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帰路  作者: まるだまる
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105 家族の絆3

 はい。なぜか尋問中です。

 今の美咲とアリカに逆らえません。

 何故か二人は俺の両隣に座って、それぞれ手にフォークを持っているからです。


 そしてそのフォークの切っ先が俺に向けられていて、身の危険を感じています。

 逆らったら、俺の身体に小さな穴がたくさん出来そうだからです。


「明人君、今日バイトだったよね? 何でこんな所にいるのかな?」

「えーと、バイトが終わりまして、響と待ち合わせしてたんです」

「何で響と待ち合わせしてんの?」

「学校のことで響と相談してたからです」

「わざわざこんな所で?」

「美咲さん、アリカ。明人君の言ってることは嘘じゃないわよ?」


 おお、響。ナイスだ。

 俺は何も悪いことはしていないことを証明してくれ。


「――ただ、危なく私が明人君に惚れてしまいそうになっただけよ?」

 おおおおおおい! 今のこの状況でその冗談は止めてくれ。

 ちょっ⁉ アリカそれ以上押し込むなよ? マジで穴が開く。


「ほほう? 明人君どういうことかな?」

 美咲、それ以上フォークを近づけないでもらえると非常に嬉しいんだが。


「響、今は冗談はよせ。この二人本気だ」

『……冗談じゃないのに』

 響が珍しく口を尖らせて何かを呟いたがよく聞き取れなかった。


 ぐいっと美咲に引き寄せられ、美咲が二人に聞こえないような声で聞いてくる。

 それでもフォークは降ろさないんですね?


『明人君マジでどういうこと?』

『昨日の話だよ』

『あ、もう、その話してたんだ? なーんだ』


 美咲はさっきまでの表情から一転して、穏やかな表情に変わった。

 助かった。これなら安心だ。

 てか、美咲もこの組み合わせなら気付こうよ。


「ふむふむ。相談の件ね。アリカちゃんどうやら本当みたい」

「学校の相談で待ち合わせって、何か怪しいわね」

「怪しいことなんて何もねえよ!」

「そうよ。ただ明人君がちょっと格好いいこと言って、私がドキってしただけよ」


 響頼む、少しの間黙っててくれるかな? 俺がピンチなんだ。

 こういう時にお前のユニーク性、いやS属性か。そんなの発揮しないで欲しい。

 アリカの手に力が入るからかなりやばいんだ。



 俺と美咲からの話を聞いてアリカも渋々納得してくれた。

 フォークはそれぞれの手から離れ、テーブルに置かれる。

 響と言えばいつもの無表情に戻っている。


「それで明人君達の話は終わったのかな?」

「ああ、一応ね。二人は買い物帰りのお茶会?」

「ええ、そうよ。美咲さんがあたしんちが近いから、ここに行こうって」

 二人の足元には買ってきたであろう服の紙袋が置いてある。


「そうか。いい買い物できたか? あれ?」


 よく見ると、アリカの雰囲気がいつもと違う。

 ボーイッシュな格好じゃない。なんだか女の子してる。

 白地のカットソー、それに一部にレースを使った同じ白系のスカート。

 そういや、アリカのスカート姿って初めて見た。

 何かいつもと違うのは服だけじゃない。

 目元がいつもと少し違う、メイクしてるのか?

 控えめなメイクだけど、可愛く仕上がってる。


「な、なによ? 人のことじっと見て」

「いや、アリカがいつもと違うなーって。なんか可愛くなってる」

「は、はあ? 何訳分からないこと言ってんのよ!」


 いや、だから何でフォーク持つんだよ。怖いって。

 俺、褒めてると思うんだけど?

 見てると刺されそうで怖いから美咲に視線を移す。


 美咲もいつもと少し違う。


 バイトの時にはシンプルな姿が多い。

 長袖のシャツにボトムパンツや綿パンツが基本スタイル。

 帰りがけに薄地の上着を羽織るくらいだ。

 今日の美咲は、レースの入り混じった淡い青のブラウス、それに黒のレギンスだ。

 上半身のラインは分かりにくいけど、何だかフワフワ感がある。

 それに何だか今日はやけに顔がハッキリしていると言うか、いつもより綺麗なんだが。

 いつもと違うメイクのせいか?


「明人君、どうしたの?」

「いや~、いつもより何ていうか。綺麗だな~――グオフっ!」


 綺麗と言った途端、左わき腹と右足の脛に激痛。

 ん? 右足の脛?

 左はアリカさんが俺のわき腹に手刀を突き刺している。現行犯だ。


 右をやったのは?

 美咲は美咲で照れて顔を赤らめているだけだ。


 ってことは…………響?


 正面の響を見てみると無表情のまま。

 いや、わずかながら目が細くなっている。


 響さん何か怒っていらっしゃるんでしょうか?

 そう思って響を見ていると嘆息をついてぼそっと呟いた。


「……色々理由が分かったわ。なるほどね。確かにこうなるわ。一度は我慢できたのに」


 何をおっしゃっていられるのか分からないので説明してください。

 美咲とアリカも響が何を言っているのかわからない様子だった。

 てか、アリカいつまでわき腹に突き刺してんだ。いいかげん抜けよ。

 

 美咲とアリカの買い物談を聞く。

 美咲がアリカを襲うことも無かったようで平穏無事に終えたらしい。

 二人は楽しかったようで終始笑顔だった。


 時間を見ると六時前、そろそろファミレスのラッシュタイムに入る頃。

 元店員としては席を空けてあげたい心境になる。

 俺がそう言うと、それぞれ合意し、俺達は店を出ることにした。


 みんなの分もまとめて会計を済まし中村さんに挨拶をしてから店を出た。

 五月に入ったとはいえ、日はかなり下りあと三〇分もすれば沈むだろう。

 近いとはいえ、完全に暗くなってから帰すよりは、いい時間帯になったようだ。


「明人君、ごちそう様」

「いや、今日は俺が呼び出したからな。気にしないでくれ」

「明人君、私たちの分までいいの?」

「二人もフリードリンクだけだったし、気にしないでいいよ。ところで響は家近いのか?」

「あそこよ」


 そう言ってファミレス裏、住宅街の方向、少し高い位置を指差す。

 指差した方向を見ると、一つだけ頭の抜けた高層マンションが見える。

 距離的に歩いても一〇分はかからない感じだ。


「今は、あのマンションに住んでるの」

「響、引っ越したんだね。うちから近いじゃん。前は山間の方だったでしょ」 

「父が仕事に不便だからといって移ったのよ」

「もっと早く教えてよ。今度は響も色々誘うからね」

 アリカが微笑みながら言うと、わずかながら響の表情が嬉しそうに見えた。


「よし、二人とも送っていくわ」

「え? いいよ。うちなんてこっから五分かかんないし」

「明人君は私の家を知って、ストーカーにでもなるつもりなのかしら?」


 アリカはいい。まともな意見だ。

 響はおかしいよね? 善意です。オール善意しかありません。


「この後、美咲――さんも送っていくつもりだったから、そのついでだ」

「今の間は何かしら?」

 響が鋭く突っ込んでくる。


「いや、美咲さんに聞いてなかったけど、いいのかなって急に思って」

 そう返して美咲を見てみるとニヤニヤと笑っている。くそ。


「明人君。それだったらさ。愛ちゃんをちょっと驚かそうよ」

 ニヤニヤしていた美咲が悪戯をしようと言い出す。


「あ、なるほど。まさか明人が家に来るなんて思ってないだろうし」

「面白そうね。どんなリアクションするのかしら」


 どうやら他の二人も賛同のようだ。

 美咲とアリカは揃って悪魔みたいな微笑をしている。

 響は無表情にコクコクと頷いている。

 あれはみんな楽しんでいるな。


 なんだか、この光景というか、雰囲気と言うか、どっかで見たことある。

 ああ、そうだ。バーベキューの時のお姉さま軍団の行動だ。

 何か企んでる時ってやっぱりおんなじ雰囲気を持つんだな。


「では簡単に計画を立てますか」

 こうして愛に対するサプライズ作戦が始まった。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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