倒す響だった。
まあ、偶然ピンアクションで倒れることもあるだろうが狙っては無理が多いだろう。
とはいっても、ダントツでトップは揺るぎが無い。
迎えた最終フレーム。
響は最終もスペアを出せなかったが、192点と一ゲーム目を超えるスコアで上がった。
俺は最終でストライク、その後、九本倒して142点と首の皮が繋がった。
これで個人勝負は太一のスコア次第だ。
投球前の太一の点数は146点。この時点でも負けているが一ゲーム目の点差がまだ生きている。
一ゲーム目は俺が151点で太一が137点。差は14点だ。今の差が4点だからそれを合わせると太一がスペアを出した時点で俺の負けだ。
「よーし、ここは慎重に行くぞ」
太一はそう言って投球に入る。
一投目はヘッドピンを捕らえたものの8本倒すに留まった。
だが、左に二本が連続して残っている。これは無理をしなければ狙えそうな感じだ。
球が戻ってくる間に綾乃の一投目、ものの見事にストライク。
チームの点数に貢献してくれている。
「明人さんやりましたー!」
戻って来た綾乃をアリカと二人でハイタッチで迎える。
「綾乃ちゃんナイス! 最後も連続よろしく頼むぜ」
「がんばりまーす」
「今回みんないいからもしかして勝てるんじゃない?」
アリカがスコアボードを見ながら言った。
確かにアリカが調子を上げて現在二位につけていることを考えると逆転していてもおかしくない。
ただ、響がスコアを一ゲーム目よりも伸ばしたことがどうでるかだ。
さあ、とうとう俺の個人戦の正念場。太一の二投目だ。
太一がスペアを取った時点で俺の負けが濃厚になる。
ゆっくりと狙いを定めて太一がリリースした。
球は真っ直ぐに残ったピンに向かっていく。
これは駄目だ。倒せるコースだ。
パカンと音がして残ったピンが飛ばされる。太一の二投目はスペアーを取った。
現時点で2ゲームの合計点は並んでいる。後一本でも倒せば太一の勝ちだ。
「くそ~。負けたなこれ」
「おーし、これで一本でも倒せば俺の勝ちだ! 飯はもらったぜ」
球が戻ってくる間、太一が勝ちを確信してニヤニヤしている。
「あー、お兄ちゃん悪い癖が出るかも……」
そんな兄を見て綾乃がぼそっと呟いた。
「とどめの一撃フルパワーでいくぜ!」
助走をつけて投げ始める太一。
球を今まで以上に大きく振り上げて腕を振り下ろす。
だが、目測を誤ったのか勢いに負けたのか降ろす位置がやけに低かった。
「いでっ!」
ゴンと球が床に当たり手から離れてしまった。
勢いを殺された球は、ピンに届くことも出来ずにそのまま左のガターへと落ちる。
球がガターへ落ちたのを見て、太一はがっくりとうな垂れる。
「あー、やっぱり……」
綾乃が兄の姿を見てまた呟いた。
さすがは妹だな。兄の行動をよく理解している。
結局、蓋を開けてみれば156点で終了。太一との勝負は合計点でイーブンに終わった。
あいつのドジに助けられたようなものだが。また何かで勝負することにしよう。
球をぶつけた衝撃で手を痛めたのか、太一は右手を押さえていた。
戻ってきた太一は手をぶんぶんと振って痛みを散らしているようだ。
「たはは、やっちまった」
「手は大丈夫なのか?」
「あー、大丈夫だ。ちょっとインパクトあったけど。それほど痛めてねえよ」
「もう、お兄ちゃん。遊びに来て怪我しないでよ?」
「悪い悪い。調子乗りすぎた。いや、しかし残念だ。飯逃しちまった」
全然残念そうに見えない太一だった。
綾乃が次の投球に移り、結果は7本。
最後が左右に割れてしまい数が多いほうを倒すに留まった。
戻ってきた綾乃が太一に言う。
「あー、もうお兄ちゃんのせいで調子狂ったじゃない」
「俺のせいにするなよ。お前の実力だ」
太一は太一で言い返していた。
仲がいいから好きなこと言い合えるんだろうな。
兄妹とか羨ましいと思う瞬間だ。
次は愛里姉妹の最終フレーム。
愛の一投目は右に逸れて右側端の三本を倒すだけに留まった。
続くアリカの一投目はセンターを捉えるも、真ん中過ぎたのか右側のピンが多く残った。
愛の二投目、響と美咲と太一が愛に投げる位置と狙いをアドバイスしている。
愛も素直にうんうんと頷きながら聞いていた。
アドバイスを聞いた愛が球を持って構える。
「えっと。右から三つ目の矢印へ転がすように、右から三つ目……」
小さく教えてもらった場所を呟きながらの投球。
球の勢いはそれほど無いが、リリースポイントとしては問題なく見える。
球はレーンの中ほどから少しずつ左に曲がり始め、ヘッドピンに向かっていく。
「おお! これいけるんじゃね?」
太一が身を乗り出して叫ぶ。
ヘッドピンに当たった球は中央のピンをなぎ倒したが、左サイドの一本が倒れきらずフラフラしている。ぐらぐらと揺れるピンは残念なことに時間切れで機械にホールドされてしまった。
「あああ、残念! 倒れそうだったのに」
太一が残念そうに言った。
それでも愛は満足そうな顔で戻って来た。
「太一さん、響さん、美咲さんありがとうございます。愛にとってはいい点数が出ました」
戻って来た愛はみんなに頭を下げる。
愛の結果は78点だったが、本人とっては一ゲーム目よりも悪いが普段よりは全然いいので満足のようだ。
「良かったね愛。前にやったときよりも全然いいじゃん」
「香ちゃん嬉しいよー」
アリカが愛を迎えて褒めて、愛はアリカに抱きついた。
こいつらも仲がいい姉妹だよな。
ついでアリカが二投目に入る。
太一がスペアを取ったので現在、暫定三位。
ここでスペアを取ると太一を抜けるが、響には追いつけない。
それでも点差を埋めるためには一頑張りして欲しい。
「アリカこれ決めろよ。お前ならいける」
「まっかせなさい! あたしのパワーで吹き飛ばしてやるんだから」
いや、パワーよりもコントロール重視してくれ。
アリカが投球開始。
ゴオオオーと音を立てながら転がっていく球は残りのピンを厚く捕らえる。
ドグシャっと鈍い音が響き、ピンが全部後ろに吸い込まれていった。
「おっしゃああああああああああ!」
アリカは身体全体を使って大きく飛び跳ねるようにガッツポーズ。
これでもう一回の追加点、最大で十点の追加が狙える。
「ナイススペアー。やるなー」
「アリカさんナイスです。正念場に強いですね」
ハイタッチで出迎える俺と綾乃。
「えへへ。ありがとー」
アリカ、ラストの一回は七本を倒した。
狙いは良かったのだがピンアクションに嫌われた結果だった。運が絡むところだからしょうがない。
これでアリカは167点と二ゲーム目の二位に躍り出た。
最後は美咲の順番。
このゲームは良し悪しはあったものの、ストライク一回、スペア三回と悪くは無い。
今、現在102点と一ゲーム目は上回っている。スロースターターなのかもしれない。
「最後って余計に緊張するね」
そう言って美咲はみんなに見守られる中、投球に入った。
一投目でストライクは出せず、二投目で無事スペアー。
その後の一投で八本倒し、120点で終了した。
「おお、久々にやって120点なんて凄い!」
美咲は点数を見て無邪気に喜んでいた。
このゲームの結果、一位は響の192点、二位がアリカの167点。
三位が太一の156点、四位が俺の142点。
五位が綾乃の136点で六位は120点の美咲、最後が愛の78点だった。
一ゲーム、二ゲームめ共にぶっちぎりの強さを見せた響だった。
運動神経がいいだけじゃ説明つかないくらいの器用さだ。
チーム戦の結果で言うと、俺のチームの平均132.2点で、太一チームは平均132.8点。
僅差で負けた。
お読みいただきましてありがとうございます。
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