表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
115/406

114 恋愛≒好意2

 綾乃が気にしていたので、「大丈夫だよ」と頭をポンポンとすると、また顔が赤くなって口元がムニュムニュと動く。

「明人君危ない!」

 涼子さんの声で反射的に横へ飛び退くと、俺の立っていた位置を下から綾乃が蹴り上げていた。

 何でバット振ったような音がするの?

 当たったら天井にまで吹き飛ぶんじゃね?


 蹴り上げた足は勢いよく頭上まであがり、空手家の演舞のように、ぴたっと止まる。

 ただ、そのときの綾乃は試着したワンピースを着ていた。

 蹴り上げられたスカートは捲り上げられて、つまり、パンツが丸見えになる。

 黄色に黒のストライプというか虎柄。

 何でそんなの強そうなパンツはいてるの?

 鬼娘が着けそうなパンツで、かえってそれが目を引いた。


『お前は虎になるのだ!』と思わず言いたくなった。

 言ったら、そのまま踵落としが降って来そうな気がしたので、空想だけで止めておこう。


 俺の視線に気付いた綾乃が「うわ!」と慌てて足を降ろす。

 良かった。踵落としが来るかと思って一瞬びびった。


「み、見ましたね?」

 綾乃は顔を真っ赤にしてスカートを押さえている。


「見てない。見てない。虎柄なんて見てない」


 はい。お約束しました。犯行を自供する馬鹿やろうです。

 目に涙ためて睨まなくても。ボッコボコにされそうで怖いんですけど。


「お母さん。明人さんにパンツ見られた」


 涙目に涼子さんに訴える綾乃。

 事実なだけに、こういう時俺どうしたらいいの?


「綾ちゃんの自業自得でしょ?」


 涼子さんが綾乃の頭を撫でて言ったのも束の間、

「というわけで、明人君。責任とって綾ちゃんと結婚は無理だから、婚約してください」

 くるりと振り返り、俺に向かって爆弾発言。


「「ええええ?」」

 驚く俺と綾乃。そら驚くわ。

 ちょっとまった。パンツ見えたくらいで婚約っておかしいだろ。


「冗談よ」

 俺と綾乃、二人揃って肩がずるっとなった。


「もう、お母さん何言ってるの?」

「お母さんだって、明人君と絡みたいのよ」


 また訳の分からないこと言い出す涼子さんであった。

 なにがともあれ、涼子さんの冗談で落ち着いた綾乃に涼子さんが選んだ服を渡す。

 もしかしたら涼子さんわざとふざけて、綾乃を落ち着かせた?


 綾乃が着合わせてみると、涼子さんの見ためどおり白のワンピースにもよく似合っていた。

 その後、三人で店内を一緒に散策。

 多少時間のあった俺は、涼子さんたちの荷物持ちを進んで請け負い、一緒に店内をついて回った。

 涼子さんや綾乃から、「これどう?」と、似合うかどうか聞かれたりして、微妙なものは答えにくかったけど、雰囲気で察してくれたようだった。


 考えてみれば、俺が親と一緒に買い物行ったのって最後いつだったのだろう。

 もう記憶に無いくらい昔のような感覚。

 思い出せもしないのか。なんだか、寂しくなった。


 涼子さんたちのユニシロでの買い物も終わる。

 どうやら別の店に移動して買い物の続きをするらしい。

 涼子さんと綾乃はバスで移動してきたようで、バス停まで一緒に同行した。


「ほら、お母さん。やっぱり車の方が良かったじゃない」

「だって運転するの怖いもん」

 ぶーっと頬を膨らませる涼子さん。

 大人なのか、子供なのか、わからんときがある。


「そんなの言ってたら、いつまでたっても運転できないよ?」


 親子で言いたいことを言い合えるのは羨ましいことだと思う。

 俺なんて、会話その物が無いんだから。

 また卑屈になっている自分に嫌悪感を覚える。

 待ち時間もそれほど無くバスが到着した。


「それじゃあ、明人君またね。明日、綾乃のことお願いね」

「明人さん、また明日」


 挨拶を終えた二人はバスに乗り込み、俺に向かって小さく手を振っている。

 手を振り返してバスが発進するのを見届け移動を始めた。

 

 バイトに行く前に昼食を取ろうと、国道沿いを移動する。

 国道沿いは飲食店もぽつぽつとあって、選ぶのには苦労しないだろう。

 ラーメン、牛丼、ハンバーガーショップ。店の前を通るも食指が動かない。

 そろそろ決めないと、さすがにまずい。

 結局、選んだのはコンビニ弁当。

 店内に喫食スペースのあるコンビニだったので、そこでそのまま食べることにした。

 最近、愛の弁当を食べるようになってから、舌が肥えてしまったのか、あまり美味いと感じない。

 ただ腹に詰めただけと言った感じだ。贅沢と言えば贅沢なのだが。

 食後の缶コーヒーを飲み干し、ゴミを片付けてコンビニを後にする。

 

 自転車に跨り、一路てんやわん屋を目指す。

 今日一日過ごせば、明日はみんなと遊びに行く日だ。

 これは正直、俺も楽しみしている。

 みなも思い思いの待ち遠しさを感じていることだろう。

 ふと、春那さんが言った言葉が頭をかすめる。


『君たちはもっと絡み合うべきだ』


 今までの俺達は交わりがあるようだけど、まだ知らないことがお互い多い。

 時間を、経験を共有して初めて見えるものもあるだろう。

 接するたびに一つ、また一つと相手を、友達を知っていく。

 そしてそれは、俺の事を知られるということにもなる。

 

 俺達は、いや、俺は今まで自分のことだけ考えていたのだと思う。

 まだ間に合うのか。俺も変われるのか。

 いつか、みんなに打ち明けることが出来るのか。

 自分の弱さを肯定できる日が来るのか。


 そんなの無理だ。今まで出来なかったじゃないか。

 未来に希望を見出せない自分が嫌いだ。

 弱い自分を肯定できない自分が嫌いだ。



 ……止めよう。

 一人でいると、ついつい余計なことまで考えそうになる。


 もう見慣れた郵便局が見える。あと少しでてんやわん屋だ。

 その郵便局の前、バスが止まっている。

 そのバスから見慣れた姿が降りてくる。美咲だった。

 バスから降りてきた美咲の表情は俺の知らない美咲だった。


 響のような無表情。

 

 いつもの人懐っこさなんて全然感じられない。

 美人だけど陰鬱さが台無しにしている。

 それがそのときの美咲の印象だった。

 美咲は降りて郵便局をじっと見つめるとガッツポーズをした。

 その途端、いつもの俺の知っている美咲になった。

 人懐っこい感じのする柔らかい表情。

 さっきまでの美咲と対極の美咲。


 美咲がキョロキョロと周りを見回す。

 顔が俺の方を向くとぴたっと止まった。

 どうやら俺が来ているのを視認したようで、いつもの笑顔で手を振ってくる。


「おーい、明人くーん。今日は早いんだねー。私も今着いたのー」


 いつもの人懐っこい笑顔、綺麗すぎて、つい見惚れてしまう笑顔。

 そこにはさっき見えた美咲の陰鬱さなど一片も残っていなかった。


 美咲自身変わろうとしている。それは本人から話を聞いて分かっていた。

 いや、分かっていたつもりだった。

 もしかして、俺が思っていた以上に美咲が抱えているものは大きいのか。

 俺が知っている美咲は、かなり改善された状態の美咲なのかもしれない。


 俺だけじゃないのか?

 一人でいるときに余計なことを考えてしまうのは。

 美咲もそうなのか?


 美咲に手を振り返して、美咲の横で止まり、自転車から降りる。

 その途端、笑顔の美咲に鼻を摘まれた。


「なにふぉする?」

「また変な事考えながら来たでしょう? 悪い癖だよ」


 どうやら美咲には、やっぱり、すぐ分かるようだ。

 これもまた一つなのかな。

 

「今日一日がんばろうね。お客さんが来たらだけど」


 おどけながら笑う美咲。それを言ったらお終いだろ。

 それよか、早く鼻を離せ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ