第一話 No.0羅夢音零音
1/16、三人称視点に改稿致しました。
※幻影ノワールのキャラが出てきますが、あくまでも幻影ノワールのストーリー自体とは関係ないパラレルワールド的なものです。
※どうでもいいけど表紙頑張りました(色塗りは読者様にやってもらったけど)。え、タイトルロゴ無いって? ……あっ(魔顔)。
とんっと響いた軽い音と、背中に走った僅かな衝撃にもう逃げ場がなくなったという事実を嫌でも思い知らされる。
「――ねえ零音君。さっき一緒に話してたの誰?」
眼前でニッコリと笑みを貼り付け、何処ぞのギャルゲーのキャラのような王道ヤンデレ台詞をかます白髪の少女、冴島彩葉は羅夢音零音が後退できなくなったのを良い事にじりじりと詰め寄ってくる。
彼女の転んだだけで折れてしまいそうな細い手に握られている鋭く尖った氷の塊が窓から差し込む夕日に反射してキラリと輝きを放つ度に零音は震える。
ちなみに此処は零音の部屋である。学校から帰ってくるや否や、自室で待ち伏せていた彼女に何故か怒られて徐々に壁際へと追い詰められ、現在零音の体を挟むように彼女の氷を持っていない方の手が壁に着けられた所だ。
――なんてこった、これは学校で女子達がきゃっきゃしながら「憧れるぅ〜」とか話していたシチュエーションNo.1の「壁ドン」じゃないか。女子達の言う通り、ドキドキが止まりません!
但し、悪い意味で。
「ねえ、聞いてるの?」
彩葉はすっかり焦れたように、威圧感漂う声で更に氷の刃を近づけてくる。まだ零音の返答を聞く余裕は残っているのがせめてもの救いだろう。
「ねえ……」
きらりと輝きを放つ氷を首元に突きつけられ、零音は全身から血の気が緩やかに引いてゆくのを感じた。
――まずい、これ早く答えないとお陀仏パターンだ。小学四年生にしてヤンデレ彼女に刺し殺されるとかどんな人生の閉じ方だ。まだ死ぬ訳にはいかない。
極限の緊迫状態の中、意外にも稼働してくれているこの優秀な脳味噌をフル回転させて彼女を刺激しないような当たり障りのない、かつ信憑性のある返答を探す。
――考えろ零音、さすれば道は自ずと拓く筈だ。とやけに大仰なナレーションを脳内に響き渡らせ、自らを奮い立たせる。
そして僅か数秒。これならば怒られない、当たり障りのない返答を思いついた零音は満を持して口を開いた。
「た、ただのクラスメイトだよ……?」
しかし零音が数秒間必死に考えた返答はほぼ活用されず、ありのままの事実を述べただけになってしまった。おい、思考の意味。
「……嘘だわ」
案の定、彩葉は胡乱気にじっとりと此方を睨みつけている。更に彼女の背後の暗黒のオーラが一気に増幅したように感じる。
――こんな状態で嘘なんて吐けるもんか。バレたら即憧れのお花畑行き三途の川クルーズに送られてしまう! とぶんぶん首を振って否定の意を表すが、悪い事は何もしていないのに滝のように噴出してくる冷や汗に益々彩葉の疑心は強まる。
「ねえ、本当の事言ってよ……どの女とどこまで行ったの……?」
どこまでとはどういう意味なのか零音は理解できなかったが、精神衛生上考えない方が良さそうだと自分の中の何かが語りかけてきたので、零音はそっと思考を逸らして今一度目の前の事態を受け止めて平常心を保とうと試みる。
「そ、そんな事無いって……算数の宿題教えてあげただけだよ……?」
が、影のある笑顔を浮かべる彼女が放つ得体の知れないオーラに萎縮させられ、声は自身が思っていたよりも遥かに小さいものになっていた。心の中では強気になれるのに、何故だろうか。
「そんなの無視すれば良いじゃない。あんな問題も解けない低脳は勝手に己の怠慢への後悔で苦しんでれば良いのよ」
――零音の返答に怨念がましく歯を軋ませた彩葉が放ったのは、酷く自分勝手で理不尽な理屈だった。
「私以外の女を5.83秒も見ただけでも許せないのに、あんな楽しげに言葉まで交わすなんて許せないわ」
そう。彩葉がこんなにも怒っている理由は零音が放課後クラスメイトの女子に声をかけられ、「この問題どうやるの?」「この公式を当てはめるだけだよ」「そっかぁ、ありがとー!」というありがちな会話をした事による。
――本当、怒る理由が理不尽すぎるッ……!
改めて状況を精査した零音の目には何やら熱いものがこみ上げてきた。何で彼女は零音が少し他人と関わるだけでこうも怒るのか、零音にはさっぱり理解できない。
かつて母親に「女の子はデリケートだから大事に扱いなさい」とよく言われたものだが、これがデリケートというやつなのだろうか?
「ねえ何で他の女を見るの? 零音君の彼女は私よ。私だけを見ていれば良いのに、どうしてすぐ他の女に目移りするの? ねえ、私の何が不満なの?」
すぐ嫉妬する所かな!
――なんて本音を口にしたらこの鋭利な氷で八つ裂きにされるどころではなくなるので、引きつった顔で固まっていると彩葉はさらに激しくまくし立てる。
「私が幼いから物足りないの……? 弄んでたの? ……なーんちゃって。違うよね、ふふふ。私達は愛し合ってるもんね……他の女なんて皆消して私だけしか見れなくしちゃおうかな。うん、それが良いわ。そうしましょう、ふふふふふふふ……きゃっ」
彩葉の狂ったように歪な笑い声が途切れたのと同時に、彩葉の身体が零音から引き剥がされる。
「……一体何をしているんだ。お前らは」
それまでいなかった筈の黒い少年が、彩葉の長い髪の毛を乱雑に引っ掴んで持ち上げていた。
「塁兎……」
呆れたように細められる焼け付いたような緋色の瞳に安堵し、強張った身体の緊張がゆっくりと解れてゆき零音は壁にもたれかかった。
この女の子の髪を掴んで持ち上げるという少し乱暴な行動を取った少年の名は塁兎。いつもはこの時間バイトでいない筈なのだが……そういえば今朝、「今日はバイトが休み」とか言っていたような。
「……塁兎さん、これは私達二人の問題。私達の問題に邪魔立ては無用なのです」
黙っていれば精巧に作られた純白の人形のようにも見える彩葉は摘み上げられても尚、可愛らしい容貌とは正反対の暗黒オーラを崩さない。零音などはその悪役令嬢のような表情に戦慄している。
「また喧嘩か? 俺は零音の保護者だ。全く無関係という訳でも無いだろう」
宙ぶらりん状態の彩葉に冷たい視線を一身に浴びせられても、一切動じず言い返す塁兎は中々の大物だと思う。本当に団長として尊敬する。……いや、これだけ個性が強いメンバーを監督しているんだから、このくらいの器があって当然か。
「煩いですね。零音君と私の間に割り入る輩は誰であろうと容赦しませんよ?」
彩葉が冷たく言い放った刹那、彼女の瞳の色が変わったのが目に入った。
――彩葉の瞳の色が変わる時。それは――
「っ危な……!」
本能的に危険を察した零音が言い終わるよりも先に、塁兎は声も上げず静かに尻餅をついた。次いで彼の足元へ視線を落とすと、塁兎の足元の床に夥しい量の紅い水溜りが広がっているのが目に入った。
塁兎の足には槍のように細長く尖った氷塊が深く突き刺さり、貫通しているがどうかは零音の位置からは確認しづらかったが、それでもかなりの重傷だというのに当の塁兎は顔色一つ変えていないのがやけに恐ろしく思えた。
「……私が途中で邪魔が入る事を計算していないとでも思われたんですか? 幾らでも仕掛けはありますよ」
塁兎が転んで髪を放した隙を突いて、ここぞとばかりに華麗に着地を決めた彩葉は天に向かって手をかざす。零音の位置からは横顔しか見えなかったが、その漆黒の瞳はサファイアを埋め込んだかのように青く光り輝いていた。
――彼女がの瞳が蒼く光る瞬間。それは、彼女が能力を発動する瞬間だ。
彼女、冴島彩葉は……雪女族の末裔なのだ。
「これで終わりです。氷醒演舞……」
「彩葉! やりすぎ! オーバーキル!」
彩葉の手の平から蒼い光が渦巻きだしたのを確認した零音は何を思ったか、彩葉に抱き着いていた。彩葉を止める為に咄嗟に取った行動だが、零音が抱き着いた途端に淀々しく渦巻いていた光はふっと消え失せた。
「れ、れれれ零音君!? そそそんな大胆な……で、でも零音君なら私、何をされてもいいわ!」
彩葉が何か勘違いしているようだが、敢えて何も聞かなかったフリをして更に強く押さえつける。
この時、脳内で「零音はスルースキルを会得した! 零音のレベルが上がった!」と謎のナレーションが鳴り響いた。
「いい!? 人を傷つけちゃ駄目だからね!」
「零音君が言うなら……!」
ちらりと顔を上げて彩葉の顔を見上げると、熟した林檎のように真っ赤な顔で鼻を抑えながらもハッキリと頷いていた。その鼻から赤い液体が垂れていたが見なかった事にして彼女から離れ、塁兎に視線を向ける。
「塁兎っ大丈夫!?」
「一応、な」
さっきから同じ体勢のままの塁兎は無表情で足を抑えていたが、その足に突き刺さっていた氷の棒は無くなっていた。
「あれ? あの棒は?」
塁兎は答える代わりに、ダボついたパーカーの袖から辛うじて覗く指先で床を指した。改めてよく観察してみると、彼の足元に痛々しく広がる血の池に紛れるように、小さい透明な水飛沫が所々に散らばっている。
その時。ブブッと携帯の振動するバイブ音と共に、中性的な機械音混じりの声が部屋に響く。
『それな、零音が彩葉っちに抱きついた時に溶けたんだぜ』
「あ……やっぱり……?」
彩葉の方をちらりと見てみると「もうお風呂には入らない」と言いながら零音が抱きついた部分の匂いを必死に嗅いでいる姿が目に入ったので、瞬時に先ほど会得したスルースキルを発動させて音速で目を逸らした。
考えたくはないが、零音が抱きついた時、思考回路がオーバーヒートして氷も溶けたという事で間違いはないだろう。
『パソコンから見てたけどマジワロタなんだぜっ!』
「さいですか……」
笑い混じりに喋る人物に零音はまたもスルースキルを発動させる。「人の不幸がそんなに可笑しいか、このドSめが」と脳内で悪態は吐かせて貰ったが、脳内で言うだけなら許されるだろう。
「……アンリ。勝手に俺の携帯に入るなと言ったろうが」
『悪りい悪りい、近かったからさっ』
部屋の中には零音、彩葉、塁兎の他に人の姿は見受けられないが、確かにこの中の誰のものでもない四つ目の声『アンリ』は存在する。
それまで一切感情を見せなかった塁兎が苛立った声音でポケットから携帯を取り出すと、液晶画面を零音達の方へ向けた。
『にしても良かったなぁ、病み暮らしのいろはってぃ? 思いがけずイチャイチャできてさ♪』
画面の向こう側にはフードについた猫耳をぴょこぴょこと上下に動かし、剽軽な笑顔を貼り付けた金髪の少年がアップになって映り込んでいた。彼こそがアンリ、電子機器の中に住む自称「疾風の電脳黒猫」という若干厨二病然とした称号を持つ性悪美少年である。
「そっそんなっイチャイチャだなんて!」
『くくっ、顔面林檎みたいでウケる……小学生の分際でリア充とか爆破しろなーんだぜっ!』
アンリは何が先程からそんなに可笑しいのか、さらっと恐ろしい事を口走りながらも爆笑している。
彼が目を細めて笑うと、猫耳パーカー以前の問題で猫っぽさが増す。野良猫がそのまま擬人化したようなアンリは「今のどこに笑う要素があるのだろう」という程にいつ、誰に対しても笑顔を絶やさないで、いつも楽しそうに笑っている印象だ。良く言えばムードメーカー、悪く言えばアホっぽい。
いつもこんな調子の彼だが、ハッキングはお手の物だし、電子機器のシステムにバグが起こった際もすぐに直してくれたりと電子関係では非常に役に立つ。
……うん、何でこの団体には凄いけど残念な人しかいないのだろうか。いや人じゃないのも数名紛れてるけど、それはまた別の機会に。
『ひい、くっそ腹痛い……あっ』
心底楽しそうに画面の向こうで笑い転げていたアンリは蹲った体勢のまま、何かを思い出したかのようにピタリと動きを止めた。
『てかイロハたそ、今日お前が晩飯作りの当番じゃね? 何サボってるんだぜ?』
「え? とーばん? なんですかそれ?」
「……先週くじ引きで決めただろうが」
可愛らしい仕草で口元に手をやり、小首を傾げる彩葉の白々しい態度にそれまでほぼ会話に混ざってこなかった塁兎も流石に口を挟む。
「え? そうでした?」
『おぉい!?』
彩葉は尚もすっとぼけていたが、先週「家事はくじで分担してやりましょう!」と言い出したのは彼女だという事を零音はしっかりと覚えていた。
『ほら、ちゃんとやらないと零音に嫌われるぜ?』
「ノワール曲馬団No.7イロハ! 直ちに任務を遂行して来ます!」
零音の名が出た途端に彩葉は血相を変え、ピシッと背筋を伸ばして敬礼のポーズを取ると電光石火の勢いでキッチンの方角へ直行して行った。……別にそんな事で嫌いになったりはしないのに(まぁ呆れはするが)。
「早く帰ってきて正解だったな……それにしてもお前、よくアレと付き合えるな。顔は良いが」
――塁兎が言う通り、彩葉はとても可愛い。
新雪のように白くふわりとした髪、肌……憂いを帯びたような、けれども力強さも併せ持つ黒真珠の瞳。まだ年齢が一桁台とは到底思えないくらいに大人びた顔も見せる彼女に告白された日は驚いたけど、純粋に嬉しかった……ような気がする。……うん、この辺りは察して頂きたい。
「はは、本当可愛いんだけどね……でもヤンデレと言いますか、メンヘラと言いますか……」
「ん……ヤンデレとメンヘラは同一視されがちだが、違うぞ?」
「え」
感傷に浸って乾いた笑いを漏らしていた零音は、塁兎の指摘に首を傾げる。
「ヤンデレはとにかく相手へ依存していて、更に独占欲が強く相手が少し周りと仲良くするだけで嫉妬したり相手や周りの人を傷つけたり閉じ込めたりし、『これは貴方の為』とかいう奴だ。だがメンヘラの語源は『2ちゃ○ねるのメンタルヘルス掲示板にいそうな人』だ。
メンヘラと呼ばれる人の要点をまとめると『精神的に病んでいる』『そんな自分が誇らしい』『重度の自己中のかまってちゃん』だ」
塁兎は話してる最中、一切息継ぎをせずに言い切った。
「……ちょっとよく分かんないや」
ほぼ何も考えず、表面的な意味合いで「ヤンデレ」だの「メンヘラ」だのと使っていた零音が何よりも驚いのは、今日は塁兎がやけに喋るという事である。ちなみに話の内容は難しくて一割程度しか頭に入って来なかった。
「お前にはまだ難しかったか。要約するとヤンデレは『貴方を私だけのものにしたい』で、メンヘラは『かまってくれなきゃ死んでやる!』って所だな」
「大分要約したね……」
――貴方を私だけのものに――
彩葉の先程の異常な行動(壁ドンとか塁兎の足に槍を突き刺した事とか)も、零音を自分以外誰にも触れさせたくないと本気で考えているとすれば辻褄が合う。
今回の件のみならず、今までのとても文章に認めるには過激すぎて割愛せざるを得ない内容の行動等も、全て……独占欲から……?
――何故そうまでして自分を求めるのか。そんな魅力が自分にあるのか……?
一度考え出すと思考は中々止まってくれず、総毛立ってしまう。恐らく青い顔になっているだろう僕の心中を察してか、塁兎は釘を刺すように言い放った。
「お前は今そんな怖い奴と付き合っているんだからな。今回は俺だからまだ良かったものの、今後はお前の一挙一動全てにお前一人だけじゃなく他の奴の命もかかってるのだから充分行動には注意しろ」
「うん……気をつける」
命は流石に言い過ぎだろう。と彼氏としては言ってあげたかったが、ここは大人しく従う事にした。
何と言っても、我らが団長を手にかけようとしたあの彩葉だ。普段は至って真面目で普通な少女だが、零音関連となると正気じゃなくなる。
塁兎の言う通り他人に危害を及ぼしかねない危険人物だという事は考えるまでもない。
『本当に気をつけろなんだぜ。最悪世界が終わるかもしれないしな♪』
「さらっと不安を煽らないでくれないかな」
他人事なのをいい事に、心底楽しそうに恐ろしい事を言ってのけるアンリを冷ややかに睨みつけるが、彼は反省した様子もなくいつも通り何処か余裕のある飄々とした笑顔を浮かべているだけだった。
――全く、何が『疾風の電脳黒猫』だ。魔女の手先とも称されるクールで高潔なるあの強かな生き物とは対極にいるような奴じゃないか。……気まぐれで構ってちゃんな部分は少し似てるかもしれないが。
「軽率な発言は控えろ、アンリ」
塁兎の良く通る声は仮にも怪我人とは思えない、荘厳とした威厳を放っていた。これが団長のカリスマ性かと改めて感心させられる。
「それよりイロハだ。あの子が一人で料理をこなせるとは思えんからサポートしてやれ」
『相変わらず塁ぴょんは優しいねえ、自分を傷つけた相手にそこまで親切だなんて母さん嬉しいわっ!』
「黙れ潰すぞ。これは『団長命令』だ。さっさと済ませろ馬鹿者が」
こんな時にまでふざけるアンリにそろそろ堪忍袋の尾が切れかけたらしい塁兎が辛辣な言葉と共に『団長命令』を放つ。
命令されたアンリは相変わらずの軽い感じで敬礼を決め、液晶内で十字を描くように指を動かして連絡先から彩葉の名前を見つけると此方に手を振りながら電網の海に飛び込んで行った。
「……とことん不快な奴だ」
「でも何故だか嫌いにはなれないよね」
「ああ、不思議な事にな」
二人して苦笑を浮かべるのと、玄関から鍵を解錠する微かな金属音とパタパタという幾重にも重なった足音が響いてくるのはほぼ同時だった。
「あ、他の皆帰ってきたみたいだね」
他の団員達の帰宅。それは半ば忘れかけていた『塁兎が大怪我をしている』という事柄を脳内に呼び戻すのには充分なイベントだった。
「さ、皆心配するから早く手当てしないと」
塁兎の注意を自分に向けさせる為に必要以上に声を張り、立ち上がる。案の定塁兎は「別に必要ない」と言いたげな顔で僕を見上げてくるが、このまま怪我を放置してリビングにでも行こうものならあの人一倍騒がしく、「美少年は存在するだけで世界に貢献している」と豪語する少女が目敏く塁兎の怪我に気づき、失神するだろう。
――いや、失神ならまだ良い。彩葉に飛びかかられでもしたらキャットファイトの幕開けになってしまう。
そうしたら破壊の女神二人によりアジトが崩壊するという最悪の事態に陥る。
「救急箱って真向かいの物置にあったよね?」
「ああ」
零音には応急処置と時間稼ぎくらいしかできないが、この傷が治るまであの少女にバレないように隠し通すくらいはできるだろう。
怪我をしている当の本人は痛みを気にしないし、少し特殊な体質の持ち主だし。あの馬鹿な子相手なら隠し通せる……筈だ。
相手の馬鹿さにここぞとばかりに期待しながら、零音は部屋を出た。
……と、団員が出揃うまでは暫く題名が団員No.になりますね。
団員No.とか超能力とか少年少女とかアジトとか先日終わった某アニメに似てる要素ありますけど、作者としてはパクってるつもりはありません。
前々からこのストーリーを考えて温めて今放出してますし!(魔顔)