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ホリック・ワーカー  作者: 舌百合
序章 ゲーム開始
1/11

1

リアルの私は、死人となんら変わりはない。

唯一の生きがいを、自ら投げ捨ててしまった愚者である。

今までの行動を反省して、1から始める事もできない壊れた肉体。


 しかし、この世界は私を見捨ててはいなかった。

捨ててしまった生きがいを、新たに始めることのできる肉体を与えてくれた。


 新たな肉体を手に入れ、生きがいを探す私に女神は祝福をくれた。

迎えてくれたのは、埋め尽くさんばかりの人たち。

食欲をそそる香ばしい匂いがする。肌を風が撫でるのを感じる。

五感すべてが教えてくれる。本当にリアルそのものだと。


私は、世界に感謝する。


ここでなら




ココデナラ


シヌマデ


ハタライテモ


モンダイナイノダロウ





サ イ コ ウ ノ セ カ イ ダ






====================================


 太陽の光をカーテン越しに感じ、もう朝なのかと眠りから目覚め始めた。


 起きようと思い目を開けてみると、自宅ではない天井が見えた。見える範囲を確認してみると簡素な部屋のベッドに寝ていることがわかった。


 この形状は病室だろう。だとすると考えられるのは、薬の臨床試験の仕事か。いや…この半年以上は、肉体労働系の仕事しか請けていないはずだ。


 頭が混乱してきたが、ここが病院ならどこかにこの状況の理由を知っている人がいるはずだろう。そうと決まれば動き出すか。

 人を探すために起き上がろうとすると、筋肉に力が入らず身動きすらとることができない。いったい私の身になにがあったんだ・・・


 私が動けないことに混乱していると、


「風間さん目が覚めたんですね」


 たぶん混乱しているときに、ノックしたのだろうが急に話しかけられ驚いてしまった。

私が、驚いている間に「先生を呼んできますね」と言って女性は部屋からすぐ出て行ってしまった。

呼び止めれなかったことに落ち込んだが、身動きが取れないので追いかけることもできない。そのかわり人がいたことに安心して落ち着いてきた。


 先ほどの女性は、看護師だろう。容姿は若くて、可愛らしいタイプだ。いつも行く病院では見た覚えはないな。


動けないのでのんびりしていると、白衣を着た男性と先ほどの若い看護師さんが入ってきた。


「目が覚めたようですね。身体の調子はいかがですか?」


「―先生。私はなぜ病院のベッドで寝ているのでしょうか?」


「仕事中に倒れてしまったので救急車で運ばれてきたんですよ。」


 先生に言われようやく思い出してきた。たしかその日は、一日中太陽の日差しが強かったのをよく覚えている。

朝早くから仕事をしていたが、余裕がなかったため休憩を取らず外で作業をしていた。

どうにか仕事が終わったとこで記憶がない。まだ片付けは残っていたはずだ。それに次の日も、仕事があったはずだが・・・


「仕事はあのあと、どうなったかご存知ではありませんか。あと次の日も仕事があったはずなんですが」


「仕事は大丈夫ですよ。それよりも自分の身体を心配してください。一週間も目が覚めなかったんですよ」


 冷や汗が全身から溢れてくる。一週間も仕事から離れてしまうとは仕事仲間に迷惑をかけてしまったようだ。少しでも早く仕事に復帰しなくては。

いつごろ退院できるか先生に聞いてみると、


「運ばれて来たとき診察してみましたが、今までどうやって生きてこれたのか不思議な状態でしたよ」


 今は起き上がれないが、そこまで先生が言うように酷い状態なのかは疑問に感じる。

ここ5年、一度も休みは取ってはいないが、身体のどこにも痛みも感じたことがない。

 首を傾げてしまう私に、ため息をつき疲れた様子の先生が


「内臓系がすべて全滅に近い状態でした。ある程度は治療できましたが、仕事は一生無理だと思ってください」


シゴトハ・・・イッショウムリ・・・


 一瞬、先生がなにを言っているのか、わかりませんでした。


「・・・先生、そんなたちの悪い冗談はよしてくださいヨ」


「冗談ではなく事実です」


「ソンナ・・・」


 先生に言われたことを、頭が認識することを拒否していました。ですが、この方が嘘をつく意味もないのです。

だんだんと頭が事実として受け入れはじめました。そして、理解した時私はなにも考えられなくなりました。

 先生は、まだなにか話しているようですが、私の耳には入ってこないようで反応することもできませんでした。

 

仕事という生きがいを失った私は、これからどうやって残りの人生を生きていけばいいのだろうか。


 そんなことばかり考えて数日間は呆然自失でした。

ですが私の性格上何もしないというのが一番の苦痛なので、少しずつ前向きにこれからのことを考えることにしました。

今は身体を休めいつの日か仕事ができるようになるのではという淡い希望をもって・・・


 ベッドで身体を休めているだけのそんなある日、私の上司である社長が病室にやってきました。

社長は病室に入ってくるなり頭を下げて謝罪の言葉を告げられました。


「どうしたんですか、頭を上げてください。私こそ仕事を途中で抜けてしまいご迷惑を。先生に許可をどうにかいただいて復帰しますので」


私がそういうと、社長は青い顔で「止めてくれ!」と叫びました。私が吃驚していると


「・・・仕事は大丈夫だからゆっくり身体を休ませなさい」


 お世話になっている社長にやさしい言葉かけられて感動していると、先生が入って来られました。


「こんにちは、身体に異常はありませんか?」


「大丈夫です。先生それよりも聞きたいのですがデスクワークくらいならできませんか。少しでも社長のために仕事をしたいのですが」


 そう私が言うと社長はさらに顔が青くなり


「頼む勘弁してくれ!これ以上お前が関わるとわしの会社が倒産してしまう。」


そんな・・・私がなにをしたんですか!ただ仕事をしていただけですよ。それなのになぜ。もし仕事が無くなってしまったら私は・・・どうしたら・・・


 錯乱している私に先生が


「落ち着いて下さい風間さん。仕事に近いなにかならできるかもしれませんよ。」


私はその言葉を聴きどうにか心を落ち着かせました。少しでも希望を手に入れるために。


「最新のオンラインゲームなんですが、技術が進歩したらしく、すごくリアルなんだそうですよ」


「そんなにリアルなんですか。今はそこまで進歩したんですね。でもゲームなんですよね。現実の仕事のように労働の喜びや、充実感があるようには到底思えないのですが…」


なんだ、ゲームかと拍子抜けしてしまいため息をついていると


「普通はそうだと思います。ですが・・・」


先生が言うには、先生の知り合いですごい天才がいるらしく、その方が開発したゲームなのですがリアルを追求しすぎて、現実と区別できないやばい代物ができあがったそうです。

αテストやβテストは終わったらしく、プレイヤーからの評価も高く現実以上に素晴らしいと今一番の話題作らしいです。

ですが私が剣や魔法のファンタジーは娯楽性が高く労働の喜びが少ないのではと言うと、生産系の作業を勧められました。

なぜかというと、現実と同じかそれ以上の大変さらしく、テストプレイヤーからも「なぜゲームの中でまで重労働しなくてはいけないんだ」とか言われている鬼畜仕様らしいです。

私はその情報を知りヤル気が出てきました。ただ一つ懸念があります。


「最新のゲームということは、今からそれを手に入れるのは難しいのでは」


 テストプレイも終わったそうなのでもうそろそろ始まり、予約も終わっているのではないかということ。私がそういうと先生が優しく微笑み、


「それがですね。病院で治療に使えないかと私も投資してたんですよ。そのため多めにお願いしていたので、分けてあげることは可能ですよ」


 できるかもしれないと期待しましたが、病院で導入するようなもの安いわけがありません。私は趣味が仕事の人間でしたので、貯蓄は結構あります。

ですがそれを使ってしまうとこれからの人生お金を稼げないので、せっかく始めるゲームもできなくなるかもしれません。それでは本末転倒です。


そのため先生に、資金の面で不安があることを相談しました。すると先生は妙案を思いついたらしく、いい笑顔で顔の青い社長を連れて病室を出て行きました。

私には案が思いつかないので先生に任せます。期待せずにのんびり待ちましょう・・・


 あれから3時間ぐらいたったころでしょうか、二人が戻ってきました。社長は何歳か一気に老け込んだように感じ、先生はすごく笑顔で戻ってきました。


「社長さんとお話をしたところ、退職金がわりにゲームの機械を買っていただけるそうですよ。」


「本当ですか!?」


「ああ、先生とお話して契約はすんだからかまわない。・・・すまないが、これで勘弁してくれ。もうこれ以上は・・・」


「社長ありがとうございます。この恩一生わすれません」


 私が頭を下げると社長は青い顔のまま病室から出て行きました。疲れた様子の社長を見て社長業の大変さを感じさらに尊敬しました。


「ゲームは家に帰るときにお渡ししますので、今はゆっくり休んでくださいね」


 先生も病室から出ていきました。

いつもと変わらない一人っきりの病室のベッドに寝ていますが、この数日間感じていた絶望感や虚無感が無くなり、今は嬉しさとワクワク感で溢れています。

ゲームでは何ができるんだろう、あれもこれもとやりたいことが溢れだしてきます。

 ふと気づき、学生のころのようにすごくワクワクしている自分に驚いてしまいましたが、これが新たな私の芽が出始めた瞬間でした。


 それから1ヵ月間ほぼ寝たきりで、食事も美味しくない流動食しか食べれませんでしたが、必死にリハビリをしてようやく退院できる日になりました。


「退院おめでとう。そう言ってもしばらくは家でもベッドで、ほぼ寝たきりですごしてもらわないといけないわけですが。」


 先生が言うには、走ったり重いものを持ったりと激しい運動は厳禁だが日常生活レベルならできるほどには回復したようだ。

だが身体が弱りきっているらしく、一日のほとんどの時間を寝たきりじゃないとどんどん悪くなるそうだ。


「それから明日からゲームが正式にスタートするそうですね」


 ゲームを教えていただいたころは、まだテスト中だったらしくオープンまでは病院で療養していたわけだ。最終調整もようやく終わり明日から正式にサービスが開始するとのこと。

テストに参加していた人たちも1からスタートらしいが、機械を無料で渡しているらしい。私も参加したかった・・・


 お世話になった先生とのお別れも済み、久しぶりの我が家に帰ることができた。一人で帰るはずだったがなぜか隣には監視役がいる。あの若い看護師さんだ。


理由を聞くと「風間さんは見張ってないと無茶を平気でするので」とのことでした。私って信用ないな・・・


「風間さん。着きましたよ」


そう言われタクシーの運転手にお金を払って車を降りると、愛ちゃんが玄関を開けて待っていた。

あの看護師さんでフルネームだと清水愛しみずあいという。あの病院に清水という苗字が多いため下の名前で呼んでと言われたのだ。あの先生も清水だし・・・


あれ?なんで鍵が空いてるのだろう。愛ちゃんに鍵を渡した覚えが無いのだけど。まぁいいか・・・


「ただいま」


 我が家の玄関をくぐりただいまと言ってはみたが、家族が居るわけではない。

もともと兄弟もいないし、結婚もしていない。両親は私が30のときに亡くなっている。

 これから仕事はできないが、持ち家があるし親の遺産も今までの仕事の給料もほとんんど使っていない。

仕事しか趣味も無かったので使う機会がなかったのだ。無駄遣いしなければ私が死ぬまでは持つだろう。


 もう少ししたらゲームの機械が来るので邪魔なものを片付ける。とは言っても仕事関係の物しかないので倉庫にぶち込むだけで終わる。愛ちゃんもなぜか手伝ってくれてる。

あとは冷蔵庫にあった食料品などがすべて駄目になっているので処理をしているとチャイムが鳴った。これも愛ちゃんが対応してくれた。


 届いたのはカプセル型の機械。これはゲームをする機械の中では一番良いやつらしい。

よくわからない先進技術でリアルでの食事や排泄を機械内で行えるためログアウトしないでいいらしい。病人向けだし納得した。


 2時間も掛からず設置が終わり想像していなかった大きさの物が届いて驚いたが、後は明日ゲームが始まるのを待つだけだが・・・

愛ちゃんはまだ家にいて晩御飯を作ってくれてます。最近の看護師さんはアフターフォローも良いようです。そのエプロンや材料はどうしたの?とか、いつ帰るの?とか、その荷物なに?とかなんて聞けません。

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