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我らノワール曲馬団〜おかしな少年少女達の日常〜【更新停止】  作者: 創造神(笑)な黒死蝶氏
第二章 アカシックレコード
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第二十三話 美憂さんが仲間になりたそうに此方を見ている。

【前回までのあらすじ】


幻影とノワールの世界の分岐点。


鬼灯が国に帰ってた場合→幻ノワ

鬼灯が国に帰らなかった場合→ノワ曲


塁兎「二つの世界の違いは何だ?」


零音「塁兎の性格の歪み具合とか、僕やテオドール君、森谷さんの存在の有無など」

 眩しい太陽に反射してきらきらと輝く砂を踏み、水着に着替えた一同は楽しげに笑っている。


「きゃーっ塁兎君そっち行ったよ!」


「む……っ!」


 提督(由梨愛)の指示を受け、慌てて第二艦隊の航空戦艦(塁兎)が打ち返したビーチボールはぽんと小気味良い音を立ててネットを飛び越え、第一艦隊のコートへ。

 手前にいた重巡洋艦二隻(まどかとあらまぁ)がボールを打ち返そうとほぼ同時に動きだす。


「あっ、お二人共ぶつか……!」


 駆逐艦(彩葉)が気付いて声をかけようと口を開いた時にはもう遅く、二隻は勢い良く激突した……まま、その勢いを殺さず揃って地面へ叩きつけられる。

 肝心のボールは二隻の手前にぽすりと落ちた。そのタイミングを狙っていたとばかりにセットしていたアラームが鳴る。


「そ、そこまで! 第一艦隊三十五点、第二艦隊四十七点につき第二艦隊の勝利です……!」


 ピピー、と試合終了のホイッスルを鳴らし、点数記録担当の戦艦()が精一杯声を張り上げる。

 読み上げられた結果に提督(由梨愛)軽巡洋艦(鬼灯)は歓喜して奇声を上げながら塁兎に抱き着いた。塁兎は咄嗟の事に対応しきれず、三人纏めて砂上へダイブする。


 そして取り残された彩葉は未だ転がっている第一艦隊達(あらまぁとまどか)第二艦隊(由梨愛達)とを暫し交互に見比べた後、空気を読んで自身もべしゃりと転がり込んだ。

 コート一帯にもうもうと立ち込める土煙の中で人が六人も倒れている異常な光景に「何だ何だ」「熱中症か?」とビーチの利用者達の視線が釘付けにされる。


「おっと、第一艦隊は重巡洋艦二隻の轟沈に引き続き駆逐艦彩葉も小破か!? 第二艦隊は航空戦艦塁兎が霧島提督と軽巡洋艦(ドマゾ)の下敷きになっている! 果たして彼らは無事なのだろうか? さぁ提督はどう出る!?」


「冒頭から思ってたが何故に艦隊風なんだよ!? 漢字ばっかで覚え辛ぇわ!」


 コートから少し離れた海の家のテラス席にて。混沌(カオス)を極める解説に我慢の限界がきた第一艦隊の軽巡洋艦(テオドール)が額に青筋を立て、零音の頭を平手で叩いた。至極真っ当な意見である。


『クソワロタンバリンシャンシャンカスタネットタンタンプップクプーシャンプーチリリリリリンッ……! か、艦隊パロやめ……ブフォッ!』


 試合開始から三十分間、零音の解説を含めた一連の事件(試合)を録画していた潜水艦(アンリ)はというと、意味不明な言語を発しながら端末の中で忙しなく悶えている。ふと本家には潜水艦が登場していたか? という疑問が湧き上がったが、あのゲームは十八歳未満はプレイ出来ないから肉体は九歳の零音には確かめようもない。細かい事は気にしたら負けだと思考を追いやる。


「すっかり機嫌が直ったようで何よりだよ……」


 と、零音は叩かれた頭を摩る。叩かれた時脳味噌が振動する感覚に陥ったが、ある程度の手加減はしてくれたようで大事には至っていないようだ。


 因みに今の第一艦隊やら戦艦やらというのは先日塁兎が製作した乙女ゲームの「艦隊パロ」ステージでの団員達の設定だ。

 乙女ゲームの方も艦隊パロステージだけは既に全ルートクリアしていた事もあり、先日好評だった事から作られた続編ことギャルゲーバージョンの試作β版にも零音はどっぷりとハマっている。

 勿論ギャルゲーは彩葉の不在中、睡眠中など彼女の目が届かない時にこっそりプレイしている。



 ――さて、ノワール曲馬団の面々は現在戦力強化合宿という名目で二泊三日の旅行へ出かけている。

 一日目の今日、八月十三日は海水浴をしようと先日塁兎に言われたというのに、鬼灯が出発時刻ギリギリまで何をしても起きなかったので仕方なく藍が担ぎ込んで都心からビーチにやってきたのだ。


 閑話休題。戦力強化合宿という如何にも塁兎が発案した感満載な大仰な名目だが、それは建前で本音は折角の夏休みを仲間達と満喫したいだけだろう。


 ――青春って良いなぁ。若気の至りって感じだなぁ。


 由梨愛に押し倒される体勢になり、石化でもしたのかというくらいカチンコチンに固まっている塁兎とそんな彼の顔を心配そうに覗き込み手を振っている女性陣に自然に口角が上がる。


『ふぅ、流石に腹筋が死にかけてきたんだぜ……そういやお前達は遊ばなくていいのか?』


 問題のビデオにテロップや効果音などの加工を施し、好き勝手に遊んでは笑いの発作に陥ってを延々とループしていたアンリが漸く戻ってくると、他の団員達に交じらず遠くから眺めているだけの零音達を不思議に思ったのかそう話題を振ってきた。


「はは、僕達があの元気についていけると思うの?」


『全く想像もつかないんだぜ!』


 死んだ魚のような目で塁兎達を眺め、空笑いを漏らす零音にアンリは即座に首を振った。少しは迷ってくれても良いのではないだろうか。虚しくなってくるのは此方なのだが……


 零音とテオドールは元々インドア派なので、外で駆け回る様な遊びは余り好まない。知っているなら最初から聞くなよ、とテオドールは口には出さないが苛立ちの籠った視線を送る。

 しかしアンリが知っていても聞かずには居られない性格なのを知っている零音は無言でオレンジジュースを飲み干した。


 かつてアンリが零音に伝えた昔話。零音は蓮目線で語られた五年前の塁兎の誕生日の、何気ない日常部分にも着目していた。


 彼は根っからの性悪というよりかは、人の神経を逆撫でる事以外のコミュニケーションの取り方が分からないのだろう。

 それが零音の下した「黒田蓮(アンリ)」という人間への評価だ。


 ノワール曲馬団の団員達に共通しているのは、心の何処かに孤独感を抱えている所だ。


 鬱病になり易いのはネガティヴな人より一見ポジティブに見える人だというのは案外合っていて、普段気丈に振る舞い、他人を気遣っている人間程抱えている闇は深い。

 家族の温もりを充分に与えられなかった人間は人格が歪み易い。


 曲馬団内だと自ら家族に背を背けた鬼灯や、四歳で両親を一度に失った塁兎などが良い例だろう。

 誰かに依存していなければ自らの存在価値すら見出せなかったり、今でこそ統合されたがかつては幾つもの人格が同時に存在していたり。

 そしてアンリは周りに嘗められないように取っていた小生意気な態度がいつの間にかデフォルトと化してしまったタイプなのだろう。

 まぁ、これらは零音の推測にしか過ぎないのだが。


 ……そういえばアンリはまるで何でもない事のように流していたが、記憶喪失でしかも池で溺れている状態で発見・保護された彼を探しに来る身内が一人も居なかった時点で既におかしい。

 彼に何があったかなんて憶測でしか語る事が出来ないが、発見時外傷が無かった点からやはり心的外傷が要因な記憶障害の可能性が高い。


 ……確かなのは、記憶を失いたくなる程ショッキングな「何か」を彼は幼少期に体験しているという事くらいか。


『おい、れーおん! 聞こえてるかー?!』


 呼びかけられ、考え事を強制的に終了せざるを得なくなった零音が手の中に収まるサイズの端末に視線だけを落とすと、呼びかけてきた相手は丁度今考えていた彼だった。

 耳と尻尾をピンと立ててニヤニヤと笑うアンリに、本能で不穏な空気を感じ取った零音はあからさまに嫌そうな顔をする。


「……何さ」


『あのな、ちょっと……』


 アンリは零音の隠す気もない嫌悪を珍しく咎めず、周囲を軽く見渡すと声のボリュームを下げる。

 彼が珍しく言い淀んでいる。何を言われるのか身構えていると、アンリは予想の斜め上を行く素っ頓狂な事を言い出した。


『お前は誰の水着姿が一番良いと思う?』


「「はぁ?」」


 間が抜けた声が重なる。首を正面へ戻すと対になる形で腰掛けていた鋭い深紅とばっちり目が合うが、目が合った途端不快そうに舌打ちされそっぽを向かれる。

 テオドールの反応に零音は苦笑いする。


 ――正体を明かしても、嫌われているのは変わらないか。


『いやぁ、何も変な事じゃないんだぜ。 曲馬団(うち)って変な奴多いけど眉目秀麗、才色兼備な奴らが多いじゃんか? ゆりあんぬぅとか見てみろよ』


 アンリに促されるまま見てみると、漸く塁兎の上から退いた提と……由梨愛は波打ち際であらまぁとはしゃいでいた。


 肩に着くよりも少し長い栗色の髪はシュシュでポニーテールに束ねられていて、胸元の大きなリボンが特徴的な薄紅色の水着を着ている。


 アンリの言う通り、細く無駄な肉がついていないように見えるのに女性として出るべき部分がしっかりと出ている理想的なボディだ。身内の欲目を抜きにして見てもかなりレベルが高いのは間違いない。

 これで腐女子でさえ無ければ普通にモテていただろうに、と余計な一言なのは分かっているが勿体無くて仕方ない。


『普段からデカいだろうと思ってたけど水着だとやっぱ顕著に現れるな。お、あらまぁも案外胸あるんだな』


 あらまぁも普段着がドレスなので身体のラインが判り辛かったが、成る程此方も背は低いがスタイルは良い。

 胸は由梨愛程大きくないが、かといって小さ過ぎもせず、程良いサイズだ。深紅と黒のストライプ柄のビキニも彼女らしい。……その上に大きな襟がついたマントを羽織っていたり、細かなレースや刺繍などの装飾が施された日傘を差していたりとヴァンパイア要素を忘れていない所も。


 というか今まで日焼け止めだけで大丈夫そうだったのに……流石に海だと日焼け止めが落ちるからマントと日傘で防備を固めているのだろうか?


『あれは間違いなくC以上あるぜ。よさのん(まどか氏)は……Bか? 小学四年生にしては中々将来に期待が持てる……』


「テメェは胸しか見てねぇのかよ糞が」


 うんうんと頷きながら女性陣の胸部を査定するアンリに、テオドールが軽蔑の眼差しを送る。『えー酷いんだぜー』と文句を垂れながらもアンリは依然ヘラヘラと笑っている。

 無理して作った笑顔ではなく、普通に楽しそうな自然な笑顔だったので放っておく事にして、零音は女性陣に向き直る。


 いつの間にか海水に膝まで浸かってはしゃいでいるまどかはまさかのスクール水着という選択だが、似合っている。いや誰にでも似合うようにデザインされているのだから似合って当然だが。

 だが零音の視線が最終的に向くのは勿論、まどかの隣で口元に手を当て、上品に微笑んでいる彩葉だ。


 海の一部を切り取ったようなシアン色のワンピース形の水着。そこから伸びるすらっとした滑らかな肢体。

 腰元で同じ長さに切り揃えられた髪を緩くを編み込んでアップに束ねているお陰で、今零音に背を向けている彼女の白いうなじが惜しげも無く晒されている。


 バイオレンス且つ猟奇的、デンジャラスな性格にばかり気を取られてしまうが彩葉はやはり可愛いのだ。


『イロハってぃの水着もよく似合ってるよなー、Aだけど』


 アンリのピンポイントな発言にどきりと心臓が跳ねた。

 周囲を確認するが零音に対して不自然さを感じている様子は見られなかったので、彩葉に魅入ってからまだ僅かしか時間は経っていないのだろう。

 いや、今はそれよりも重要視すべき問題があるか。


「……どこ見てんのさ」


『おぉ〜?! それって嫉妬か? 独占欲か?』


 大したダメージを与えられないとは知りつつも携帯電話を握る手の力を強めると、アンリは意地悪くにやけ、驚いた風に両手を上げて見せる。久々にうざい。だがやはりアンリはこうでなくては。


『零音にもまだ年相応な部分があったんだな!』


「中身ジジイで悪かったね!」


 水を得た魚のように活き活きと画面越しに小突いてくるアンリが煩わしくてついムキになった零音は反射的に自虐する。


 確かにこの肉体を得る以前も含めて数えれば千歳はとうに超えている零音だが、彼方の身体はほぼ彼奴(ラムネ)に独占されている状態だった為、主人格の零音自体は数百年近くもの間精神世界の深層部で眠って過ごしていた。

 つまり彼の実質的な精神年齢は十代後半から二十代前半……塁兎達よりも少し上くらいなのだが、見た目は九歳児なのだからショタジジイである事には変わらないのかもしれない。


 そしてテオドールが小声で「リア充ハゲろ……死ね糞爺い……」とか何とか言っているが、ちょっと二人共酷くないだろうか。零音は涙目になりながら思った。


 何故彼女が居るというただそれだけの理由でここまで弄られなければならないのだろう……



「……何してるんだい」


 突如上がった不機嫌さ丸出しの声。見ればビーチボールバレーの片付けを終えて、何故かむっつりと不貞腐れながら鬼灯が此方に向かって歩いてきている所だった。


 彼は水着の上に着たまま泳げるパーカーとやらを羽織っているのだが、藍のお下がりなのでぶかぶかで、宛ら彼シャツならぬ彼パーカーな状態になっている。

 声で鬼灯が来たと理解したアンリは画面に張り付いて周囲に目配りし、鬼灯の姿を視認すると声を掛ける。


『おっ鬼灯! お前もおっぱい見に来たのか』


「は……? 僕はロリとショタしか見てないよ」


 セクハラ親父然とした揶揄を飛ばされた鬼灯は眉間に深い皺を刻み、見るからに不機嫌さを増したが、やはり安定の鬼灯である。


『相変わらずキモいんだぜ! まぁ確かによさのんと夫人も可愛いが……あれ? ヴァンパイアって灼熱のビーチに出てきても大丈夫なのか……? コートと日傘で防備してるから大丈夫か……?』


「ソウダネー」


 相槌が酷く棒読みな上に目が完全に据わってらっしゃるのに、アンリは単に鈍いのか、あるいは気付かないフリをしているのかは判り兼ねるが、今も尚女性陣の査定を続けている。


 彼は恋愛事に関心が持てないとはいえ、女の子の身体自体には興味があるらしい。

 まぁ、推定十八歳の健全な男がそっち方面に関心を抱くのは極自然な事象だと言えるが。


 そうだ、恋愛事といえば。

 以前女子達の告白をズバリと振っておきながら友達として付き合うのを許可する理由を彼は「従順な手駒にする為」と鬼灯に語っていたが、零音はその時の彼の回答にずっと不自然さを感じていた。


 ――まるで咄嗟に後付けした建前みたいだな、と。



「キモいのはあんたもだよ? 何胸ばっか見てるのさ」


『俺は思春期男子として当然の行いをしたまでだぜ? プスーッ、これだからお子ちゃまはっ!』


「なッ……」


 鬼灯の顔がみるみる朱に染まり、瞳はぎらついて後少しでも挑発すれば携帯ごとアンリを分解処分にかかり兼ねない。正に一触即発。

 零音は鬼灯を狡猾で察しが良く、一見阿保に見えるが精神年齢は少なくとも実年齢より上の要注意人物と考えていたので、見え透いた挑発にここまで憤りを露わにする彼を見てその認識を改めさせられる。


「あんたって奴は……! いつまで僕を子供扱いする気なんだ!?」


『んー、二十歳になるまでだな』


「後三年か……近いような遠いような……」


 アンリは今までも……そしてこれからもきっと鬼灯、そして塁兎達の事を「年下の子供」又は「弟」としか認識しないだろう。

 今もどうせ適当に思い浮かんだ数字を言っただけだろうに、鬼灯は真に受けて真剣な顔で考え込んでいる。


 あの鬼灯が、だ。


『お前にしては素直だな。そんなに子供扱いが嫌だったのか?』


 案の定零音と同じ疑問を抱いたアンリがディスプレイ端末の中でどアップになって首を傾げる。


「っ……別に」


 何かを言おうとして言葉に詰まり、咄嗟に誤魔化したその反応から、ドマゾの癖に自尊心の高いという二律背反の彼は今回もまたはぐらかして明確な答えは言わないのだろうと何も知らないテオドール以外の二名は考え、アンリは話題を逸らそうと口を開きかける。


『あ、そうだ鬼灯も何か飲み物――』


「……別に、あんたにいつまでも子供としか見られてないのは何か気に食わないってだけだよ」


 アンリを遮って、そっぽを向いた鬼灯は無理矢理といった様子で言葉を絞り出した。その耳はほんのり赤い。


 ――あの鬼灯が。ドマゾの癖に意外と頑固で意地っ張りな鬼灯が。素直に自分の意見を言った?


 予想外過ぎて、あり得なくて。

 思わず我が耳を疑って何も反応を示さない零音達に段々羞恥心がこみ上げてきた鬼灯は顔を真っ赤にして彼らを睨みつけた。


「そ、それだけ。何か問題でも有るのかい」


『……期……コレ…………ハッ!? あっ、いやぁ、何もないぜ? そっかそっか……』


 アンリが歪に固まった作り笑いのままぼそりと何かを呟いて、直後口から漏れた言葉を取り繕うように両腕をブンブンと振る。その度に彼の腕をすっぽり覆うぶかぶかの袖もパタパタとはためいた。

 掠れた最小音量の呟きは聞き取れなかったようで、アンリの呟きを気に留めている者は誰一人として居ない。携帯を持っていた零音以外は。



「『デレ期キタコレ』って君さぁ……ほんと仲良いんだか悪いんだか……いや、良いのかな?」


 その後も何かと突っ掛かり合う幼馴染二人の応酬についていけず、蚊帳の外に放り出された零音とテオドールは互いに疲れた目をしながら彼らの後ろ姿を眺めていた。


 海に来たはいいが、まだ泳いでもいないのに濃い一日だな……なんてぼんやり考えていると、ふとジッと此方を伺い見ているような気配を感じ、鬼灯達が言い争っているのとは反対方向……つまり海の家を見ると、店内席に見覚えのある高慢そうな令嬢を見つける。


「……」


 ――美憂さんが仲間になりたそうに此方を見ている。


 そう脳が認識してから約二秒。直感的に面倒事に巻き込まれそうだと察した零音は携帯を鬼灯に渡し……いや、正確にはブン投げるとテオドールの腕をはしと掴んだ。


「テオドール君、向こう行こっか」


「あ? お、おう?」


 唐突な行動に理解が追いついていないテオドールは肯定とも否定とも取れない声を発する。


「ちょ、ちょっと待って君達! 二人きりにしないで!?」


 背後から大声で静止がかかるのも聞こえないフリをして、零音とテオドールは迅速にその場を離れた。


 ――知らない、知らない。僕はあの逆ハー女なんて初めから見ていない。きっと幻だ。


 そんな矛盾した思考を抱きながら。

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