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帰路  作者: まるだまる
135/406

134 迷路2

 壁の向こうで膨れ上がる殺気から逃れるように、キーマスターを目指して移動。

 少なくとも五台は途中で目にしていた。


「明人君、キーマスターの位置覚えてる?」

「いや、まともに覚えてるの最初のやつくらいだ。響は……聞くまでもないか」

「そう……では、勘に頼るしかないわね」


 元来た道を戻り、幾度目かの分岐点を過ぎたところで、ようやく見つけた。

 最初に見たものと違って、幅の広いプリクラのような箱型の機械だった。

 近寄って見ると、モニター画面と、カードを読み取るセンサーのついた操作盤。

 最初に見た機械の操作盤には、複数のボタンが付いていたが、これには見当たらない。 

 モニター画面には、『センサーにカードをかざして下さい』とのメッセージが映し出されている。


「明人君、この機械にはボタンがないわね」

「よくわからんが、とりあえずカードをかざそう」


 操作盤のセンサー部に俺のカードをかざしてみる。

 すると『ピッ』と音がして、モニターに新しいメッセージが浮かんだ。

『グループの方もカードをかざして下さい。あと一名登録されています』

 どうやらグループ員が一緒にいないと、次に進めない仕組みのようだ。

 バラバラに鍵を集めさせない対策といったところか。


 響がセンサーにカードをかざすと、『ピッ』と音が鳴って、賑やかな音楽と同時に画面が変わる。

 画面の端からトコトコと、可愛らしい猿のキャラクターが二匹登場した。

 猿達は俺達に向かって一礼すると、左側の猿が説明を始めた。


『ようこそ! ここでは制限時間以内に僕たちの真似をしてね。センサーで見てるから、ちゃんとやらないと鍵はあげないよ?』

 もう一匹の猿は、何故か横で正拳突きの真似を繰り返している。そっちの理由も聞かせてくれ。


 猿の背後に、ゲームの説明画面が浮かび上がる。猿が言った内容が、文字として書かれているだけだ。ようするに猿真似をすればいいのだろう。猿が出てきているのは洒落なのか。

 とりあえずは、やってみないことには始まらない。  


『まずは一問だけ練習。いっくよ~』


 陽気な音楽が流れ、猿たちが踊り始める。

 ひいき目に見ても下手くそな踊りだ。


『はい! このポーズ』


 音楽が止まると同時に、二匹の猿は、右手をまっすぐ上にあげ、左手は水平に伸ばしている。

 俺達から見ると時計の針が三時を指しているようなポーズ。


 猿がポーズを決めると同時に、モニターの隅に数字が浮かんで、カウントダウン開始。

 あれは制限時間か。響も気づいたようで、二人して、すぐさま猿のポーズを真似る。


『ピロリロリロ~ン♪』と正解のチャイムが鳴る。ちゃんと真似できていたようだ。

 しかし、これ他にギャラリーがいたら恥ずかしいな。



『ビュティホー! 今みたいな感じで真似してね!』

 猿が大げさに画面の中で大袈裟にはしゃぎながら言う。

「明人君、なぜかイライラするわ」

「俺もだ。この猿の態度が妙にムカつく」

 俺達のそんな気分などお構いなしにゲームは進む。


『では本番いっくよー♪ 三問クリアしたら鍵をあげるよ!』

 また陽気な音楽が流れ、画面の猿たちが踊リ始める。やっぱり踊りは下手くそだ。

 そのうち猿同士が戯れあい、背後から身体を巻きつけるように――――

 ――って、それコブラツイストじゃねえか! 踊れよお前ら。


『はい! このポーズ』

「「え?」」


 ふざけんな。これを真似すんのかよ? 躊躇なしのカウントダウン開始。

 どうする。コブラツイストぐらいなら俺だって出来るけど、響にかけるのはちょっと困る。


「明人君あれ分かる?」

「分かるけど……」

 駄目だ、やっぱり女の子に技をかけるくらいなら、俺がくらったほうがマシだ。


「響、俺にかけろ」

「どうかけるのかしら?」

「適当に猿の真似しろ!」

 見よう見まねに響は俺にコブラツイストをかけてくる。


 むにゅうっと背中に柔らかいものが押し付けられる。

 うお! 響ってば意外とあるじゃねえか! 着痩せするタイプか?

 今までの経験で言うと、美咲より大きいようで愛よりは小さい感じ。


「こうかしら? ふん!」

「ぐああ!」

 俺の邪念に気づいたのか?


「あら、ごめんなさい。つい力が」

 ……今、口の端が少しニヤってしたよな?


『ピロリロリロ~ン♪』と正解のチャイムが鳴った。

 響、もういいぞ。早く技をほどけ。名残惜しそうにせんでいい。

 いや、力込めるなよ。なんで最後にもう一回締めようとしてくんだよ?


『クリア~。グッドだよー♪ 次いっくよ~』

 猿が大はしゃぎで喜びながらクリアを祝う。大袈裟すぎてかえって引きそうだ。

「……やっぱりイライラするわね」

「……同感だ」


 今度は聞き覚えのあるマンボが流れ始める。画面の猿が両手をつないで、踊り始める。

 踊りはいいから早くポーズを決めろ。


『チャカチャカチャン、チャカチャカチャン、ウ、マンボ! はい、このポーズ!』


 両手をつないだまま、頬をくっつけた状態で猿は止まっている。

 いや、これ女の子とペアだと恥ずかしいだろ。彼女ならともかく。

 容赦なく進むカウントダウン。躊躇していると響が催促してきた。


「明人君、早く」

 響は気にもしていないように、両手を差し出す。


「えええええ!」

「ええ、じゃないわよ。早く」

 響の両手を掴んだものの、やっぱり躊躇する。


「なにやってるの? こうよ」

 ぐいっと引っ張られ、ぴったりくっつく響。

 響からふわっと、美咲ともアリカとも愛とも違う香りが鼻腔をくすぐる。

 なんとも心地よい匂いだ。


 顔をくっつけるのは恥ずかしすぎると思いきや、身長差で俺の頬についたのは響の髪。

 美咲とほぼ変わらない響の身長だと、頬の位置が俺の顎付近にくる。


「これならまだマシでしょ?」


 確かにマシだけど、お前の胸が当たってるから、嬉し恥ずかしいぞ。

 いやさっきは背中だったけど、前から当たってこれだとそれなりのサイズだな。

 どっかの幼女もどきとは違うわ。おっと、背中に寒気がする。


『ピロリロリローン♪ クリアー。上手だねー』


 いや、早いだろ! もうちょっとギリギリまで見てから正解にしろよ。

 もうちょっと柔らかさを堪能する時間をだな――――


「明人君、もしかして――欲情してる?」

「し、してねえし!」

「そう。それはそれで少しムカつくわ」

 そう言って響は身体を離した。


 気のせいか、少しむくれているような。

 基本、無表情なだけに僅かな変化を見逃すとわからない。


『二問連続でクリアだね。次をクリアすると鍵をプレゼントするよ』

 画面内の猿が陽気に語りかける。


『それじゃあ、次のポーズいっくよー♪』

 また曲の開始とともに猿が踊り始める。

 この曲は知ってる。『白鳥の湖』だ。

 また密着ネタが続きそうな気配。俺としては、クリアするためだから仕方ない。

 甘んじてその課題を受け止めよう。他意はないんだ、他意は。


 画面の端から端までクルクルと回る二匹の猿。そろそろ密着か?

 画面中央に来たとき、お互いの顔めがけて拳を飛ばす。傍から見るとクロスカウンターだ。


『ぐは! このポーズ!』

 おい、白鳥の湖と全く関係ないじゃないか。

 てか、お前殴られてダメージ受けてるだろ。


「明人君、低めに構えて。形だけ真似ればいいんだから」

 響は画面の猿など気にせず、真似するつもりだ。冷静な奴め。

 響の指示通り身体を低めにして拳を突き出し構える。

 画面の猿を見ながら、響はクロスカウンターの形を作る。

 お互いの頬に軽く拳を当てた状態になる。

 手から伝わる響の肌の質感は、サラサラで柔らかくて、ほんのり温かい。


「まだ駄目ね? こうかしら?」

 響が少しだけ身体を前に出す。

 お互いの頬が軽くむにゅっと押し合う形になる。


『ピロリロリロ~ン♪』とさらに甲高い正解音が鳴った。

『おめでとう。三回クリアしたね。鍵をプレゼントするよ! ……ちっ』


 おい猿。今、お前舌打ちしただろ?


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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