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帰路  作者: まるだまる
129/406

128 アトラクション2

 次はどこに行こうかとみんなに聞くと、太一が乗り物だけじゃなく、ホラーハウスか迷路に行こうと言い出した。確かに乗り物ばかりが、遊園地ではない。それに俺も、ここのホラーハウスは初めてだ。

 他のみんなも同意したが、アリカだけが強く迷路を推していた。


「香ちゃん怖いの駄目だもんね」

 愛がニタニタと笑って言うと、

「ぜ、全然怖くなんかないし! どうせ作り物だし」

 と、ばればれの態度を示すアリカだった。


「アリカ、あなた、中学の時の校外学習で来たときも嫌がってたじゃない」

 響がアリカを追い詰めるかのように、昔話を持ち出す。

「あ、あれはあんまり時間なかったからだし!」

 さらに意地を張るアリカ。

 怖いから嫌だと言えばいいのに。意固地な奴だ。


「んじゃあ行く?」

 愛がにたぁと邪悪な微笑みを浮かべて言う。

「い、行ってやるわよ。全然、怖くなんかないんだから!」

 完全に意地を張ってしまったアリカは、ホラーハウスの方向へとずんずんと歩き出した。

 知らねえぞ。自分で蒔いた種だ。自分で回収しろ。


「天然ですなあ。可愛い」

「そうですねえ。萌えます」

 美咲と綾乃がアリカの背中を温かい眼差しで言った。

 お前ら仲いいな。


 ずんずんと足を勧めていたアリカだったが、ホラーハウスが見えた途端、気持ちが萎えたようだ。

 くるりと振り返って、

「あ、あのさー、やっぱり迷路で頭使うってのどう?」

 その顔は少し引きつっていた。


「「却下!」」


 急に弱気になったアリカの発言を、愛と響は容赦なく切り捨てる。

 お前らも仲がいいな。

 一縷の期待を却下されたアリカに先程までの勇ましさはなく、しょぼくれている。


「あのビビりっぷりも可愛いですなあ」

「そうですねぇ。萌え要素が豊富ですねえ」

 また美咲と綾乃がアリカの背中を温かい眼差しで見ていった。

 お前ら、マジで仲がいいな。


 ホラーハウスは客付きがなく、すぐにでも入れるようだ。

 今回は三組に分かれ、二人、二人、三人で入ることになった。

 ここでまたもじゃんけん大会。

 参加者は響、愛、アリカの三人。

 美咲と綾乃は一度勝っているため、一巡するまで参加しないようだ。


「こ、これは、先に勝ってしまったのは失敗だったかもしれない」

「美咲さん……私も今、切実にそう思ってます」

 二人してそう言うとお互いに抱き合って慰め合っていた。

 仲がいいのはわかったから、変な世界に入るな。 


「「「じゃんけん、ポン! あ」」」

 じゃんけんの結果は一発でアリカに決まった。


「……よ、よりによって、こんな時に勝つなんて……」

 アリカは出したグーの手をぷるぷると震わせる。


 組み合わせは、俺とアリカ、響と太一、美咲と綾乃、愛の組み合わせに決まった。

 青ざめた表情のアリカに入場する直前に話しかける。


「怖かったら、服でもなんでもいいから、しがみついとけよ」

「だ、大丈夫だって…………多分」

 いつもの自信ありげなアリカの姿はなく、そこにいるのは怯えた幼い女の子だった。


 カードをかざし中に入ると、通路が暗幕のカーテンで閉じられていた。

 そこをくぐると始まりのようだ。

 重く厚いカーテンをくぐると、真っ暗――ではなかった。

 確かに薄暗いが、構造物や通路は見えている。てっきり真っ暗なものだと思っていたので拍子抜けといえば拍子抜けだ。しかし、アリカにはそれすらも効果があったようで、入口では大丈夫と言っていたのに、もう俺の腕にしがみついていた。これで胸があれば、気持ちも良かったろうに。

 いつもなら、こんな事を考えていたなら睨んでくるアリカなのに、その余裕はないようだ。

 震えながら周りをキョロキョロとして明らかに怯えている。

 とりあえず、通路を進んでいくと、通路の左右に西欧風な人物画が飾られたところに出た。

 ただ飾ってあるだけだが、薄暗いところで見る絵画は気持ちのいいものではない。


 アリカを引っ張るように前進すると、絹を引き裂くような女の悲鳴が聞こえる。

 その途端、アリカはびくっとして、ぎゅうっと俺の腕を締め付ける。

 オーソドックスな仕掛けだ。これなら俺は冷静でいられる。


「アリカ、音だけだ。何もないぞ」

「う、うん」

 俺がそう言うとアリカは小さく返事して、締め付けた腕を緩める。


 そのまま前進すると、また女の悲鳴。アリカの身体が大きく揺れる。

 この様子だと、すべての仕掛けで、この状態になりそうだ。


「同じ仕掛けだ。大丈――」

 大丈夫だと言おうとした途端、絵画が倒れる。

 オーソドックスな仕掛けだが、アリカがいるほうの壁の絵画が倒れたのが悪かった。

「きゃああああああああああああああああああ!」

 その動きにびっくりして、アリカが可愛い悲鳴をあげて抱きついてくる。

 普通ならラッキーと言えるかもしれないが、この子は馬鹿力だ。

 そうだな、わかりやすく別名で言おう。何者でもないベアハッグだ。


「ぐおおおおおおおお!」

「きゃー、きゃー、きゃー、きゃー」

 アリカは喚きながら俺の胴をぎりぎりと締め上げる。 


「お、俺が死んでしまうわ!」

「きゃ……ご、ごめん」

 俺の一言で我に返ったアリカは、ぱっと離れるもののやっぱり怖いのか。俺の腕を掴んだ。

 危ない。あのまま絞められてたら、背骨がやられてたかもしれない。


 これは俺にとって別の意味で恐怖の館になるのでは?

 しかし、進まないことには埒があかない。とりあえず、道をすすめる。


 次に来たのは左右に鏡があるところ。

 左右の鏡には凹凸がつけてあるのか、鏡に映る自分の姿が小さく見えたり、細長く見えたりした。

 アリカも怖々と鏡をチラチラ見ている。

 微妙に凹凸に変化をつけているのか、一枚抜けるたびに鏡の中の俺達も変化する。

 数枚の鏡を抜けたとき、斜め上からスモークが吹き出した。


「うお!」

「ひぃ!」

 突然だったので俺も驚いて声が出てしまった。

 アリカも小さく悲鳴あげてビクッと大きく体を揺する。

 スモークに驚いたのではなく、俺の声に驚いたようだった。


「びっくりした。これだけか?」


 上を見上げながら先へ進むと、噴射口らしきものが見える。

 またかと思って近づくと、地面が急に『ブブブブブブブブブ』と振動した。

 上はフェイクか!

 上に気を取られていたので、「うお!」とまた声が出る。

 だが、それよりも振動がアリカを捉えていた。


「いやあああああああああああああああ」

 悲鳴と同時に俺の腕をがっちり掴んで振り回すアリカ。

「え? うわあああああああああああああ」

「いやああああ、いやあああああ、いやああああああ」

 悲鳴を上げながら、俺を左右に振り回すアリカ。

 お前どんだけ馬鹿力なんだよ。

「ちょ、まてまて! やばい、やばい、やばい」

 空中を右へ左へと振られる俺。

 なにこの絶叫系、新世代の乗り物か?。


「いやあああああああ!」

 アリカは恐怖のあまりか、我をなくしているようだ。

「止まれえええええええええええい!」

 俺の声がようやく届いたのか。

 アリカがぴたっと動きを止める。 

 

 アリカが急に動きを止めたせいで俺は慣性の法則にしたがって投げ飛ばされた。

 いてえ。


「あ……ご、ごめん」

「だ、大丈夫だ」

 これはやばい。

 この先どれだけの仕掛けがあるのかわからないが、その度にこれだと身が持たないぞ。

 ……これは慎重に仕掛けを回避せねば! このホラーハウスが真の恐怖館になってしまう。

 

 だが、俺の思惑もここの設計者には通じなかったようで、ことごとく仕掛けに引っかかった俺達だった。

 基本的に何かに気を取らせているあいだに仕掛けが作動なのだが、巧妙に隠されている。


 壺が置かれたディスプレイのところは、壁に人影が移り、仕掛けが来るかと思った瞬間、壺の腹から手がニョキッと生えてきた。ここではパニクったアリカに首を絞められた。


 呪いのビデオに出てきそうな井戸があって、そこから何か出てくるんじゃないかと思わせて、井戸自体が滑ってきたりとか、意表をつくのが多い。

 ちなみに、ここでは、アリカが俺を盾にして井戸をせき止めた。


 それでも道を進めていると、鏡の通路に出た。今度の鏡は普通の鏡だ。

 時間的にも、そろそろ終盤のはず。左右を見ても鏡に映るのは俺達だけ。

 最後にしては妙にあっけない。


 通路の中ほどまで来たところで、仕掛けが作動。

 鏡だった物が突如映像に切り替わり、大量のゾンビが映っていた。

 結構ゾンビの見た目もちゃんとしていて、グロイ。

 アリカの身体がびくびくっと大きく揺れたが、映像と認識できたのか、それだけにとどまった。

 助かった。最後の仕掛けがこれくらいですんで良かった。


『……あ゛あ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛』

 ゾンビの声だろうか。音声が聞こえる。しかし、映像だと怖くない。

「あ゛あ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛……」

 後ろからも音声が聞こえる。 あれ? 生々しいぞ?

 後ろを振り向くと、映し出されたゾンビたちが通路に出てきていた。


「うお! マジか!?」

 言葉に出したのが悪かった。アリカを振り向かせてしまった。

 大量のゾンビを見てしまったアリカはひくひくと顔を引きつらせ、

「い゛、い゛やあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 悲鳴を上げつつ、俺の腕をガッチリ掴み、ものすごい力でゾンビ目掛けて投げつける。

 そのままアリカは走って逃げ出した。

 おい、普通人を投げないだろう?


「うわあああああああああああああ」

 悲鳴を上げながらゾンビの方向に飛んでいく俺。

 ゾンビたちも慌てているようだが、俺にはどうしようもない。

 だが、心優しいゾンビたちだったようで、飛んできた俺を数人でキャッチ、静かに降ろしてくれた。

 

 ありがとうゾンビたち。

 俺、ゾンビにもいい奴がいるって覚えとくよ。

 俺はゾンビたちに頭を下げると、アリカを追って走り出す。


 少し走ったところで入口と同じカーテン。抜けると明るくなって出口だった。

 出口には俺を投げ飛ばしたアリカが立っている。背中を向けているので表情はわからない。

 これは怒ってもいいよな。


「ア~リ~カ~」とアリカに怒りながら近づくと、俺に気づいて振り向く。

 その顔は大粒の涙をポロポロと落としていた。

 どうやら中で色々我慢していたようで、ピークを超えてしまったようだ。


 こんな顔見たんじゃ怒るに怒れないじゃないか。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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