137 迷路5
息も絶え絶えな太一の回復を待って、ゴールゲートで待機。
その間、他のみんなから迷路の中での話を聞いた。
「あたしたちが入った門は、鍵が一個だけ必要だったけど。取った鍵が違ってて、三回も行ったのよ。最悪と思わない?」
「愛のところは三個だったけど、一個違うのだったよ。探すの大変だった」
みんなの話を聞くと、一発で行けた俺達は幸運だったようだ。
「……愛の力ね。私たちは一回で行けたわ」
いや、響。そういう言い方は、みんながいないところで言おう。
アリカと美咲から脇腹をザクザクと刺されて痛いんだよ。
あと愛の目が、にたあって笑ってて怖いんだ。
あれは笑ってない、絶対笑ってない。
こういう時は別の話を振って場の雰囲気を変えるに限る。
「そういや、クイズ以外に何があった? 俺らポージングさせられたけど」
「あたしたちもやったよ。訳わかんない格好が多かったけど」
訳がわからんといえば、俺達もコブラツイストやダンスの真似みたいなのをさせられた。
美咲やアリカたちも、似たようなことをやらされたのだろうか。
「私たちは扇とかやったよ。組体操みたいで楽しかった。ねえ綾乃ちゃん」
「はいです。クイズは全然ダメだったけど、体使う方は楽しかったです」
「愛は明人さんと組体操したかったです……すりすり」
愛、響への対抗心か、背中にへばりつくのは、頼むからやめてくれ。
響に脛を蹴られて痛いんだ。
「はいはい。いい加減離れなさい」
「あああ、せっかくのちゃんすを。香ちゃんのししかばぶー」
アリカに剥がされ、むくれる愛だった。
ちなみにシシカバブはトルコの串焼きだ。
「あとバランスの奴が楽しかったです。愛さんは苦労してましたよね」
綾乃が愛をつんつんと突いて言うと、
「ああいうのは、ほんとに愛苦手。意識するとますます駄目なの」
愛が両手をブンブンと振って言った。
俺達はバランスものをやっていない。どんなものか聞いてみる。
「愛がやったのは、板の上で回るコインを落とさないようにゴールまで運ぶアーケードゲームです」
ボタンを押すとシーソーのように板の左右が上下するようで、難しかったようだ。
すこしやってみたくなる。シンプルなゲームほど面白いと思うのは俺だけだろうか?
「綾乃ちゃんだけだもんね。一回で行けたの。私二回落としたし」
「ああいうのは得意なんです」
美咲の言葉に綾乃が自信有り気に言った。
「こんな画面なのに、こんだけしか板がないんですよー。しろさぎです」
愛が手振りで大きなモニター画面の枠を作ると、指で小さく板のサイズを示す。
ところで詐欺と言いたいのだろうけど、シロサギは鳥だぞ?
「テレビゲームタイプかー。あたしのところはモロ身体を使う奴だったわよ」
アリカたちがやったのは、四色に分かれた板を踏むゲームで、板一枚の幅が五センチくらいしかなかったそうだ。
「ツイスターぽい感じでさ。二色指定してくるから、その色を踏むの。制限時間、二秒よ二秒! 端っこ同士のを踏むとき、股が裂けそうになったわ。太一君、ここで相当疲れたんじゃないかしら?」
興奮したように言うアリカだったが、楽しかったようでいい笑顔をしている。
「ついすたーぽいっということは、くんずほぐれずを太一さんとしてたのね?」
「してないし! 別々だったし! 隣同士でやっただけだし!」
愛がニヤニヤして言うと、アリカが顔を真っ赤にして反論した。
「そういうのもあったのか。俺ら二つしかやってないから。ちょっと残念だな、響」
「そうね。してみたかったわね」
途中でアリカたちを見かけたことを言うと、アリカが先行しすぎたために太一が遅れたらしい。
逆にそのおかげで透明の壁が動く仕組みに気づいたようだ。
怪我の功名というやつか。前に来た時は全く気付かなかったらしいのだが、そのお陰で一番になることができたようだ。美咲たちは気づいていなかったらしく、そのことが敗因につながったみたいだ。
会話していると綾乃の視線が俺の後ろに流れる。
「――お兄ちゃん。もう大丈夫?」
「あーごめん。もう大丈夫だ。復活したぜ」
太一が手を挙げながらこっちに来た。
先ほどより随分と顔色が良くなっている。
「アリカちゃん、まじで足速いんで驚いたわ。俺も遅いほうじゃないのに」
「愛は、香ちゃんがかけっこで負けたところ見たことないですよ」
「ふふん。もっと褒めなさい」
「ちっこい分、体が軽いのか?」
「いや、そうとは言えな――何、言わせんのよ!」
お前が勝手に言っただけだろうが、俺に怒るなよ。
みんなが揃ったところで出口に向かうと、出口の横にあるブースに人だかりが出来ていた。
人だかりについてアリカに聞いてみる。
「あれ? キーマスターのところでやったの写真買えるのよ」
「写真?」
「ポージングとかやったでしょ。あれって写真撮られてるの。気に入ったのあれば買えばいいじゃん」
「え、そんなのあるの? 見たい見たい」
アリカの説明に美咲が飛びついた。
少しだけ順番待ちをして、俺達の番が回ってきた。
アリカがカードリーダーにカードをかざすと、タッチパネル上に『フォトグラフィー』と表示されたボタンが浮かぶ。ここで注文しておくと、入口の受取所でカードを出せば、受け取れる仕組みのようだ。値段もプリクラと変わらないようで、買っていく人も多いらしい。
アリカが操作すると、真剣な表情を浮かべた太一とアリカがこっちを見ている姿が映った。
「これクイズの時ね。ちょっと表情が硬いわー」
「お兄ちゃんが真剣な顔してる? 珍しい!」
「おい」
アリカは、操作を続け次の映像を表示させる。
これはさきほど聞いたツイスターぽいって言ってたやつだろうか。
アリカは大股開き、太一は疲れた表情で力士のように、膝に手を置き、しこを踏んでいるように見える。
アリカは楽しそうな表情だが、太一の顔がやつれて見える。
続いて次の映像。二人揃って荒ぶる鷲のポーズをしている。
なぜか二人揃って似たような感じで口が開いている。
「なんで二人とも口開いてるんだよ?」
「……あのポーズすると、つい『クエ!』って口まで真似したくなったんだよ。ね?」
俺が聞くと太一が理由などなさそうに言い、アリカに同意を求める。
「……うん。あたしもなった。でもこう見ると恥ずかしいわね」
アリカもどうやら無意識だったようだ。
「おお、ホントだ!」
後ろで美咲と愛、綾乃が試しにやっている。
恥ずかしいからやめなさい。
そのあと数枚の映像を見て、太一とアリカはそれぞれ気に入ったのを注文した。
続いて、美咲たちの映像をみんなで見る。
どよーんとした表情で、こっちを見つめる愛の顔が映る。
その両脇には美咲と綾乃が応援しているかのように映っていた。
「あー、これ多分ゲームに失敗した時のだね」
「愛さん本当に大変そうでしたもんね」
「……時間かかってすいません」
次の映像は三人が手をつないで扇の形を作っていた。
真ん中に愛、右に美咲、左が綾乃で三人ともいい笑顔なのが印象的だった。
話で聞くだけじゃなく映像で見るとより楽しそうなのが伝わる。
「これいい。これ注文しよ!」
美咲はこの映像を一発で気に入ったようだ。
美咲たちも、それぞれ気に入った映像を注文し、次は俺と響の番になった。
カードをかざして映像を見ると、無表情な響の横で、俺が驚いたような顔をしてこっちを見ている。
「これ、いつのだ?」
「……クイズの時のようね。明人君、画面に文句言ってたものね」
もうちょっとましなところで、写真を撮ってくれてもいいものなのに。
次の映像に切り替えると、響が俺にコブラツイストをかけている姿が映った。
「……お前ら何やってんの?」
太一がその画面を見て呆れたように言ってくる。
それは問題に言ってくれ。俺に言うな
「意外と明人君身体が大きくて、かけにくかったわ」
「「「「…………」」」」
……寒気がする。周りから冷気が漂ってきてるのは気のせいか?
次の映像に切り替えてみる。俺と響が手をつないでダンスしている姿。
「あー、これも恥ずかしかったんだよなー」
「これ、いいわね。全部注文しときましょう」
俺達はキーマスターに二回しか接していないからか写真が少なかった。
でもまあ、記念になりそうなので全部注文しておこう。
操作を終えて出口に移動。
「あんなに密着して……愛も負けないようにしないと……」
「……響さんあのコブラツイストのキレは只者じゃない……」
愛と綾乃が後ろでブツブツとつぶやいている。綾乃はともかく愛は危険を感じる。
美咲とアリカが俯いたままだ。
「なあ、どうした? 二人とも元気ないけど?」
「……明人君は迷路の中で響ちゃんと密着していた。しかも証拠を残して」
「これはどうやらお仕置きが必要のようね」
「え?」
美咲とアリカに、がしっと腕を捕まれ引っ張られる。
「「ちょっと来なさい」」
「なんで? 俺は悪くない!」
「「いいから来なさい!」
「さあ、物的証拠は上がってるのよ! 言い逃れできないわよ」
「ねえねえ、どうしてあんなにくっついてたの? ねえ、どうして?」
俺は悪くないと思いたい。
まさか、ここでこんな目に遭うなんて思わなかったぞ。
出口の隅で二人に説教と質問攻め。
やはり美咲の方が怖いと思うのは気のせいじゃないだろう。
でも、あえて言いたい。
今回の件は絶対俺は悪くないよね?
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