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140字SS   作者: 冬香
4/5

2015/12/01~12/31

2015年12月の140字SSまとめました。

20151201

読書は楽しい。作者によって色付けられた文字が、頭の中に流れ込んできて私に知らない世界を見せる。見たくない現実から、私を連れ出してくれる。だからこそ怖いんだ、本から現実に戻る瞬間が。読書中にそんな愚痴をもらしたら、頭の中に声が流れてきたんだ。「なら、ずっとここにいればいいじゃない」


20151202

浮かんだものをすぐに口に出した。君は悲しんだ。これを言うときは時を考えないとと思ったのに、私には難しくて。気づいたら私の言葉は、何回も、君を傷つけていた。ずたずたにされた君の心を私は癒せなくて、離れていく君の心を私はどうすることもできなくて。さよならという君の声だけが耳に残った。


20151203

おめかししてどこ行くの?ぼくの質問に妹は答えず、居間に「いってきます」と声をかけた。「いってらっしゃい」妹の声を聞いて母さんが玄関に来る。「お兄ちゃんのところに行くの?」「うん、成人した報告しないと」そっか。妹は成人できたのか。ぼくは十年経っても大きくならない自分の手を見つめた。


20151204

白の上に広がる赤を私は見つめていた。とろりと流れる液体が蛍光灯の光を受けて煌めくのがとても綺麗だった。高まる鼓動を感じながら、私は銀色のスプーンを手にとり、くっきりと分かれていた白と赤を乱した。混ざりあってかりん味のヨーグルトになったそれをスプーンに乗せ、私はようやく口に含んだ。


20151205

キュッキュッというシャーペンとノートが擦れる音がする。深夜まで真面目に勉強に取り組んでいる彼は、もう少しで受験を迎える高校生。ついこの間まで私の背中に隠れて何かにつけ泣いてた子供だったのに。「どうしたの、母さん」いつの間にか低くなった声も大人びていて。嬉しいのにどこか寂しかった。


20151206

時計を見て駅を見る。二時間だけで何回繰り返しただろう。待ち合わせの時間はとうに越えた。それなのに彼女の姿は現れない。「遊びだったって漸く分かったのか?」心の声に俺が頭を抱えてしゃがみこむと、小さな悲鳴が聞こえた。顔をあげて見ると彼女がいた。見知らぬ男と腕を絡めている、彼女がいた。


20151207

かじかむ手でこたつを片付ける。暖房がついていない部屋の中では口から漏れる息が白い。こんな時期にこたつを片付けるなんて思わなかったよ。自嘲ぎみに呟いて布団を畳む。ふとこれを買ったときの彼女の嬉しそうな笑顔が頭に過った。もう決して会えないのに、記憶の中ではいつも僕らは笑っているんだ。


20151208

大丈夫だよ。そんな声が聞こえてきそうなほど優しい手が私の背中を撫でる。泣いてもいいよ。そんなことを言ってるような仕草で私の頭を撫でる。私は何も言ってない。何が辛かったとか何が悲しかったとか説明していないのに、彼は私を包み込む。甘えすぎてはダメになる。分かっててもやめられないのだ。


20151209

君と別れて旅に出た。本当に僕がいるべき場所とか、僕がするべきこととかを探すために。いろんな人と話して繋がって。いて心地よい場所ならいくらでもあった。だけどそこは僕の居場所じゃないと僕の本能が訴えていて。幾日も幾日も僕は歩き続けた。歩き続けた結果に辿り着いたのはやはり君の隣だった。


20151210

大好きな歌があった。切ない恋の歌。いつでも聴いていた。好きになった当初はこれを理想の恋として。自分が恋心を知ってからは、その歌に自分の姿を重ねて。相手の幸せを願って身を引く描写が大好きで、自分も相手のためにそうしたいと思っていた。そんなのできないと知ったのは、失恋してからだった。


20151211

ぱちぱちと水の弾ける音がする。お気に入りの傘から滴り落ちた雫が服に染み込んでいくのを私は黙って見ていた。「ごめんね、彼女を待たせてるんだ」そう言って彼は去っていった。振られるのは分かってた。それでもこの感情を止められなかった。バカだな、私。降り続ける雨は、私の頬を静かに濡らした。


20151212

広い青空が目に飛び込んできて、清々しい朝だと思った。でもそんな景色を見たって、ぼくの口からはため息ばかりが出てくる。なんかいいことないかな。近くのベンチに座ってぼんやりと空を眺めていると、遠くでなにかが煌めいた。それが銀色の円盤であると気づいたときには、ぼくの視界は暗転していた。


20151213

依存なんて言葉をかけられて傷ついたのは、自分に自覚があったから。大好きな人にこの思いを依存なんて嫌な言葉で片付けられたから。理由なんて、挙げようとすればいくらでも挙げられる。だけどあの人を前にすると言えない。それを言うことが、依存を続けるための言い訳だって自分で分かっているから。


20151214

あなたは今何をしているの?今誰と一緒にいるの?メールとか電話とかで聞くのに、あなたは全然返事をくれない。偶然を騙ってあなたに会いにいっても全然嬉しそうな顔をしてくれない。照れ隠しなんだと心を奮い立たせて今日もあなたに会いに行く。それなのに、なんで私は今警察に色々話を聞かれてるの?


20151215

優しい音楽を聴きながら、あなたと共に過ごす時間。それが私には特別で、いつも、ずっとこうしていられたらと思ってしまう。たとえあなたに触れなくても、あなたが私を知らなくても、そんなのはどうでもいい。あなたといられるのなら。夕方の喫茶店。マスターと私とあなただけの、静かで心地よい空間。


20151216

紅葉の時期になったらまた来ようか。山のなかを歩きながらそんな話をした。ここの紅葉、見たかったな……。冬になって木が裸になってからそんな話をした。彼がそれを残念そうに言うから、私は来年の秋に行こうなんて言っていた。来年まで関係が続くかもわからないのに。それでも彼は嬉しそうに笑った。


20151217

寒いなぁ。教室から出た瞬間に感じる風が私に体を小さくさせる。これから自転車に乗ることを考えると、小股になった私の歩みはどんどん遅くなる。当たり前だが、全く駐輪場に近づかない。そのうちに耳も頬も冷たくなっていく。ああ、こたつが恋しい。指先に息をかけると、そこが少しだけ温かくなった。


20151218

誰かの足音がする気がする。もちろん振り返っても誰もいない。静かな闇が道を覆っているだけ。でも歩き始めるとほら、また。誰かがいるかもという意識は私の呼吸を浅くする。外気以外が要因の震えを出現させる。家に帰ろう。早足で歩く私を見つめる影が本当にあったことを、この時の私はまだ知らない。


20151219

図書館デートに憧れてた。彼氏ができたら一緒に行こうと心に決めていた。最近になって小説好きの彼氏ができた。これは実践せねばと彼と一緒に図書館に行った。鎌倉楽しそうだよね、いつか行こう。初めは順調だった。でも小説エリアにきたらダメだった。小説好きの私たちは気づけば別行動をとっていた。


20151220

何回も来たことがある店。いつも同じ味なんだから餃子の味なんてもう覚えている。だから今日も変わらず、いつも通りの味のはずなのに。一口食べて顔をあげるとキラキラした瞳がこちらを見ていた。美味しいねと言えば嬉しそうな笑顔が返ってくる。今日のこの店の餃子は、いつもよりずっと美味しかった。


20151221

「蜘蛛は嫌いよ」夢の中で少女は言った。「私を捕まえて離してくれないから」少女は悲しそうな目をして足元を見つめていた。「だから殺したの」少女の足元に転がっている蜘蛛。その蜘蛛は少女よりも大きくて、どうして少女の持つ小さな針で殺せたのか不思議なほどだった。小さな謝罪が彼女から漏れた。


20151222

寂しい。悲しい。一人で泣いている子どもがいる。みっともないから泣かないでと言っても涙を拭って俯いている。この子が表に出てきたら大変、どうにかしないと。そう思った私の手には丁度良い大きさの檻があった。私はその子を檻に閉じ込めた。ここから出ないでね。悲哀の瞳は私をずっと見つめていた。


20151223

姉がさっきこねていたクッキー生地を焼いているのだろう、台所の方から甘い香りが漂ってきた。ダイエット中の私には強敵である香り。美味しそうだけど行ったら敗け。台所を覗きに行きたい気持ちをどうにか抑えて部屋にいると、焼けたよという声と共に甘い香りが部屋に入ってきた。私は敗けを確信した。


20151224

鈍行電車に揺られながら私はぼんやりと額縁の中の風景を眺めていた。額縁の中では、物憂げな表情で携帯を見ている高校生や読書に興じている男性がいる。この人たちはどのような未来を持っているのか。まぁ私とほぼ同じだろうが。そう思った直後、先ほどまでとは比べ物にならない揺れが私たちを襲った。


20151225

年賀状書かないとなぁ。そう思い立って十分経ったが、私の目の前にある葉書は色づくどころか微動だにしていない。今日中に出さないと元日に届かないのに。心のなかに生まれる焦りとは裏腹に私の手は全く動かない。郵便屋さんが来るまでには終わらせないと。そう思った矢先、バイクの音が聞こえてきた。


20151226

申し訳ありません。今日だけで何度言ったことだろう。仕事でミスをたくさんやらかした僕は今後はこうしようとか、帰ったら愚痴を聞いてもらおうとか考えながら自転車をこいでいた。そんなとき、自転車の後輪の方からガチャンという音がした。恐る恐る後輪を見て、今日はなんてついてない日だと思った。


20151227

相手の機嫌を取るためなら私の口はいくらでも嘘を吐いた。相手を安心させるためなら私の顔はいくらでも笑顔を浮かべた。なんで笑ってるのと言われたことがあった。なんで笑ってるのと自分で思ったこともあった。そんなときだって私は笑った。いつからか、私は笑顔を消すことができなくなっていたのだ。


20151228

あなたの口から漏れるのはあの子の称賛ばかり。私よりあの子のほうが上手だなんて、そんなことわかってるのに。まるで私に言い聞かせるようにあなたは何度もあの子を褒め称える。もうやめて、あなたの特別は私でしょう?私の思いは喉で何かに引っ掛かってしまって出てこない。お願いよ、私だけを見て。


20151229

ここは好き。ここは嫌い。貴方の性格の好き嫌いをあげていく。出会った当初は全然なかった嫌いな所が、今では好きな所の半分くらいにまで増えた。貴方に近づけば近づくほど増える嫌いな所。このままいけば嫌いな所が好きな所より増えてしまう。だから私は貴方から逃げた。貴方を嫌いにならないように。


20151230

小さな手に指を掴まれたまま、庭を歩く。去年はまだ全然力のなかったその手は、私の指をしっかりと握っている。去年はまだ喋れなかったその口は、私のことを呼ぶ。彼女は一年でこんなにも成長した。なら、私はどうだろう。小さな背中が遠ざかっていくのを見ながら、私は自分のもつ一年の長さを考えた。


20151231

歌番組を見ながら蕎麦を食べる。0時が近づいてきて、今年の終わりが迫っている実感が湧いてきた。今年は忙しかった、なんでこんなに忙しかったんだろう。ぼんやりと考えていたとき、携帯に電話がきた。相手の名前を見て、今年が忙しかった理由に思い当たる。今年同様忙しい来年が見えて私は苦笑した。


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