144 ボウリング2
ルールはシンプルに2ゲームのチーム平均で勝負。
時間はかかるが、交互に投げていくことにした。
いよいよゲームスタート。太一チームからの先攻だ。
太一が球を備え付けのタオルで磨いていると、ちょいちょいと俺を手招きする。
「なあ、明人。俺とお前だけで個人戦もやらないか?」
「お、いいね。負けた方がメシおごるってのどうよ? まあ負ける気しないけどな」
「それ乗った。その言葉忘れんなよ。後で頭下げさせてやる」
賭けは成立。これは個人戦でも負けられない。
「一発目行くぜ!」
肩を回して「うし」と気合を入れなおすと、太一は球を持って投球エリアに入り構える。
左右の微調整をして、狙いを定める。
「うし。この位置に決めた」
一歩、二歩と踏み出し投球体勢に入る太一。
太一の手から放たれた球は、右から三つ目のスパット(矢印)の上をゴロゴロゴロゴロと音を立て、勢いよく転がっていく。わずかながら左に曲がっていき、ヘッドピンに向かって行く。
やべ、これ初球でストライク出るんじゃねえか?
「おし、決まれ!」
狙い通りだったのか、太一が吼える。
パカーンといい音が響きピンは倒れていく。
だが、ピンアクションに恵まれず、右奥のピン一本だけが残ってしまった。
一瞬、ストライク出たかと思ってヒヤヒヤしたぜ。
「ああ、くそ。一本残りやがった」
悔しがる太一。
「ああ、太一君惜しい!」
「太一さん、どんまいです」
「惜しかったわね」
向こうのチームから励ましの声が上がる。
いよいよ俺の番だ。
ボウリングも久しぶりだけど、できれば幸先のいいスタートが切りたいもんだ。
「明人、がんばれー。こっちはストライク出してやんなさい」
「明人さんファイトです」
アリカと綾乃から声援。
思わず力が入りそうになってしまう。
「リラックス、リラックスと」
球を持って投球エリアで立ち位置の確認。
目標はヘッドピンの右側。太一と同じ場所を狙う。
目標スパットは三番目と四番目の間、俺の球の曲がり具合だとその位がちょうどいいだろう。
目標よし、左右よし。さあ、行ってみよう。
――いざ投球。
俺の手から放れる球。勢いは悪くない。
だが、球は狙ったスパットよりもやや右、三番目のスパット寄りを通り抜ける。
「あれ? ちょい右すぎか?」
ゴロゴロゴロゴロと音を立て勢いついた球は、左に少しずつ曲がってヘッドピンに向かっていく。
思っていたよりも曲がり方も緩い。
「これ浅いか?」
ヘッドピンの右側に薄く当たり、パカーンと音を立て倒れたが、左側に何本か残った。
「あちゃー、いくつ残った? 三本か?」
上の表示板を見てみると、倒したのは八本に留まっていた。
「やっぱ薄すぎか」
「明人どんまい。次でスペア取っちゃいなさい」
「落ち着いてスペア狙いましょう」
アリカと綾乃がドンマイと声援をくれる。
続く太一の二投目。
左側ギリギリに立ち、右奥に残るピンを対角線からストレートで狙うようだ。
「おりゃ!」
太一が掛け声に合わせて投球すると、球は太一の狙い通りに真っ直ぐ転がっていき、ピンに直撃した。
「おっしゃ、きた!」
倒したのを確認すると太一は小さくガッツポーズ。
「やったー。ナイススペア!」
「おおー、太一さんやるですね」
喜んで戻る太一に向こうチームがハイタッチで向かえる。
プレッシャー与えてくれるじゃねえか。
「明人こっちも負けてられないわよ。がっつりいったんさい」
「おう!」
俺の二投目。
やや中央から左側に立つ。
残りのピンを全部倒すには、一投目の感じからすると、ここがいい位置のはず。
後は一投目と同じように力まないように投げるだけだ。
テンポを変えないように意識して、投球に入る。
俺の放った球は俺の思い描いた軌跡をたどり、残っていたピンに向かっていく。
ガコンと鈍い音がして球が直撃。
二本とも球とともに奥に吸い込まれていった。
「おっしゃ来た!」
「ナイススペアー!」
「いい感じです」
戻った俺をアリカと綾乃がハイタッチで迎えてくれた。
太一と俺、ともにスペアスタート。
次の点数が最初の勝負どころといった感じか。
投球に力が入りそうだ。
隣のレーンで美咲が投球準備。
「うわー、久しぶりすぎて緊張する」
球を大事に抱えて、ほぼ中央に立った美咲。
位置調整も程ほどにしたかと思うとすぐさま投げ始める。
トテトテと助走というより足を進めた感じなだけの投球。
「えい!」
球の勢いはゴロンゴロンと弱かったが、失速するほどではなく、ピンに向かって真っ直ぐ転がっていく。
ただヘッドピンに向かってではなく、右側の三番ピンに向かっているように見える。
「あれ? ずれてる」
自分の球を見て、首を傾げる美咲。
美咲の放った球はヘッドピンの右側、三番ピンと六番ピンの間に当たった。
ピンアクションで左側もパタパタと倒れていくが、ヘッドピンとその左の二番、四番のピンが残っている。
表示されたスコアは「7」だった。
「あははは、残念。思ったより真っ直ぐ行っちゃった」
笑いながら残念そうに戻ってくるが、固まっているからスペアのチャンスは十分にある。
「うふふ、では、ここで主役の登場ね」
アリカが胸を張って、なにやら偉そうな口振りで球をひょいと軽々と持ち上げる。
相変わらずの馬鹿力だ。
ところでお前が胸を張っても、出るとこ出てないからちょっとさみしいよな。
だから睨むなよ。
「なんか悪意を感じたけど、まあいいわ。あたしの華麗なフォームを見てなさい」
アリカはアドレスに入り、ちょこちょこと位置調整。
どうやら決まったらしく、一歩、二歩と足を進めて球を後ろに振りかぶる。
球の位置が高く上がったその姿勢は、まるでプロボウラーみたいなフォームだった。
「どっせい!」
いや、それ台無しだよ、お前。
フォームは綺麗なのに、その掛け声で台無しだよ。
しかし、放たれた球は、綺麗なフォームから繰り出された確かなものであり、俺や太一の球速を凌ぐ勢いだった。
馬鹿力だけというわけでもなく、培われたものか、それとも天性のセンスが成せるのか。
小細工無しのストレート狙い。ヘッドピンに球は向かっている。
「行け!」
アリカの声と同時に「パカグシャ」と鈍い音が響き、レーン上のピンが全て後ろに吹っ飛び、吸い込まれる。
「やった!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶアリカ。
すげえ、ピン全部巻き込みやがった。
上にあるディスプレイにはリプレイ画面と王冠の絵とストライクの文字が浮かぶ。
「一発目からストライクなんてやるなお前」
「アリカさん、すごい」
戻ってきたアリカを綾乃と二人でハイタッチで向かえる。
「ふふん。どんなもんよ。ってか、まぐれだけどね。狙いよりずれてたし」
まぐれかよ。
「うわー、アリカちゃんにしてやられた。ここはスペア取りたいなー」
美咲が二投目の準備。今度は慎重に立ち位置を調整している。
位置も決まり投球体勢へ、美咲の放った球は真っ直ぐにヘッドピンに向かっていくが、途中から左に曲がり始めた。
「真っ直ぐでいいのに! 当たって」
美咲の声は届かず、球はヘッドピンを避けるかのように逸れ、二番ピンと四番ピンを倒すに留まった。
「あらー。スペア取り損なっちゃった」
「おしい。おしい。美咲さんドンマイ。九本倒れたんだからいい方だぜ」
太一が美咲を励ます。
次の順番は愛と綾乃。
綾乃はやる気満々で肩を回して準備運動。
愛は投げる前から気落ちした表情を見せ、球をふきふきしている。
そこまで深刻にならなくてもいいんじゃないか?
「うぅ……。みなさん、なんでそんなに最初から点数がいいんですか。愛、ヘタっぴだから恥ずかしいです」
「愛ちゃんならやれるって」
「愛さんならいけると思うのだけれど?」
「太一さんも響さんも愛のこと灰かぶりすぎです!」
それだとシンデレラだよ。何で灰かぶってんだよ。
「……愛さん。それを言うなら買いかぶりよ?」
あえて流さずにはっきり言う響だった。
流してやれよ。
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