表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
132/406

131 うさぎレストラン1

 この遊園地内にはゆっくり食べるのに向いた洋風レストラン、ジャンクフードの店が数店ある。

 時間を取りたくないならジャンクフードの店だろう。

 一応、みんなのリクエストを聞いてみる。


「肉!」


 これはアリカのリクエスト。

 とりあえず、他の意見を聞こう。

 視線をそらすといじけたが、まあ、ほうっておこう。


 他のみんなに聞いてみると、なんでもいいが座ってゆっくり食べたいと言う。

 確かに、乗り物に乗ってる以外は歩きっぱなし、立ちっぱなしが続いている。

 お昼くらいは、ゆっくりしたいだろう。

 では、レストランをチョイスすることにしよう。


 ガイドブックを見ると、園内のレストランは『SchwarzHase』と『WeisHase』の二つがある。

 フリガナも書いてないので読み方がわからないけれど、どうやら英語ではないようだ。

 入口に近い方が『SchwarzHase』、ジェットコースターに行く途中に見た店だ。


「――シュヴァルツハーゼか、ドイツ語で黒うさぎだね」

 美咲もガイドブック開いていて、店の名前を見て言ったようだ。


「へー、ドイツ語なんだ。んじゃあ、これは?」

 もうひとつの店『WeisHase』を指して聞いてみる。


「ヴァイスハーゼだね。そっちは白うさぎだよ。ハーゼが野うさぎで。ヴァイスは白。シュヴァルツが黒って意味」

「あら、美咲さん、ドイツ語わかるんですか?」


 響がガイドブックを閉じて、美咲をちらりと見る。


「いやー、前に本読んでて、ちょっと調べたことがあったんだよね」

「さすが大学生。ドイツ語の載ってる本読むなんて、かっこいいー」

 綾乃が美咲に尊敬の眼差しを浮かべる。


「いや、読んだ本って、ラノベなんだけどね。いわゆるハーレム物なんだけど――」

 それ以上は言わない方がいいと思うのは俺だけか?


 本の登場人物が所属している部隊名が、たまたま店と同じ名前だったらしい。

 美咲はその登場人物がお気に入りで、興味本位でドイツ語を調べたことがあるらしい。

 美咲の色々な性質キャラの材料は、もしかしてラノベから得てるのか?

 だとしたら、相当怖いんだけど。


「あの美咲さん、それって、もしかして……」

 美咲の話の続きを聞いていて内容に覚えがあったのか、美咲に耳打ちする綾乃。


「おお! そう、それだよ。綾乃ちゃん読んだことあるの?」

「ああ、やっぱり! 既刊は全部持ってます」

 同じラノベを読んだことが嬉しかったのか、喜ぶ綾乃と美咲。


「私としてはラウ○が……」

「わかります。私はシャ○ロットが……」

「綾乃ちゃん、わかってるねぇ!」

 美咲と綾乃は意気投合して、そのままキャラ論議を始めてしまった。

 キャラ名を出されても話を知らないのでわからんな。

 今度、貸してもらおうかな。

 

「明人さん。そろそろほんとに香ちゃんが危ないです」

 愛が慌てた声で言う。

 妙に真剣な声だったので見てみると、さっきまでいじけていたアリカの目が据わってきていた。

 なんだか肉食獣が獲物を見るような目で俺を見ているんだけれど、気のせいだと思いたい。

 なんかマジで怖いけど、あいつ腹が減りすぎるとこうなるのか?

 座り込んで、早く決めろと言わんばかりに俺をじーっと睨んでいる。


 いや、あの目は襲おうと狙っている? 


「獣の目だねぇ。それもまた可愛い」

「お腹すいてイライラしてるんですね。色々持ってますねぇ」

 美咲と綾乃がアリカを観察しながら、ほんわか言う。


 どうやら愛が言ってた人を襲うというのは、あながち間違いではないような気がしてきた。

 こういう時に襲われるのは、きっと俺なんだろうという予感すらある。これは急ごう。


 時間をかけてたら、きっと俺がやばい。

 この予感は当たる気がする。


『SchwarzHaseシュヴァルツハーゼ』にしよう。

 みんなに聞いたら特に反対もなく決定。

 目的地も決まったので、移動を開始。


「香ちゃん、お店決まったよー。お肉もあるみたいだよー」

 愛がアリカに言うと、アリカは満面の笑みを浮かべて立ち上がる。

 現金なやつめ。


「わかりやすいねぇ。可愛い」

「ほんと色々持ってますねぇ」

 美咲と綾乃がアリカを観察しながらほんわか言う。

 お前ら本当に仲いいな。


 店に着くと店頭でお客が数人待っている。

 昼も近いので混み始めたか。

 列に後ろに並んで待つしかない。


「待つのか……お腹すいた……」

「もうちょっとの我慢だからねー」

 がっくりしているアリカを、よしよしと頭を撫でて励ます愛。

 姉妹が逆転しているようにしか見えないぞ。              


 15分ほど待ってようやく店内に案内される。


 案内してくれたのはパンツスーツ姿をした女性の店員。

 店名にうさぎが入っているのに、なぜバニーガール姿じゃない。

 せめて、うさ耳くらい頭に着けてもいいと思うのだが。


「明人君、今すっごいつまらないこと考えてたでしょ?」


 美咲がジト目でぼそっと突っ込んでくる。

 何故わかる?


 案内されながら周りを見ると店内はアンティーク調に飾られている。

 それぞれテーブルの端には燭台。天井にはシンプルなシャンデリア。シャンデリアの付け根には、空気を循環するための大きな木製の羽根がゆっくりと回っている。

 今は日の光が入って、明るくなっているが、夜には燭台やシャンデリアが灯りいい雰囲気になるだろう。

 壁には絵画と小さな花が飾られ、それを照らすための補助灯も見える。

 全体的な感じとして、飾りすぎるわけでもなく、シンプルな装飾をしていた。


 店員に案内されたのは、奥側の四人掛けのテーブルが二つ並んだところ。

 光沢を帯びた木目のある四人用にしては広めのテーブル。丸くアーチを描く木椅子。

 そのどちらもアンティークな基調だ。壁には立ち上がった黒うさぎの絵が飾られている。


 順番待ちしていた時に決めた席の通りに着いて行く。

 アリカ、響、愛と美咲が左側のテーブルに着き、太一と綾乃が俺と同じ右側のテーブルに着いた。

 向こうのテーブルは、通路側の席にアリカ、愛。壁側の席に美咲、響と並ぶ。

 こっちのテーブルは、壁側の席に、太一、綾乃の順で座る。俺は通路側の席に座った。


「こちらがメニューになります。お決まりになられましたら、ボタンをお押し下さい。すぐに伺います」


 各テーブルに赤ワイン色の革製メニューが二つずつ置かれ、店員は一礼して下がっていった。

 手にした表紙には、うさぎのシルエットが描かれている。

 太一と綾乃は早速メニューを開いて、一緒に見ながら検討を始めた。


「お兄ちゃん。違うメニューにして、分けっこしようよ」

「おお、それはいい考えだな。んじゃあ、俺は、この肉のセットにしようかな」

「あれれ? 私の知ってるお兄ちゃんなら、きっとこっちが食べたいはずだよ?」

「……お前、自分が食べたい物を俺に押し付けようって腹だろ?」


 仲のいい兄妹だ。


 単品メニューもあり、一般的なファミレスメニューもあるようだ。

 値段は若干割高だが、遊園地内だからこんなもんだろう。

 単品メニューの他に、割安なランチセットが四種類設けられている。

 ここにも園のマスコットキャラクターのポーンとアルトが出てきた。

 ハンバーグと牛肉のサイコロステーキがメイン。肉が主体で量が多いアルトセット。男性向きかな。

 女性向けのポーンセット、魚が主体のヘルシーメニュー。一つ一つの量は少ないが、その分副菜が多い。

 アルトセットのボリュームをダウンさせて、特製スープがついた魔女セット。

 この3つは、それぞれ千五百円。


 三つを混ぜ合わせたような豪華絢爛なスペシャルセット。スペシャルだけあって値段も高く三千円。

 量もなんか桁違いだけど、頼む奴いるのか、これ?

 みんなが何を頼むのかなと周りの様子を見ていると……アリカがじーっとメニューの下の方を見ている。


 どこを見ているのだろうと、俺の手元のメニューで見てみると、そこにはスペシャルセットが写っていた。

 そういえばチャレンジャーだったな、あいつ。

 

 どうやらそれぞれ頼みたいものが決まったようだ。ボタンを押して店員を呼ぶ。

 直ぐにやってきた店員に、それぞれ注文を言っていって貰う。

 響と美咲が魔女セット、愛と綾乃がポーンセット、俺と太一はアルトセットを注文した。


 最後まで悩んでいたアリカが「スペシャ――」と言いかけた途端、愛がアリカの手をがしっと掴んで首を横に振った。アリカは目で「駄目?」と訴えているようだが、愛の目が「駄目!」と答えているように見えた。

 アリカは、しゅんとして「じゃあ……アルトセットで」と言い直した。


 お前、欲望に負けかけてただろう。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ