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ゲームを始めて2時間ほどたって、ようやく門を抜け街の外に出ることができた。
街の外は青々と茂った草原が広がっている。遠くのほうでかすかに木々が見えるがこんな草の絨毯、リアルではなかなか見られないだろう。
景色がよく遠くのものが見やすい最初のフィールドらしい場所だ。敵が来てもすぐわかりやすいしいいな。
これから狩りに行くわけだがこのゲームでは、モンスターを倒してその死骸から皮や毛など剥ぎ取らないといけない。
だが剥ぎ取りさえすれば素材が確実に手に入るのは嬉しいことだと思う。
ドロップ制だと運悪く手に入らないと時間を無駄にしている気がするからな。
手に入れた素材を売って、そのお金で農業のための道具を揃えるとなるとまだまだ時間はかかりそうだ。
まぁそれもこのゲームの楽しみかたのひとつだろう。
そんなふうに思いながら草原をのんびり歩いていくことにした。
5分ほど草原を歩いてみたがモンスターが見当たらない。私と同じ考えのお金稼ぎのプレイヤーや経験値稼ぎのプレイヤーがいるはずなんだがそいつらも見当たらない。どうしたんだ?
さらに5分ほど歩くとようやく喧騒が聞こえてきた。
「出てきたぞ。俺の経験値」
「いや。俺のだから」
「避けんじゃねーよ!ウサギ野郎」
「よっしゃー!素材俺がゲットだぜ!」
「ふざけんなよ!てめー」
木が生い茂っている森の入り口付近に、同じような格好をした人たちが群がっている。
あれってプレイヤー達だよな。獲物の奪い合いをしているし。この状況になることはだいたいは予想していたことだが、ここまでだとは予想以上だ。
たぶんあの森にモンスターが沸くポイントがあるのだろうがこの状況は酷すぎる。
みんな武器を持っていないので、森には入らずそこから出てきたウサギっぽいなにかを何人かで囲って殴ったり蹴ったりして倒している。
ここから見た感じでは、ただの動物の虐待にしか見えない。
このなかに入っていって周りのプレイヤーに罵られながらウサギっぽいなにかを殴ったり蹴ったりして撲殺し、死骸から素材を剥ぎ取り手に入れないといけないとか難易度高すぎだろう。
さっさと道具を整えて仕事はしたいが、この状況に入って行きたくはない。だからといって奥に進むのは止めといたほうがいいだろう。
みんな森に入っていかないことから森の中には今の装備では勝てない強いモンスターがいるのだろう。
こんなボロ布装備では避けれず攻撃をくらい死ぬ未来しか想像できない。
「はぁ・・・戻ってこの狩場から人が減るのを待とう」
そう呟き街まで戻ることにした。この状況ではここが空くまでどれだけ掛かるかわからないからな。
ため息をつきながら来た道を戻ることになった。もしあの兵士二人会えばまた笑われるだろうか。
草原なので見晴らしがよく街が見えていたので時間をかけずに戻ってくることができた。
街に入ってあの兵士たちに会っても嫌なので、門の前であの狩場が空くまで時間をつぶすことにした。
ここで待っていれば素材を手に入れた人が帰ってくるのが観察できるしいい考えだろう。
・・・1時間後・・・
待つのは失敗したな。ここで眺めているだけでも戻ってくる人よりも新たに出て行く人のほうが圧倒的に多いのがわかる。戻ってきた人も装備に一切変更がなく、すぐに街の中から出てくる。たぶんウサギっぽいなにか数匹程度の死骸では武器が買えるお金にならないのだろう。
今ではあの狩場はもっと溢れていることが簡単に想像できる。
私は立っている気力も無くなってしまい座り込んでしまった。
ここで座り込んで2時間ぐらい経過したころ、だんだん太陽も傾いていく。
私は自分の見込みの甘さに落ち込んでしまっていた。
もう何度ため息をついたかわからない。
「はぁ・・・」
またついてしまった。しかたがないそろそろ動き出さないと一日目が終わりそうだ。
動き出そうと考えていると声をかけられた。
「よお、そこの兄ちゃん。こんなとこでなにしてるんだ」
そう声をかけてきたのは、高級そうな服を着て厚手の服の上からでもわかるガッチリとした体型のオッチャンだった。
自分に呆れ果てていたので、今の状況をオッチャンに話してみることにした。
「あぁ、聞いてくれよ。狩場が空くのを待っていたんだよ」
「ということは、兄ちゃん戦闘職なのかい?武器も持っていないようだし、見た感じ強そうには見えないが」
確かに自分でも見えない。こんなボロ布を着て武器を持ってないやつを。でも戦闘職だったらあの人が溢れかえっていた狩場にも向かっていったかもしれないな。
「いや、生産職だよ。生産で使う道具を買うお金が無いから魔物でも狩ってお金にしようとしてただけだよ」
「遠回りしてんな兄ちゃん。道具を手に入れるための金が貯まるころには生産職でも狩りの方が戦闘職並みに稼げるようになるぜ」
「でもオッチャン。これしか方法ないだろ」
「頭が固いぜ。もっと柔軟に考えな。自分の持っているスキルの生産をしている人に弟子入りするなり仕事を貰うなりすればいいじゃねぇか。そうすればお金も貰えてスキルも上がるぞ」
「だけど、こんな怪しい格好のやつを引き受けてくれる人なんているのかよ」
自分の格好だと、どう見ても浮浪者にしかみえない。
「ハハハ、確かにそうだな。でもなかにはそんなやつを受け入れてくれるお人よしもいるかもしれないぜ」
「そうだな。それを狙ってみるか。ありがとなオッチャン!」
「おう!頑張れや。それで兄ちゃんは何のジョブなんだ」
「農家だよ・・・あれ、この街に農家なんているのか。農地なんて見かけてないんだが・・・」
「ほう・・・兄ちゃん農家なのか」
と言いオッチャンが怪しい笑みを浮かべる。なんか不気味だ。
「ど、どうしたんだ。オッチャン」
「いや気にするな。それで兄ちゃんは仕事の待遇に何か要望はあるのか」
「え・・・あぁ、要望か。そうだな、雨風がしのげる寝床と毎日飯が食えればそれだけでもいいな」
「そうなもんで良いのか。ちょっと待てよ・・・たしか小屋があったはずだし、飯は農奴の分を・・・」
オッチャンがぶつぶつ言い出し後半なんて何を言っているのか聞き取れない。すごく怖い。なのでそろそろ行くことにした。
「頑張って探してみることにするよ。じゃあな!オッチャ・・」
がしっと肩を捕まれた。肩の肉に指が食い込んでいて痛い。
「いや~兄ちゃんはラッキーだな。その条件にちょうど合ういい仕事先があるよ。運が良かったな!」
すごくオッチャンはいい笑顔だが。なぜか嫌な予感がするのだが。
「そ、そんなとこがあるのか。でもいろいr」
「お、馬車が来たか。タイミングがいいな。兄ちゃん乗りな!」
門を出てくる大きな荷馬車が見える。
「ちょっと待って・・」
「遠慮スンナヨ。イイトコダゾ」
「あれなんで縛られてんだ!誰かたすけt・・グゥ」
縄で手足を縛られさらに猿轡も付けられ喋れなくなり、荷馬車に放り込まれる。ジタバタしてみるがほとんど身動きがとれない。
だんだん街から離れ行く様子が荷馬車の中から見える。いつかはこの街に帰って来れるの日は来るのだろうか。
・・・ごとごと揺れる荷馬車の中で、子牛が売られていく歌を思い出していた。