124 遊園地1
目が覚めた。
夢を見たような気はするが、覚えてはいない。
目覚ましの音が鳴る前にどうやら起きたようだ。
理由はわかっている。
今日はとうとう、みんなと遊びに行く日。
これが待ち遠しくて、身体が目覚めてしまったのだろう。
友達と一緒に遊びに行くのが、これほど楽しみだったことは今までにない。
昨夜の帰り道で、美咲が帰っても『興奮して眠れないかも』と、初めての遠足にでも行くような子供みたいな事を言っていたけれど、実は俺も同じだった。
ベッドに入ってからもなかなか寝付けず、自分で寝たというより、いつのまにか意識を失ったのが正解だったろう。
待ち合わせは、駅前のバスターミナルで九時に集合。
今の時間は六時半、早く起きすぎた。
今日は自転車ではなくバスで移動する。
昨日の帰りに家から一番近いバス停で時刻表は確認しておいた。
家を八時に出ておけば一本遅れても、集合時間の一〇分前にはバスターミナルにたどり着ける公算だ。
洗面を済ませ、朝食を取る。
リビング越しに外を見ると、天気はいい。
念のためテレビのデータ放送で気象情報を確認しても、降水確率は〇%、山間部のある地方で一〇%程度だった。
晴れ男がいるのか晴れ女がいるのかわからないが、遊びに行くのには最高のコンディション。
日中の気温はそれなりに上がるようだが、まだ五月ということもあり、夕暮れ以降は少し気温が下がるようだ。
薄い上着ぐらいはあったほうがいいかもしれない。
動きやすい方がいいだろうし、荷物も少ないほうがいい。
小さなショルダーバッグだけにしておこう。
空いた時間で、今日の予定を頭に描きながらアクセスと時刻表をネットで確認。
スタート地点のバスターミナル集合が九時だから、一〇分後のバスで移動予定。
総合会場まではおおよそ三〇分で到着する。
多少誰かが待ち合わせに遅れたとしても、一〇分刻みに総合会場行きのバスがあるので問題はない。
一番の問題は混雑だ。
GWのど真ん中で、どこもかしこもイベントをやっていて、混みあっているだろう。
七人で行動するので、混雑に巻き込まれて、はぐれないようにだけはしないと。
ネットで調べている間にいい時間になった。
玄関から出たときに母親の車がないことに気づく。
そういえば、昨日の夜も母親の車がなかったけれど、何をしているのだろう。
全くと言っていいほど家にいないような気がする。家に帰ってきていた痕跡はあるので、仕事から帰宅後にどこかへ行っているようだ。俺としては、顔を合わせなくて済むから助かるが。
最寄りのバス停まで向かい、しばらく待っているとバスが到着した。
このバスで移動なら集合時間の二〇分前には集合場所に着く。時間的に余裕ができるだろう。
こういうところは自分でもA型のせいなのかとも思ってしまう。
バスに揺られること三〇分ほどして、バスターミナルに着いた。
まだ九時前だというのに人の多さに驚く。
一応こういうことも想定して、集合場所はバスターミナルの一番端にしておいて正解だったようだ。
人混みを抜けて待ち合わせ場所へ向かうと、淡い青色の服にデニムパンツ姿の響がいた。
俺よりも早く来てるとは、そういえば響と待ち合わせしたときっていつも一番だな。
あいつもA型なのか?
響も俺に気づいたようで、無表情に手をひらひらとさせた。
俺も片手を上げて響の下へ寄っていく。
「おはよう響。早いな」
「明人君おはよう。私もほんの少し前に着いたばっかりよ」
「ところでさ、いきなりだけど響ってA型?」
「ええ、そうよ。明人君もでしょ?」
どうやら俺の言いたいことは分かったようで、無表情に淡々と答える。
「やっぱりわかる?」
「なんとなくA型とは思ってたけど。他の人はA型はいなさそうなんだけど」
「よくわかるな」
「なんとなくよ」
他愛のない会話をして、二人して待っていると、路線バスがターミナルエリアに入ってきた。
あの路線バスだと美咲と太一たちが乗ってきているはずだ。
人々の群れがバスから列をなして降りてくる、その中でげっそりとした顔の美咲がいた。
どうやらバスが混雑していたようで、苦しい思いをしてきたようだ。
美咲は俺達のいる方へ視線を向けると、俺達を発見したのか、途端に表情を明るくした。
とてとてと足を早めて、俺達のところへに向かってくる。
美咲の格好は、低めのパンプス、九分丈のベージュパンツ、淡い黄色のブラウスに、パンツに合わせたのかベージュの薄めの上着。動く分には問題のない格好だが、いつものラフな格好よりも大人びて見えた。
「おはよ~。すごい人だね。GWとはいえ、これじゃあ先が思いやられるよ」
美咲に俺と響が挨拶を返し、美咲に太一と綾乃のことを聞いてみた。
「後部座席の方にいたよ。降りるのに時間かかっちゃうかも」
太一と綾乃は乗った場所が早めだったのか、混雑する前に乗ったようだ。
それから少しして太一と綾乃がバスから降りてきた。
太一はアーミー系の上着を羽織っていて、下はカーゴパンツ姿。綾乃はいつもみたいなダボダボ感はなく、淡い緑のブラウスに下にインナー、七分丈のデニムパンツ。今までだぼだぼな感じの服装しか見てなかったからだが、まだ中学生の小柄な身体をしてるのがわかる。
昨日買ったブラウスは今回はチョイスしなかったみたいだ。
二人とも遊園地に行くし、ボウリングもあるから妥当な線だろう。
集合時間まで、まだ一〇分ほどあるなか、また路線バスが一台ターミナルに入ってくる。
あのバスにはおそらくアリカと愛が乗ってきているはずだ。
降りる乗客を見ていると見慣れたツインテールとサイドポニーの髪型が二つ見えた。
アリカと愛はキョロキョロとすると、俺達を見つけ手を振る。
俺達もそれぞれに手を振って返すと小走りに二人が寄ってくる。
「おはよー。すごい人だね。これ今日大変かも」
「おはようございます。今日はお願いしますです」
二人の挨拶にそれぞれが返し、これで全員集合となった。
少しばかりアリカの格好に驚きを隠せなかった。まさかのホットパンツで来るとは思わなかった。
ひざ上まである黒のニーソ、ホットパンツとの間から露出する太ももが色気を出している。
上はピンクのインナーとふわっとした白いブラウスでシンプルにしている。
正直、いつもよりも可愛さが増している。
服装一つでこれほど変わるのは驚きだった。
もうひとつの驚きが愛が丈の短めの花柄のスカート姿できたこと。
しかも膝上だけど、それって短くない?
遊園地とかには向いてないような気がするのだが。
「明人さん。この服どうですか。とっておきの一つなんです」
愛が俺に寄ってきて、聞いてくる。
可愛いのは認めるけれど、やはりTPOを考えると今日の服装としては向いてないのではないだろうか。
「可愛いよ。でも今日遊園地だから、下着見えないように気をつけてね」
「え? ああ、それなら大丈夫です」
愛はそう言うとスカートの端を摘んで、ピラりと捲り上げた。
持ち上げられたスカートの下には、下着ではなく黒のスパッツ姿。
ちょうどスカートで隠れる位置にある。
「これだと見えても問題ないでしょ?」
即座に反応してしまうのは男の性か。
つい、スパッツに目を囚われてしまう。
アリカが素早く飛び上がり愛の頭をはたく。
「この馬鹿! なにスカート捲ってるのよ」
「あいだっ! 香ちゃん頭ぶたないでっていつも言ってるでしょ」
今、気づいたけど、愛の頭をはたくとき、いつもジャンプしてたんだな。
そうだよな届かないもんな。
愛もそんな叩かれ方されたら、体重が乗って痛いだろう。
叩かれた拍子にスカートも元に戻ってしまった。
何でだか、心の底からがっくり来た途端、
「ぐは!」
俺の両方の脇腹に手刀が突き刺さる。
「うふふふ。明人君は何をスカートの中まじまじと見てるのかな?」
「明人君、変質者みたいな目をしてるわよ?」
一人は美咲、もう一人は何故か響。
マジかよ。手刀使いが増えてしまっている。
見てたの俺だけじゃないだろうと、太一を見ると綾乃がフルボッコ中だった。
太一が空中に浮いているところから、相当重い一撃を食らったようだ。
太一より幸せなので我慢しよう。
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