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帰路  作者: まるだまる
130/406

129 アトラクション3

「みんなが出てくるまでに泣きやんどけよ」

 そう言って、まだ泣き止まないアリカの頭をポンポンと撫でる。

 こくんと頷く素直なアリカ。本当に幼い子供のようだ。

 こう見るとアリカは可愛い。普段とのギャップ萌えというやつだろうか。

 美咲が『可愛いよー、くんかくんか、アリカちゃん可愛いよー』と言うのも、わかる気がする。


「……くすん」

 軽く鼻をすする音が聞こえているが、泣いている顔を見られるのも嫌だろうから背中を向けておく。

 すると俺のシャツの裾をぎゅっと握った。

 アリカは慌てたりすると、何かを持つ癖があるようだから、持つことで精神安定につながるのだろう。

 そう思って、そのまま持たせておくことにした。


 数分が経って、出口から響がひょうひょうと出てきた。相変わらずの無表情だった。

 こいつはすべての仕掛けを無表情で抜けてきた気がする。

 あれ? そういえば響だけ?


「太一はどうした?」

「途中で目と目が合っちゃって、仕方ないから置いてきたの」

 哀れ太一。目が合ったら固まることを忘れるとは。


「お前は全然平気そうだな?」

「昔から、こういうのは作り物だと思って見てしまうから」

 冷静で現実的な響らしい答えだ。

 だが、少しだけ憂いがあるように見えるのは何故だろう?


「もっと純粋に楽しめたらいいんだけど、こういう時、……自分が嫌になるわ」

 響は響で、自分の性格が嫌いなところがあるのだろう。

 これもまた一つ響を知ったような気がした。

 響はちらっと俺の背中越しにいるアリカを見ると、珍しくふっと微笑んだ。


「……ちっとも変わらないわね」

 なにか懐かしいような目をしてそう呟いた。

「な、なによ」

 アリカが気づいて俺のシャツを離し響を睨みつける。

「いいえ。何もないわ。気にしないで」

 そう言う響の表情は、いつもと同じ無表情だった。


 それからしばらくして、アリカが落ち着いた頃、太一たち四人がドタバタと出口から突っ走ってきた。

 どうやら、おいてけぼりにされた太一は中で合流したようだ。

「うわー、びっくりしたー。ゾンビが実際に出てくると思わなかった」

「去年はあんなの、いなかったですよ。あーきもち悪かった」

 美咲と綾乃が息を弾ませながら言う。

 でもな、あの人たちはいい人なんだぞ。

 

 驚いたのは、太一が愛の手を引っ張ってきていることだった。

 愛は運動音痴で足も遅いと言っていた。

 太一よ、遅れそうな愛を引っ張ってくるなんて、やるじゃねえか。


 と、思ってたんだが……。

「太一さん離してください。あいつら、みんな削ぎ落とします。今の愛なら駆逐できますから!」

 太一の手を振りほどこうとして、出てきた出口に顔を向ける愛。

 殺る気満々だった。


「だから、削ぐのも駆逐も駄目だってば!」

 どうやら、愛の暴走を食い止めていたらしい。苦労ばかりしてるな太一は。

 いつか実るといいな、その苦労。


 こうしてみんなが揃ったところで、少し休憩がてら散策することにした。

「変に映る鏡の通路でキョロキョロしてたらよー。響と目が合っちまってさー」

 太一が中で起きた状況をみんなに説明する。主に俺とアリカにだが。

 かなり最初のほうじゃねえか。なにやってんだお前。

「太一くんが、私の顔を見てヘラヘラするのが悪いのよ。つい、力んでしまったわ」

 響が悪いのか、太一が悪いのか、よくわからんな。


 散策しながら移動していると、ジェットコースターに行く途中にあったショップが見えた。

「少し寄っていくか?」と聞いてみると、みんなも見たいと言い出し寄ることになった。


 店の中に入ると、定番の缶に入ったクッキーやキャンディー、それと遊園地にいるキャラクターグッズやらが置いてある。入った時に会ったイメージキャラクターのポーンとアルトの縫いぐるみも大中小とサイズ違いに棚に並んでいた。ポーンは優しそうな顔で、アルトは人参を片手に持っている。


「うわー、これ可愛いー」

 美咲がマグカップを手にして言った。


 マグカップは、ポーンとアルトが小さな魔女から逃げている絵が描いてある。

 小さな魔女がムチを振るっている。

 なぜ杖じゃなくてムチなのか、よくわからないが、そういう設定なのだろう。

 一通り見物して店を後にする。帰る前にもう一度寄ることにしよう。

 今、買っても荷物になるだけだしな。

 美咲も何個か買いたいものができたようだった。


 また乗り物コーナーへ移動。


 選んだのはゴーカート。ガラガラだったから選んだのだが。

 一応、みんなに聞いてみたところ、このゴーカートは美咲以外経験していた。

 美咲だけ、係員さんに頼んで練習をさせてもらう。


 このカート基本二人乗りである。左右両方にハンドルとアクセル、ブレーキがついていて、どちらからでも運転できる。ゴーカートといえばやはりレースだろう。話を振るとみんなもそのつもりだったようだ。


 そこで今回のルールは、二周目で運転手を交代して、実施することになった。

 一人だけあぶれるが、そいつはそのまま運転を続けることにしよう。

 その代わりスタートを一番外側からのスタートにすれば、問題ないだろう。


 ここでのじゃんけん勝者は、愛だった。

「うふふふふ。やっと回ってきました愛の出番」

 愛は喜びのあまりくるくると高速乱舞していた。


 二人乗りのカートで俺と愛が赤の車。美咲と太一が青い車。アリカと響が緑の車。そして黄色い車に綾乃が乗車。  じゃんけんでポジションを決め、内側から美咲太一号、愛明人号、アリカ響号、綾乃号の順番に並ぶことになった。

この組み合わせで勝負。ただ乗るだけじゃなく勝負となるとやる気が変わる。このゴーカートは全長二〇〇mのコースを二周する。ちゃんと各車のラップタイムも記録され、勝負が判定できるようになっている。しかも、ハンディキャップもあらかじめ設定できる優れものだ。今回はハンディキャップなしで勝負。要求されるのは運転テクニックと交代の要領の良さだ。


 係員の指示に従い、スタートラインに並ぶ。


 運転は一周目が愛で、二周目が俺ということで話は決まった。

 他の車を見ると、綾乃以外は、一周目を美咲、アリカが運転するようだ。


「任せてください。これは愛も香ちゃんと勝負したことありますから。勝ったこともあるんですよ」

 と頼りがいのある言葉が愛から出る。

 これはマジで期待できるかもしれない。 

 愛は言葉通り慣れた感じでアクセルを軽めに踏み込みながらブレーキで押さえている。

 スタートダッシュをするつもりだろう。

 スタートを制する者がレースを制するという言葉もある。

 それぞれのカートが唸りを上げる。

 どうやらみんな同じことを考えているようだ。

 これはますます面白い。


 目の前に赤、赤、緑の信号機が見える。三つ目の緑が点灯したらスタートだ。

 一つ目の赤いシグナルが点灯する。二つ目のシグナルが点灯。

 緊張みなぎる、この一瞬。三つ目の緑のシグナルが点灯と同時に『パアアアアアア』と音が鳴る。


 ――各車、一斉に飛び出した。


 わずかに先行したのは、美咲、次いで愛、その次が綾乃、わずかに出遅れたのがアリカだった。

 しかし差はほとんどなく最初のコーナーリングまで並走が続く。

 一人乗りのせいか。少しずつ前に出る綾乃の車。アリカの車もじわじわと追い上げてきている。

 横一線のコーナリング。ビビったものが負けだ。


 ここで最初に大きく膨らんでしまったのが美咲。

 寄ってきた美咲号を見るや、愛が咄嗟にブレーキングと同時にハンドルを内側に切って、即座にブレーキ解除、アクセル全開。

 瞬間的によくそこまで操作できるものだ。

 だが、その操作で美咲が膨らんだ内側へと車をすべり込ませることができた。

 その勢いのままコーナリングに入る。

 愛ってば、実は俺より運転がうまいかもしれない。


「うわわわわ!」と美咲の慌てる声が聞こえる。

 どうやら外へ流されているようだ。

 その隙をついて綾乃が大胆にも外側から美咲を抜き去る。微妙に出遅れたアリカは、まだ様子を見ているようで、無理に攻めず美咲の内側に付けるだけに留まった。どうやら作戦を組み立てているようだ。


 コーナーリングを抜けた現在、愛、綾乃、美咲、アリカの順でカートは進んでいる。

 愛とアリカの差は二車体分は空いている。

 この差を埋めるチャンスはまだ十分にあるので注意が必要だ。


 次のコーナーリングが見えてくる。


 ここはヘアピンカーブになっていて、操作を間違えるとやばいエリアだ。

 ヘアピンカーブの手前で、綾乃が勝負を仕掛けてくる。

 ここで勝負を仕掛けてくるとはチャレンジャーめ。

 アウトサイドから唸りを上げながら、後輪を滑らせる。

 まさかのドリフトだ。


「くっ!」愛が咄嗟に対応できないようで苦悶の表情を浮かべる。

 その証拠に俺達の車体は外側へ膨らんでしまった。

 綾乃の車がその隙をついて愛の内側へと切り込むように抜き去る。

「ああ、やられたあ!」と悔しそうに呟く愛。

 だが、刺客は一人だけではなかった。


 キュキュキュキュ――とドリフト音を立てながら、綾乃の後ろに続くもう一台。アリカだった。

「もらったー!」

 いつの間に追い上げていたのか。

 死角からの刺客とは。つまらないことを言ってる場合じゃない。

 綾乃の狙いを読んでいたかのように後ろから追撃。

 愛は態勢を立て直すも、一台分ほど離される。


 美咲はヘアピンカーブに苦労したみたいで、さらに距離は空いてしまっている。

 トップは綾乃、じわじわと追い上げるアリカ。そして俺達が続き、美咲が遅れを取り戻そうと必死のようだ。

 まもなく、二周目の運転手チェンジポイント。


 まだ負けたわけじゃない。ここからが勝負だ!


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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