126 遊園地3
トイレから戻りみんなと合流する。
俺達が離れた時よりも、かなり前に進んでいた。
美咲は綾乃にコースターの話を聞いているようだ。
響と愛とアリカはガイドブックを手にして、次はどれに乗ろうかと相談中だった。
「あら、おかえりなさい」
響が無表情に言い、ガイドブックを鞄にしまう。
「ただいま。結構前に進んだな。これだと早いな」
「ええ、そうね。ところで、今日の集合したときに確信したことがあるのだけれど」
「なによ。改まっちゃって?」
響の言葉にアリカが問う。
「私、明人君の事を好きになってるようなの」
「「「「「「はい?」」」」」」
………………一瞬で場の空気が凍りつく。
なんだ、この急展開?
「……それは、友達としてか?」
恐る恐る聞いてみると、
「いいえ、これは恋に昇格したと確信してるわ」
こういう時の響の無表情が厄介で本音かどうか掴めない。
「あははは。やだなー響ちゃん。こんな時に冗談言うなんて」
美咲が冗談ぽく笑っていうと、
「冗談ではないのですけれど?」
いつものように響は無表情に言った。
「なんで? いつからよ?」
「そうね。多分ファミレスで明人君と話した時だと思うわ」
アリカの問いにも淡々と無表情に答える響。
響の言葉にみんなそれぞれに困惑した表情になる中、愛が一歩前へずいっと出る。
「んふふふふふふ。それは、愛に挑戦状を叩きつけたと思っていいですか?」
愛の目に黒い炎が浮かんでいる。
「そういうことになるわね。前に自分で言ったことが本当になるわ。今後は正式に明人君を狙います。ああ、明人君は気にしないでちょうだい。私を知って、私と付き合っていいと思ったら返事してくれたらいいわ。それまでは私も普通でいるから。それに……まあ、これは言わないほうがいいわね」
響はぐるりと周りを見渡して静かに言った。
「……ああ、分かった」
俺には、こう返事しかできなかった。
「ふっふっふ。分かりました。愛も受けて立ちます。ただし、明人さんの迷惑にならない方法で」
「望むところよ。それ以外は仲良くしましょう」
静かに愛と響が火花を散らす。
お前らの無表情が怖いよ。
愛は少し頭を傾げると、何かを思いついたようでぽんと手を叩く。
「すいません、明人さんと太一さん順番取っておいてください。他の人は愛についてきてください。ちょっと、お話したいことがありますので。香ちゃんも来てよ」
愛はそう言うと、響と一緒に美咲、アリカ、綾乃も連れて、少し離れた場所に行った。
愛がみんなを指差して色々と話している。
声までは聞こえないので愛の言ってる内容は分からないが、それぞれの表情が気になる。
美咲は表情を引き締めているように見えて、アリカは驚愕した表情をしているよう見えて、綾乃は不安そうな表情を浮かべて、響は相変わらずの無表情で、愛はバーニング状態の時にみせる表情だった。
愛が手を前に差し出すと、その手に響が手を重ねる。
それに続いて美咲が重ね、綾乃が続いた。最後にアリカが決心したような表情で手を重ねる。
さっきまでの表情は消え、皆が挑戦的な目をしている。
重ねた手が解き放たれると、愛がみんなを連れて戻ってきた。
「明人さん。話し合い結果が出ました。愛と響さんが平等になるように、他の3人にも協力してもらいます。ねっ?」
愛がみんなに言ったセリフに美咲とアリカ、綾乃は少し驚いたようだが、こくっと頷いた。
「ということで、遊園地内でのアトラクションは、公平な勝負の結果、明人さんと組むということでお願いします」
「では早速、決めようかしら?」
「はい。わかりました。勝負はじゃんけんで決めるんですか?」
「愛は難しいの苦手なので、手っ取り早いからそうしましょう」
「太一くんもいるから一番最初に負けた人が一人で乗るほうがいいよね?」
響の提案に矢継ぎ早に修正が入るが、それぞれ合意したようだ。
「「「「「じゃんけん、ポポポポポポン!」」」」」
目の前でものすごい速さでじゃんけんが繰り広げられる。
何、この達人じゃんけん。
お前らどれだけ場数、抜けてきたんだよ?
「あら、負けちゃった」
「あー、残念です」
「愛の馬鹿。なんでパー出さないの」
アリカ、綾乃、愛の順で負けていく。
「さあ、響ちゃん勝負だ!」
指をわきわきとさせて、気合を入れる美咲。
「望むところです」
静かなること林の如くを地でいく響が迎え撃つ。
「「じゃんけん、ポポポポポポポン!」」
瞬時にあいこだと判断して、次の手を出し、七回目で二人の手がぴたっと止まった。
この達人じゃんけんの結果としては、美咲はチョキで、響はパー。
「勝った!」
「あら、残念」
「それじゃあ、最初は明人の隣は美咲さんということで。あたしが一人で乗ることにするね」
「「「了解」」」
「それじゃあ、私がお兄ちゃんの横に座りますね」
妹の残酷な宣言に太一はがっくりと項垂れる。
「明人。なんでお前ばっかりなんだよ?」
「ちょ、俺に聞くなよ!」
俺の責任にされても対応に困るだろ。
こうして勝負の結果、乗る順番に並び替えることになった。
俺の横に美咲、後ろには響と愛。そして太一、綾乃と続き、最後がアリカだ。
「明人君よろしく。はっ! 違う。春ちゃんにこれじゃあ駄目だって言われたんだった」
春那さんに何かを吹き込まれたようだが、嫌な予感しかしないのは何故だろう。
「何が駄目なんだよ?」
「明人君……痛くしないでね?」
おい、誰か至急春那さん呼んでこい。
ちょっと小一時間くらい説教しないといけないことができた。
俺は『美咲、そのセリフはこういう時に言うもんじゃない』と耳打ちした。
それを聞いた美咲は不思議そうな顔をして、どうやら分かっていなさそうだった。
美咲から顔を離した途端、右の脇腹に手刀が一撃。
「ぐあ!」
「誰がそこまでくっついていいと言ったかしら?」
手刀を引き抜きながら、響が無表情に呟く。
お前さっき俺が付き合うって言うまで普通でいるって言ったよな?
手刀使いになった件といい、意外と嫉妬深いのね。
これは不用意に誰かと距離を縮めると身の危険がある。
やばいぞ、これは。
「まあまあ、響さん。勝者には特権があると思いましょう。勝った時は愛たちもそうしてもらえばいいんです」
「一理あるわね。では今回のことは不問にしましょう」
いや、既にやられた後で不問にされても困るんですけど?
警戒するしかないじゃないか。
あとでまとめてドンなんてされた日には身がもたんぞ。
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