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帰路  作者: まるだまる
139/406

138 遊園地の思い出作り1

 理不尽な説教と質問攻めから解放される。まだ納得できない俺がいる。

 当の二人は言いたいことを言ったからなのか、響と楽しげに話をしていた。


「なんで明人だけいい思いしてんだよ?」

 太一が肘で突きながら言うが、そんなの俺のせいじゃない。

 みんなで移動しながら何に乗るか検討していたが、さらに増えた人で移動もしづらくなってきていた。


「こりゃあ、乗り物行っても待ち時間の方が長そうだな」

 太一が人混みを見て呟く。


「ああ、この後のこと考えるとなー。もう人気のやつは厳しいかもな」

「まあ、いいんじゃないか。めぼしいものは乗れたんだし、それなりに遊べたしこの後の予定もあるしな」

「それじゃあ、最後なんか乗って買い物してから出るか」

「おお、みんなに聞いてどれにするか決めようぜ」


 太一が聞いて回ると、みんなも同じことを考えていたようだ。

 愛が観覧車に乗りたいと言い出すと、みんなも少し考え同意した。

 このあとのことを考えると少しゆっくりしたいのだろう。

 最後は観覧車に乗って、一息入れてから出ようということになった。 

 

 観覧車乗り場まで移動すると、ここも既に行列が出来ている。

 とはいうものの、六人乗りなので回転自体は悪くない。

 これならそれほど待たなくても大丈夫そうだ。


 見上げると、この遊園地の中で、高くそびえる大口径ないかにもシンボル的な存在だった観覧車。

 赤い鉄塔に白いゴンドラ。高く上がるにつれてゴンドラが静かに揺れている。

 夜になるとフレームに備えられたイルミネーションが点灯して、ロマンチックな雰囲気を醸し出すようだ。

 恋人たちの夜のデートスポットとして、ここらでは雑誌に載るほど有名らしい。

 今はまだ日があるからイルミネーションを見ることはできないが、一度は夜に来てみたいと思う。


 観覧車を待つ列の後部に並ぶ。

 六人乗りの観覧車だが、どう分けようか。


「……これは勝者と明人君かしら?」

「一巡回ったし、振り出しだよね」

「ええ、これ一番長くないですか?」

「ふふふふふ。密室、密室です」

「ちょっと愛。まだ決まってないんだから、涎拭きなさいよ」


 一巡回ったということで、女の子チームが、ここでも組み合わせのじゃんけんが開始された。

 何故だか鬼気迫る気迫で皆が拳を構える。

 お前ら喧嘩でも始める気か。その闘気を抑えろ。

 後ろのお客さんがビビって一歩下がったじゃないか。


「「「「「じゃんけん、ポン! あ?」」」」」

「――きたあああああああ!」


 勝利の雄叫びを上げ飛び跳ねる愛。 

 どうやら一発で愛の勝利が確定したようだ。

 他の四人は握り締めた拳のまま、手をプルプルとさせている。


「ち、力が入りすぎた……」

「……不覚だわ」

「……運がないです。はあ……」

「パーに負けるとなんで悔しいの?」


 たかがじゃんけんに負けたくらいで何を言ってるんだ、こいつらは。

 ともかく、こうして遊園地最後の乗り物のパートナーは愛に決まった。


「うふふ。うふふ。運命は愛の味方なんだわ。ですてにーなんだわ」  

 俺の隣で並ぶ超ご機嫌な愛。


 後ろにいる四人は殺気のこもったような目で見てきている。

 まるで、俺が何かしたらあとで分かっているだろうなと訴えてるようにも見えた。

 どちらかというと、俺の方が何かされそうで怖いんだが。


 列が進み、俺と愛の番が回ってきた。


 係員の誘導でゴンドラに乗り込む。六人乗りだけあって中は広めだ。

 二人だったら余りすぎてる感じだった。


「いってらっしゃいませ」


 係員の声に見送られて、ゴンドラの扉は閉められた。


 とりあえず愛と向かい合って革製のシートに腰を下ろす。

 静かにゆっくりとゴンドラは上昇していく。

 後ろ側を見ると、次のゴンドラに美咲たちが乗り込んでいるのが見えた。

 一周約二〇分ほどかかるようで、なんだか密室に愛と二人だけと思うと妙に緊張する。


 それに愛が暴走したらどうしようと不安もあったが、愛を見てみると妙に大人しい。

 てっきり、二人きりになった途端くっついてくるのじゃないかとも思っていたのだが、どちらかというと、俺より緊張した面持ちで座っている。


「愛ちゃん。どうしたの?」

「……あ、すいません。ちょっと考え事してました」

「何考えてたの?」

「また、愛の夢が叶ったなって。好きな人と一緒に観覧車乗りたかったんです」


 こういう時なんて言っていいんだろう。

 両想いだったら愛の夢は完全に叶っただろう。

 嫌いじゃないけど、恋愛の対象としての好きが俺には分からない。

 だけど、俺は愛の気持ちを知っても、嘘偽りの言葉で愛を好きだというのは、犯してはいけない過ちだと思う。

 それだけは自分に嘘をつきたくないし、愛にも失礼な話だ。


「明人さん。いいんですよ。今は愛の片思いで……」

 愛が俺の表情から察したように呟く。

 その表情は諦めでも悲しみでもなかった。

 また、希望にしがみついたような目でもなく、逆に自信に溢れた目をしていて、俺には眩しく見えた。

 

「……明人さん。隣に行っていいですか?」

 少し顔を赤らめて愛が呟く。

 俺は言葉が出ずに、ただ頷くだけだった。

 俺の横に来てちょこんと座る愛。

 いつもの愛ならべったりくっついてきそうなものだが、いつもより少しだけ腕一つ分程、距離を開けて座った。


「ほら、明人さん。遊園地の外が見えてきましたよ」

 ゴンドラの外を指差しながら笑って言う愛。


「このあと行く会場の様子が見えるかもです」

「混んでなかったらいいね」

 そう言ったあと、沈黙が続いた。ただ二人で上昇するゴンドラの外を見ていた。

 俺はなんて言っていいのか分からずにいた。愛はどう思っているのか。

 なんで愛は俺のことを好きになったんだろう。きっかけはちっぽけなことだ。

 愛に聞いてみようか。


 ……少し勇気を出して聞いてみよう。


「愛ちゃん。なんで俺のことが好きになったの?」

「……愛にも分かりません。助けてもらった日から愛の心に明人さんがいたんです」

 視線を外に向けたまま答える愛。表情がわからない。


「俺がどういう人間かもわからないのに?」

「愛は、……は人を見る目はあると自分で思っています」

 くるっと振り向いて言う愛の目は強い意志が込められている気がした。


「人を好きになるのに理由なんて、きっとないんですよ」

「…………」

「前も言いましたけど、自分で気づいた以上は相手に知ってもらいたいと思うのが愛なんです」

「でも、俺はそれに……」

「明人さんはいい人ですよね。でも少しへっぽこです」

「へ、へっぽこ?」

「多分わかってないと思うけど、へっぽこです。でも、そんな明人さんも愛は好きですよ」

 そう言って愛は「ふふ」っと笑った。


 上昇を続けたゴンドラは頂点に達した。

 途中から揺れだしたが、これが綾乃の言ってた揺れなのだろう。

 高所恐怖症の奴ならビビるだろうが、俺には怖いと思うほどではなかった。

 ゴンドラの中から見える風景は総合会場の遠くまでよく見える。

 俺達の乗ったジェットコースターやフリーフォールの塔が見下ろせる。


「もう上まで来ちゃいましたね。時間が経つの早いなー」

 愛は降り始めたゴンドラを見て言った。

 愛も揺れは平気なのだろうか。


「明人さん、手を繋いで貰っていいですか? 実はさっきから揺れがちょっと怖いんです」

 そっと手を差し出す愛。差し出された手をそっと握り返す。

 触れた瞬間、一瞬愛の手がピクっとした。


「嬉しいです。これも写真に残したかったな」

 握った手を嬉しそうに見つめる愛がそう呟いた。


「……これあるよ。一緒に撮ろう」 

 俺は鞄の中から、携帯を取り出してカメラを起動させた。

「あは! 嬉しいです」

 今日一番の笑顔を見せる愛だった。


 ゴンドラの中で撮影。前にアリカから教わったやり方で撮ってみる。

 二人並んで画面を見ながらの撮影。一発で綺麗に撮れなかったけれど、やってるうちに綺麗に撮れた。

 愛と二人、手を繋いだまま、撮った写真を順番に眺めているとアナウンスが流れ、係員が扉を開いた。

 いつの間にか地上まで降りてきていた。

 係員に扉を開けられ「降りられる際は足元にご注意ください」と声をかけられる。

 愛の手を握ったまま、降車する。

 愛の顔が照れてはにかんでいたのが印象的だった。

 他のみんなが降りてくる時間を利用して、携帯のデータを愛の携帯に移す。


「明人さん、ありがとうございました。愛は幸せです」

 愛はデータを移した携帯を見ながら微笑んで言った。


 普段は大胆なのに、また一つ、愛の一面を知ったような気がした。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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