142 わんにゃんショー3
「えーと、ところで愛は?」
アリカがキョロキョロと愛を探す。
「愛さんはあそこに行きましたよ」
綾乃の指差した先はドッグランが出来そうな屋外スペース。
そこにはいつのまに外に行ったのか、犬を引き連れて疾走している愛の姿があった
愛を追いかける十数匹の犬たち。随分と懐いてるじゃないか。
「あちゃー、あれ多分追われてるわね。愛、動物苦手なのに、なんでか好かれるのよね」
「え?」
「いやあああああああああああああ! こないでええええええええええええ」
確かに愛を見ると全然楽しそうじゃない、むしろ真剣に怯えた表情で逃げていた。
「こないでってばあああああ!」
「あー、もうそろそろ捕まるわね」
アリカが淡々と愛の動きを見て言った。
その言葉通り、とうとうばてた愛はふらふらになったところで犬たちに追いつかれ、一匹の犬が飛び掛る。それにあわせて他の犬たちも一斉に愛に飛び掛った。
「おい、あれ大丈夫かよ。やばくね?」
「慌てなくても大丈夫よ」
アリカは分かっているのか、全然焦っていないようだ。
一応急いで愛のもとへいくと、犬たちに顔中をベロベロに舐められた愛の姿があった。
「うぅ……見ないでぇ。……愛を見ないでえ!」
いや、その台詞回しはこういう時に使わないだろう。
綾乃が来る直前に、犬たちは気配を感じたのか一斉に愛の元から去っていく。
何だこの差は。その状況に綾乃が落込んだ表情をしてしまいさらに可哀想になる。
愛は昔から動物が苦手なのに、動物には懐かれるタイプらしい。
あれだけ好かれてるのに勿体ない気がする。
綾乃からしたら羨ましい限りだろう。
愛に話を聞くと、触れ合い広場に入った途端、複数の犬につけまわされ、屋外に逃げたらそこにいた奴にも追われたそうである。どんだけ狙われてんだよ。
「香ちゃん、怖かったよー」
半泣きになりながら、アリカに擦り寄る愛。
「よしよし、いい運動になったわねー」
姉よ、怖い思いをした妹に対してそれだけか。
愛と太一を守るかのように一緒に行動することにした綾乃。複雑そうな表情だ。
愛はベッタリと綾乃にくっついている。さっきの事がよっぽど怖かったのだろう。
太一と愛を狙う犬たちが一定の距離をあけていて、微妙な空間になっていた。
俺と美咲はそれぞれまた遊び相手を探して触れ合い広場に戻る。
アリカと響は屋外の犬と一緒に遊ぶことを選んだようだ。
俺はさっきのマンチカンが気に入ったので、探しにうろつくがどこにもいない。仕方なく美咲の所へいくと、いつのまに受け取っていたのか探していたマンチカンを美咲が抱いていた。美咲に甘えるマンチカン。美咲も随分と気に入ったようだ。
「この子、足が短いね。ダックスフンドの猫版みたいだけど、なんていうのかな?」
「マンチカンっていう種類だよ」
「おお! 万痴漢か。君はいやらしいんだね?」
おい美咲、今何か怪しかったぞ。変な変換しただろ。
「そいつアメリカ生まれの品種だから、そういう名前なんだよ」
「この子オスだけど、だからマン痴漢なの?」
「その痴漢じゃねえよ」
美咲は頭がいいのか、悪いのか分からない時がある。
しばらく美咲と一緒にマンチカンと遊んでいた。
ふと時計を見ると思ったより時間が過ぎている。猫に夢中で気付かなかった。
狙われている太一達があまりにも不憫なので、そろそろ別の場所に行こう。
猫を係員に返した後、一緒にいた美咲と二人で屋外の広場で遊んでいるアリカと響を探しにいく。
響はビーグル犬にボールを投げて取りに行かせて遊んでいた。
「いい子ね。次はもっと遠くに投げるわよ?」
響、そいつ、やばいくらいぜえぜえ言ってるぞ?
お前どんだけ投げたんだよ。
犬も犬で疲れたなら止めればいいのに。
「あら? ばてたの? もう駄目なの? まだいけるわよね? じゃあ、いくわよ」
犬相手に何を言ってるんだ、お前は。
「響、そろそろ別の所行こう」
「あら、そう残念だわ。あと百本くらい投げたかったのに」
ちらりと犬を見て呟く。
犬が一瞬ビクッとしてたのは気のせいか。
「ところでアリカちゃんは?」
「アリカならあそこですよ」
響の指差した方向には、先ほど太一の上に乗っかっていたセントバーナードが二匹並んで歩いている。
その間で一緒になって歩いているアリカ。
さっきじっと見てたから気になってたんだろうな。
「おーいアリカ。そろそろ行くぞー」
「うん。わかったー。ほら、あっちいくよ」
アリカが俺達を指差すと、セントバーナードと一緒に俺達のいる方へ走り出す。
二匹は、ちゃんとアリカの声がわかっているようで「ストップ」とアリカが言うとちゃんと止まった。
随分と賢くて大人しい性格のようだ。そういう気質の犬種なのだろうか。
「こいつら大きいよな。アリカなら乗れそうだな」
「犬は乗るように骨格とかが出来てないから駄目よ。骨折とか怪我しちゃう事だってあるんだから」
アリカがお座りしているセントバーナードを撫でながら言った。
図体が大きいから子供体型のアリカくらいなら乗れると思ってたけど、やっぱ駄目か。
「ねえ、この子達ってお手とかできるのかな?」
「アリカやってみなさいよ」
「どうだろ? 教えてれば出来るだろうけど。――どれどれ、お手!」
アリカがお座りしているセントバーナードの前でしゃがんで手を出すと、アリカの頭の上にでかい前足が勢いよく『ドスッ』と乗せられた。
「「「……」」」
アリカお前ちっこいのにしゃがむなよ。しゃがんだら、犬よりも低くなるじゃないか。犬が目測誤ったとしてもしょうがねえぞ。
「アリカそのままよ。動いちゃ駄目よ」
響が素早く携帯を取り出して犬の足が頭に乗ったままのアリカを「カシャッ」と撮影。
「アリカあなた今日色々と提供してくれるわね。いいことだわ」
「よくないわよ!」
面白いから俺も一応撮っておこう。
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