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帰路  作者: まるだまる
111/406

110 家族の絆8

 はい。路上で首を絞められた木崎明人です。

 とても綺麗な女性に現在進行形でほっぺたをぐにぐにとつねられています。

 次の噂はこれでお願いします。

 まあ、それほど痛くないので、美咲の気の済むまで好きにさせている。


「ホントに最近の明人君は、誰にでもデレデレすんだから」

 それは俺も言い返したい。

 最近の美咲はすぐに俺に攻撃して来ませんか?


『……私にデレないくせに、なんでいつも別の子に……』

 なにやらブツブツ言いながら、俺のほっぺたを上下左右してるんですけど。

 誰にもデレデレした記憶なんて俺にはないぞ?


 ようやく満足したのか、俺の頬から手を離す。

 アリカが可愛い格好してるのを言って何が悪いんだ。

 納得いかないが、美咲の気が済んだ今言ったら、次は何されるかわからない。

 とりあえず美咲がアリカと行った買い物の件でも聞いてみよう。


「今日は駅前のテナント回ったんですか?」    

「そうだよー。けっこう疲れた」


 どうやら駅の周辺をぐるぐると回ったらしく、午前中は見るだけだったらしい。

 昼食を取って、その後、気に入ったお店に買いに行ったようだ。

 

「今日のお昼は何食べたの?」

「ビックリ鈍器に行って来た」


 ビックリ鈍器――全国展開しているハンバーグレストランだ。

 ロバのゆるキャラが鈍器を持って驚いてる絵は有名だ。価格も安く、味もいいと評判。

 昔からの変わらぬ味を売り物にしているようで、俺もそこのハンバーグは好きだ。

 前に、駅周辺でバイトしてたとき何度か行った記憶がある。

 ただテーブルの脇に店のシンボルか知らないが、木槌とか置くのはやめて欲しい。

 喧嘩でも起きた時、そのうち誰か手にするぞ。


「アリカちゃんにお昼何食べたいって聞いたらさ。肉っていうから」

 アリカ……今日の格好が可愛かっただけに……残念な台詞だ。


「アリカちゃんてばね、メガバーグに挑戦したいって言うんだもん」


 メガバーグ――ビックリ鈍器の最凶メニュー。

 ビックリ鈍器のハンバーグはレギュラーサイズで一五〇グラムだ。

 俺はそれだと足りないが、小食気味な人にはちょうどいいだろう。

 ご飯とサラダもセットなので、腹は満たせるはずだ。


 店側が用意してあるハンバーグサイズは四種類。

 レギュラーは一五〇、ミドルは二〇〇、ビッグが三〇〇。

 そしてメガバーグは六〇〇グラム。

 プレート皿をほぼ覆いつくす化け物ハンバーグだ。

 俺でもメガバーグは食べきれるかどうかわからない。


「それであいつ挑戦したの?」

「いやー、さすがに説得して諦めてもらった」


 それは正解だ。女同士の時に挑戦するのは、やめといた方がいい。

 どうしても挑戦したいんだったら、俺が付き合ってやろう。

 食いきれなかった時の処理係なら俺がなってやる。

 太一も道連れがいいかもしれないな。ふむ、今度誘ってみるか。

 実は俺も挑戦してみたかったんだよな。

 そんなことを考えていると、美咲がすすっと寄ってきてジト目で睨んでくる。


「な、何?」 

「なんか今、明人君の首を妙に絞めたいんだけど?」

「なんでだよ! 理由わかんねえよ」


 美咲は俺の顔を窺うようにじーっと見ているが、ここは心を空にしよう。

 色即是空、空即是色。よし落ち着いた。はず。    

 ここは首を絞めたい気持ちを忘れさせよう。

 俺から話を振って話題を逸らすんだ。


「結局、何頼んだの?」  

「まあいいか……。私はレギュラー頼んで、アリカちゃんはビッグ。食後に生クリームバナナパンケーキ頼んでた。私はモカアイスだけど」


 アリカの胃袋どうなってるんだ? 俺もビッグサイズ頼むけどさ。

 あんな小さい身体なのに、ビッグサイズなんて、どこに入るんだ。

 どこでカロリー消化してんだろう。出るとこ出てないのに……。

 なんだか急に冷えてきたのか、すこし背中を寒気が走る。

 

「アリカちゃんチャレンジ精神旺盛なんだよね。帰りがけにも、駅前のスイーツ屋さんで『ジャンボバナナパフェ挑戦していいですか?』って言ってたの」

 買い物でいくらか動いたからって入らないだろう。


「ジャンボバナナパフェって大きいの?」

「ディスプレーにあったのは、バケツみたいなのだったよ」

 ちょっと見てみたいと思ったのは黙っていよう。


「どうせ寄るなら、この間のファミレスにしようってことになってね。また今度にしてもらったの。そしたら明人君が密会してたと……ねえ、もっかい首絞めていい?」


 駄目に決まってるじゃねえか。

 何で振り出しに戻るんだよ。

 俺の思惑とはまったく違う所に着地してるじゃないか。

 エンドレスじゃん。俺そうなる運命なの?


「それは置いといて、なあ、美咲。飯どっか食べに行きません?」

「へ?」

 美咲の目がまん丸になった。そんなに驚くことか?


「ちょうど飯時だし、外で食って帰ろうかと思ってたから。美咲もどう?」

 早くには家に帰りたくないってのが本当の理由だけれど、一人より二人で食べた方がいい。


「い、行く!」

 美咲は俺の腕を掴んで、首を上下に振って答えた。

 何か虎の張子みたいな動きだったぞ。  


 美咲に何か食べたい物があるか聞いてみると、美咲の家の近くにあるお好み焼き屋を希望した。

 近くにあるものの一度も行った事が無く、バイトから帰る頃には閉まっていて行きたかったらしい。 


「その店、何時に閉まるんです?」

「たしか九時だったと思う」


 まだ夜の七時を回ったくらいだから、まだ十分に間に合う。

 美咲の家はここからだとこのペースで歩いても三〇分以上はかかる。

 とは言うものの、今日の美咲はあちこちうろついて疲れてるはず。


「よし、美咲。後ろ乗って」

「ええ?」


 俺は自転車にまたいで、美咲に後ろに乗るように言った。


「どうせなら早めに行って店でゆっくりしようぜ。美咲も今日疲れたでしょ?」

「私、重いよ?」


 そんな細っこい身体して何言ってるんだ。

 それに美咲の重さは前に首を締められた時に背負ったから把握済みだ。

 全然重くねえよ。


「いいから乗る」


 そう言うと美咲はチョコンと自転車の荷台に座った。

 跨がずに座っているので手が不安定だ。


「そのままだと危ないから、俺の腰でもしっかり持ってて」

「う、うん」


 後ろから美咲の声がして、俺の腰にそっと美咲の手がまわる。

 なんだか青春ドラマのようで、これちょっと格好いいんじゃね?

 なんて思った矢先に、


「ふん!」

 美咲の腕が掛け声と共にギュッと締まる。


「ぐあ!」

「ああああああ、ついベアハッグを!」


 ……美咲。……俺さ、今ちょっと感動してたんだよね。

 俺も青春ドラマみたいなことやってるじゃんって。

 あるでしょ? ああいうことやってみたいとか。

 今それやってたんだよ。なんでベアハッグがくるの?

 前にもあったよね。何で、美咲はそう意表をつく行動するの?

  

「明人君ごめん。つ、つい照れ隠しにベアハッグを」


 その選択しかなかったのかよ!


「……そうか。運転中はやめてくださいよ?」

「う、うん。わかった」

 そう言って今度は軽く腰に手を廻した。


「お尻痛いかもしれないけど、ちょっと我慢してくれな」

 俺は美咲の言うお好み焼き屋を目指して自転車を走らせた。


 俺の背中にもたれるようにして美咲は黙ったままだ。

 美咲を落とさないように慎重に段差を避けて走らせる。

 それでもわずかな段差があり、その衝撃を受けるたびに美咲の手に力がはいる。


「ごめん。びっくりした?」

「ううん。大丈夫だよ」


 徒歩だったら三〇分以上はかかっていただろうけど、目的地まで半分でつくことができた。   


 店先に『お好み焼き』と書かれた小さな赤提灯がぶら下がっている。

 随分と小さなお店のようだが、こういうところのは家庭の味みたいな感じで逆に美味そうな気がする。

 店の手前で自転車を止める。


「美咲着いたよ」

 言ったにもかかわらず、美咲が後ろから降りる気配が無い。


「美咲?」


 チラリと後ろを見ると、美咲が顔を見上げる。

 なんだか目が潤んでいて妙に色気を感じた。


 その顔は危なく美咲にキスしかけたの時の表情に似ていた。

 あの時と何だか同じ。


 俺の心臓がドクンと小さく強く跳ねると同時に、


「ふん!」

「ぐああっ!」

「ああああああっ、つい!」


 ベアハッグはわかったけどさ。


 もう、色々と文句言いたいけどさ。

 とりあえず、降りろ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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