140 わんにゃんショー1
遊園地を出る前に注文した写真をサービスセンターでそれぞれ受け取る。
希望の客には携帯へのデータの受け取りもでき、記念になりそうなので俺も受け取ることにした。
余談だが、俺がデータを貰って確認している時に、後ろにいたアリカが近くを徘徊していたポーンとアルトに捕まりハグされていた。ついでだから引きつった顔のアリカを写メで記録しておこう。
出口でポーンとアルト、それと係のお姉さんに見送られて、総合会場のイベント会場へ向けて移動する。
「うわ、まだ入ってくるお客さんいるんだ」
出口からイベント会場への移動中、美咲が遊園地の入口に並ぶ客の群れを見て驚いていた。
「まだ時間あるし、夜になったらイルミネーションがつくらしいよ」
「へえ、そうなんだ。ロマンチックだろうね」
「カップル辺りが来そうだよな」
何の気なしにそう言ってしまったのが間違いだった。
横にいた響がぼそっと呟いた。
「では、明人君。今度夕方から二人で来ましょうか? できれば来週にでも」
いや、待て。積極的なのは愛だけで十分だぞ。
ほら見ろ。美咲とアリカが笑顔でわき腹に手刀を突き入れてくるじゃないか。
「うふふふ。明人君良かったね。デートのお誘いがあったよ?」
「あははは。明人ったら鼻の下伸びちゃって」
お前らそう言いながら、ざっくざくと手刀を突き刺すんじゃねえよ。
愛と綾乃を見習え。あの二人は何もしてこないぞ。
愛に関しては、目に暗い炎を灯して「首の後ろ三センチを……」と言っていて、ちょっと怖いけどな。
「響、頼むからそういう冗談はやめてくれ」
「……冗談ではないのに」
珍しくむすっとする響だった。
西へと進み、総合会場のイベント広場にたどり着くと、ここも人混みでごった返しになっていた。
少し開けた広場では小さな舞台が組まれていて、そこでマイクパフォーマンスしている人が見える。
何かのライブか、それともお笑い芸人でもきているのか。
舞台が小さいので有名人って事は無いだろうけど、お笑いなら覗いてみたい。
反対側には、やたらと親子連れが目に入る。
縁日のような、金魚すくいやヨーヨー釣りといった出店の順番を待っているようだ。
俺も小さいとき、親父と一緒にやった。
あの頃はまだ家の中に俺が存在していた時だ。
人混みをかき分けて進むと、テナントが見えてきた。
プロヴァンス風な造りで統一された店構え。店先の歩道も、色とりどりなレンガが敷き詰められて、雰囲気にあっていた。スポーツショップ、ブランドショップ、雑貨屋が立ち並び、どの店も人が多く入っていて、俺のバイト先とは大違いだ。
テナント群を抜けると、幅の広い建物が目に入る。
ここが、響の父親の所有する東条ビル。中には屋内型のイベント会場もあれば衣服、雑貨、飲食店もあり、ボウリング場やゲームセンター、ムービーシアターといった娯楽施設も入っている。
響の話だと、ここの一部が東条コーポレーションの事務所にもなっているそうである。
ビルの中に入ると、左のテナントに薄利多売が売りで全国展開している量販店『デラ・マンチャ』があり、右側にはゲームセンター。結構な面積のゲームセンターのようだ。一番奥のエリアはメダルゲームが設置されている。手前側には、プリクラの機械が数台置いてある。プリクラの機械の先にはクレーンゲームや音楽に合わせて太鼓を叩くゲームがあって、人がたかっていた。
入り口近くにある案内板を見ると、建物の右側に娯楽施設が集中しているようで、一階がゲームセンター、二階がボウリング場、三階から四階がムービーシアターになっていた。左側は、テナント入りしている店舗が入っているようだった。飲食店は地下にあるが値段の高い店が多いのは痛いところだ。
エレベーターで二階に上がり、目的のボウリング場に着くと、案の定混んでいた。
プレイエリアではスコアを表示するモニターが天井に横一列に並ぶ。投球が終わった後にリプレイ画像が流れている。左から三番目のレーンでは、モニターに「ストライク」と映し出されていた。俺達と年齢が変わらないようなショートカットの女の子が、仲間と喜んでハイタッチし合っていた。
「あら? 会長と副会長だわ」
響がハイタッチしているショートカットの女の子を見て言った。
会長ってうちの高校のだよな?
「あ、ほんとだ。会長さんですね」
愛も言う。そういえば前に声をかけられたことがあるって言ってたな。
会長と言うと三年の北野という人か。生徒会長って顔知らなかったんだよな。
勝手なイメージしてたのと違って、ボーイッシュなスタイルだった。身体つきも男っぽいというか、出てたほうがいいところが出ていない。まあ、すぐ近くにいる奴よりはましか。
「……なんか誰かの悪意を感じるんだけど?」
キョロキョロと見回すアリカ。あぶねえ、忘れてた。アリカは勘が鋭いんだった。
しかし残念だ。生徒会長だから、てっきり長髪長身のボンキュッボンな春那さんみたいな人だと思っていただけに少し悲しい。
「明人君、それは絶対にありえないよ?」
背中をツンツンと突きながら美咲が言った。
「だから、なんで分かるのかな?」
「ふっふっふ。それは秘密です」
いや、マジで気になるから。
響と愛がじっと見つめていると、向こうも気がついたようで手を振っている。
「おー、東条。お前も来てたのかー。見たか? 今のストライク」
人懐っこい笑顔でガッツポーズを決める北野さん。
「ちょっと挨拶してくるわ」
「愛もご一緒します。前にお世話になったので」
響と愛はそう言って、手を振る会長の下へ歩み寄って行った。
二人と話している北野さんが俺達の方を見たので頭を下げておく。
すると北野さんは、にやりと笑って響を突いていた。
北野さんが何を言って、響が何を返したか分からないが、そのやりとりに「違います!」と愛が大声で言ったのは聞こえた。その愛を見て北野さんが大きな口をあけて笑っているように見えた。
「明人。とりあえず受付だけでも済まそうぜ」
太一が肘で突いてきて、受付を指差す。
「ああ、そうだな」
受付には二時間待ちの看板がすでに出されている。
見た目通りの混雑振りだ。
「……二時間待ちか。どうする?」
「テナントとかも回ってれば、すぐじゃない?」
「予想通りだし、受付だけやって待ち時間でイベント会場回ろうぜ」
「さんせーい」
「異議なーし」
受付だけ済ませると、ちょうど戻って来た響と愛と合流し、まだ見ていないイベント会場へと移動。
東側はボウリング場に来るまでに見たので、さらに西側へと足を進める。
五分ほど進むと、「犬猫わんにゃんショー」と書いたのぼりが立ち並ぶ。
「お、犬猫か。見たいな」
「話し合いしたときもそんなこと言ってたわね?」
響が横でぼそっと言う。
いいじゃねえか、猫好きなんだよ。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。