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帰路  作者: まるだまる
12/406

11 てんやわん屋8

「あ、明人君! お客さんかも?」


 笑顔で指差しながら言い、美咲さんの示す方向を見る。

 入り口越しに初老の夫婦が、車から降りてこちらに向かって来ていた。


 夫婦は会話しながら、こっちに向かっているが手には荷物も無い。

 それを見る限り、表屋に用事があるのは間違いないだろう。


 入り口の自動ドアが開き、


「「いらっしゃいませ!」」


 俺と美咲さんが同時にお客を声をかける。


 夫婦は、一瞬こっちを見やると店の中を見回す。目当ての物でも見つけたのか、奥の棚の方へ歩いていった。


「明人君、初のお客さんだね。買ってくれるといいけど。ふふ」


 美咲さんは、お客さんの動向を見ながら嬉しそうに囁いた。


 中古販売店だと、買いたい物があっても、物の程度によっては二の足を踏む物もあるだろう。俺が客でもそう思うから、ここに来る客だって同じ思いを持つだろう。程度によっては、高いと感じるものもある。これには個人差がでるだろう。やっと来たお客なので、できれば何か買っていって欲しいところだ。接客は積極的に攻めた方がいいのだろうか? 疑問を客に聞こえないように美咲さんに質問してみた。


「美咲さん、お客さんにこっちから希望商品とか、聞いたほうがいいんですか?」


「聞かれたら答えればいいよ。ノルマがあるわけでもないし、のんびり見てもらいたいしね」


「なるほど、中には店員に話しかけられるの嫌な人もいますもんね」


「……私もその口だね」


 その言葉は俺にとって、今日の中で最も驚いた発言だった


「またまた、そんなキャラじゃないでしょう? 店員さんを困らしてるんじゃないですか?」


 意外な答えに俺は、思ったことをそのまま笑って言うと、


「……明人君、君は私をそう見てるのか?」


 少しむすっとした顔でジト目で睨んでくる。


 美咲さんなら、店員を呼んで、あれでもないこれでもないってしてそうだ。楽しげにやり取りしながら買い物してる気がしたんだが、そういうことはないような言い振りだ。想像とは違ったが、店員が苦手な人もいるから普段とは違うのかもしれない。


 美咲さんは急にモジモジしはじめ、


「だって、ほら私、人見知りだし……」


 こちらをチラチラ見て体をよじりながら言った。


「だれが? なんだって?」


 思わず素で聞き返した。


「だから……人見知り……」


「どの口がそう言ってんですかね? 人見知りって意味わかってます?」


 俺は引きつった笑いを浮かべながら、美咲さんに詰め寄る。


「そんなに近づかれると照れちゃう。ぽっ」


「いやいやいやいや! それもおかしいでしょ! なんか『ぽっ』って口で言ってるし!」


「くっ……気弱キャラもダメか!」


 顔を背けながら悔しそうにしていた。……何狙ってんだ? この人は。


「どんだけキャラ演じたいんですか!」


「ふっふっふ。知りたくばワシを倒してみせい!」


(もうやだ、この人……)


 軽く頭痛がしてきた。美咲さんは俺の方に向き直り、指を立てて軽くウィンクしながら、


「明人君、お客さんいるんだから、ふざけちゃ駄目だよ?」


「あんただ! あんた!」


 俺は客が店内にいることを一瞬忘れてしまい、自分の声の大きさにびっくりして慌てて口を塞いだ。幸い客はチラリとこちらを見ただけで、また商品に視線が移っていった。気にされていないようだったが、怪しまれないように気をつけよう。


 老夫婦は頷きあいながら、小型の空気清浄機を手にしてこちらに向かってくる。


「明人君がレジやってね。私は袋に入れるから」


「はい、わかりました」


 美咲さんは小さな声で指示を出し、俺も同じように小さな声で返事した。


「こちらの商品は二千円になりますが、こちらでよろしいですか?」


 そのスマイルいくらですか? と聞きたくなるくらいの笑顔で、美咲さんは商品の購入確認をする。

 老夫婦の旦那さんのほうが、うんうんと頷くが見惚れてるような気がするのは気のせいか。


「かしこまりました。清算はこちらでお願いします」


 レジ操作を待つ俺へ客を促し、バトンパスされた俺はレジの操作に掛かった。

 財布を持った奥さんが、俺の前でレジ操作を見ながらお金を用意している。


 その間に美咲さんは客から商品を預かる。強力パワーと書かれた空気清浄機をすっぽりと覆う袋にすばやくしまい、旦那さんに渡した。二千円ちょうどを預かり奥さんにレシートを渡すと「ありがとう」と言って、先に歩き始めた旦那さんを追いかけていった。


「おし! ひとつクリア!」


 俺は小さくガッツポーズ。

 仕事を覚えていく喜びは、どんなバイトでも上手くいくとやっぱり嬉しい。


「お客が来たら、美咲さんみたいにすればいいってのも、分かりまし……」


 俺は美咲さんに向かって話しかけようとして、言葉を失った。

 俺と同じように、美咲さんは小さくガッツポーズしながら、目をうるうるさせぶつぶつ呟いている。


「美咲さん?」


「……やった、やったわ。……明人君と最初の共同作業。……いつかケーキとかにもしちゃうのね。うふふふふ」


「ちょっ? 一緒にレジやっただけで、何でそうなるんですか!」


「……こうやって少しずつ、愛が深まっていくのね。うふうふふ」


「み、みさきさん! 正気にもどれ!」


「みみさきさんなんて、いないわよ⁉」


 顔だけこっちに向け、ぎろッと睨んでくる。

 何故、睨む? もしかしてトラウマか?


 ふっと表情を崩した美咲さんは俺の方に向き直り、笑顔でこう言った。


「いい? 明人君、私に惚れちゃダメだよ? 苦労するよ?」


「あー、もう……どうでもいいです」


 また頭が痛くなってきた。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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