139 遊園地の思い出作り2
太一たちを待っていると、すぐにゴンドラから降りてきた。
アリカは降りてきてすぐに愛のもとへ駆け寄る。
嬉しそうに携帯を見つめる愛に「何見てんの?」と聞いた。
愛が携帯の写真を嬉しそうに見せると、他の四人も集まって携帯の画面を見るや、空気が一変した。
美咲とアリカは笑顔なのに、背中に風神雷神が見えて、無表情の響の背中には龍神が見える。
なに、もう一匹増えたの?
それぞれの神を背負ったやつらがゆっくりと振り向くと、その手には既に手刀が準備されていた。
☆
ほんの少しばかり理不尽な地獄を味わい、買い物をしにショッピングエリアに移動。
移動中、愛が携帯を見つめては、
「いやあああん。最高のめもりあるだわー」
身体を捩って喜ぶのは結構だが、その度に俺の脇腹と背中に手刀が突き刺さるので勘弁して欲しい。
俺の地獄はリピートされる習性があるらしい。
ショッピングエリアに着いてから各自で散策。
千葉兄妹と愛里姉妹は一緒にお菓子コーナーで色々と手にしては悩んでいる。
きっと家族への土産なのだろう。少し羨ましい気がする。
響は俺の横でポーンとアルトの縫いぐるみをじーっと見つめている。
可愛いものが好きなのだろうか、女の子らしくていいと思う。
「響はそういうの好きなのか?」
「いえ、原価いくらかしらと思って」
現実的な女でした。思わず顔が引きつってしまった。
「……冗談よ。母がこういうの好きなのよ」
「それなら土産にいいんじゃないか?」
「そうね。じゃあ、これにしようかしら?」
そう言って、響の身長の半分はあろう、でかいポーンの縫いぐるみを持とうとする。
「いや、そんなでかいのじゃなくてもいいだろ?」
「母は、もふりたいのよ」
静さんがこのでかいポーンの縫いぐるみに抱きついている姿が安易に想像できる。
何故か三鷹さんも一緒に抱きついてる絵が浮かぶ。あの二人ならマジでやりそうだ。
「……今回は止めとけ」
「……そう。残念だわ」
響は小さめの縫いぐるみを手にしては「顔が気に入らない」と、とっかえひっかえし始めた。
響を放置してぶらぶらと店の中を移動していくと、美咲が小物品を物色していた。
手にはポーンとアルトが魔女に追いかけられている絵の入ったマグカップを持っている。
最初に見に来た時に「可愛い」と言っていたやつだ。
俺が近づくと、気づいた美咲は空いた手を俺に向けてひらひらさせる。
「そのマグカップ気に入ったの?」
「うん。一目惚れってやつ」
本当に気に入ったようで表情が嬉しそうだ。
マグカップか。俺も買って帰ろうか。
家族に土産を買って帰ろうとは思わないし、俺だけ何も買わないってのも寂しい気がする。
それなら普段でも使えそうなものを自分用に買って帰るのもありだろう。
「俺もマグカップ買って帰ろうかな」
「おお、明人君も気に入った? これ可愛いよねー」
「ああ、可愛いと思う」
「他にもね準備体操してるようなのがあったよ。――えっと、これこれ」
美咲はキョロキョロとして、右上の棚にあるマグカップを手に取った。
サイズは美咲が持っているものと同じだが、絵はポーンとアルトを思わせる大小の影絵。
マグカップをくるりと回してみてみると、少しずつポーズが変わっていて、確かに親子で準備体操しているようにも見える。
「ああ、これシンプルでいいな」
「私もそれどうしようか悩んだの。でも何個もいらないし」
「バイト先用にいいんじゃないの?」
「おお、その手があった」
一応他のも見てみると、ポーン、アルト単体のものと、魔女だけのマグカップもあった。
ペアセットも置いてある。
ディスプレーに飾ってあるものは二つ並べると、ポーンとアルトの絵が手をつないでいるように見えるペアセットだった。可愛らしい。
「これ可愛いな。でも二つはいらないかー」
「そうなのよ。春ちゃんにどうかなとも思ったんだけど。春ちゃん、湯呑派なのよ」
なんだ、その渋い趣味は。
「あー、さっき諦めたのに、見たらまた欲しくなってきちゃった」
じーっとマグカップを物欲しそうに見つめる美咲。
今の物言いだと相当迷った上だったようだ。
「……美咲はポーンとアルトどっちが可愛いの?」
「アルト!」
「んじゃ、俺ポーンね」
そう言って俺は親子セットのマグカップを手に取る。
「え?」
俺が何を言っているのか分からない様子の美咲。
「俺これ買うから、てんやわん屋にでも置かしてもらおうぜ」
「ええ?」
まだ理解できていないようだ。
「これ置いとけば休憩の時、更衣室でお茶飲んだりできるだろ」
「えええ? い、いいの?」
「ああ、俺もこれ気に入ったし。今日の記念によくない? 美咲片方貰ってよ」
俺がそういうと美咲の顔が、ぱあっと輝くような満面の笑みを浮かべる。
「うん! すごく嬉しい」
「あのさ、あと店長たちにも土産買おうかなと思ってるんだけど、どうかな?」
「あ、いいね。それ私も乗る。一緒に買おうよ」
二人で店内を周りながら、土産を探す。
イメージキャラクターのポーンとアルトを全面に押し出した商品ばかりだ、
そういえばこのうさぎたちの背景って知らない。
「このイメージキャラの話って、どういう設定なんだろ?」
「あれ見ればわかるんじゃないかな?」
美咲が指さした先に絵本がある。
ポーンとアルトを題材にした絵本のようだ。
「なんか数冊あるけど。一冊目は『二匹の角うさぎ』だね」
美咲が手にした絵本を開いたので、横から覗く。
『二匹の角うさぎ』
著者:望月虹太郎
イラスト:ルーの字
『大きな角うさぎと小さな角うさぎが、とある王国の森の外れに二匹で住んでいます。
大きな角うさぎはポーンといい、小さな角うさぎはアルトといいました。
アルトは、とてもやんちゃでくいしん坊です。
ポーンはとても優しくて、アルトが怪我をしないかいつも心配しています』
『ある日、アルトが「旅に出たい」言い出しました。
ポーンは「森の外には怖いものがいるから」と反対しました。
アルトは「それじゃあ、僕だけ行ってくるよ」と旅立ってしまいました。
心配したポーンはアルトを追いかけて、怖がりながらもアルトに見つからないように、あとをついていきます。
そんなことも知らないアルトは、鼻歌交じりにピョンピョンと森を抜けようと進んでいきます』
『お日様が姿を隠したころ、まだ森から出てもいないのにアルトは急に寂しくなりました。
いつもならポーンがそばにいます。でも、今はいません。
疲れたアルトは草むらに身を潜めて眠ろうとします。でも、寒くて寝付けません。
いつもならポーンの温かい体に包まれて気落ちよく眠れるのに。
アルトはついに泣いてしまいます。
強がって旅に出たものの、寂しくて、寒くて泣いてしまいます』
『アルトが泣いているのを見て、ポーンは慌てて飛び出してしまいます。
驚いたアルトに構わず、ポーンはアルトを抱きしめました。
またアルトは泣き出します。今度は嬉しくて泣いてしまいます。
アルトが泣き止んだあと、いつもと同じように二匹が寄り添って眠るのでした』
『こうしてポーンとアルトの旅が始まったのです。
ただ、変わらないのは、いつでも二匹は一緒にいるということでした。――続く』
やべえ、思わず魅入ってしまった。
これ続きあるみたいだけど気になるじゃないか。
どうしよう。衝動買いしたくなってきた。これ全部買っちゃおうかな。
でも男が絵本買うってのはなんだか気恥ずかしい。
ちらりと横にいる美咲を見ると、美咲はじっと裏表紙を眺めている。
「よし決めた!」
美咲はそう言うと、棚に並んでいる続巻の絵本も次々に手に取った。
「この絵本、今出てるの全部買う!」
「太っ腹だな。気に入ったの?」
「うん。物語の続き気になるじゃない。これ外で売ってないかもしれないし」
「俺も見たくなったから、読んだら見せてね」
「あは。明人君も気になったんだ」
美咲は嬉しそうに言った。
買い物を終えて他のみんなと合流。
それぞれ手には土産品を手にしている。
「こういうところ来ちゃうと衝動買いしたくなるよね」
「香ちゃんの衝動買いを止めるのに苦労しました」
愛がぐったりした顔で言った。
「愛さんがしっかりしてるから、アリカは破綻しなさそうね」
響が無表情に呟く。
「うう……当たってるだけに言い返せない」
アリカは悔しそうに頭を垂れながら言った。
「太一は何買ったんだ?」
「あー、母さんと叔父さんにお菓子だな。あとは綾乃のおねだり品」
「もうお兄ちゃん内緒にしてって言ったのに!」
横で綾乃が恥ずかしそうに怒る。ここは触れないでおこう。
「オーナーにもか?」
「あー、今回のスポンサーだからさー。礼はしとかないと」
「スポンサー?」
「そそ、昨日の晩、急にうちに来てさ。俺に小遣いくれたんだ。マジ助かる」
きっと俺達が遊びに行く事を聞いたオーナーの気遣いなのだろうと思った。
「オーナーのことだから一緒に行くとか言ったでしょ?」
美咲がそう言うと、綾乃が「なんで分かるんですか?」と逆に聞き返した。
言ったのか、オーナー。
「母さんが叱ってたよ。子供の遊びについていく叔父がどこにいるって」
叱られたのか、オーナー。
「その後で母さんがついていくから安心してって言わなければ完璧だったのにね」
そこで落ちなのか涼子さん。
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