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不眠症

作者: 森下しあ

不眠症患者にとって一番辛いのは夜だ。私個人の意見だけで言えば深夜3時から4時が特に。


そして今、時計が午前3時を刻んだ。


昼間は全く聞こえないはずの時計の音だが、夜には鮮明に、時には騒音のようにも思えてくる。


もう限界だ。


そう思い、私はすぐさま立ち上がり時計の電池を抜く。


そしてまた布団に潜り込む。


今度は静かすぎる事が気になってきた。考えた末にテレビをつけることにした。


夜は専らテレビを見るのだが、この時間帯は通販番組が多いから暇なのだ。


不眠症になってもう、かれこれ3年は経つので、深夜の番組はだいたい頭に入っている。



今は見て楽しむわけでなく、静けさを打ち消す役割をしているので内容などどうでもいい。


適度にテレビの音も聞こえてきたので、目をつぶって寝るふりをすることにした。


こうしていると少しだけでも寝られるときがある。あくまで少しだが。




すると窓から光が差し込んできた。



こうして眠れぬまま朝がやってきてしまった。しかし、これはいつもの事だ。


もう寝る気をすっかり無くしたので起きて、支度をすることにしよう。






あの後はすぐにテレビ局に向かった。自分で言うのはなんだが、私は今人気の俳優なのだ。




不眠症のことを人に相談すると高確立で言われることがある。


私は気になって聞いてみた。あの先生とは不眠症になってからだから、3年以上の付き合いだ。

気になって当然なのかもしれない。

「ええ、あの先生は大丈夫ですよ。今日も診察を行っています。実は、私あなたにお話があってきたのです。」


私は診察に来たのだ。この人と話すために来たのではない。


微かに怒りを感じたが、ここで怒るのも何なので我慢して話を聞いてみることにした。



「私はこういうものです。」


そう言って名刺を渡してきた。


“不眠症治療センター所長 日比谷竹男”と書かれていた。どうやら不眠症治療の専門家らしい。


「センターの所長ですか。すごいですね。」


私は気になって聞いてみた。あの先生とは不眠症になってからだから、3年以上の付き合いだ。


「ええ、あの先生は大丈夫ですよ。今日も診察を行っています。ただ実は、私あなたにお話があってきたのです。」


私は診察に来たのだ。この人と話すために来たのではない。


微かに怒りを感じたが、ここで怒るのも何なので我慢して話を聞いてみることにした。



「私はこういうものです。」


そう言って名刺を渡してきた。


“不眠症治療センター所長 日比谷竹男”と書かれていた。どうやら不眠症治療の専門家らしい。


「センターの所長ですか。すごいですね。」


「“寝るふり”ということですね。それなら、俳優の私にぴったりじゃないですか。今すぐ事務所に聞いてみます。」


話はかなり進んだ。そこで結論を出そうとすると、


「まぁ、そう焦らずに。後日また会いましょう。そこで詳しいことを話します。電話番号は名刺に書いてありますから、もし断りたい場合は連絡して下さい。」


そして1週間後、病院の近所の喫茶店で改めて話すことになった。









喫茶店に入ると日比谷さんが先に席に座っていた。


「こんにちは。」


「こんにちは。お忙しい中来ていただいて、本当にありがたい。なにか頼みますかな?」


「じゃあ、コーヒーを頼もうかな?」


コーヒーが来るまでの間、不眠症治療センターの話を聞いた。


10年前に計画されて、あと3ヶ月ほどで完成するらしい。日比谷さんは嬉しそうに話していた。



「コーヒーでございます。」


「ああ、ありがとう。」


コーヒーが届き、話は本題に入った。



「練習はしてきましたか?」


日比谷さんは言った。練習とは“寝るふり”のことである。このプロジェクトは私の演技力にかかっていると言っても過言ではない。

「もちろんです。しかし、なぜ私のを選ばれたのですか?」


「あなただと良い宣伝になる。それに、普通の人は寝ることはできても起きていることは出来ないでしょう?」


この言葉に私は納得した。役立てれば嬉しいと建前で言ったが、今日は心からそう思えた。





その後、話は着々と進み、不眠症治療センターは開院のときを迎えた。


最近は周りの患者たちから騒がれたが、夜になるともう慣れてしまったのか何も言わなくなった。


どこに行っても一般人に騒がれるのが普通の生活だから、この空間が実に不思議に感じた。



そしてようやく、消灯時間がやってきた。


修学旅行の夜のように、みんな同じ部屋で布団を敷き詰めて寝るらしい。


日比谷さんは、安心を与えるため、と言っていた。まぁ、私にとっては窮屈でしかないが。



午後2時、トイレに行くために起きて周りを見回すと、寝ているものもちらほら見えた。


なんだ、私より深刻そうにしてたやつらがいびきをかいて寝ているではないか。


その光景が無性に腹立たしかった。しかし今は我慢だ。


私は不眠症になってから少し怒りっぽくなったのかもしれない。



そしてその日の夜、私は“寝るふり”をした。


自分で言うのはなんだが、完璧な演技だと思う。これなら誰も気付かないだろう。


しかし、一つだけ問題がある。それは、とてつもなく暇だということだ。


そこで、明日のことや、色々な空想を考えることにした。


しばらくして、隣の奴が寝ている私の姿に気付いた。


「おい、みんな、俳優が寝てるぞ!」


そういうと、皆がそろりと見に来た。


布団に耳をつけると沢山の足音が聞こえてきた。

起きているものはほとんど見に来たらしい。


ここが私の山場な訳で、ますます演技に力を入れた。

力を入れたと言っても実際に力を入れはしない。力を抜き自然な体勢になるのだ。







次の朝、私は気分が良かった。


それは、皆をうまくだませたからだ。


「昨日はよく寝てましたね。」


皆似たような言葉をかけてくる。


「いやぁ、すっきりしましたよ。」


真っ赤な嘘だが。







そして数日が過ぎ、寝られるようになった者もずいぶん増えたようだ。


しかしながら、私は相変わらず寝られないが。




そのまた数日後には、私を除く全員が眠っていた。











「……日比谷さん、情報は手に入りましたよ。」


「おお、ありがとう。くれぐれもこの事は内密にね。」


「分かってますよ。」




そう、不眠症センターなんて真っ赤な嘘。


実はこの施設、スパイを収容するものだった。


人には寝言という、意識せずに出てしまう言葉がある。


よく、不倫相手の名前を寝言で言ってしまった…なんて話がある。

簡単に言えば、それを利用したのだ。



スパイが寝言で極秘情報をもらし、それを私が聞き、日比谷さんに伝える。


……実に簡単だ。それに面白い。聞き耳をたてていると誰も知らないような重大な秘密が聞けるのだから。

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