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我らノワール曲馬団〜おかしな少年少女達の日常〜【更新停止】  作者: 創造神(笑)な黒死蝶氏
第二章 アカシックレコード
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第十八話 女子会なう

【前回のあらすじ】


零音「始めようかー♪隠れんb」


テオ「やめろ! 色々と終わる!」


零音「黒髪赤眼で根暗でうさぎのぬいぐるみ抱き抱えてる男子高校生って塁兎以外にも居たんだね。吃驚(ビックリ)だよ」


塁兎「お前って何気に辛辣だよな」


与謝野「ところで『本を開けた無邪気な憧憬(どうけい)』の『憧憬』が空耳で『童貞』に聞こえるんですがこれは」


テオ「そう言われるとそうとしか聴こえなくなるから強制終了な」

 塁兎は喫茶店でバイト。


 鬼灯と藍はアンリは平和に……という訳でもないがお風呂タイム。


 テオドールは路地裏でアイカにクッションにされていた。


 そして零音と与謝野はテオドールを追う形で、それぞれ団員達の目を掻い潜ってアジトを出た。


 ――ボーイミーツガール(仮)サイドのお話から時系列を少し遡って、今回は残された女性陣の様子をお送りする。










「そうだ、デパートに行こう!」


「「へ?」」


 目を輝かせ、東北に行こう的なノリで高らかに宣言した由梨愛に、彩葉とあらまぁは揃ってぽかんと呆けた顔をする。


 それは海水浴だとかキャンプだとか、未だに夏らしい事を一切していない八月上旬の午後の情景。

 皆が帰ってくるまで勉強でもしようと決め込んだ由梨愛であったが、勉強が人一倍苦手な彼女に中学時代からずっと勉強を教えてくれている病弱優等生陰陽師の同級生も家族旅行に行ってしまっているし、同率首席の高IQ美少年二人組は方やバイト、もう片方は黒猫を構い倒していて手が離せない状態。

 誰の助力も得ずに夏休みの宿題をこなせる訳がないと悟った由梨愛は、気分転換と称した現実逃避をノワール曲馬団女子組に提案したのだ。


「良いと思わない? 女の子同士で恋バナとかしながら買い物してー、甘い物を食べるみたいなの! 夢だよね〜」


 由梨愛は自分が持てる乙女的妄想力を駆使し、「JKらしい夏休み」の憧憬について熱弁する。

 BLやショタの事を語っている時並みに饒舌な由梨愛の演説を止めたのは彩葉だった。


「夢って大袈裟な……由梨愛さん友達沢山居るじゃないですか。今までも行った事はあるでしょう?」


「ぐふぅうううぅっ!」


 子供故の素直な彩葉の意見は、見事に由梨愛の地雷を踏んでしまったようだ。

 精神的に大ダメージを受けた由梨愛は喀血しながら床に崩れ落ちる。


「ゆ、由梨愛さん!? どうしたんです急に!?」


「わ……私のSAN値がピンチ……」


「さ、さんち? ってキャア! ど、どうしたんですか……!?」


 突然の事に状況を飲み込めない彩葉はオロオロと由梨愛に駆け寄るが、由梨愛は謎の一言を残して事切れたようにぐったりと倒れ伏した。

 あらまぁは会話に混ざる事なく、近いようで遠い場所から彼女らのやり取りをぼぅっと眺めていた。



「……幾ら時代が移り変われども、種族が違えども、いつだって子供の無意識は恐ろしいねぇ……あらまぁが小さい時、教祖様もこんな気持ちだったのかなぁ」


 由梨愛達越しの虚空に過去の情景を垣間見て、切ない笑顔で紅茶を音一つ立てずに啜るあらまぁ。

 ヴァンパイアであるあらまぁの容姿は幼く、言動や行動も人類の寿命を遥かに凌駕する五百年という時を生きてきたという割には稚拙。だが、偶にぽつりと溢す本音の節々はやはり五百歳の風格を感じさせる。



『アラクネ、叔父さんが遊びに来たよ』


 ――嗚呼、教祖様。


 当たり前のように毎日笑いかけて貰っていたのはもう数百年も昔だというのに、一向に色褪せない記憶の中のその人。

 燃えるように真っ赤な色をした髪は魔族には有り触れた色なのに、その人の色というだけでとても綺麗に見えて、子供心に強い憧れを抱いた。


 いつしか自分も真っ赤なドレスに身を包み、人間界から真っ赤な人魚を取り寄せては鑑賞してデッサンし、真っ赤な血を集める為に沢山の拷問器具を取り寄せたり時には自作もして――


 いつだってあらまぁは教祖様の背中を追いかけていた。

 自分の人生は教祖様と出会う為にあるのだと、信じて疑わなかった。

 親の勝手に決めた政略結婚のせいで公爵家に嫁ぐ事になった時も、現在も、ずっとずっと……


 ――教祖様。貴方様に永遠の忠誠を誓い、この身捧げましょうぞ。

 初めてお会いした時から我が心は貴方様のもの。貴方様が殺せと言うならば例え血の繋がった家族でも躊躇はしない。

 使われた挙句石ころのように道端に捨てられたとしても、惨めに這い蹲り土を食む事になったとしても、貴方様のお側に居続けましょう。

 この命が尽きても何度だって輪廻して貴方様を追う……モォゼェッタイニニガサナインデスカラネェ?







「――ら……さ、あら……ぁ……ん、あらまぁさん!」


 其処にあるのはもう既にいつも通りのアジトと、いつも通りのメンバー。……夢は所詮夢。いつかは覚めてしまうものだ。

 ならばもう少し記憶の中のあの人を感じていたかったとあらまぁは再度記憶の世界に戻ろうと考えたが、このまま返事をしないのも後々面倒そうなので億劫だが返事をする。


「……んぅ? なぁにぃ?」


「『なぁにぃ?』……じゃないですよ! 何勝手に回想に入っちゃってるんですか!? 少しは手伝ってください!」


 何度目かの呼びかけでやっと反応を示したあらまぁに、零音関連の事でもないのに珍しく感情的になって叫び散らす彩葉。


「回想くらい許してよぉ。どうせあらまぁは出番も少ないしぃ、影薄いしぃ、きっと誕生日記念閑話も出されないだろうしぃ、ゆりあんちゃん回の尺を少しくらい分けてくれたって良いじゃなぁい!」


「貴女は何を仰ってるんですか? 精神科お勧めしますよ。それよりコレ見てください!」


 その彩葉の足元に視線を落とすとつい先程意気揚々とデパートに行きたいと言っていたJKの面影は一切残っていない、真っ白に燃え尽きた屍が転がっていた。


「ふふふ……そうよ……彩葉たその言う通り、私は学校でもトップクラスの美貌を持っており、運動神経もいい……」


「どぉしたのぉ由梨愛ちゃん。危ないクスリでもやったぁ?」


 謎のスイッチが入った由梨愛は、床に四つん這いになって這い蹲りながらくつくつ笑ったかと思うと唐突に自慢を開始してきた。

 突然の自慢大会に彩葉とあらまぁは「えっ?」と首を傾げるばかりだ。


「そして誰に対しても明るく、子犬のように人懐っこい人柄もあって、学校ではクラスの中心にいるような存在だ……だが! 夏休みを共に過ごすような女友達は一人として存在しないのだぁ!」


「……」


「……」


 その後の由梨愛の話が長かったので要約すると、会ったら挨拶をしたりするくらいの付き合いが浅いクラスメイトは何人もいるが、幼少期のトラウマの影響で同世代の女子と深く関わる事を避けてきた結果いつメンは男、それも揃いも揃って美形ばかりになってしまった。

 それでも女子達から妬まれて「男にばっか色目を使ってるぶりっ子」と陰口を叩かれないのは、彼女の女優顔負けの演技力と探偵顔負けの洞察力のお陰だ。と結局は自慢で締め括られた。



「とまぁ、そういう訳でこの哀れなJKと一緒に夏休みの思い出を作ってくださいどうかお願い致します」


 早口に自らのぼっちを説明した由梨愛は見事なまでのスライディング土下座をかましながら女子軍ににじり寄る。


「ちょっ怖い怖い! 分かりましたからそれ以上這いよらないでください!」


「きゃはは、今のゆりあんちゃんゴキブリみたぁい」


 結局根負けした女子軍は勢いに押されるがまま承諾した。




    *



 三人が繰り出したのは大通りにあるショッピングモール。

 まだお盆前で、平日という事もあってそんなに混んでいないだろうと踏んでの選択だが、ビンゴだったようだ。


 がぁっと開いた自動ドアに吸い込まれて行く際に、冷房の効いた冷たい風が火照った顔や腕を通り過ぎる。心地良い冷たさに思わず綻ぶ顔。

 先程限界値まで降下したテンションが再びハイになってゆく。



「さぁさぁ着きましたよ皆さん! デパートです!」


 大仰な仕草で両腕を広げてくるくると回る由梨愛は白いブラウスに赤いスカート、そしていつもの赤いベレー帽を被ったシンプル且つガーリーなスタイルで、黙ってさえいれば清楚系JKである。黙ってさえいれば。


「ゆりあんちゃん惜しぃ! ショッピングモールだよぉ〜」


「違いますー! 私がデパートって言ったらデパートですぅー!」


「デパートとかぁ……なんかテロ事件起きそうで嫌じゃなぁい……?」


「あらまぁちゃんの中の人間界像について全力で問い質したいね!」


 街中をドレスで出歩くのは流石に目立つのでと、由梨愛に淡紅色のひらひらとしたワンピースを借りた人間界フォームのあらまぁはどこからどう見ても夏休みを満喫している女子小学生にしか見えない。

 彩葉も普段下ろしている髪をツインテールに束ねて、お洒落をしてきている。


 二人の無意味な問答に彩葉は「別にどっちでも良いのでは……」という本音を漏らしたくなったが押さえ込んで、コホンと咳払いをする。


「それよりどこから回りますか?」


「うーんと、あらまぁちゃんはどうしたい?」


「んー……来る途中喉乾いたからぁ何か飲んでこぉ?」


「おお、私さんせー!」


 大雑把にしか考えていなかった由梨愛は一応年長者であるあらまぁを気遣う振りをして全てを丸投げした。

 彼女の本心にあらまぁが気付いていたかどうかは定かではないが、何とか行く場所は纏まった。


「それでは二階ですね。フードコートは地図によるとこの真上です」


「よっし、エレベーター混んでるから階段で行こっか!」


 こうして彩葉の活躍によって時折無駄な流れをぶった切りつつ、一行は二階のフードコートを目指す。




    *



 昼時のフードコートは当然だが混雑していた。だが、意外とすんなり席は確保できた。


 これも由梨愛が丁度食べ終わりそうだったスーツ姿のサラリーマン数人のグループに、次譲ってくれるように上手く交渉してくれたお陰である。


 サラリーマン達は由梨愛に話しかけられている間終始デレっぱなしだった。

 それも当然。由梨愛は女らしさの欠片もない変態女子だが、初対面の人間に彼女の性癖が判る筈ないし、大人しくさえしていればギャルゲーのメイン攻略キャラクターにありがちな清楚系美少女なのだ。

 本当に性格で損をしているが、本人もそれをよく理解しているので上手く利用しているようだ。



「由梨愛ちゃんって好きな男の子のタイプとかあるのぉ?」


「ぶっ……!? はぇ!?」


 あらまぁの唐突な質問に由梨愛は飲みかけのチョコバナナスムージーを吹き出しそうになる。

 寸前で堪え、ごくりと喉を鳴らしてスムージーを胃に流し込んだ由梨愛の口から出たのは言葉とも言えないような間抜けな音。



「な……なに、どしたの」


 尋ね返す声が強張ってしまったのは仕方がない事だ。

 自分の番号を呼ばれた彩葉が自分の分の飲み物をカウンターに取りに行く為に席を立ち、二人きりになった所で何の脈絡もなくそう切り出してきたあらまぁの真意がまるで分からない。


 カフェオレフロートをストローで突いている彼女はいつも通りのぽけっとした何も考えていなそうな表情で。


「んぅ? 恋バナしたいんでしょぉ?」


 こてん、と首を傾げてみせた。身長差から上目遣いになっているあらまぁはとても可愛い……じゃなくて、由梨愛は漸く察した。


 これは彼女なりに気を遣ってくれているのだろう。

 先程彼女らを説得する為にわざと構ってちゃんモードに突入した際、何となしに言ったネガティブな自虐ネタで由梨愛のぼっちさを披露してしまったものだから……

 嘘は言っていないが、罪悪感がチクリと胸を刺した。




 由梨愛は知っている。曲馬団(ここ)の人はバイオレンスで、裏表が激しい人ばかりだが、誰も彼も根は優しい人ばかりだという事を。


 ――気を遣わせてしまっている事に少し申し訳なく感じると半面、嬉しく思ってしまう自分もいるのだから複雑だ。



「……そうだね、美少年なら基本何でもイケるけどやっぱ黒髪美少年が一番かなぁ。例えば不健康で無表情で何考えてるか分からない子とか〜、あ。敬語キャラでドSな子とかも!」


「あ! 超分かる超分かるぅ! 日本の黒髪美少年かぁいいよぅ! でもあらまぁ的には金髪碧眼もお勧めするよぉ! 金髪碧眼欠損合法ショタ王子ぃ!」


 その好意に乗って返すと、あらまぁは音速で首を振って賛同する。由梨愛に気を遣っているというのもあるが、本心からそう言ってくれているように思えた。


「金髪碧眼って某少年ボカロみたいな!? すっごい分かるよそれ! 赤眼でも尚良し!」


「さ◯たろとか? あ、茶髪のわんこ系男子も好きぃ! 赤毛の俺様王子も好きだけどぉ、ちょっと子供っぽいかなぁ……あらまぁは赤毛を一番愛してるけど」


「流石貴腐人は年季が違っていらっしゃるぜ!」


「……アルビノが一番でしょう」


 女子二人できゃいきゃいとガールズトークに花を咲かせていると、いつの間にか戻ってきていた彩葉がジェラート片手に膨れながら口を挟んできた。



「白髪こそ至高……あの見た目のみならず心までもが宝石のように美しく、純真無垢で穢れなき我が嫁こそが世界一、いえ宇宙一です!」


 お姉様方に「おかえり」と言わせる余裕も与えず、ほぼ息継ぎなしに長い台詞を言い切った彩葉。

 頰を紅に染め、うっとりとした顔で乙女症候群(オトメティックシンドローム)を爆発させている事からそれが世の白髪の人ではなく、特定の人物を指していると察するのは赤子の手を捻るよりも容易だった。


「それこそ愛に生きる女だよ! 流石彩葉ちゃんはいつでも私達の胸を熱くさせやがるぜ!」


「よっ零音厨ー!」


「遠回しに馬鹿にしてませんか……?」


 恋愛に飢えたお姉様方二人(内一人既婚者)は口々に賞賛の言葉を述べるが、彩葉は不満そうに顔を背けた。


「そんな事ないってぇ! でもぉ白髪美少年も確かに忘れてはいけないよねぇ……!」


「二面性があって天の邪鬼な白髪碧眼の美少年とか三次元にもいないかなぁ!? 寧ろ二次元にトリップしてもぐもぐしたいよぉおおおおぉベロムシャア」


 由梨愛は人目も憚らずに両手を顔で押さえ、公共の場では自重すべき本音を大胆にぶち撒ける。


「おまわりさぁんコイツですぅ!」


「貴方が言える事ですか……」


 大暴走するお腐れ様二人は流石の彩葉でも対処しきれないらしく、ツッコミを入れたその声は疲労を滲ませていた。

 その後も女子トークは盛り上がりをみせたが、彼女らの話題に出てくる理想の男子像は最初から最後まで全て「彼女らの身近にいる人物」であった。




「そろそろ行こっか」


 誰からともなくそう言い出したのはある意味必然だった。

 まだまだ話し足りない雰囲気だったが既にコップの中は空で、フードコートは混雑している。

 いつまでも居座っていては迷惑だろうと皆その指示に従った。


「ねぇ、服見てこぉよ! 人間界用フォーム揃えたい!」


 行き先もなく、取り敢えずその辺をブラブラ歩いているとあらまぁが思い立ったという様子で発言する。


「いーけどお金持ってるの?」


「だいじょぉぶ! 買い物資金は予め鬼灯君に貰ってあるから!」


 提げていたポシェットをごそごそと弄り、テレレレッテレーと有名な青い猫の効果音付きでうさぎ柄の封筒を取り出した。いつの間に貰ったんだろうか。


「ちなみに幾らくらい?」


「えっとね……」


 興味本位でそう聞くと、あらまぁは封筒を開けて「いちまーい、にまーい」と声に出して数え始める。

 都会は色々物騒だから人前でお金を数えるのは止めて頂きたいが、あらまぁは異世界の住人でしかも貴族なのだから一般常識が抜けていてもおかしくはない。

 今回は見逃すが次は注意しようと心に決めて計算が終わるのを待っていると、数え終わったあらまぁがパッと顔を上げた。


「あのね! じゅーまんえんだよ!」


「「じゅ……!?」」


 衝撃的な数字に思わず鸚鵡返しに金額を叫びそうになって、由梨愛と彩葉はバッと口を押さえる。


 ――どう考えても今日一日で使い切れる量ではない。


「そういえばあの人異国の貴族か何かでしたっけ……」


「小さい頃から望めば何でもすぐに一流の物が手に入るような生活を送っていればそりゃあ金銭感覚もずれるよね……金持ち爆発しろ」


 少女二人は遠い目をして、今頃風呂場で楽しんでいるであろう少年を想像上でシバいた。

 あらまぁは二人の反応が理解できないといった様子だ。


「どぉしたの二人共……あ、二人は何か欲しいものあるぅ? 鬼灯君が余ったお金は三人で好きなように使っていいって言ってたよぉ」


 前言撤回。鬼灯は神である。


「はい! 黒バ◯のグッズ!」


「わ、私はですね! 妖怪ウォ……」


 途端に元気付く現金な二人だが、彩葉は最後まで言い切る前に言葉を止めた。



「……あれ? おーい、こんな所で何してるんですかー?」


「えっ? ……あ!」


 三人娘より数メートル先。買い物袋を抱えて挙動不審に辺りを見回していた子供が彩葉に気づき、たたたっとスニーカーを鳴らして駆け寄ってくる。


「冴島! お前もモールに来てたんだな! これから買い物か?」


「伊丹君こそ。そんなに大荷物で、しかもぼっちでどうしたんですか?」


「まどかと買い物してたんだけど逸れたんだよ……見てねーか?」


「それでキョドってたんですか。残念ながらお会いしていませんね」


 零音や彩葉より少し大きいが同じくらいの背丈、ラフだがよくよく見ると上質な生地が使われている服、滑らかそうな黄金の髪。


「え、えぇっと、彩葉さん? 其方の可愛らしい金髪ショタ君は……?」


「あらすいません、由梨愛達は初対面でしたね……てへぺろっ」


 見知らぬ愛らしい少年と彩葉が談笑し始めたので、戸惑って謎に敬語口調になった由梨愛がおずおずと質問した。

 彩葉は特にその口調には触れず、自分で自分の頭を軽く小突いた。


「彼は同級生の伊丹秋(イタミアキラ)君です。小学生の癖に金髪に染めて不良ぶってるDQNです」


「もう少しオブラートに包めねーのか!?」


「事実じゃないですか」


 通常運転の彩葉にがぁっと噛み付く少年は将来が期待できる端正な顔立ちで、何処か野生的な雰囲気を漂わせている。動物に例えるならサバンナに住むネコ科の……ライオンかチーター辺りだろうか。


「そして此方の赤いワンピースの方があらまぁさん、此方の巨乳の方が由梨愛さんです」


 こういう野獣系ショタも悪くはないと感心していると、アキラの視線がここに来て初めて由梨愛達に向けられる。


「……え」


 そして、少年の視線が一旦由梨愛を通り過ぎようとした所で、再度その視線は由梨愛に釘付けになる。

 見開かれる瞳。徐々に潤んでゆく茶色の双眸。



「…………ちぃ……姉……?」



 女性陣が状況を理解し切る頃には、アキラはすっかりいつも通りに戻っていた。


「えっと……」


「……な訳ないよな。悪い、うちの姉に似てたもんだからつい」


 俯いている顔の表情は読めないが、どんな顔をしているのか想像はつく。

 事情を知らない彩葉とあらまぁはともかく、会った事もない人物に似ていると言われるのは紅い瞳の彼のお陰でもう慣れているので、由梨愛は余り戸惑わなかった。


「……アキラ君、だったよね。君暇?」


「え?」


 それどころか、由梨愛はアキラと目を合わせるようにしゃがみ込んでにっと元気良く笑みを作った。


「君さえ良ければお姉さん達と一緒に遊ばない? 大人数の方が楽しいもの」


 言葉の意味を理解したアキラは当然オロオロと視線を彷徨わせるが、由梨愛にしっかりと正面から見据えられ逃げられないと悟ったのかうー……と唸り、散々逡巡した挙句それを了承した。

 その場にいる誰もが由梨愛の考えが読めず、依然笑顔を貼り付けている彼女に首を傾げる他なかった。

 誰が話してるか分かり辛いとのご指摘を受けたので、軽いおさらいを……


由梨愛(通称ゆりあん)

残念美少女。一人称「私」。快活でハキハキとした話し方。


あらまぁ

貴腐人。一人称「あらまぁ」。間延びした話し方で小文字厨っぽい。


彩葉

零音厨。一人称「私」。敬語だが慇懃無礼(?)。

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