132 うさぎレストラン2
セットのソフトドリンクをそれぞれ注文。食事の後に持ってきてもらうことにした。
美咲と響は紅茶、アリカと綾乃はオレンジ、愛がグレープフルーツ、俺と太一はコーラを頼んだ。
食事を注文後、しばらくそれぞれのテーブルで雑談が続く。
「ジェットコースターにフリーフォール、ホラーハウスにゴーカート。前半で四つか」
太一がガイドブックを見ながら言う。
「午後はもう一つ混むんじゃないか? 店前で並んでたとき入口の方から、人が入って来てたぞ」
「GWだからな。先にジェットコースターとか乗って正解だったかもしれん」
「候補的に残っているのは、迷路か。そのあとは適当に並ぶか」
「そうだな。あとは迷路と、それと……観覧車もあるな」
「ここの観覧車は結構揺れるんですよね。隠れ絶叫系ですよ」
綾乃が人差し指を立てながら言うが、観覧車が絶叫系っておかしいよね?
そんな風に話していると、食事が運ばれてきた。
アリカがぴくっと反応したのが少し面白かった。相当待ち遠しかったのだろう。
食欲に正直なのは、悪いことではない。
でも、お前がやるとより幼く見えるからな。
アルトセットは、ほぼ写真通りの量。まあガッツリ食いたい人には丁度な感じ。
ポーンセットは、写真よりも副菜が多く。その分メインの魚が小さく見えた。
最後に持ってこられた魔女セットは、思ったより大きくて深いスープ皿に美咲と響が固まっていた。
「……これだけで、お腹いっぱいになりそう……」
「……私もです……」
何はともあれ、約一名が餓えている。食事を楽しもう。
「いただきます」とそれぞれが言い、ナイフとフォーク、スプーンが動き、口に運ぶ。
「わあ、このスープ美味しい」
「本当、コクが深いですね」
美咲と響からスープの感想が漏れる。
見る感じでコンソメスープのような感じなのだが、相当煮込んでいるようで、とろみがあるようにも見える。
目の前の太一と綾乃は、お互いに、「お兄ちゃんこれ美味しいよ」、「これもいけるぞ」と仲良く分け合いながら食べている。
愛は一口一口味わいながら、どうやら副菜の味付けを一品一品調べている様子。料理に関しては、本当に勉強熱心だと思う。
アリカは一心不乱にもぐもぐと食べているが、よく噛んでいるからなのだろう、進捗状況から言うとアリカが一番遅い。けれども一番幸せそうな顔をしていた。
きっと家でもあんな感じで食事しているのだろう。
あんな笑顔でいてくれたら作っている愛も嬉しいだろう。
食事が進み、横の美咲から「うう、もうお腹いっぱいだ」と声がする。
まだ、半分ほど残っているが、自分で言っていたとおり、スープでかなり満たされたようだ。
「魔女セットは、ちょっときついですね」と響も少し苦しそうだ。
「残すの悪いけど、これはきついなー」
「大丈夫ですよ。そう思って香ちゃんの狙いを阻止しましたから」
美咲の言葉に愛が笑って言う。
横で一心不乱にもぐもぐしていたアリカが『何事?』といった顔で周りをキョロキョロする。
「お二人共きつかったら、香ちゃんにあげてください。香ちゃんには少し足りないので」
横でアリカが口に頬張ったまま顔を縦に振る。アリカ、お前、実はよくわかってないだろう。
とりあえず、飲み込め。喉詰めるぞ?
「残されると作る側からすると悲しいものなんですよ」
と愛は微笑む。
「愛さん、よく私たちが食べきれないって分かったわね?」
「響さんはお昼一緒に食べたので量は把握してますし、美咲さんもおそらく近いだろうと」
プロだ。プロがいる。
「そこまで分かるものなのね………………」
愛にそう言うと、響はアリカをじーっと見つめる。
「響、何、見てんのよ?」
その視線に耐え兼ねたのか問い返すアリカ。
「いえ、別に。ただ……大きくならないのねと」
随分とストレートな物言いだが、その意見は俺も同意だ。
「香ちゃんよく食べるんですけどねー。違うところに消費してるみたいで」
「確かにおかしいよな。食べたものはどこに消えてるんだ?」
愛と俺の言葉に、アリカのナイフとフォークを持つ手がプルプルと震えている。
「……あんたたち、あたしに喧嘩売ってる?」
いや、そのつもりはないぞ。
ただ世の中の不思議について考えてるだけだ。
「とりあえず食べとけ。そんだけ食っても痩せていられるんだから」
「そうだよね。いっぱい食べてるのにアリカちゃん太ってないもんね」
「愛なんて食べた分だけ太るというのに」
「まあ、確かに細いけどねー。おーっほほほほほ」
似合わないからやめとけ。
細いだけじゃなく出るとこも出てないんだから。
だから睨むな。お前は勘が良すぎるぞ。
太ってないと言われ不満が解消されたのか、アリカは、またもぐもぐと食べ始める。
食べてる時は本当に静かで幸せそうに食べる奴だ。
目の前のプレートが空になり、みんなも腹を十分に満たしたようだ。
店員が来て、皿を片付けていく。それと入れ替わりに、頼んだソフトドリンクが持ってこられる。
食後のティータイムを利用して、みんなから次に行きたいアトラクションの確認。
「とりあえず迷路かな?」
俺も入ったことがないので、みんなに聞いてみるとアリカと愛以外、誰も入ったことがなかった。
美咲はともかく、なんだ迷路の不人気は。
「なんでみんな行ってないんだよ?」
「校外学習では時間がないから避けたわ」
太一も綾乃も同じ理由らしい。俺もだが。
アリカと愛に話を聞いてみると、ここの迷路は赤、青、緑、黄、黒の入口が五つあって、最終的にはつながっているらしい。二人とも従姉妹と来た時に入ったそうだが、その時は赤い入口を選んだらしい。
「迷路よりも鍵が問題だよね」
「だよねー。あれ難しい」
アリカがうんざりした顔で呟くと、愛がウンウンとうなづいて同調する。
「鍵?」
アリカの話では迷路の中に何個か封鎖された扉があり、それを開ける鍵を手に入れないといけないらしいのだ。
「あたしたちがやったのはクイズとボディバランスよ。四択クイズが難しくてねー」
「なんだ、そのテレビのバラエティみたいな迷路は?」
「面白そう!」
美咲がワクワクした顔で言う。
「それに鍵を手に入れても。見つけた扉が開くとは限らないのよね」
「何度も戻ったもんね」
「ネットの情報だと毎日迷路は変わるそうよ」
愛里姉妹に続いて響が追加情報をくれた。
「明人、これは行くっきゃないだろ!」
「そうだな。人数は制限あるのか?」
「何人でも問題はないけど、増えたら身体使う方がやばいよ? やったらわかると思うけど」
「二人、二人、三人で分かれるか?」
「それだったら私と明人君になるわね。私とまだ組んでいないもの」
そう言えば、まだ響とは組んでいない。
話し合いの結果、俺と響、太一とアリカ、美咲、愛と綾乃の組合せに決まった。
ドリンクも飲み終わり、精算しにレジへ向かう。
「お客様のカードは優待カードですので、こちらのお食事代も割引になります」
レジを担当していた店員が、俺達の首からぶら下げているカードを見て言った。
「あら、そういうのまで付いていたのね」
持ってきてくれた響自体も知らなかったようだ。
それぞれ精算を済ませ、外に出る。
「思ってたよりも安く上がると、すごく得した気分になるよね」
「だな。二割引とはいえ、かなり得した気分だ」
「だなあ。響様々だ」
「私じゃないわ。父が用意してくれたんですもの」
「今度会ったらお礼言わないといけないな」
「そうしてちょうだい」
いつもの無表情で響は言った。
とりあえず次の目的地の迷路へ出発。
迷路は遊園地の一番奥側にある。面積で言うと、この遊園地内で最も広いエリアを誇る。
観覧車の前を抜け、噴水のある広場も通り抜ける。
噴水広場ではポーンとアルトが小さい子供にまとわりつかれていた。
横目に通り過ぎようとしたとき、愛が観覧車を見つめて足を止めていた。
「愛ちゃんどうしたの?」
「すいません。なんでもないですよ。あ、そうだ⁉ 今がちゃんすです」
そう言うと、俺の腕に手を絡めてきた。
ぷにょんと弾力のあるものが腕に当たる。
「うふふ。さあ、行きましょう」
そうやってくっついてくるのは、俺としては恥ずかしい。
このままでいいと思えないのは、目の前にいる人たちのせいだろう。
三人の手刀使いが手刀を構えて俺達を待っていた。
脇腹をさすりつつ、迷路を目指す。
人混みにうんざりしながらも、ようやく到着。
さて、それじゃあ迷路に挑戦しようか。
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