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おとぎ話のむだ話  作者: 高野聖泉
桃にまつわるエトセトラ
8/12

その男の末路


  【桃太郎】



 時は室町。

 山梨のとある村に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。


 ある日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯をしに行きました。

 お婆さんが川で洗濯をしていると、川上の方から沢山の桃が、ピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッピチャピチャどんぶらピチャどんぶらベチャリッと流れてきました。普段からよく拾い喰いをしていたお婆さんは、そのうちの一つを躊躇することなくわし掴み、貪り喰ってみると(※この時代に警察はないため、お婆さんが逮捕されることはありません)とても美味しかったので、お爺さんにも持って帰ろうと考えました。


 しかし、流れてくる桃は多く、お婆さんはどれを持ち帰れば良いのか迷ってしまいました。ですがそこは主婦歴四十年は軽く下らないお婆さん、次々流れて来る桃たちを、今までの主婦人生で培われてきたその選定眼をもってして見極め、中でも最も美味しい桃を探し当てました。


「色は美しい濃赤。形は左右対称で縫合線も鮮明。何よりも漂うという言葉では足りない程に力強く、しかしながら優しく鼻腔を刺激する芳醇な甘い香り。まさしく、これこそが至高の桃だわ」


 お婆さんはその桃を抱えて家へと帰りました。しばらくすると薪を背負ったお爺さんも帰って来たので、さっそくお婆さんは持ち帰った桃をまな板にのせて切ろうとしました。


 その時、お婆さんは、何故だかお爺さんがその桃へと向ける視線に、何やらかつての雄々しさ、具体的に言うならば、毎晩のようにお婆さんを愛してくれたあの頃の餓えた野獣の如きギラついた何かを感じとりました。

 見れば、その桃は確かに形も良く、張りがあり、赤々としていて、考えようによっては若い生娘の尻のようにも見えました。やや大きめであることや、うっすらと産毛のようなものがあることも、逆にエロティシズムを感じさせ、お爺さんの眠っていた野生を呼び覚ます要因だったのかもしれません。


 しかし、お婆さんはお爺さんのその視線に気付かなかったかのように、容赦なく桃に包丁を入れ、切り分け、お爺さんの前に曝しました。

 そして、そのうちの一つを頬張るとお爺さんに言いました。


「今、この桃のこと、いやらしい目で見てたでしょ」


 この時ばかりは、お婆さんも、老婆ではなく、一人の女だったようで、口調が若い頃のものに戻っていました。


「い、いやっ見てない見てない」


 それはお爺さんも同じでした。


「ウソ。ぜったいに見てた。それもいやらしい目で」

「だから見てないって!」

「ぜったい見てた!だってアタシ、アナタが見てたの見えたもん」

「違うよ!ホント見てないから」


 お爺さんは慌てて否定しました。ですが、お婆さんの膨れた頬は、口に入っていた桃はとっくになくなっているはずなのに、なかなか元に戻ってはくれません。

 すると、急にお婆さんは肩を落とし、寂しげに顔を俯かせました。


「そりゃあ……アタシにはもう、魅力なんてないのかもしれないけどさ」

「……なに言ってんだよ。お前は今でも十分魅力的さ」


 お爺さんは慰めるように、でも決して慰めにならないように、お婆さんを励ました。


「……ホント?」

「ホントだよ」


 お爺さんは、悲しげなお婆さんを見て、小声で「やれやれ」と呟きつつも、まるで当たり前のことを言うように、言葉を続けました。


「お前はいつだって素敵だし、俺はそんなお前を愛してるんだ」


 お婆さんは、お爺さんの言葉に嘘を感じませんでした。何より、そう言ってくれたお爺さんの笑顔が、お婆さんの鼓動を早めて仕方ありません。


「……証明、してくれる?」



 そしてその夜。

 二人は年甲斐もなく、励みました。




 ―――数ヶ月後。


 ある日、いつものように柴刈りを終えたお爺さんが家に帰ると、お婆さんが神妙な顔つきで待っていました。


「どうしたんじゃ、そんな顔をして。何かあったのかい?」


 奇妙に思ったお爺さんが尋ねると、お婆さんは神妙な顔を引っ込める代わりに、戸惑いつつも嬉しさを隠せない、それでいてどこか恥ずかしそうな、不思議な表情をしました。


「年のせいかと思ったんですが、恐らく、間違いありません」

「……本当にどうしたんじゃ。どこか、身体が悪いのかい?」


 お婆さんは、急に心配そうにするお爺さんの言葉を優しく否定すると、それ以上の優しさを籠めて、言いました。


「わたし、妊娠しました」



 それからの時間は、まるで早送りをするように流れていきました。

 若い頃、どんなに頑張っても授からず、完全に諦めていた二人の子供。それが何の因果か、こんな年齢になって授けられるなどと思っても見なかった二人は、戸惑いつつも喜びに溢れる日々を送りました。


 勿論、事は簡単には運びません。

 仮に、現代に当てはめてもかなりの高齢出産、ましてや室町時代においては、もはや高齢を通り越して完全に老齢の域に達しているお婆さんの出産です。その苦しみは想像以上で、覚悟していたはずのお婆さんも、幾度となく挫けそうになりました。

 しかし、お爺さんの献身的なサポートと励ましのかいもあって、遂に、二人は出産を迎えることが出来ました。


 お婆さんは産婆さんよりも高齢で、母体の命が危ない可能性もあると告げられていましたが、二人は逃げませんでした。

 そして、とうとう可愛らしい男の子が産むことが出来ました。

 母子ともに健やかに出産を終えることが出来たのは、とても嬉しいことでしたが、最悪の状況ばかりが頭をよぎっていたので、お爺さんもお婆さんも、喜ぶよりも先にビックリしてしまいました。

 しかし、きっと産まれてきた子も、両親の予想外の高齢っぷりにビックリしていたことうけあいです。


 二人は産まれてきた子を桃太郎と名付けました。

 名前の由来を尋ねる村の人達に、深い意味などないとお爺さんは言い張っていましたが、その度に、隣で桃太郎を抱くお婆さんが頬を赤くしていたのは二人だけの秘密です。


 お爺さんとお婆さんは桃太郎を大切に育てました。桃太郎はすくすくと育ち、力が強く、頭の良い、そして正義感の強い元気な男の子へと成長しました。


 そんなある日、人々の間で、山に得体の知れないが何かがいる、という噂が流れ始めました。

 最初は、誰しもがただの噂だと笑っていたため、信じる人はほとんどいませんでした。ですが、実際にその略奪の被害にあった村が現れ、その数が増えていくにつれ、それを笑う人も疑う人もいなくなっていきました。

 そしていつしか、人々は正体の分からないそれらのことを『鬼』と呼ぶようになりました。また、鬼のアジト周辺のことを、鬼の縄張り(シマ)であるとして、『鬼ヶ島』と呼ぶようになりました。


 鬼による被害は日を追うごとに増加していき、遂に桃太郎の暮らす村にまで及びました。

 桃太郎の家は村のかなり外れの方に居を構えていたため、被害にこそ遭いませんでした。ですがその話を聞いた桃太郎は、その強い正義感ゆえにいてもたってもいられず、すぐにお爺さん達に鬼ヶ島へ鬼退治に行かせて欲しいと頼みました。

 二人はまだ若い桃太郎が鬼退治に行くことに反対しました。年をとり、諦めていたのにもかかわらず、それでも授かった大切な我が子。そんな桃太郎をわざわざ危険な場所へは行かせられません。ですが桃太郎もゆずらず、結局、お爺さんとお婆さんが折れる形で、桃太郎の鬼退治は決まりました。


 そして桃太郎が鬼退治に出発する日が来ました。


 お爺さんは桃太郎に袴を履かせて刀を持たせました。

 その袴と刀は、若い頃のお爺さんが立身出世を夢見て購入し、結局あまり役立つことなくしまわれていた物で、時々手入れをしていたために状態も悪くありません。ある意味、この家で最も価値のある物と言えました。


 一方、お婆さんは桃をたくさん持たせました。

 繰り返しになりますが、お婆さんは拾い喰いすることに躊躇しない人です。何か物が落ちていて、それがぱっと見で食べられそうならば、五秒後には既に口の中、みたいな人です(※この時代に警察はないため、お婆さんが逮捕されることはありません)。

 そんなお婆さんが、たくさんの桃を桃太郎に持たせました。

 察しましょう。


 桃太郎としては、『かさばる上に保存が効かない桃を持って行くのはどうなんだ。というか前々から思ってはいたけれど母上の物を拾ってすぐ食べる癖は何とかした方がいいんじゃないか』というのが本音でしたが、好物であることは事実ですし、何よりもこの状況で母親であるお婆さんの好意を無碍には出来ず、表面上は喜んで受け取りました。

 察しました。


 桃太郎が出発すると、まず初めに野良犬と出会いました。

 最初はスルーして行こうとした桃太郎ですが、妙にその野良犬から視線を感じます。その視線の先をよくよく見てみると、腰に下げた桃袋がありました。桃太郎は少し考え、袋から桃を一つ出して野良犬の前に置きました。すると野良犬はすぐに桃にかぶりつきました。犬が本当に桃を食べるのかわからなかった桃太郎ですが、その姿に軽く安堵の息を吐き、桃を美味しそうに食べる野良犬を眺めました。

 桃太郎としては別に恵んだつもりではなく、ただ単に、かさばる荷物を少し下ろすための、言い訳染みた行為のはずでした。しかし、結果的に言えば、野良犬は桃太郎に懐きました。

 桃太郎の目的が鬼退治であることを考えれば、野良犬は足手まといになりうるはずでしたが、桃太郎も独りで鬼ヶ島へ歩いていることに少なからず心細さを感じているところだったので、口では野良犬を追い払うように言いつつも、その声色はどこか嬉しそうでした。


 しばらく進むと、犬がどこかを見つめながら唸り始めました。急に威嚇するような低い声になった犬を不審に思っていると、突然目の前の木から一匹の猿が降りてきました。

 降りてきた猿は、こちらの犬と同様に、威嚇するように鳴き、ひどく興奮しているようでした。そして、桃太郎がヤバいと思った瞬間には、もうニ匹は取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいました。犬猿の仲とはよく言ったもので、野生丸出しの獣同士の激しい争いを前に、桃太郎はどうしたらいいのか分からず困ってしまいましたが、ふと思いついたように、二つの桃をニ匹の前に置きました。

 それにまず反応したのは犬で、猿から視線を外すと、先ほどのように桃にかじりついたのです。猿の方も、突然敵意をなくした犬に呆気にとられ、やや混乱気味でしたが、犬がもう一つの桃も食べようとした瞬間、飛び出すようにその桃を掴んで、木の上に登りました。そして、太い枝の上で桃を食べ始めました。

 桃をかっさらわれた形になった犬は、怒ったように激しく吠えましたが、桃太郎にもう一つ桃を貰うと大人しくなりました。それを見て、不満そうな鳴き声をあげる猿にも桃を投げてやると、猿は器用にもそれをキャッチし、やはり美味しそうに食べ始めました。


 ニ匹が桃を食べ終わったら再び争い始めることは目に見えています。それを止める手段はないものか、と桃太郎は悩みました。

 と、その時、突然目の前の茂みから何かが飛び出しました。

 驚いた桃太郎が、とっさに持っていた桃を投げつけると、飛び立とうとしていたそれの頭に見事命中、撃ち落とすことが出来ました。近寄って確かめてみると、雉がピクピク痙攣していました。

 桃太郎は少し考えると、その雉を捕まえ、犬と猿の目の前にぶら下げました。


「仲良くしないと、こうだぞ」


 ニ匹がその言葉を理解したかどうかはわかりません。ですが、ニ匹の視線を釘づけにさせ、その争いをおさめることができたのは確かです。

 桃太郎は心の中で、自ら身体をはって争いを諫めてくれた雉に心からの感謝をしました。

 それはそれとして、雉はとても美味しかったです。


 こうして、桃や雉の丸焼きを食べさせていたらいつの間にか懐いていた犬と猿を引き連れ、遂に桃太郎は鬼ヶ島へと到着しました。


 鬼ヶ島の奥へ進むと、一人のいかにもガラの悪い男が現れました。

 その男は、ガラの悪さや古傷が見受けられることを除けば、外見は普通の人間。別段角が生えている訳でも、肌の色が赤や青である訳でもない、至って普通の人間でした。

 男は桃太郎を見ると一瞬驚き、しかしすぐに威嚇するように睨みつけてきました。


「おいガキ、俺たちのシマへ何の用だコラ」


 桃太郎は、最初こそ目の前の男を訝しげに見ていましたが、男の態度の悪さを見て、値踏みするような目つきに変わり、やがて『ああ、コイツ、いやコレこそが鬼なんだ』と確信するに至りました。


「……一つ、人の世の生き血を啜り」


 桃太郎は桃袋を地面に下ろして、一歩鬼に近寄りました。


「二つ、不埒な悪行三昧」


 一歩、また一歩と踏み出します。


「三つ、醜い浮き世の鬼を」


 そして、状況が掴めずにどうしたらいいかわからない鬼を尻目に、静かに刀を抜きました。


「退治てくれよう、桃太郎!」


 言い終わるやいなや、桃太郎はその鬼の首をはねました。その鬼は、突然のことに何の反応もすることなく、意味を理解することもなく、息絶えました。

 桃太郎は足下に転がる鬼の首を一瞥すると、刀に付いた血を払って飛ばしました。


「……不意打ちも立派な作戦。数の多い奴らの相手をするなら、むしろ当然とも言うべき行為であり権利だ。いや、そもそも鬼は人間じゃない。人に徒なす害虫だ。そんな奴らを相手どり、何を手段を選ぶことがあろうか!これは正義による断罪だ!天誅だ!悪をすべからく退治するのだ!」


 そう言って桃太郎は、鬼ヶ島の奥へ駆け出しました。犬と猿もそれに続きます。


 そこから先の光景は、虐殺と呼ぶにこれほど相応しいものはない、というほど凄惨なものでした。


 血の匂いに興奮した犬は、鬼の集団に向けて加速するように駆け出しました。そしてそのスピードを維持したまま、突然飛び上がって物凄い勢いで縦に回転し、あたかもボーリング球のように鬼たちへ飛び込んでいきます。ボーリング球に当たったのですから、やはり、ボーリングのピンのように吹き飛んでいきました。

 咬み千切られた、鬼たちの首が。


 猿が悠然と両腕を掲げたかと思うと、突然その掌が輝き、次の瞬間莫大な熱量を孕んだ巨大な火柱が発生して周囲を呑み込みました。その際、どこからか流れてくる「オーモーイーガー」という歌とともに猿が何か叫んでいるようにも聞こえましたが、キーキーとしか言ってないようにも思えました。それはさて置き、巻き込まれた周囲の鬼たちは、火柱の勢いのまま空中に巻き上げられていきました。

 落ちてきた者も、物も、何一つありませんでした。


 雉は雉で、一人と二匹の体内で活躍していました。必須アミノ酸をバランス良く含んだ鶏肉は、その繊維の細い肉質ゆえに消化吸収も良く、良質なタンパク質として桃太郎たちのエネルギーとなっていました。もし雉がいなければ、おそらく桃太郎たちも普通に戦わざるを得なく、苦戦を強いられていたでしょう。

 タンパク質って、凄いですね。


 桃太郎も刀を振り回し、瞬く間に鬼たちの半数以上を物言わぬ屍へと変えてしまいました。


 すると、鬼の中でもひときわガラが悪く、筋骨隆々で大きな身体をした鬼が、震えながら言いました。


「お、俺らが悪かった。もう足を洗う。悪いことは一切しねえ。だから、これ以上は勘弁してくれ。いや、勘弁して下せえ……お願いしやす」


 桃太郎は有無をいわさずに殺そうとしましたが、巨大な身体を縮こまらせて泣きながら頼むその鬼の姿が余りに憐れで、興が削がれたように刀を納めました。

 暴れ回っていた犬と猿も、桃太郎の雰囲気を察してか、大人しくなり、静かに桃太郎の後ろに控えました。


「あ、ありがとうございやす。今後二度とこのような」

「宝だ」

「……は?」

「宝を持って来いと言ったのだ!貴様らの持つ宝は全て誰かから奪った物だろう。それは貴様らのようなゴミが持っていていい代物ではない!ゆえに私が管理してやると言っているのだ!何か問題があるのか!?」

「め、滅相もねえです!今すぐに!」


 そして鬼たちは急いで宝の山を桃太郎の前に築きました。


「こ……これで全て、になりやす」

「……車は?」

「は?」

「宝をのせる車はどうしたと言っている!貴様は私にこれを手に抱えろと言うのか!」

「すす、すいやせん!ただ今!」


 桃太郎は、鬼たちが慌てて持ってきた荷車へ、鬼たち自身に宝を積み込ませました。


「うす汚い鬼どもめ。もう二度と人に悪さを働こうなどと思うなよ」


 そう言って桃太郎たちは、大量の宝をのせた車を引きながら鬼ヶ島を後にしました。


 桃太郎は自分の正義を貫きました。彼の正義にとって人に害を為す者は悪であり鬼でした。そして鬼とは、すなわち人ではなく、人でない以上、命だろうが宝だろうが何を奪おうが、彼の中に問題は発生しません。

 ですが、何をどう言い繕おうとも、彼は余りに独善的であり、彼の行いは殺人と強盗に他なりません。たとえ斬られる者が悪であろうとも、たとえ斬る者が正義であろうとも、殺人はその全てを悪へと変貌させるのです。

 しかし幸運にも、あるいは不幸にも、この時代に警察はいないため、桃太郎が逮捕されることはないのです……。


 桃太郎達が村に帰ると、その無事な姿を見て、お爺さんとお婆さんは大喜びです。

 桃太郎は、取り返した宝をそれぞれ村の人々に返したので、村の人々もたいそう喜びました。

 しかし、わかる限り元の持ち主に返しても、宝はまだまだあります。桃太郎はこれ以上はもうどうしようもないと考え、余った宝は自分で持っておくことにしました。

 こうして、桃太郎たちも人々も、みんな幸せに暮らしました。



 しかし、この時の桃太郎は知りません。


 鬼たちは宝の半分程度しか桃太郎に渡していないことも。

 多くの仲間を虐殺された鬼たちが桃太郎を深く憎んでいることも。

 そして、その残した宝を使って装備を整えた鬼たちが、一心不乱の大戦争を望んでいることも。


 ……この時の桃太郎には知る由もないのです。




   【完】






「ふう。私も少しおふざけが過ぎたかしら。ま、そのくらいは構わないわよね。で、どうかしら橋里。これで満足かしら」


「……zzZZ」


「橋里」


「……んぁ。ああ、おはよう、アリカさん」


「おはよう、橋里。貴方、相変わらず良い度胸しているわね。こうもあからさまに見え透いたオチを貫くなんて、という意味も籠めて。ま、それはそれとして」


「ん?」


「橋里、とりあえずそこに正座なさい」






   閑話休題。


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