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我らノワール曲馬団〜おかしな少年少女達の日常〜【更新停止】  作者: 創造神(笑)な黒死蝶氏
第一章 ノワール曲馬団
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クリスマス閑話 聖夜の晩餐

メリークリスマス(三日遅刻)

 じわじわと照りつける日差しと蒸し暑い熱気が押し寄せる夏も、木の葉が落ちる実りの季節も過ぎ、人々が新しい年へ向けて忙しなく走り回る師走が曲馬団にも漸く訪れた。

 イルミネーションに彩られ、クリスマスムード一色に染まった賑やかな町とは対照的に静かな路地裏の隅に存在する古き良き西洋の造りを模した館には不穏な空気が漂っていた。



「リア充イベントはんたーい! クリスマスはんたーい!」



 金に近い白という、日本人にはあり得ない色合いのモコモコ髪を今日はツインテールを束ねている見目麗しい美少女……否、男の娘は気怠げな声で、でも確かに憤りを孕ませてそう叫んだ後上品な所作でステーキを口に運んだ。

 零音にはテーブルマナーなんて分からないが、彼の見るからに優雅な所作は貴族と名乗るだけはある。……食事中に騒いでいるのは頂けないが。



「クリスマスは去年もやっただろう! リア充? 何それ美味しいの!?」



 今日はクリスマスイヴ。今朝からずっとこの調子でプリプリと怒る鬼灯を最初こそ団員達も宥めていたが、(非リア充)の怒りは際限を知らなかった。



『そーだぜ! 大体日本でのクリスマスなんざ、低脳バカップル共がイチャつく口実に過ぎねえんだぜ!』



 面倒臭いので皆が静観に徹する中、敢えて一人だけ鬼灯に同意したのは他でもないアンリである。

 今日は何故か某魔法学校映画に出てきそうなローブに身を包んでいるが、どうせとあるショタロリ厨ドマゾの趣味だろう。



「モテる癖に彼女要らないとか抜かしてる奴が何言ってるんだい? 全国の男子に喧嘩売ってるのかい?」



 鬼灯はというと、不満げに鼻を鳴らしアンリを猜疑心の籠った眼でじろりと睨み下げる。他の人への態度とアンリへの態度に明らかに違うのはもう気にしない事にした。



『とんでもない、恋情如きに現を抜かす愚民共をこの俺の視界に入れるのが不快なので鬼灯に賛成しているだけの事だ』


「何様だよ!」



 アンリは静かに口角を上げ、穏やかな笑みを形作る。だがその口から飛び出したのは単なる僻みなのか、それとも本音なのか分からない言葉だった。

 綺麗な笑顔で紡がれた辛辣極まりない言葉に鬼灯が即座に突っ込みを入れたのは実に正しい反応だと思う。





「……今日も今日とてエキサイトしてますね」


「今日だから、の間違いじゃない……?」


 通常運転な二人のやりとりに苦笑する青年神山藍もまた、この状況においてとても正しい反応をしている。

 死んだマグロのような瞳で一連の流れをぼんやりと眺めていた零音は棒読みで相槌を打ち、七面鳥に噛り付く。


 ――彼らも仲が良い(但しお互い無自覚)のは悪い事ではないが、ディナーの時くらいもう少し静かにできないのだろうか……あ、これ香ばしくて美味しい。


 現在時刻は午後七時十二分。鬼灯、アンリ、藍兄、零音の四人は一足お先に団長手作りのクリスマスディナーを頂いている。

 あらまぁは公爵家でパーティがあるそうなのでログアウト、彩葉と由梨愛姉も不在……何が悲しくて男だけでクリスマスを過ごさなければならないんだろうか。



『俺が何様かって? アンリ様に決まってんだろ?』


「ドヤ顔腹立つ」


 鬼灯とアンリは先程からまた下らない言い争いがヒートアップしてきているが、それ以外のメンバーは皆ほぼ会話もなく食事に勤しんでいる。

 何せ料理の腕はプロ並み、下手したらそれ以上の塁兎が張り切って夜明け前から仕込んでくれていた豪勢な料理達だ、美味しくない訳がない。つい料理に夢中になって会話も忘れてしまうのも無理はない。


 本当、まだ食べてない人はもったいな――



「……うっせぇな……何騒いでやがる」



 この数ヶ月ですっかり聞き慣れたものとなった、不機嫌な少年の声。



「フラ……テオドール君! おはよう! もう夜だけど!」


「ん……今どこぞのスカーレットさんの妹と間違えかけなかったか?」



 零音よりも少し大きく、アンリよりも少し小さい背丈の少年はスウェット姿で、いつも綺麗に三つ編みに結ってある鮮やかな赤毛はぼさぼさと乱れていて、眠そうに眼を擦っている。

 一目で寝起きと分かる様子のテオドールはフラフラと覚束ない足取りで、階段を降りてくる最中見ている此方がハラハラとさせられたが何事もなく食卓に着いた。

 藍は誰に言われるでもなく、自主的に茶道具を持ってテオの元へ駆けつけ、手際良くソーサーの上にカップを乗せ紅茶を注いでゆく。君は貴族に仕える優秀な従者か何かか。



『テオが共同スペースにくるなんざ珍しいな。それと塁兎は一緒じゃなかったのか?』



 鬼灯との論争に区切りがついたらしいアンリがキョロキョロと視線を巡らせるが、目当ての人物は何処にも見当たらない。わざとらしく『それと』なんて言っているが、塁兎の所在について聞いたのが本題だろうと零音は察した。

 尋ねられたテオドールは藍の淹れたての紅茶を少し乱暴な手つきで受け取り、一口啜った後思い出すだけで腹立たしいといった様子で口を開いた。



「……由梨愛とかいう女と一緒に二階の空き部屋行きやがったぞ」


『おのれ裏切ったな!』


「うわぁぁあそんなバナナ! 僕の塁兎がぁぁああああああああ!」



 アンリはガタン! と音を立てて立ち上がり、鬼灯は頭を抱えて悲壮感溢れる声で喚く。藍に至っては突然荒ぶった二人に驚いて縮こまってしまっている。



「見せつけやがって畜生……! どうせ俺は女みてーな見てくれだから彼女なんざできねぇよ!」


「その言葉僕にもブーメランだね! もっと言って!」


「五月蝿えキモいんだよ女装野郎!」


「あぁんもっとぉぉおおお!」



 お前ら落ち着け。主にドマゾ。


 憤りに思わずカップを持つ手を震わせ、露骨に悔しがるテオドールはまだ比較的真面な例として、鬼灯はもう少し自重しようか。

 他人に罵られる事が何故快感に繋がるのか、全く以って理解不能な現象である。



「動きづらいっ! 放せ人間! このっ! このっ!」


「はぁんっ堪らない! もっと殴って! 肉が抉れるくらいなら最高なんだけども!!」


「寄るな触るな孕むだろ!」


「魔族のショタって孕むのかい!?」


「何で目を輝かせるんだよ! 幾ら俺の見た目が幼女(ロリ)でもそれは無理だよ!」



 逆効果だとも知らず、顔を輝かせて擦り寄る鬼灯(ドマゾ)を必死に叩いて追い払おうとしているテオドールを流石に不憫に思ったので、零音が止めようと口を開きかけた時。



「零音君っ零音君零音君! れ・お・ん・くぅぅぅうううううん!!」


「おぶっ!?」



 ――忘れてかけていた衝撃が零音に襲い掛かる。

 すっかり油断していたので構える余裕もなく、脇腹にダイレクトに重量感のあるものが激突し口から空気の塊が飛び出す。

 七面鳥飲み込んだ後じゃなかったら悲惨だったろうな、などと頭を過る現実逃避めいた余計な考えを振り切り、何とかタックルして来た彼女を引き剥がす。



「彩葉っ食事中にタックルしちゃダメでしょ!」


「えっ、もうご飯できてたんですか!?」


「とっくにできてたよ!」



 零音の叱咤にわざとらしく目を見張り、両手で顔を抑える彼女にきりきりと胃が痛むのを感じた。これは天然か? それとも計算か?

 男性陣に答えを乞うが、生温かい視線と突き刺すようなKill youの視線を向けられるばかりで役に立ってくれそうもない。



「もう……何処行ってたのさ?」



 今日彩葉は朝から姿が見えなかった。塁兎が起こしに行った時既に寝室はもぬけの殻で、突如その姿を眩ませた彩葉に初めは皆何処か遊びに行ったのだろうと踏んであまり心配せずにいたが、夕方になっても帰ってこない彼女に心配して電話やメールをした所普通に返信があったし、問題はなさそうなので「早く帰ってきて」と釘を刺すだけに留まったのだ。



「聞いて下さいよ零音君! たった今、都内全域に雪を降らせる事に成功しました!」



 アジトの混乱も、胃を痛めている零音の心境も知らないで、彩葉は嬉々として窓を指し示す。窓に近い位置に座っていた藍が気を利かせてカーテンを開くと、驚く光景が其処にはあった。

 ふわふわと柔らかな純白がコンクリートに降り積もり、街灯に照らされて煌めきを放っていた。

 ――その光景は、九歳の子供を高揚させるには十分な代物だった。



「凄い……薄っすら積もってきてるね……」


「ええ、明日には雪だるま作れるくらいには積もりますよ! な、なので……一緒に……その……」



 他の県では十二月にもなれば当たり前のように降り積もる癖に、東京だけ一年に一度見れればラッキー程度の割合でしか降ってくれないなんて理不尽だと嘆いていた零音は希少な雪に感嘆の声を漏らす。




「……改めて雪女って凄いんだね」


「れ、零音君が褒めてくれた……!? 何ですかこれもう死んでもいい、あーでもやっぱりダメです! 死んだら零音君の天使っぷりが拝めなくなっちゃうので意地でも生きます!」



 零音が無意識に零した、無意識故のありのままの本音に彩葉は思いっきり目を丸くさせる。

 ――何をそんなに驚いているのだろう。僕が他人を褒めるのはそんなに珍しいか?


 今日はイヴだから、この分だと明日はホワイトクリスマスになりそうだ。

 そういえば確か、向こうの大通りでクリスマス限定のイルミネーションをやるって話を聞いた事がある。

 もうすぐ夜七時だしもうライトアップされてるかな……きっと電飾に雪が反射して、虹が降ってるみたいに綺麗なんだろうな……



「ねえ彩葉、ご飯食べ終わったらイルミネーション見に行かない?」


「えっ……!?」


「あれ、迷惑だった?」


 ただでさえ大きな黒真珠を目一杯開き、口をパクパクとさせて驚愕を体現する彩葉に流石に唐突すぎたかな、と少し不安になって零音が問えばブンブンと音が聞こえそうな程激しく首を振られた。



「迷惑なんてとんでもない! 感無量、有難き幸せに存じます!」


「そ、そうなんだ……」



 すっかり通常運転で息を荒らげつつ顔を近づけてくる彼女に零音はつい声が上ずってしまったが、彩葉は気にも留めずにうっとりと零音を見つめてくる。

 他人に向けられる好意は未だに慣れなくて、挙動不審になってしまうが好意を向けられるのが嬉しくない筈がない。

 最終的に彩葉が嬉しそうならいいか、と多少……いやかなり乱暴な結論を以って零音が思考を終えた時。




『……少しお待ち頂けますか』



 ――場を包んでいた甘い空気が、一瞬で凍えるような冷たいものに変わった。


 あまりにも寒すぎて零音はブルリと震え上がった。暖房が壊れたんじゃないかと疑ってしまうが、寒気の元凶が再度声を発した事により、その僅かな希望も見事に打ち砕かれた。



『今はもう夜の七時です。小学生だけで出かけるには遅い時間と見受けますが』



 氷炎の薔薇を背後に咲かせて、男でも気を抜けば見惚れてしまうような美しく――恐ろしい笑みを浮かべるアンリ。口調が彼がかつて人間の少年だった時のものに戻っている。しかも言っている内容が正論なのがまた恐ろしい。

 この人っていつもの状態(アンリ)で既に「ドS」「悪魔」「ゲスショタ」などと陰で呼ばれているのに、敬語モードだと普段の毒舌に加え更に残虐性と迫力がプラスされるのは何故だろう。過去編では鬼灯や藍兄のお陰で和んでたけど、口調一つで綺麗にスイッチ変わりすぎだよ。



「問題ありません、どんな障害が現れようと零音君は私が護ります」



 すっかり怯える零音をそっと抱きしめ、彩葉は氷の魔王……じゃなくて蓮様に物怖じもせず、さらっとそう言って退けた。

 ――その曲がらない強い精神といいチートな能力といい心強い事この上ないが、立場的にそれは僕の台詞だよ。……ちょっと誰? 今「お前がどうやって女を護るんだ」とか言った奴。ふざけんなその通りだよ。貧弱で悪かったね!



「おーおー、随分とイケメンだこと。痺れちまうねぇ」


 テオドールは強気に返した彩葉を明らかに嘲笑の意味を込めてせせら笑う。

 普段団員達に無関心で極力関わりたがらない彼だが、彩葉に対してだけ明確に敵意を剥き出しにして自分から関わってゆく。

 魔族の記憶がある零音だから分かる事だが、魔族という生き物は往々にして妖怪を忌み嫌い、蔑んでいる。だが暴力沙汰を一回も起こさずこうして共同生活ができているだけテオドールはまだマシな方だ。




「あら、もしかして今私口説かれてます? ふふふ」



 一方の彩葉はというと、怒るでも傷つくでもなくテオドールに上品に微笑んで、感情のない笑い声を上げた。

 零音にはすぐに挑発する為の演技だと分かったが、上級魔族のテオドールから見れば自分の嫌味が通じず、しかも対立している種族の女を口説いたなどという彩葉の言いがかりは彼のプライドを傷つけるには充分すぎる。

 テオは彩葉の思惑通りに悔しそうに表情を歪めたが、すぐに何か思いついた様子で勝ち誇った笑顔を浮かべた。



「調子に乗るなよ貧乳。魔界帝国と畏怖されるダークネス王国の第二王子であるこの俺様が、絶壁女を本気に相手にするとでも?」



 ――室内の空気が一気に氷点下に達した。




「……ふ、ふふふ」


 彩葉は笑いながらゆらりと立ち上がり、晩餐中のテーブルから距離を取る。俯いているせいで顔が見えないのが恐怖を膨れ上がらせる。



「ふふ、ふふふ……きひ、あっははははははははは!」



 徐々に大きくなっていく乾いた笑い声が室内にこだます。

 彩葉は一頻り笑った後、ゆっくりと上げられた彩葉の顔は零音がぎょっとするくらい、その面影を残していない歪な笑顔を貼り付けていた。




「うふふ……どうやら貴方は絶対零度に凍てつきたいようですね?」



 三日月形に歪められた口から漏れ出した不吉な響きに、いつの間にか彼女の真正面に立ちはだかっていたテオドールは――獰猛に笑ってみせた。



「ックク、威勢が良いなつるぺた滑走路。お前の氷なんて俺の炎で跡形もなく蒸発させてやるよ」



 互いに挑戦的に微笑み合い、

蒼紅の視線がバチっと電撃を走らせて絡み合った一瞬。



「……氷醒暴破(アイシクルストーム)!」


「轟け『烈火』!」


 両者ほぼ同時に詠唱を済ませ、暴風が吹き荒れる。風は壁や床を凍てつかせ、踊る炎の柱が瞬く間に氷を舐め上げて溶かしてゆく。

 炎と氷の輪舞曲(ロンド)は相反する二種類の術がぶつかり合った事により相殺された。



「私と互角に渡り合えるとは……少しは楽しませてくれそうですね。アイシクル・オブ・カタルシス!」


 彩葉は「少しは見直した」とでも言いたげに楽しげな表情を作ると、広げられた彼女の腕から鋭利な氷の刃がテオドールに向かって襲いかかる。



「てめーこそいつまで余裕が持つだろーな! ヘルフレアッ!」


 自身の魔術が破られたテオドールは数秒間唖然としていたものの、すぐに肉食獣のような獰猛さを宿した

深紅の瞳をギラつかせて彩葉を見据えた。

 そして目にも留まらぬ速さで陣を描き、氷刃が自身に届くより先に紫炎の弾幕で氷刃を溶かす。彼らはそれを延々と繰り広げる。




『妖術VS魔術か……ククッ、随分とやらかしてくれたな。最っ高……!』


「二人共! どうしてその攻撃を僕に向けてくれないんだい!?」


 アンリは晩餐の肴として妖魔対戦を傍観し、鬼灯は心底悔しそうに地団駄を踏んで喚き立てる。

 零音は視界の端にそれらの光景を収めつつも、無言で食事に徹する事に決めた。




 ――どうしてこうなった?


 ――僕達は一体、何を間違えた?


 



「……深淵よ全てを包め『ブラックエンドドーム』」


「おわっ!?」


「きゃあ!?」



 特徴的なハスキーな声が轟き、テオドールと彩葉はフォンと風を切る音に良く似た音を立てて現れた黒色の球体に閉じ込められる。

 黒い球体とは言ってもガ◯ツではなく、巨大化したシャボン玉に近い。



「室内で何暴れてくれてるんだ貴様ら……覚悟はできているのだろうな?」



 開け放たれていたリビングの扉の前。萌え袖から黒い靄状の闇魔力を放出しつつ紅蓮の双眸で二人を睨みつける団長塁兎がいつの間にか其処に立っていた。

 ――球体の中の二人の顔色が一気に悪くなった。


続かない\(^o^)/


【お知らせ】

各話を全部三人称視点に修正し、各話タイトルも変更します。

新章まで時間があればもう一個短編入れたいです。


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