ゼノとの出会い
ゼノ・トルーマ、それが彼の名前
ダークエルフである彼は狩人である。
彼はノーテスの森に狩りをしに入っていた。
「ヨーマにいいもん食わせてやらないと怒られるしな」と一人事を呟いていた。
ヨーマ・トルーマは彼の妻である、
今朝もあなたがいいものを食べさせないから子供ができないんだと怒っていた。
そりゃないだろお俺だけが悪いんじゃないだろ?
そう思いながら、でも彼女が喜んでくれる為に今日は
ハイノールベアを狩るつもりで森に入っていた。
そう彼女はその肉が好物なのだ。
ハイノールベアは川魚を好んで食べる為、彼は川に沿って北上していたが
レンジャーである彼は1つの匂いを感じ緊張した。
レンジャーのスキルに探知スキルがあるが、それにより彼の嗅覚と聴覚は向上し
その臭覚が微かな匂いを捉えたのである。
そう、その匂いは竜人の匂いだ。
彼は昔近郊の町に行った時、偶然にも彼らに出会いその匂いを記憶していた。
ダークエルフは竜人とは敵対していない、というか敵対したくない
それほどまで竜人は強い種族なのである。
決してダークエルフも弱い種族ではないが、竜人は桁外れなのだ
そんな竜人の匂いを感じて彼の背中に変な汗が流れる。
避けるべきか、
何故こんなところに
しかもこんな辺境の村外れに
竜人の目的は
近くには自分たちの村が、妻が
そういった思いを巡らせ、恐怖押し殺し慎重に進む。
本来であれば逃げるべき場面で彼は進む。
匂いの中に含まれるのは血の匂い。
竜人の血の匂いを実際に嗅いだ事はないが、恐らく竜人の流す血である事を
経験から感じ取っていた。
手負いの竜人・・
彼らを傷つけるものが居るとすれば危険は更に増すが、
鼻と身は竜人しか感知出来ていない。
彼は警戒しながら更に数百メートル川岸を北上すると
視認できる所にそれは横たわっていた。
竜人が倒れている
それは彼でもはっきりとわかった
死んでいるのだ。
あの屈強な竜人が死んでいるのである
凄まじいほどの傷を負って絶命していた。
と同時に彼の近くには大量のホワイトクリスタルが散乱していた。
ホワイトクリスタルはこの世界では希少かつとても高価なものである
それがこんなにも大量に
ごくりと彼は唾を飲み込んだ
そしてその時彼は気づいた
「ん」
人族?
おかしい
彼は竜人の匂いを感じていたが、人族の匂いを感じてはいなかったのである
レンジャーの嗅覚でその匂いを感じられない事などありえないのだ。
でもそこに確かに存在していた。
真っ白い肌をした小さな赤ん坊。
頭には白い産毛が生えている。
竜人が抱えるクリスタルに囲まれるその中に生きている人族の赤ん坊がいたのである。
何故人族の匂いがしないのか?
また人族に対してダークエルフは敵意を感じるが
その赤ん坊には全くの敵意を感じなかった
そんな種族の理とは全く状況が異なる事態に彼は混乱していた。
彼は散らばっているクリスタルを全てを背負っているリュックに詰め込み
竜人の腕に抱きかかえられるように収まっている赤ん坊を抱き上げた。
抱き上げた状態で眺めまわしたが、どこから見ても人族であった。
下腹部には小さなものが付いている男の子だった。
ダークエルフの中に人族はいる。
ただの奴隷であるが彼は見たことがあるし匂いも知っている
見た目はどう見ても人族であるのだが、不思議と何の嫌悪感もしない
むしろどちらかというと守ってやらないとという感情を覚えてる自分に動揺していた。
くんくんと赤ん坊の匂いを嗅いだが竜人の残り香しかしない。
不思議だ・・・・
普通ダークエルフであればその場で殺すか、
奴隷として売りさばくのくらいの感情しか持たないであろう
少し離れた川の水で彼は竜人の匂いを落とすことにした。
そのまま村に帰ったらとんでもないことになるに違いないことを予感しいたからである。
彼は赤ん坊を持ってきた布にくるむと周囲を確認し、その場を後にした。
突然帰ってきた夫に妻は驚いていた。
一旦狩に出かけると早くて夕方、ひどい時は数日は帰ってこないのに
昼前に彼は帰って来たのだった。
「おかえりなさい、何かあったの?」
よく見ると明らかに夫の様子がおかしい。
リュックは膨らんでおり何かしらの成果はあった?
で、片手に布でくるまれた何かを持ち入口でたたずむ
彼の顔のを見ると、尋常ならざる目をしていた。
夫の様子に戸惑うヨーマが言葉を続けようとした瞬間
「人族の赤ん坊を拾った」と小さな声で囁いたのである
「えっ」
あまりにびっくりしたヨーマは手に持っていたお皿を落とし
その皿は床に落ち砕け散った。
「えっ、えっ、えっ」
何を夫は言ってるのか、
レンジャーでない彼女でも人族の匂いくらいは分かる
そんな匂いは帰ってきた夫からは全くしない。
おそらく手に持っている布の包みの中にあるだろうそれからも
夫が冗談を言って居ないのは彼の様子を見ればわかる
でも言った事はおかしい。
「みせて」
ヨーマは彼に駈け寄り手に持っている布の中身を見た
本当にそこに人族の、白い肌をした赤ん坊がいたのである。
髪は白いうぶ毛、耳は小さく尖っていない。
壊れそうなほど小さな手を握っており、目は未だ開いていない。
本来であれば生理的に嫌悪するはずの赤ん坊を見たヨーマなのに
彼女はその赤ん坊を見てこう呟いたのである。
「まぁ、可愛らしい子」
「えっ」驚いたのはゼノだった
妻が本来ダークエルフであれば嫌悪すると思っていた。
自分が全くこの子に対して嫌悪せず連れ帰った
そして妻はその子を見て可愛いと言った事に
反面その妻の反応を見た彼はほっとした。
帰る途中何度も彼は拒絶するであろう妻の反応を想像していたからである。
そして彼は妻に向かってこう呟いた
彼は帰る途中でそう心に決めていた言葉を
「この子を俺たちの子として育てる」
「うん、わかった」
素直にニコッと笑い、愛おしそうな眼で赤ん坊を見つめていた。