133 迷路1
迷路は入口がドーム状になっていて、大きな入口が一つあった。ここでカードを提示するようだ。
カードをかざして中に入ると、色の付いた扉が五つ見える。これがアリカたちの言っていた入口の扉のようだ。
赤、青、緑、黄、黒に塗られた扉は、それぞれ数人の客が順番待ちしている。
「この色の選択も大事な要素よ。難易度が日によって変わってるそうなの」
アリカがみんなに対して説明する。
「最初っから運が絡むってことだな。どうする響?」
「そうね。明人君は何色が好き?」
「俺は青が好きかな」
「じゃあ、青にしましょう」
「オッケー。あとは運に任せよう」
「駄目よ。勝ちに行くわ」
響ってば、勝負事好きなのね。
横では太一とアリカが入口を相談中。
「明人らは青だって。アリカちゃん、俺らどれにする」
「太一君は何色が好き?」
「俺? 赤かなー」
「それじゃあ、緑にしましょうか?」
「今、なんで俺の好きな色聞いたのかな?」
お約束だ。諦めろ。
美咲と愛、綾乃チームも相談中。
「私は黄色がいいと思う」
「愛は黒だと思います」
「私は赤だと思います」
お前らなんで、そんなにバラバラなんだよ。
どうやら、じゃんけんで決めるようだ。
結局、俺と響のチームは青、太一とアリカのチームが緑、美咲、愛、綾乃のチームが黄色を選んだ。
それぞれの扉前で入場スタンバイ。
グループで入場しているのが多いようで、多い時は五人で入っていったグループもあった。
順番に数分おきに入場している。
その間に響と二人でちょっとした予習というか確認。
「迷路にある扉を開ける鍵って、このカードに記録させるのね」
響が首にぶら下げていたカードを手に持って言った。
多機能なカードだ。
色の扉に入場する際に、カードにグループ登録されるようだ。
今回で言うなら俺と響は、カードに同じグループとして登録される。
迷路の中には、いくつかの関門があり、それがアリカの言っていた中の扉らしい。
関門を突破するには、鍵を集めなくてはならなくて、グループ各人が必要な鍵を取得しないと、迷路の中にある扉は開かない仕組みのようだ。
何でもキーマスターと呼ばれる機械があちこちに設置してあり、そこで試練が与えられる。
試練をクリアすると報酬として鍵を取得できる。これも迷路の中から見つけなくてはならないようだ。
ただし、もらえる鍵が必要な鍵とは限らず、アリカたちが何度も行ったり来たりしたと言ったのはこの事だろう。
「これは思ってる以上に大変かもな」
「もう一つ大変なことがあるわ」
「何だよ」
「すぐにわかるわ」
なんだかもったいぶった言い方をしているが、すぐにわかるというなら待つとしよう。
いよいよ俺達の順番が回ってきた。
係員にカードを提示して、俺と響のグループ登録完了。
「それではお気を付けて、行ってらっしゃいませ~」
係員の演技めいた言葉に見送られながら俺達は青い扉をくぐった。
周りの壁の高さは二メートルほど、色は緑色で、壁の向こう側は見えない。
同じ色の壁が続くので、これは覚えにくそうだ。
入って数メートルもしないうちに左右への分かれ道。右へ行くか、左へ行くか。
「響どっちから行く?」
俺が聞くと、響はすっと右を指差す。
右に行くと今度は左へ曲がり、やたらと右や左と曲がる道が続いた。
方向感覚を狂わせるような感じだった。
今、入口がどっちだったかと聞かれても、もうそろそろ自信がない。
「……また分岐か。どっちに行くか……」
今度は十字路、左手には俺達より先に入ったグループが見える。
前方と右手はすぐに右に曲がる道になっていて先が分からない。
響がフラフラと右手に曲がる。決断早いな。
右手に行って、角を曲がると、すぐに左にまた曲がっていたが、そこで壁。
行き止まりだった。
「お約束な展開だな」
「……そうね」
来た道を戻り、先ほどの十字路。今いる位置から見ると、左手が最初に俺らが来た道。
まだ行ってないのは右と正面だ。さて次はと――。
響がフラフラと左に曲がっていく。
「ちょ、響、何で戻るんだよ?」
「え? ……この道だと戻るの?」
何を言ってるんだ、こいつ。
今、さっき通ったばかりの道じゃないか。
「……もしかして、響、お前方向音痴か?」
「惜しいわね。さらに極度のって前置きが付くわ」
自慢気に言うな。
「だから言ったでしょ。もう一つ大変なことがあるって」
「……おまえ、それでよく勝ちに行くとか言えたな?」
「その場のノリよ」
「その割にはお前、自信有りげに曲がっていくよな?」
「結果がどうあれ、進まなくちゃ話が始まらないでしょ?」
それはいい心がけだと思うが、富士の樹海に行ったら死ぬパターンだ。
「自慢じゃないけど、駅前の繁華街で、駅が分からなくなって、二時間ほど彷徨ったこともあるわ」
道二本しか無いじゃねえか。
お前の方向音痴は危険すぎる。
「普段、車で送迎されてるから道を知らないのよ」
「それは、ある意味正解だと思うぞ?」
方向音痴のやつを放り出すよりは、目的地に届けてやったほうが確実だろう。
とりあえず、ここは主導権を俺が握ろう。
「響、俺について来い」
☆
結局、右の道は全て行き止まりだった。時間稼ぎされた感が否めない。
ひとつ発見があったのは、最初の十字路を左手に行った先に機械が一台置いてあった。
小さなプリクラのような機械。モニターと操作盤がついている。
操作盤にはカードを読み取るセンサーと、A、B、C、Dと丸いボタンが四つ付いていた。
「なんだこれ?」
「これがキーマスターのようね」
モニターには、『下のセンサーにカードをかざしてください』と映し出されている。
試しにカードをかざしてみると、『まだ関門に登録されておりません』と表示された。
「鍵の先取りはできない仕組みのようね」
「そうみたいだな……」
もし、この機械の鍵を必要としたら、ここまで来なくてはいけない。
これは急いだほうがいいな。
最初の分岐点に急いで戻り、左の道へ進む。
気づいたことだが、響は分岐点に戻るたびに、その前に通った道を選択する。本人は気づいていないようだが、おそらく帰巣本能が働いているのだろう。この習性を利用して、俺自身が迷った時の指針にしよう。きっといつか役に立つはずだ。
分岐点がまたいくつかあったが、ダンジョンゲームに有効な『右手の法則』、つまり全て右を選択する。
変に色々当たるよりも確実性は増すだろう。
俺達より先に入ったいくつかのグループとすれ違うことも増えた。
また、途中所々で、最初に見たやつとは違う四台の『キーマスター』を発見している。
覚えにくい場所に設置してあるのもあり、これは大変そうだ。
迷いながら進んでいるうちに、ゼブラ柄の門が見えた。どうやらこれが関門のようだ。
扉の横にはキーマスターと同じ機械が設置している。
モニターには『下のセンサーにカードをかざしてください』の文字が映る。
カードをかざすと『ピッ』と、音と共に『とうろくされました』のメッセージ。
画面が切り替わり、ヒゲダルマが現れ、文字と共にボイスが流れる。
『ここを通りたければ鍵を集めるのだ! お前たちには鍵を二つ用意してもらおう』
「二つか、ここに来るまでにキーマスターは五台は見た。そのうちのどれかだな」
『間違った鍵を持ってきても扉は開けないぞ。せいぜい探すがいい!』
モニター画面に映るヒゲダルマは愉快そうに笑いながら言った。
「よし響、急いでキーマスターのところに行くぞ」
「ええ、わかったわ」
道を戻っている最中に、壁の向こうから聞き覚えのある声がした。
「愛ちゃん、ここにあったよ!」
「やっと三台目見つかりましたね」
「関門にはすぐ着いたのにー、愛疲れましたー」
この声は美咲たちだ。足を止め声をかける。
「おーい」
「ふえ? 明人君の声だ。壁の向こうだね」
声をかけると、すぐに気づいてもらえたようだ。
「明人さーんそっちどうですか? 愛たちは今、鍵探しですー」
「俺達は今から鍵探しだよ。関門が見つからなくてね」
「美咲さん、どうやら私たちリードしてるみたいですよ」
綾乃が喜んだ声を出す。これは負けていられない。
「すぐ追いつくさ。それじゃあ。響しっかりついて来いよ」
「ええ。ぴったり寄り添っていくわ」
響が言った途端、壁の向こうから強烈な気が発生したような気がした。
気のせいか。気のせいだろう。そうしよう。
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