ゼノ町に行く
ゼノはこれからの事をどうするか考えていた。
妻はあの赤ん坊を二人の子として育てる事に賛成してくれたものの
この村で育てる訳にはいかない。
村には人族など当然いない
ダークエルフは人族を嫌悪しており、一緒に暮らすなどありえない
人族の奴隷は建築物を建設したりするただの道具でしかないのである。
ペットにすらならない。
そんな人族の赤ん坊をこの村で育てるのは誰がどう考えても不可能なことだ。
人族の匂いが全くしないから誰も気が付かないとしたとしてもだ
とりあえず村を離れ、町に引っ越す事を彼は考えていた。
リックサックに詰め込んで持ち帰ったクリスタルがあれば
大金が手に入るはずだ
ただ実際に高価である事は知っていたが、実際の値段など全く知らなかった
ヨーマには自分の考の大体を伝え、それまで頼むと伝え
彼はクリスタルの破片の中から小指の先程の粒を手に取り
それを持って村から最も近い城塞都市ザントに向かうことにした。
裕福ではない彼には300銅貨しか所持金がなかった
村からザントまでは乗り合い馬車で2日の距離であり
運賃の5銅貨の料金を支払い、安宿を探し一日8銅貨の宿に泊まる事にした
宿を出た彼は冒険者ギルドへと向かった
ダークエルフは王国であるが人族同様に冒険者ギルドが存在していた。
当然人族と国交があるわけでもなく人族とは全く別組織の冒険者ギルドが存在していた。
レンジャーである彼は冒険者ギルドに登録していており、金を稼ぐ時には野良パーティに参加する事にしていたからである。
クリスタルの売却については商業地区で売ってもいいのだが、入手先を探られるのを嫌って
手数料を取られる冒険者ギルドに引き取ってもらおうと考えていたのである。
彼は魔獣狩って得られるダーククリスタルやレッドクリスタルなどを売った事がある。
今持っているクリスタルくらいの大きさなら1銀貨~5銀貨くらいで引き取って貰った事があり
ホワイトクリスタルは高価と聞いているがその10倍程度くらいで引き取って貰えるのではないかと考えていたのである。
ギルドロビーの受付の横には買い取りする小部屋が4つ
買い取りは小部屋の中ですることになっており、二つ目の空室の札がある扉の札を裏返し入室した。
部屋は狭く1パーティしか入れない。今回はゼノしかいないので広く感じられるが狭い部屋である。
その部屋の奥に位置するカウンターの前に立つとカウンター越しに声が掛かった
「いらっしゃいませ、ザント冒険者ギルド買い取り窓口にようこそ」
事務的ではあるが中からダークエルフの少女の声が聞こえてきた。
「これを買い取ってほしい」
ゼノはそう言うと、胸の内ポケットになっているところから取り出したホワイトクリスタルを取り出し
窓口の前に置いた。
「・・・・・」
あれ、返事が返ってこないぞ
何か自分が失敗したのか?
一瞬ゼノの脳裏に不安がよぎった
「・・・・・・・・・」
返事がない
「おい」
ゼノがそう言った瞬間
「し、失礼致しました あ、あまりにき、貴重なお品で、ちょ、ちょっとお、驚いてしまいましました。」
おいおい噛んでるぞ大丈夫かこいつ
「お、重さを お、お測りさせて い、いただきますので しょ、少々 お、お待ちくださりませせま」
動揺しすぎだろう こいつ大丈夫か? 最後の方が変だぞ
少女は震えた手でクリスタルを計量天秤に載せその重さを測り
換算表の該当ページをパラパラ パラ パラ あれ?もっと後ろの方まで パラパラめくり
ようやく見つけたページの重さの場所を確認し、
「え゛っ」
っと変な声を上げ、言葉を続けた
ようやく落ち着いてきたのかは分からないが、口調は普通に戻っていた
「当窓口で換金は出来るのですが、お支払いする為に少々時間をいただけますでしょうか?」
「というか是非待ってて戴けませんか?」
と、潤んだ瞳をゼノに向かって向けてきたのである。
換金窓口は固定給+歩合制なのである 手数量の1%は窓口担当が貰えるらしい
なので窓口担当は必至に固定客をつけたいので必死なのは知っていた
「まぁいいが、早くしてくれな」
とゼノが言うと、窓口の少女は
「ありがとうございます!!」とパッと顔を明るくして慌てた様子で奥の方へ
走っていった。
おいおい窓口の扉あけたままでいいのか?
不用心な・・・・とゼノは思っていたが、まぁ仕方ないので戻るまで
待つことにした。
・・・・
・・・・・・遅いな
・・・・・・・・・・・まずかったか
30分ほど待って彼女が戻ってきた
「大変お待たせいたしました。お代金はこちらになります。」
窓口のカウンターには金貨が27枚もあったのである
ちょっと待て、金貨10枚もあれば豪邸が買えるのだぞ
あれだけでこれだけの価値があったことにゼノは驚いた
「うむ、確かに す、すまなかったな」
動揺を隠すように(隠しきれていないが)部屋を出ようとするゼノに
窓口の少女は
「あっ、また次回もあれば 私 ルリンをよろしくお願い致します」
「ん、わかった そうしよう」
とゼノは言うと、彼女の顔が明らかに喜んだようにニッコリとした笑みを浮かべるのが視界の淵に見えた。