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『お前の支援はもう要らない』と追放された術士、ダンジョン最深部で魔物食堂を開いたら最強拠点ができていた  作者: 凪乃


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行列のできるダンジョン食堂

 ゲルドが酒場で口を滑らせてから、三日が経った。


 五十層の食堂には——行列ができていた。


「ソウマ、すごいことになってる……」


 ミラが目を丸くして、洞窟の入口を指さす。石のカウンターの向こうに、見慣れない顔が並んでいた。人間だ。それも、一人や二人じゃない。


「いらっしゃい。何人だ?」


「五人です! ゲルドさんの話を聞いて来ました!」


 先頭に立っていたのは、A級冒険者パーティ「鉄の心臓」のリーダー、バルトという大男だった。両手斧を背負い、全身傷だらけの歴戦の猛者。その顔が、子供のように輝いている。


「本当にあるんだな、五十層の食堂。正直、ゲルドの冗談だと思ってた」


「冗談で五十層まで来たのか?」


「いや——半信半疑だったが、ゲルドが嘘をつかない男なのは知ってる。賭けてみる価値はあると思った」


 バルトの後ろに控えるパーティメンバーは、全員消耗している。深層の魔力圧に耐えながらここまで来たのだ。A級でも楽な道のりではなかったらしい。


「とりあえず座れ。今日のメニューは結晶猪の角煮と、水晶魚の塩焼き。スープもある」


 五人がカウンターに並ぶ。ミラが慣れた様子で水を配る。いつの間にか、この少女は食堂の看板娘のような立ち位置に収まっていた。


 料理を出す。


 バルトが一口食べた瞬間——箸が止まった。


「……何だこれは」


 ステータス通知が弾ける。STR+280、VIT+320、AGI+150。効果:永続。


「永続バフ……マジかよ」


 隣のメンバーも次々と食べ始め、全員が同じ反応を示した。信じられないという顔。そして——二口目からは、黙々と食べ続けた。


 全員が完食した後、バルトが深々と頭を下げた。


「最高の飯だった。礼を言う」


「お代は素材で」


「もちろんだ。四十五層で狩った蒼炎狼の肉と、四十層の鉄甲蟹がある。使えるか?」


「蒼炎狼? ……面白いな。火属性の肉か。試してみたい」


 素材を受け取りながら、料理人としての好奇心が湧き上がる。新しい食材は、新しいメニューの可能性だ。


「また来ていいか?」


「いつでも。営業時間は——まあ、俺が起きてる間はだいたいやってる」


 バルトたちが去った後、ミラが呟いた。


「ソウマ、人間のお客さんって面白いね。みんな同じ顔する」


「どんな顔だ?」


「最初は疑ってて、一口食べたら固まって、全部食べたら子供みたいに笑うの」


「……そうだな」


 悪い気はしなかった。


 ◆


 それから一週間で、食堂の客層は劇的に変わった。


 深層の魔族たちに加え、人間の冒険者が毎日のように訪れるようになった。ほとんどがA級以上——五十層に辿り着ける実力を持つ者だけが、この食堂の客になれる。


 結果として、面白い現象が起きていた。


「三十八層のボスを単独で倒した」


「マジか。先週まで四十層が限界だったのに」


「ソウマさんの料理を三回食ったら、ステータスが別人になった」


 食堂の客同士が、攻略情報を交換している。ソウマの料理で強化された冒険者たちが、これまで誰も踏み込めなかった深層エリアを次々と開拓し始めていた。


 食堂が——ダンジョン攻略の拠点になりつつあった。


「ソウマさん、これ。四十二層で採れた星光草です。お代の代わりに」


「ありがとう。こんな植物見たことないな……香草として使えるかもしれない」


 客が増えれば、素材も増える。素材が増えれば、メニューが増える。メニューが増えれば、客が増える。


 雪だるま式に、食堂は成長していった。


 ミラが奥の席で新しい深層魔族の友達と一緒にスープを飲みながら、こちらを見て笑っている。石人族のルーンが黙々とカウンターを磨いている。いつの間にか手伝いを申し出てくれた常連だ。


 客は多いが、殺伐とした空気はない。深層の魔族も人間の冒険者も、この食堂では皆等しく「客」だ。食卓を囲めば、種族の壁など意味がなくなる。


 ——いい店になってきたな。


 素直にそう思った。


 ◆


 一方。地上のギルド本部では——


「五十層の食堂に関する報告をまとめました」


 ギルドマスターのヴァレリア・ドーンが、部下から書類を受け取った。五十代の女性だが、眼光は若い冒険者よりも鋭い。


「永続ステータスバフ……この報告は確かなのか」


「ゲルド・ハーゲン、バルト・ガルシア、他A級冒険者六名の証言が一致しています。全員のステータスに不可逆的な上昇が確認されました」


「経営者は」


「元Bランク冒険者、ソウマ・ヴェルト。元パーティ『白銀の槍』所属の支援術士。三ヶ月前に追放され、直後に深層探索クエストを受注して以降、地上への帰還記録はありません」


 ヴァレリアは書類を読み込んだ。眉間の皺が深くなる。


「Bランクの支援術士が、五十層でソロ生活。しかも永続バフの料理を提供。……普通ならあり得ない話だが、証人がゲルドでは無視できんな」


「いかがしますか」


 ヴァレリアは少し考え、書類を閉じた。


「放置でいい。いや——放置というより、静観だ。五十層の食堂のおかげで、深層の攻略速度が上がっている。冒険者の死亡率も下がった。ギルドとして妨害する理由がない」


「了解しました」


「ただし」ヴァレリアが付け加えた。「ソウマ・ヴェルトの情報は引き続き集めろ。彼のスキルが何なのか、なぜ深層でだけ発動するのか。いずれ公式に接触する必要が出てくるだろう」


 部下が退室した後、ヴァレリアは窓の外を眺めた。


「追放された支援術士が、最深部で最強の拠点を作る、か。……世の中、面白いことが起きるものだ」


 五十層の食堂の噂は、もはやギルドの上層部にまで届いていた。


 ソウマ本人が知らないところで、彼の存在は——ダンジョン攻略の常識を、静かに書き換え始めている。

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