表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
131/406

130 アトラクション4

 バックストレートを走ると、まもなく運転交代ポイント。


「明人さん。いいですか?」


 愛がタイミングを計ろうと声をかける。


「ああ、いいよ!」


 いつでもアクセルに足を掛けれるよう準備しておく。

 

 前方では綾乃がポイント通過、次いでアリカが通過と同時にハンドルから手を離す。

 勢いを落とすことなく、響に運転チェンジ。

 うまい具合にやったようだ。


 俺達の車もポイント通過それと同時に愛が「逝きます!」ハンドルから手とアクセルから足を離す。

 その瞬間を逃さず即座にアクセルを踏み込みハンドルを握る。

 減速感は感じられない。うまくいった。

 ところで、愛から変なセリフが聞こえたのは気のせいだよな?

 

 

 前方の車と少しでも距離を縮めるためにイン側をギリギリで走る。

 その甲斐あってか少しずつ、前方の二台との距離は縮められている。

 綾乃の腕前はもう分かっている。ドリフトができる時点で相当な腕前だ。

 響は未知数だが、持ち前の運動能力の高さを考えると油断はできない。

 そして後方に控えている太一の存在もまた恐ろしい。

 どういう走りをしているのか、ぐんぐんと近づいてくる。

 

 まもなく最初のコーナーリング。綾乃が勢いを落とすことなく突っ込んでいく。

 その真後ろを寸分狂わず、ついて行く響。


「よし、俺も続くぞ!」

「好きな時に逝っちゃってくださーい!」


 愛、声援はいいけど、もう少し言い回し考えようね。

 一瞬、脳内がピンクになったよ。

 この時の煩悩に隙ができたのか。


「明人もらったあああああ!」


 声をあげて、膨らんでわずかな隙間を強引に入り込んでくる太一。


「くっ!」

 太一の車に押し出されるように外側へ弾かれる。


「いやーん。強引に突かないでください」


 だから愛、文句を言うにも言い回し考えようねってば。

 顔が赤くなってしまうじゃないか。

 そんなことをしている間に太一が加速していく。


「ま、まだ伸びるのか?」


 同じエンジンなのに何が違うのか。

 太一の車は加速して伸びていく。

 なんとか姿勢を立て直し、遅れを取り戻すべくイン側を走る。

 太一とは一台分、先頭の綾乃とは二台分は差をつけられている。


「明人さん。さっき太一さんベタ踏みしてなかったですよ?」


 あの僅かな間によく観察できたものだ。

 もしやと思い、ほんのわずかにアクセルを戻す。

 するとエンジン音が変わり加速感が出た。


 速度が出すぎないように、このカートにはリミッターがついている。

 どうやら、そのリミッターが効く手前が、加速度的には一番伸びるようだ。

 太一の加速の正体は、これか。

 だが、微妙なアクセルポジションは位置によって車の伸びが微妙に変化する。

 これはキープするのが難しい。

 なんとかキープしつつ、太一の車を狙ってみよう。


 加速が増した車体は太一の車を徐々に捉えつつある。


「太一君、明人君が来たよ!」


 美咲が俺達に気づき、太一に声をかける。


「ぬあああ、気づきやがったか。でも、抜かせねえ!」


 イン側に寄せて抜かせまいとする太一。

 だが俺の目標は目の前の太一ではない。

 あくまで先頭の綾乃だ。

 おそらく、響が次のヘアピンで勝負を仕掛けるはずだ。

 そこが勝負の分かれ目になるはず。

 思惑通りに行ってくれれば、逆転のチャンスはある。


 響が外側に移動。『来た!』俺もその動きに合わせて、外側へ移動。

 綾乃はドリフト態勢に入ろうとするが、それに被せるように響がドリフトを始める。

 車体は斜めになり、綾乃は進行方向を防がれ、つい減速してしまったようだ。

 響はそのまま綾乃をブロックしつつ、自分は抜けきる策に出たようだ。


 そこまでは俺もこうなるだろうと読んでいた。

 俺は既にドリフト体勢に入っていて、さらに内側に切り込むルートを選択した。

 右には太一の車がドリフトに入ろうと車輪を滑らせながら、突っ込んでくる。

 だが、俺の車は既にがっちりとアスファルトを捉えている。

 もう、ここからは加速するだけだ。

 接触するかしないかのギリギリで太一をかわし前へ出る俺達の車。

 よし、成功だ。


「あ、明人さん。左!」

「え?」


 愛の声に左を見ると響の車がすぐ左前にいる。

 綾乃のラインだけでなく、俺のラインまで被せる作戦だったか。


「甘いわよ。それくらい読んでたわ」


 響が無表情に声を上げる。

 くそ、一枚上手かよ。このままでは突っ込んでしまう。


「明人さん、一緒に逝きましょう」


 横の愛が覚悟を決めたように言う。

 いや、だからね。言葉というものを選んでくれる? わざとなの?

 おかげで減速が遅れた。俺の車と響の車の側面が接触する。



「随分と荒っぽいじゃない。いいわね。ちょっと燃えるわ」


 響は怒るどころか、珍しくにやっと笑った。

 何、こういう熱い勝負好きなのお前?

 弾き合う車と車、そのせいでお互い減速してしまう。


「くっ!」

「まだいけるわ!」


 お互い体勢を崩しつつも、なんとか立て直す。


「復活です!」


 その隙を突いた綾乃が外側から突っ込んでくる。

 だが、さらに外には太一も並んでいる。


「俺もいるぜ。まだ負けたわけじゃねえ!」と太一が吼える。


 気がつけば、ほぼ横一線。差はほとんど無い状態だ。

 残りのバックストレートで勝負が決まる。


 ――――ほぼ同時にゴールイン。

 

 唸りを上げてゴールを駆け抜けた俺達はそれぞれカートを停止させ降り立つ。

 誰が一位か分からない。それぐらい僅差の勝負だった。

 係員さんが今のレース結果を印刷している。


「うわー、興奮した」と大喜びの美咲。

「手に汗かきましたよ」と綾乃。

「ちょっと燃えたわ」とかすかな笑みを浮かべる響。


「「結果まだ?」」

 アリカと太一は早く結果が知りたいようで、係員さんにへばりついている。


「愛は明人さんと一緒にいられて幸せです」

 愛は俺の背中にへばりついている。

 それ、勝負とは関係ないよね?

 ほら見ろ。美咲と響が手刀を抜きながら、こっちに来たじゃないか。

 


「結果出たよー」

 アリカの声にみんなが集まる。俺は脇腹を押さえながらだが。


 僅差のレース結果は――一位、美咲太一ペア。

 二位、アリカ、響ペア。三位、綾乃。

 俺と愛が最下位だった。


「よっしゃー!」

「やったー」

 喜ぶ太一と美咲。ハイタッチで喜びを分かち合っている。


「あら、残念」

「惜しかったわねー」

 響は無表情に言い、アリカは残念そうだけど笑って言った。


「ああ、重さで有利と思ったのにー」

 肩を落とす綾乃。


「あちゃー、負けちゃったね」

「逝けると思ったんですけどねー。最後に頑張りきれませんでしたか」

 ねえねえ、もしかして、わざと言ってる?

 セリフがすっごい引っかかるんだけれど。

 それとも俺が妄想し過ぎなのか?


 ともあれ、白熱したレースに満足した俺達は、ゴーカート場を後にする。

 足を進めていると、風に乗って肉を焼いたような香ばしい匂いがした。


「お、いい匂いがする。そろそろ飯時が近いかな?」

 飯時という言葉と、匂いに反応したのか、横にいたアリカから『ク~』と音が聞こえる。

 つい、アリカの方に顔を向けてしまう。

 アリカは顔を真っ赤にして「たはは、お腹すいちゃった」と笑った。  


「危険です! 香ちゃんは餓えると人を襲います。明人さん離れてください!」

 愛が俺の腕を取って、アリカから距離を取らせる。


「ちょ、愛、あんたなに人聞き悪いこと言ってるのよ!」

「そういえば、そうだったわね」

 響も一歩下がってアリカから距離を取る。

 アリカを攻める時愛と響は恐ろしいコンビネーションだ。


「ちょ、響まで何言ってんのよ、襲わないし!」

「そ、そうなんですか?」

 と、太一の陰に隠れながら聞く綾乃。

 兄は襲われてもいいらしい。


「大丈夫よアリカちゃん。人を襲わないように私が抱っこしていてあげるから、さあ来なさい!」

「遠慮します」

 美咲の誘いにとても冷静な顔で拒否するアリカ。


「明人君、今アリカちゃんに素で遠慮しますって言われたよ?」

 俺に言われても困るだろ。

 今までの自分の行いに、手を胸に当てて聞いてみろ。 


 とりあえず、腹が減ったのはアリカだけではないだろう。

 俺も腹は減り気味だ。少し早いが昼食としよう。


 どこがいいかな?

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ