141 わんにゃんショー2
もともと郊外にあるペットショップがイベントをやっているようで、大型のプレハブの中に三段に重ねられた表面がガラス張りのケージが並んでいる。入り口近くのケージには、犬ではトイプードル、ミニチュアダックスフンド、ゴールデンレトリバー、猫ではアメリカンショートヘア、ペルシャ、スコティッシュフォールドがケージの中でそれぞれ過ごしている。
ケージを覗いてみると愛想を振りまくのもいれば、眠り続けているやつもいる。思わず指をピコピコと動かして中にいる犬猫に興味を持たせようとしてしまう。
店内の壁に犬と猫に戦国武将の格好をさせているイラストポスターがあった。
猫の絵の下には『のぶにゃが』、犬の絵の下には『けんしん』と書いてある。
なかなか武将のチョイスもあってるような気がして少し笑った。
どうやら、ここのペットショップで使っているキャラクターのようだ。
「うひゃああああああああ、かわいいいいいいい」
美咲がぴょんぴょんと飛び跳ねながらケージに張り付く。
一瞬、子猫がびびってたぞ。
俺も個人的には猫が好きだ。自由気ままで、時には甘えて、時には冷たい。
母親がペットを飼うことを許していたなら、俺は迷わず猫を選んでいただろう。
犬も嫌いではないが、猫の方が好きなだけだ。
ケージを見ていて気づいたこと。
美咲も猫派のようで、俺と一緒に子猫を中心に見ている。
アリカと響は犬派のようで子犬を中心に見ていた。
様子がおかしいのは千葉兄妹と愛の三人だった。
俺達はケージにベッタリ張り付いて眺めているのに、どう見ても二歩ほど下がった状態で見ている。
もしかして動物が苦手なのか?
裏側の屋内型スペース入り口には触れ合い広場と書かれたプレートがある。
子犬や子猫の他にある程度成長した犬や猫とも触れ合えるようで、犬猫好きな人たちが一緒になって遊んでいる。ドッグランも出来る広いエリアも野外に併設されてあるので、係員に言えばそこで犬と一緒に散歩したり、遊ぶことも出来るようだ。
「あ、明人! あっちいこ! あたしも子犬抱っこしたい」
「私も子猫と戯れたい!」
アリカと美咲に引っ張られるように触れ合い広場へ移動。
響が「仕方ないわね」と言いながらも、誰よりも先に移動したのは少し面白かった。
「太一、お前らも来いよ」
ケージの前で留まっていた三人に声をかけると、三人とも一瞬顔が引きつったが、ゆっくりと俺達の後をついてきた。やっぱり動物が苦手なのかな?
「うきゃあああああああああああ、ちっちゃーい!」
美咲が係の人からアメリカンショートヘアの子猫を受け取って抱っこしている。
ペットショップにいるからか随分と人懐っこい。
なぜか子猫は美咲の胸をよじ登ろうとへばりついていた。
可愛すぎるだろ。
「ほれほれほれほれほれ、ここか? ここがええのんか?」
横でおっさんめいたことを言いながら、アリカが仰向けになったゴールデンレトリバーの子犬の腹を撫でまわしている。おいアリカ、子犬が悶絶しかけてるぞ。
響は響で白毛のもこもこした犬に「いい? わたあめって言ったら丸くなるのよ?」と真剣に話しかけていた。当然丸くならなかったが、その犬の首を傾げる仕草に響はめろめろのようだ。
俺はといえば猫を膝の上に乗せて座っている。
乗せているのはダックスフンドのように足の短い猫マンチカン。噂には聞いたことがあったけど、ほんとに足が短い。美咲が抱いている猫よりは少し大きい。借りた猫だけど人懐っこいし、指を動かしてやると指を相手に一生懸命喧嘩してる。元気な猫だ。
遊んでいるとマンチカンの耳がぴくっと動いた途端、いきなり俺の膝の上からものすごい勢いで逃げて行った。周りを見ると、アリカが撫でていたレトリバーも、響が遊んでいた犬も逃げていた。唯一、美咲の胸にへばりついた猫だけが残ったが、なぜか震えていた。
「……やっぱり駄目ですか」
後ろからぼそっと呟いたのは綾乃。
その表情は暗いものに変わっている。
「……何でだか分からないですけど、私、昔から動物に逃げられちゃうんです」
……もしかして本能的に怖れられてるのか?
「触りたいけど、いつも駄目なんです……うぅ……」
がっくりと肩を落としてうな垂れる綾乃。
本人の意思ではないだけに可哀想だ。
もしかして太一とか愛もその系なのだろうかと、周りを見渡すと二人の姿が無い。
「あれ? 太一と愛ちゃんは?」
「兄はあそこです」
綾乃の指差した先にはセントバーナードがニ匹寝転がっている。
でかいなセントバーナード。
「いないじゃん」
「あの犬の下です」
よく見ると横たわったセントバーナードの腹の下から靴が見えている。
あの靴は太一のだ。
「兄は私と逆で、動物に好かれているんです。たいていああなります」
俺だけ近付いてみると、セントバーナードに完全にのしかかられて、もがいてる太一の姿があった。
「重いって、お前ら早くどけよ」
二匹は苦しそうな太一の声など聞いていないようだ。
ほんとにでかいなセントバーナード。
「太一、人気者は辛いな」
「ちょ、明人、そんなこといいから助けろ。綾乃つれて来てくれ」
俺が綾乃を手招きすると綾乃と他のみんなも近寄ってくる。
セントバーナードがピクッと反応して太一から離れていった。
「くそー、隙をつかれたぜ。綾乃と一緒にいれば大丈夫なはずだったのに」
起き上がりながら言う太一。
「あいつら図体でかいくせに、のしかかってきやがって」
「太一君の事気に入ったのね。良かったじゃない。モテモテで」
アリカが離れていくセントバーナードの背中を見送りながら、ぼそっと言う。
「犬にモテモテなんて嬉しくないよ!」
「救助犬の本能が動いたのかもしれないわね。あの二匹、きっと太一君のこと温めようとしてたのね」
「ここ雪山じゃないし、俺凍えてないし! 逆に苦しかったし!」
誰からも可哀想という言葉が出てこない。
がんばれ太一。きっといい事いつかはあるよ。
「お兄ちゃんだけいつもずるい!」
「好きでやってねえよ!」
とどめは妹か。お兄ちゃんは辛いな。
本人に非が無くても責められるんだから。
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