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帰路  作者: まるだまる
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145 ボウリング3

 操作盤のあるテーブル席に座り愛の姿を眺めていると、横の席に美咲が座った。


「愛ちゃん苦手意識が強いみたいだね」


 気落ちしている愛を見ながら言う美咲。


「遊びなんだから緊張しなくていいのにな」

 

 愛が投球準備に入るが、その表情は投げる前から諦めの表情が浮かんでいる。


「うぅ……どこ狙っていいか、よくわかんない~」


 ピンを狙おうよ。そういうゲームだよ。


「……明人君それは当たり前すぎて面白くないな」


 だから何で分かるんだよ?

 美咲って、やっぱ超能力無い?


 

 そんなことをしている間に愛が一歩二歩と足を進め、球を投げ始める。

 だが、投げるというより、手から球を下に落としただけのように見えた。

 あの投げ方だと、どこに球が行くか投げた本人も分からないだろう。

 球は勢いも無く、コロコロと徐々に左に曲がっていく。


「届け、届け。落ちるなー」

 美咲が横で球が届くようにと声援を送っている。

 その甲斐も無く、ピンに届かずそのまま左のガターへと落ちた。


「あぅ」

 がっくりとうな垂れる愛。


「愛ちゃんドンマイ」

 戻って来た愛を励ます太一。


 愛の気落ちを見て、太一がすぐに投げ方のレクチャーを開始した。

 その様子を響が横でじっと聞いている。

 響も初めてなので聞いておこうと思ったのだろうか。


 次は綾乃の順番。


「私の番です!」

 運動能力は高いだろうと思われる綾乃の投球。

 同じチームでもあるので期待している。

 じっとピンを見つめて左右の立ち位置を調整。


 位置が決まり投球へ。


 綾乃の右手から放たれた球は真っ直ぐにヘッドピンへ向かう。


「あー駄目だ! 左過ぎ」

 投げた本人が叫ぶ。


 球はわずかながら手前で左に曲がり、ヘッドピンを避けるように二番ピンへ。

 パカーンとピンは弾け飛びピンアクションに恵まれたものの、ヘッドピンだけが残ってしまった。


「うわ~、一番嫌いな残り方しちゃった」

 綾乃が苦虫を噛み潰したような顔して戻ってきた。


「あれ、あたしも苦手。スプリットは諦めつくけど、あれ外すとあと引くのよね」

 戻って来た綾乃にアリカが同調して言った。


 横では愛が太一の話をウンウンと頷きながら手の振り方を練習している。


「やってみます!」

「よし。んじゃあ、行ってみよう」


 太一の声に送り出されて愛は球を掴むと、投球位置に入り中央に立った。

 ゆっくりと歩き出し、歩調を合わせながら手を振り降ろす。

 一回目の投球フォームと比べ物にならないくらい改善されている。

 愛の手から放たれた球はレーンからガターへ落ちることなく、レーンの上を滑るように転がっていった。

 残念ながらヘッドピンには絡まなかったが、五本倒すことに成功した。


「おお、やったー!」

「おおー! 愛、一フレーム目で点数取ったの初めてです!」

 きゃっきゃと喜ぶ愛。


「投げ方は今のでオッケー。何回かやって慣れたら次は球のクセを掴もう」

 戻ってきた愛に太一が言う。


「クセですか?」

 首を傾げて問い返す愛。


「そうそう。クセって、人それぞれなんだよ。俺も明人も球が左に曲がったろ。あれがクセ」 

「太一さんも明人さんも左曲がりなんですか?」

 愛がぼそっと呟いた。


 なんか違う意味に聞こえるんだけど、気のせいだよな?

 続く綾乃の二投目は、一投目と同じコースをたどり、残ったピンを外してしまった。


「ああー、一本だけって逆に狙いにくい!」

 手をワキワキとさせて、悔しそうに言う綾乃だった。


 次の順番は響。


 今までボウリングをやったことが無いと言っていた。

 太一が響に色々とアドバイスをしたようだが、分かっているのか無表情だけに読みにくい。

 投球位置に入り、立ち位置の調整。見た感じではそつは無い。


「こんな感じかしら?」


 響が投球体勢に入る。流れるように歩みでる。

 見た感じ投球フォームは綺麗に見える。

 滑るように放たれた球は、俺や太一に急速は及ばないものの勢いは悪くなく、わずかながら左へ曲がりヘッドピンを右から捕らえた。


「おお? これいいんじゃね?」

 太一が身を乗り出して叫ぶ。


「パッカーン」と快音が響き、ピンが倒れていく。

 左の四番ピンだけがフラフラして最後の踏ん張りを見せていた。


「倒れろ!」

 太一が大声で叫ぶが、残念ながら機械が下りてきてホールドしてしまった。

 

 戻ってきた響は「あんな感じでいいのかしら?」と自分でも分かっていない様子。

「上出来だぜ。初めてに見えなかったぞ。そのままスペア取っちゃえ」


 続いて二投目。響は左側に立っている。

 直球で残ったピンを狙っているようだ。

 響の投げる姿に大きな崩れは無く、放たれた球は真っ直ぐに残ったピンに向かっている。

「パコン」と球がピンを弾き、見事スペアー。


「ナイススペアー!」


 横にいた美咲が立ち上がって、響をハイタッチで出迎える。

 戻ってきた響はそれぞれにタッチしていくが、表情が無表情だった。

 お前少しは喜べよ。


 それからゲームは続き、太一はスペアを取った後の一投目で九本倒すも連続スペアならず。

 俺は狙いが逸れて六本、二投目も一本残り、俺も連続スペアならず。

 俺と太一の個人勝負は第七フレーム現在、太一に六点リードを許している。

 お互いスペアが二回、ストライクは一回ずつ取っていて、逆転するのに連続が一発欲しいところだ。

 

 現時点でのトップはボウリングが初めての響。


 一フレーム目のスペアを皮切りに、二、三フレーム目で連続ストライク。ダブル達成。

 四フレーム目で一本取りこぼしたが、五、六フレームは連続スペアを達成。

 天性の運動神経が成せるのか、早々にコツを掴んだようで、やたらと調子がいい。


「姿勢を維持すれば、いい感じになるわね」

 と、無表情に響は言った。 


 アリカはフレームごとに乱れまくっている。

 一フレーム目こそストライクだったが、二フレーム目、まさかの大失投でガター。

 二投目も力んだのか、わずかに一本倒すに終わった。

 がっくしと崩れ落ちるアリカの姿を思わず写真に残しておいた。後でみんなで見よう。

 その後も失敗が尾を引いているのか、スペアすら一つも取れていない。


「今日は駄目な日ね。きっと明人が見てるからだわ」

 と、アリカはぼやくが、俺のせいにするなよ。



 姉の代わりに調子のいいのは愛。

 二フレーム目でピンアクションに恵まれて、左に二本残しの八本を倒すと、二投目でスペアー。

 初めてのスペアだったらしく、喜びのあまりアリカを捕まえて振り回していた。

 これも撮影しておこう。なかなか素晴らしい高速回転だったと思う。

 その後はスペアやストライクは無いものの、美咲や綾乃と点数差が大きく離れる事は無かった。


「今日は奇跡が起きてます。きっと明人さんがいるからですね」

 それは違うと思うけど、アリカと違っていい意味だから良しとしよう。


 美咲と綾乃はスペアを一回ずつ取ったものの、スコア的には伸びていない。


「うーん。あと一本が倒れてくれないねー」

「どうしても力が入っちゃいますねー」

 二人して頭を傾げていた。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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