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帰路  作者: まるだまる
121/406

120 恋愛≒好意8

 アリカに潰されかけて頭痛がまだするが、どうやら気は済んだようだ。

 今では、さっきまでの加害者と被害者が俺の目の前で仲良く笑顔でマフィンを食べている。

 巻き込まれた犠牲者は可哀想だと思え。

 俺がマフィンに手を伸ばそうとすると、美咲は微笑んでくれるが、アリカは瞬間的に睨んでくる。

 とても食べづらいから、やめてくれませんか?

 手を叩かれないだけましだったが、せっかくのマフィンが台無しになるじゃないか。


「ふー、意外と多かったねー。もうお腹いっぱいだよ」

 美咲がお腹をさすりながら言う。


「愛ったら作りすぎなんですよ。明人だけじゃ悪いからっていって、張り切っちゃって」

 そういうところの愛は本当にいい子だよな。

 愛を嫁に貰ったら、食事にだけは困らないような気がする。


 普通に考えても、愛は彼女にする条件としては整っていると思う。

 顔は可愛い、スタイルもいい、料理は出来る。愛想もいい。

 尽くすタイプのようだし、男にとっては、かなりの好条件が揃っている。

 少し積極的過ぎるのが難だが、それを補うくらいの魅力はある。

 太一が愛の事を好きだといったのも、それを考えると頷ける。

 

 だけど、今の俺には正直、太一の気持ちは分からない、いや分かっていない。

 嫌な気持ちはないけれど、恋愛という気持ちが分からないからだ。

 人を好きになるって言うのは、どういう感じなんだろう。

 俺にはまだ分からない。

 恋愛感情ってものが、よく分からない。

 何がどうなれば、恋なんだ?


 目の前の幸せそうにマフィンを食べている二人に目をやる。

 さっきまでおなかいっぱいとか言ってたのに、まだ入るのか? 

 それはさておき、ちょっとこの二人にも聞いてみよう。


「なあ、二人とも。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」

「わに?」

 美咲、マフィンを口に入れたまま答えんでいい。


「ん? ん、が、ぐっぐ。――――こ、紅茶、紅茶!」


 アリカはアリカで急に話しかけたぐらいで喉につっかえてんじゃねえよ。

 お前は、お魚咥えたドラねこを追いかける伝説の若奥様か。

 アリカが紅茶で一息入れるのを待って質問してみた。


「人を好きになるって、どういう状態だと思う?」

「「へ?」」 

 二人ともぽかんと口を開けて、俺が何を言ったのか分からないような様子だ。


「だから、人を好きになったらどういう状態になるんだって聞いたんだ」

「あっはっはっは。やだな。明人君……それマジ質問?」

 美咲が手をパタパタと振りながら言ったが、俺の顔を見て冗談ではないと思ったようだ。


「な、何、明人。気になる子でもいるの?」

 アリカが椅子から立ち上がって、顔を近付けながら言う。

 何を慌ててるんだこいつ。

 それよか早く答えてくれ。


「いや、そうじゃない。俺よくわかんないんだよ」

「「何が?」」

「何がって、恋愛感情ってやつ」

「「はあ?」」

 さっきから二人ハモってばっかりだけど、仲いいよなお前ら。

 聞いたのはいいが、どう説明していいか、分からなくなってきた。


「どうなったら、相手のことが好きだって自覚できるのかな?」

 これであってるよな? 

 俺がそう言うと、なぜか二人とも顔を赤らめてモジモジしだしめた。

 そんなに言うのって恥ずかしいのか?


「あ、明人君も、そういうのに興味持ち始めたの?」

「いや、興味が無いわけじゃないけど。自覚症状ってのが知りたいなって思って」

 何か二人とも妙に言いにくそうな顔してるけど、やっぱり恥ずかしいことなのかな?

 それとも、実はまだ二人とも恋をしたことが無くて、恥ずかしいと思っているのか?


「その人をついつい目で追ってしまったり」

 美咲がぼそぼそと呟く。

「その人と目があった瞬間、ドキドキしたり」

 アリカもボソボソと恥ずかしそうに呟く。


「今頃、何してるんだろうって、思い起こしたり」

「その人が他の子と話してると気になったり」


「その人のこと考えて眠れなかったり」

「その人のこと考えると丼がお茶わんに」


「その人に声をかけられると嬉しくなったり」

「その人からメールこないかなって携帯見たり」


「その人に触れてみたいと思ったり」

「その人に優しくされたら、後でニヤニヤしたり」


「その人の――」

「その人に――」


 これ、どこまで続くんだ?

 てかアリカ、途中、おかしいのあったよね?

 食欲がなくなるなら分かるけど、丼からお茶わんは色気ないぞ?


「他の子と楽しそうに笑ってると、イライラしたり」

「他の子に鼻の下伸ばしてたら、とことん追い詰めてやろうと思ったり」


「他の子に優しくしてたら、埋めてやろうと思ったり」

「他の子にくっつかれてたら、この世の終わりを見せてやろうと思ったり」


「他の子を可愛いと言ったら、口を縫ってやろうと思ったり」

「他の女に色目使おうものなら、目を潰してやろうと思ったり」


 なんだか、二人の表情がさっきまで赤らんでいたのに、どす黒く見えてくる。

 まるで経験したことのように言ってるのは気のせいだろうか。


「他の子に――」

「はい、そこまで! 何か俺の思っていたものと違う方向に行き始めた」


「美咲さんの言ってたこと分かるわー」

「私もアリカちゃんが言ってること分かっちゃうわー」

 美咲とアリカは、顔を見合わせて、お互いが言ったことに共感を覚えた様子だった


 何故だか、俺の背中が冷や汗でびっしょりだ。

 途中から怖い話しか、言っていなかっただろう。


 少し質問を変えてみるか。


「それじゃあさ。二人とも初恋って、覚えてる?」

「初恋…………」

 美咲を見てみると天井を見上げながら考え事している。

 どうやら記憶を辿っているようだ。

 途中悩んだ顔をしているところをみると、それが恋だったのか自分でも悩んでいるのだろう。

 アリカも首を傾げながら過去を振り返ってるようだが、時折、首を横に振り、これは違うと自分と対話していた。


「何となくだけど、幼稚園の時かもしれない」

 美咲は「あれが初恋だったのかなー?」と自信なさげに言った。

 アリカを見てみると、まだ首を横に振りながら自問自答している。


「アリカは無いのか?」

「あ、あるわよ。待ってなさい。すぐに思い出すから!」

 と言って、また、自分の過去と自問自答し始めたがどうやらすぐには答えが出なさそうだ。


「明人君は?」

「俺、恋したこと無いから」

 そう言うと、二人して、なぜかこわばった顔のまま固まってしまった。


 聞いた俺自身も、初恋自体覚えがない。

 俺はもしかしたら、そういう感情が欠如しているのだろうか?


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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