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我らノワール曲馬団〜おかしな少年少女達の日常〜【更新停止】  作者: 創造神(笑)な黒死蝶氏
第一章 ノワール曲馬団
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第十話 冴島彩葉1

【前回までのあらすじ】

団長を怒らせるとやはり怖い。



藍「皆、今更だけど『挿絵あり』に設定してますかー?」


塁兎「挿絵ありにしておくと読者サービスのイラストも楽しめるぞ」


挿絵(By みてみん)



『はい、おしまいっと……悪いな、たかだか俺の話に三話も使っちまって』



 アンリの過去の壮絶さに閉口させられた僕は本気で言っているのか冗談で言っているのか分からないメタ発言に注意するどころか、無言のまま項垂れる事しかできなかった。

 静まり返った空気の中、アンリは居心地悪そうに耳を垂れる。

 その耳を垂れる仕草は本物の猫のよう。



『あー……何か、ごめんな。こんな話されても訳分かんないよな。忘れてくれ』


「……ちょっと待ってよ」



 無理に笑顔を作って話はもう終わりだとでも言うように締め括ろうとしたアンリを遮り、僕は勢い良く便器から立ち上がっていた。

 急に立ち上がった僕にアンリは緋色の双眸をぱちくりさせる。



 ――今回の話の収穫を纏めると、アンリが五年前まで黒田蓮という腹黒い少年で藍兄と同級生、そして塁兎達とは幼馴染だという事が分かった。

 そして話途中で出てきたゲームのアバター「猫々闇里(ねこねこあんり)」……その特徴が尽く今のアンリと酷似している。

 更に鬼灯がアンリにも冷たいのはデフォだという事実も明らかになったが、改めて彼の過去を聞いた後に思い返してみると鬼灯とアンリを見る藍兄の態度も引っかかる。



「君は、何をそんなに隠したがっているの?」



 有無を言わさぬ視線でじっと見下ろすと、アンリはばつが悪そうに俯いた。

 ――やはりか。



 ――まだ、彼は全てを話していない。

 アンリが今話したのは蓮と呼ばれていた頃の、昔の自分だ。

 彼が思い出せる限り一番古い記憶の中に存在する蓮という人格が水中に溺れて誕生してから、皮肉な事にまた溺れて死ぬまでの記憶。


 一体どういう経緯で今の彼(アンリ)が誕生したのか、何故不老不死な電脳体になったのか、そして――



「……それとこれは僕の憶測だけど、鬼灯と藍兄は君が蓮である事に気が付いているよね?」



 液晶画面の奥で此方を無表情に見返してくるアンリを真っ直ぐに見据え、僕は憶測を語り始めた。



 蓮がアンリになってもほぼ変わらない鬼灯の態度。

 そんな二人を居心地悪そうに、不安そうに眺める藍兄。


 前々から不思議に思っていたこれらの光景を今の話と重ね合わせた結果、読めたのはかつて二人の間にそれが八月十五日に関連している事か、はたまた全くの別件なのかは分かり兼ねるが「何か」があった。

 藍兄はアンリに辛辣な言葉を吐く鬼灯を咎めたいが、アンリを避ける鬼灯の気持ちも理解しているから何も言えず、遠くから眺める事しかできない自らを責めている。


 天然で、気が弱くて、そして究極的にネガティヴなせいで他人の自分に関する評価などに関しては誰もが驚く斜め上の考えにいってしまう……そんな藍兄は、自分自身とは全く関係ない事柄においては実は誰よりも物事を見る目がある。

 その上お人好しというスキルも持ち合わせているから、二人のやり取りを見る度に自責の念に狩られて苦しんでしまっているのだろう。


 ――と、そんな内容の話を終える頃には、アンリは苦笑いを浮かべていた。



『んな所まで覚えてるとか、マジで抜け目ねーんだぜ……』


「それからあれだけ拘っていた敬語が今の『だぜだせ』語尾の口調に変わったのかとかも言わなかったよね」



 困ったように肩を竦めるが、まだ何処か余裕がありそうなアンリに僕は冷ややかに言及する。



「あのさ、こんな肝心な所を省きまくった説明になっていない説明で納得しろというのは無理だから。

僕がまだ九歳の子供だから誤魔化せるとでも思って肝心な所だけ綺麗に省いたのだろうけど、僕はそこまで愚かじゃない。……見くびらないでくれる?」


『……くくっ』



 後半は大分挑発的に言ったが、アンリはこの程度の挑発に乗らない。それどころか、口元を袖で隠してクスクスと笑っている。

 僕が珍しく真剣に言ってるのに何がそんなに可笑しいのか。ムッとした気持ちが顔に出ていたのか、アンリは押し寄せてくる笑いの波を押し殺して口を開いた。



『悪い悪い、そんな睨むなって……ただ、質問の着眼点がかなりズレてるのがお前らしいと思ってさ』


「はぁ?」



 僕が露骨な疑問符を浮かべるとアンリは静かに笑んで、頷いた。

 その時の笑顔はニヤニヤと嫌味ないつもの笑顔でも、口元は笑ってるのに目が据わっている怒り笑いでもなく、弟を見守る兄のような生暖かいものだった。



『こういう場合はさ、真っ先に「どうやって電脳体になった?」だの「何で自分の正体を隠して自分を殺した幼馴染み(塁兎)に接触している?」だの根掘り葉掘り聞いてくんのが普通なんだよ。

なのにお前と来たら俺と鬼灯をそうに見る藍の方が気になって憶測を巡らしてるじゃん? 仲間想いだなってさ』


「別に偶々気になっただけだし……てかやっぱり君一度死んでたんだね」


『わお今更……まぁ多分な。今となっては確認する術もねーけど』



 ニヤニヤと人を喰ったような笑顔で見つめてくるアンリの視線がむず痒くて、多少不自然だが話題転換すると重苦しい返事が返ってくる。しまった、話題ミスった。

 本人は表情を変えていないので見た目からは判断がつかないが、「君死んでたんだ」なんて台詞失礼にも程がある。


 誤魔化そうと口を開いたその時、見計らったかのように五時間目終了を告げる鐘が鳴った。



『あー……結局サボっちまったな』


「……良いよ。後で彩葉にノート借りるから」


『うわぁ……これがリア充の余裕か……』



 あれだけ気にしていた授業や成績も、今ばかりは何だかどうでもよくなってきた。

 少しだけ申し訳そうに眉尻を下げるアンリにそう告げ、個室の扉を開けた所で少し引いた声を上げられる。



 散々女の子にモテていた癖に、色恋沙汰に時間を割くのが面倒という理由で一蹴した挙句、女子達の好意を利用してリア充を妬む男子生徒達への防波堤にまでしていたゴミクズに言われたくないわ。



「お前さぁ……」



 ――ねえ、話長いんだけど――



 脳内に浮かんだ言葉を声に出しかけた時、頭の内側から発せられた声にアンリに対する反論は打ち消された。



「いたのかよ……もうちょい待てっての……」


『零音?』



 僕の呟きが聞こえてか聞こえてないかは分からないが、アンリは画面にぺったりと張り付いて胡乱げに見つめてくる。



「何でもない。僕はもう教室に戻るけどアンリはどうする?」


『あっ、そういや霧島嬢という名のゆりあんぬに呼ばれてたんだった! んじゃ行ってくるんだぜ!』



 今度の話題転換は上手い事言ったようで、アンリはハッとした顔になると僕に背を向けてメールボックスを開いた。

 そしてメールの中に潜り込み、僕の携帯から完全にいなくなったのを確認してから念の為に電源を切る。





「……五年前の八月十四日」



 僕以外完全に誰もいなくなり、静まり返ったトイレの中。手洗い場の鏡を睨みつけると鏡面に写る僕が揺らいだ。



「急に身体を貸せなんて言ってきた時は驚いたけど、まさかアンリに接触してたとは思わなかったよ」



 鏡に写っている黒いジャケットを着、胸元に巻いた薄紫色のスカーフを緋色のブローチを留め、紫薔薇の飾りが付いたシルクハットを目深に被っている其奴は、僕の睨みなんて全く気にも留めていないらしく不敵に笑んだ。



『……何の事かな? (ボク)は何もしてないよ?』



 鏡の中の僕は上半身しか写っていないが、それが僕であって僕でない存在である事は明白だった。



「惚けても無駄。あの日、人間界へ出掛けてたと魔王から聞いてるんだから……そうでしょ、ラムネ(・・・)


『……チッあの糞上司が……はは、君には誤魔化せないか。肯定するよ』



 魔王の名を出すと俯いてほんの一瞬だけ子供らしからぬドスの効いた声を上げたが、すぐにパッと顔を上げた彼は笑顔で、先程の態度を取り繕うように嘘臭い笑い声を発し肯定した。

  やはり此奴は食えない奴だと再認識し、怪訝に眉根を寄せつつもあくまで冷静を装って次なる質問をぶつける。



「初めから何が起こるか全部分かっていて、警告したんでしょ? それとアンリのあの身体にも君とシャノンさんが一枚加わっていると見たけど」


『それも肯定するよ。(ボク)があの子に警告したのは無駄になったようだけれど』


「何が目的なのか知らないけど、多少なりとも塁兎達を助けようと思う気持ちがあったならそんな回りくどい真似はせずとも未然に防ぐ方法は他にもあったろ?」



 無責任で、且つアンリを小馬鹿にした言い回しにカチンときた僕は、つい感情的になってしまった。……此奴にこんな事言っても無駄なのに。

 わざわざ聞かずとも、返答は解りきっている――



『それはできないよ、(ボク)はこの世界に深く干渉できない』



 ――ほら、予測済みの答えだ。



「ラムネが……(ボク)が無理なら、(ぼく)に頼れば良かったじゃん……」


『いや無理でしょ。当時四歳の無力な子供に何ができたっていうの?』



 僕の感情的な言葉にバッサリと正論だけを返してくるラムネ。

 どうしようもない悔しさばかりが募ってゆき、自然と拳を握る力が強くなる。


 ――自分の無力さは僕自身が最も解りきっている。でも、文句を言ってしまいたくなるのは僕が幾ら大人ぶっていても、所詮まだ子供だからだろうか?



「……確かに(ぼく)(ボク)みたいな魔力もないし、弱いだけの子供だけど」



 だが、僕はそこら辺の能天気な子供どころか大人にも勝るものが一つだけある。



『ああ、(ボク)の記憶の一部を受け継いでいるって事だけでしょ?』



 僕の言葉を遮り、ラムネは冷たくせせら笑う。



『それも魔界や魔術に関連する記憶は必要最低限しかない上に、最近の人間界の子供達が学校で学んでいる知識だって皆無だから一から勉強しなきゃだったし、そんなのチートでも何でもないよ』



 心底愉しそうに僕を貶す彼に文句の一つでも返してやりたいが、彼のいう事は正しすぎてなにも反論の浮かばない僕は黙り込むしかできない。



『この世界線を任せて九年だけど、ほぼなーんにも変わってないもんねぇ?』



 ――そんなの僕だって分かっている。

 仲間を大切に想ってても、想ってるだけで何もできない自分がもどかしくて堪らない。


 ラムネからの説教が永遠に続くかと思われた時。



「キャアァァァァアアァアアアァアアアアアアアァっ!」



 甲高い女の悲鳴に僕達は意識を持っていかれた。



「ラムネ。今の悲鳴……」


『此処からそう遠くない……音楽室隣の空き教室だろうね。無視しよう――って、ちょ!?』



 今までのやりとりは一体何だったのか、二人して顔を寄せ合いひそひそと話す。

 そして場所を聞き出すと、僕は全力疾走でトイレから飛び出した。


 男子トイレを出てすぐ、スピードを緩めず右折して四年生の教室を横切る途中休み時間を思い思いに過ごしている同級生達はざわめいていた。

 彼らも先程の悲鳴を聞いたのだろう、何事かと辺りを見回していた。


 廊下は走るなという教師の制止も無視して各教室の前を走り抜け、左折すると音楽室は目の前だった。

 そこに来て漸くスピードを落とした僕はなるべく足元を立てないように、音楽室の一つ先にある教室へ忍び寄った。


 ここまでの一連の行動、全て単なる野次馬精神の暴走である。




「どーしたの、美憂!?」


「あら丁度良かった、手伝ってください」


「煩い! 俺らの美憂(みゆ)ちゃんに寄るなこの女狐!」


「俺達の美憂様から離れなさい!」



 忍び寄るに連れ、声が徐々に近くなってくる。今聞いた分だと恐らく数は四人、男女が入り混じって口論している。


 そしてちらほら聴こえる「美憂」という名前……一人だけ思い当たる人物はうちのクラスの「西園寺美憂(さいおんじみゆ)」だ。

 断片的に聴こえた会話から察するに、彼女が悲鳴を上げた張本人なのだろう。



 西園寺美憂は顔はまぁそこそこ美人でスタイルも抜群。何より彼女は世界を股にかける一流企業西園寺グループの令嬢で、いつも周りに男を侍らせていた。

 もしスクールカーストなんてものがあれば間違いなく一軍のトップに君臨しているであろう人物だ。そんな我がクラスの女王様的存在の彼女に何があったんだ?

 好奇心からか謎の野次馬精神を発揮した僕は気配を殺して、教室の扉の僅かに開いている隙間からそっと中の様子を伺った。


 机と椅子が後ろへ下げられた空き教室は電気が着けられていないので非常に薄暗く視界は良好とは言えないが、教室の真ん中に蹲る美憂の周りを三人の少年少女が囲んでいた。



「って美憂様血出てます!」


「早く止血しねぇと……!」



 上から順に、全国模試で常に成績はトップクラスで秀才として有名な赤褐色の髪の眼鏡を掛けたイケメン君と、そんな彼と人気を二分するスポーツ万能な不良系イケメン君。こいつは小学生の癖に金髪に染めている。

 二人共名前は忘れたので、今後脳内では眼鏡君と不良とでも呼んでおくとしよう。


 ――ちなみに眼鏡君と不良は二人揃って美憂の取り巻きである。



「美憂、とりま落ち着いて! どうしたの!?」



 今の少女は美憂の従姉妹に当たる森谷まどか。

 灰色の髪をお下げにしていて、クラス内でも「可愛い」と人気のある少女。

 確かに顔はどちらかといえば可愛い系だが、普段から超絶美形揃いのノワール曲馬団と共にいる僕としては別にそこまで騒ぐ程じゃないと思う。


 ――閑話休題。森谷まどかは美憂とは姉妹のように仲が良く、常に行動を共にしている。

 そして最後の一人は……



「良ければこのハンカチを」



 僕の位置からは見えなかったが、美憂を囲む集団に向かって青いハンカチを持った白い手がスッと差し出された。

 パシッと乾いた音を響かせて、ハンカチが薄く埃の積もった床に落ちる。



「誰がてめーみてえなアバズレから借りるもんかドブス! 美憂が穢れるだろーが!」



 早口で捲し立てる不良に、僕は何故か笑いが込み上げてきた。



 ――彩葉がアバズレ? ドブス? はぁ?

 とうとう脳だけじゃなく目玉まで筋肉になったのかこの不良。




「み、皆ぁ……」


「もう大丈夫だからな、美憂」


「美憂様、何があったか話せますか?」


「あの女が……」



 床に座り込んだお嬢様に群がり、抱き締めたり頭を撫でたりと砂糖を吐きそうなリア充っぷりを繰り広げている逆ハー組が真剣な所悪いが、僕は笑いを押し殺すのに必死だった。



 だって可笑しいよ。彩葉がブスとか……君ら視力悪いのか?

 そこで薄汚い床に尻餅着いて泣きべそかいてる色欲お嬢様より明らかに彩葉の方が美少女じゃん。それをブス? はぁ?


 恋は盲目とはいうけど、流石にそれは目おかしいって。幾ら一名金髪脳筋馬鹿だからってそりゃないよ。

 眼科の受診をお勧めします。




「冴島彩葉が……急に切りかかってきたの!」



 脳内で男子達をディスるのに夢中になっていた僕は美憂の告げた言葉に衝動的に扉を開けた。

 其処には逆ハー組とは少し離れた場所で立ち尽くす彩葉と……その足元で、果物ナイフが窓から差し込む微かな光に反射してキラリと光を放ったのが視界に映った。

一話一話が長いと指摘されたので今回から文字数を減らす努力をする所存です。

てな訳で文字数いつもの半分オウイエ。


表紙、誰が誰だか分かった貴方は既に黒死蝶ワールドの住人です。

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