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『お前の支援はもう要らない』と追放された術士、ダンジョン最深部で魔物食堂を開いたら最強拠点ができていた  作者: 凪乃


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白銀の槍の末路

 ギルドの掲示板に、張り紙が一枚追加された。


『冒険者パーティ「白銀の槍」——Bランク維持審査:不合格。猶予期間:一ヶ月。期間内にBランク相当の実績を示せない場合、Cランクに降格とする』


 それを見て足を止める者は少なかった。冒険者の昇降格など、日常茶飯事だ。だが——かつてA級昇格候補と呼ばれたパーティの転落を知る者は、複雑な顔をしていた。


 作戦室。レーナはテーブルに両手をついて、うつむいていた。


「フィオナが抜けた」


 ダリオが静かに言った。


「知ってる」


「理由は聞いたか」


「『このパーティでは実力を発揮できない』だってさ。笑えるだろ」


 笑えなかった。誰も。


 A級支援術士のフィオナが加入してから二ヶ月。数字の上では、パーティの支援能力は大幅に向上したはずだった。回復量は三倍、バフ効果は倍以上。


 なのに——勝てない。


 三十層のボスに五連敗。二十八層の中ボスにすら苦戦するようになった。依頼の成功率は過去最低。メンバーの士気は底を打っている。


「……なあ、レーナ」弓士のエルザが、おずおずと口を開いた。「言いにくいんだけどさ」


「言え」


「ソウマがいた頃と、何が違うんだろうな」


 沈黙が落ちた。


 レーナは奥歯を噛んだ。分かっている。分かっているのだ。


 ソウマの回復は弱かった。バフも微々たるものだった。それは数字として明らかだった。だが——彼がいた頃、パーティは負けなかった。


 朝、目が覚めると朝食ができていた。温かいスープと焼きたてのパン。食べると、不思議と体が軽くなった。


 ダンジョンでは、誰よりも早く敵の動きを読んで声をかけてくれた。「レーナ、右!」「ダリオ、下がって」——あの声があるだけで、全員の反応速度が上がっていた。


 戦闘後は、薬草茶と回復食を出してくれた。疲れた体に染みる味だった。翌日のコンディションが全然違った。


 それらは全部、ステータス画面には映らない。数値化できない貢献。だから切り捨てた。もっと数字の高い支援術士がいれば、もっと強くなれると思った。


 ——馬鹿だった。


「わたしも言っていい?」エルザが続けた。「わたし、最近やっと気づいたんだけど……ソウマの料理、食べた翌日は弓の命中率が上がってた。毎回。ステータスの数字は変わってないのに、体のキレが全然違ったの」


 ダリオが頷いた。「俺もだ。あいつの飯を食った日は、盾の構えが半拍早くなってた。何でだか分からなかったけど」


「永続ステータスバフ」


 レーナが呟いた。


「え?」


「ソウマが五十層で作ってる料理は、食べた者のステータスを永続的に上げるらしい。S級のゲルドが証言してる」


 ダリオとエルザが絶句した。


「あいつのスキル——『万物調和』は、深層の魔力と共鳴すると本来の力を発揮するんだ。上層にいた頃は、その片鱗が……微かなバフとして、わたしたちの料理に乗ってたんだと思う」


「じゃあ……あの朝飯は……」


「ただの朝飯じゃなかった。わたしたちは、あいつの本当の力に気づかないまま——切り捨てた」


 部屋が静まり返った。


 レーナは顔を上げた。目に光が戻っている。後悔ではなく、決意の光。


「五十層に行く」


「は?」


「ソウマに会いに行く。——謝りに」


 ダリオが眉をひそめた。「レーナ、俺たち今三十層のボスにすら勝てないんだぞ。五十層なんて——」


「分かってる。だから」


 レーナはテーブルの地図を広げた。ダンジョンの断面図。三十層から五十層までの、未踏査を含むルート。


「まず三十層のボスを倒す。話はそれからだ」


「どうやって? フィオナもいないのに」


「三人でやる。支援なしで」


 ダリオとエルザが顔を見合わせた。無謀だ。だが——レーナの目は本気だった。


「パーティを追放した側が、追放した相手に会いに行くなんて……虫のいい話だってのは分かってる」


 レーナの声が、わずかに震えた。


「でも——あいつに、ちゃんと言わなきゃいけないことがある」


 ダリオが立ち上がった。


「……付き合うよ。最初からそのつもりだ」


 エルザも弓を手に取った。


「わたしも。ソウマに会いたい。ちゃんと、ごめんって言いたい」


 レーナは二人を見て、小さく頷いた。


「ありがとう。——明日から、特訓だ」


 ◆


 同じ頃。五十層では。


「ソウマ、この蒼炎狼の肉、どうするの?」


「炙り焼きにしてみる。火属性の肉だから、強火で一気に焼くと魔力が活性化するかもしれない」


 バルトが置いていった蒼炎狼の肉。『万物調和』で分析すると、筋繊維の一本一本に火の魔力が宿っているのが分かった。面白い素材だ。


 高温の地熱口に鉄板を載せ、一気に焼き上げる。


 じゅうっ——と音がした瞬間、肉から青い炎が噴き上がった。


「うわっ!」


 ミラが飛び退く。だが炎はすぐに収まり、肉の表面にきれいな焼き色がついた。中は——完璧なレアだ。


「すごい……きれい」


 切り分けて、一切れ口に運ぶ。


「——っ!」


 今まで作ったどの料理とも違う。肉の旨味の奥に、炎の魔力が駆け抜ける。体が内側から熱くなる感覚。


 ステータス通知。STR+350、VIT+200、耐火属性+500。永続。


「耐火属性……! こんなバフもつくのか」


 属性耐性の永続付与。これは今までの料理にはなかった効果だ。素材の特性によって、バフの種類も変わる——。


「ソウマ、それ食べていい?」


「もちろん。新メニューだ。名前——蒼炎狼の炙り焼き、でいいか」


 ミラが頬張って、幸せそうに目を細めた。


「あっつい。でもおいしい。体がぽかぽかする」


 新しい素材、新しい発見。この食堂にいる限り、料理の可能性は無限に広がっていく。


 ——地上で何が起きているかなんて、今の俺には関係ない。


 そう思っていた。


 少なくとも、この時までは。

お読みいただきありがとうございます!


レーナたちはソウマの真価にようやく気づき始めました。

果たして彼女たちは、五十層に辿り着けるのか——


次の第6話「辿り着けない理由」で答えが明らかになります。


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毎日19時ごろ更新予定です。

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