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帰路  作者: まるだまる
107/406

106 家族の絆4

 ファミレスから住宅街の方向へ歩くこと五分。


「あたしんち、あそこの角だよ」

 閑静な住宅街に並ぶ様々な家の中で、アリカが指差すその家は、少しばかり古い家屋に見えた。


「ちょっと古いけど、おじいちゃんが遺してくれた家なの。あたしが小学生の時リフォームしたけどね」

 アリカは照れくさそうに言った。


 アリカは古いと言ったけど、俺には古い感じの方が温かく感じる。

 まるで家全体が迎えてくれているような、そんな気がした。

 家の門の横に駐車場があって、奥にはアリカのバイクと大きなバイクが並んでいる。

 大きいバイクは前に言っていた父親のものだろう。


 玄関前に着いた俺達は再度計画を確認して配置に着く。 


「それじゃあ、計画を実行しましょうか」


 愛に対するサプライズ作戦。

 誘導――アリカ。

 実行――俺。

 撮影――美咲と響。


 愛を荷物を運ぶのを手伝って欲しいと言って玄関に呼び出す。

 出てきたところで俺が顔を見せる。

 その光景を左右から携帯で動画撮影する手筈となった。

 いたってシンプルなびっくりだが、効果はあるだろう。

 

 アリカが玄関のチャイムを鳴らす。


『…………』

 返事が無い。

 部屋の明かりが点いているから、いないことは無いだろう。


「愛~。あたしよ、あたし。ちょっと出てー」

 アリカが声をかけるとガチャっとインターフォンと繋がった音がした。


『……あたしあたし詐欺ですか?』

 色々突っ込みたいけど心の中ならいいかな?

 まず詐欺のはあれ、電話だから、インターフォンじゃ意味ないから。

 直接こないよ? 来たら姿見てばれちゃうじゃん。

 それに語呂悪いよね。あたしあたしって言いづらいよね?


「訳分からないこと言ってないで、外まで荷物取りに来てくれない?」

『……外には狼さんがいて愛を食べようとするから嫌です』

 三匹の子豚なの?


「もう遊んでないで、手伝ってってば!」

『香ちゃんだっていう証拠はありますか?』

「はあ、何言ってるのよ。声聞いたら分かるでしょ!」

『では、香ちゃんのバストサイズ言って下さい』

「言えるわけないでしょうが! あんた知ってんの?」

 一瞬期待してしまった。


 まあ聞かなくてもツルペタンだからな。ははは。

 おっと、アリカが睨んでる。相変わらず勘が鋭い。


『カップなら分かります。香ちゃんのカップサイズは――』

「わああああああああああ! いいから早く来てよ」

『しょうがないな~。三分二十一秒後にみっしょんを開始する』

 ガチャっとインターフォンが切れた音がした。


 周りをみると撮影係の美咲が笑いを堪えてプルプルと震えている。

 アリカはアリカで恥ずかしかったのか顔が真っ赤だ。


「も~、どうせなら帰る前に電話してよ~」

 玄関の扉の向こう側から、愛の声が聞こえてくる。


 俺は荷物を手に持って扉前にスタンバイ。

 左右には俺から距離を取って、響と美咲が携帯で撮影中だ。

 ガチャガチャと複数の鍵が外される音がして扉が開いた。


「食事を作ってる妹をこき使う香ちゃんは何様ですかー?」

 そう文句を言いながら出てきた愛。


「やあ、愛ちゃん」

「――――へ?」


 俺の顔を見るや、ぽかんと口を開けて目が点になった愛。

 どうやら脳がフル回転しているようだが、まだ追いついていないらしい。

 愛はそのまま、一歩下がり扉をパタンと閉じた。


 ガチャンと鍵のかかる音がした

 そして、ガチャンと鍵を開ける音がしてすぐさま扉が開く。


「ななななな、なんで、明人さんがうちに?」

 愛は慌ててまくし立てる。


 扉閉めてまた開けるなんて、一連の流れをきっちりやるのはお約束だね。

 とりあえず、サプライズ作戦大成功だ。


「そこのファミレスで偶然アリカ達と会ってね。ついでだから送ってきた」

「うきゃあああああああああああ、なんて、なんて幸運なの! 土曜日まで会えるなんて」

 愛は興奮した感じで俺に抱きついてくる。


 咄嗟に荷物を挟まれないようにしたので、正面から抱きつかれてしまった。

 俺の胸元をすりすりと顔をこすりつける愛。

 目がヤバイ。この感じの愛は非常にヤバイ。


「そうです。やっぱり愛と明人さんは運命で結ばれているんです。ですてにーです」

 誰か止めてくれ。いろんな意味で暴走し始めてるぞ。


「愛、そろそろ離れなさい」

 そう言いながら愛を引っぺがすアリカ。


「香ちゃんさすがよ! 明人さんをうちまで誘導するなんて。今日のおかず、てんこ盛りしちゃうから」 

 引き剥がされたことよりも嬉しさの方が勝っているようだ。


「……明人君、あなた相変わらず愛されているわね」

 響がボソッと呟いたけれど、わずかに目が細くなっているのは気のせいか?

 反対側の美咲が笑顔なんだけど、それ、いつもの笑ってない笑顔ですよね?

 横にいるアリカからも不穏な空気を感じるけれど、とりあえず愛に軽く説明。


「まあ、ちょっと愛ちゃんを驚かそうと思ってね。びっくりした?」

「はい、ホントにびっくりしました! うはー、愛興奮しすぎて鼻血どころか、大脳まで飛び散りそうです。頭からはみ出てないですか?」

 それ、死んじゃうから。はみ出てたら怖いから。


「よし、愛ちゃんサプライズ作戦も成功したし、帰ろうか」

「ええ⁉ もう帰っちゃうんですか?」

 俺の言葉に愛は驚愕し、悲しそうな顔をして俺の腕を掴む。


「この後、他の二人も送っていくからさ。ごめんね」

「え? 他の二人?」

 俺がそう言うと、愛は響と美咲を羨ましそうに見つめた。


「ううう。美咲さんも、香ちゃんも、響さんも明人さんに送ってもらってずるい」

「愛ちゃんとデートするときには、ちゃんとここまで送るよ。――――げふっ!」


 俺の背中に手刀が突き刺さる。

 俺おかしいこと言ってないだろ?

 後ろを振り返ると、すでに手刀は収められていて、三人とも目を逸らしている。


 くそ、わからねえ。今の誰だよ?


「ああああ、駄目。内臓まで飛び散りそう」

 愛は愛でそんな俺の事などお構いなしの興奮状態のようだ。

 ところで誰かに経絡秘孔でも押されたの?


「愛、そろそろ手を離しなさい。明人たち帰れないでしょ」

 アリカが不機嫌そうに言う。

 腹でも空いているのだろうか。

 アリカは愛を引きずり込むように玄関へと入っていく。


「明人、送ってくれてありがとね。帰り気をつけて」

「ああ、それじゃあ」

「明人さん、またぜひ来てください。その時は愛がたっぷりご奉仕を――あいたっ! 香ちゃん痛い」


 アリカがどうやら愛に拳骨でも食らわせたようだ。

 俺達は愛里邸を後にして、響のマンションを目指して足を進めた。


「上手くいったわね」

 響が携帯を確認しながら歩く。

 見ながら歩くと危ないぞ?


「こうも上手くいくとは思わなかったね」

 美咲も楽しそうだ。

 確かに、愛の目が点になっていたのは正直面白かった。


「ほら、見てみて」

 響が携帯を指差す。

 俺と美咲は響の差し示す携帯を覗き込む。

 覗き込んでみると響が撮影した先ほどの映像。

 愛がちょうど出てきたシーン。目が点になっているところだ。

 響の撮った角度だとこう写ってたのか。


「明人君、ほら、私の撮ったのはこれ」

 美咲も携帯を見せてくる。

 俺と響は美咲の携帯を覗き込む。

 美咲側の角度から撮ったシーン。アリカの表情がよく見える。

 アリカはあの時笑いを堪えていたのか。我慢している顔が面白い。


 今度遊びに行く時にみんなに見せてあげたいと思ったのは、俺だけじゃあ無い筈だ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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