表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『お前の支援はもう要らない』と追放された術士、ダンジョン最深部で魔物食堂を開いたら最強拠点ができていた  作者: 凪乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

条件

ギルドマスター・ヴァレリアの提案書を、ソウマは三日間、カウンターの端に置いたまま眺めていた。


 毎日の営業の合間に、ちらりと羊皮紙に目を落とす。第四条——独立施設。管理しない。干渉しない。


 悪い話じゃない。でも——何かが引っかかる。


「ソウマ、またあの紙見てる」


「うるさいな」


「早く返事すればいいのに。いい話なんでしょ?」


「ミラには難しい話だ」


「ミラだってわかるもん! えーと、ギルドの人がソウマの食堂を認めてくれるってことでしょ? 素材もくれるし、お金もくれる。でもソウマは自由にやっていい。——何が不満なの?」


「……不満じゃない。ただ——」


 ソウマは椅子に腰掛けて、天井を見上げた。


「この食堂は、俺が勝手に始めたものだ。誰にも頼まれてない。誰の許可も取ってない。それが——良かったんだ」


「誰かに認めてもらったら、ダメなの?」


「ダメじゃない。でも、認められた瞬間に——責任が生まれる」


 ミラが首を傾げる。まだ分からないだろう。分からなくていい。


「まあいい。今日、返事を書く」


「やっと!」


 ◆


 ソウマは紙とペンを用意して、返事を書き始めた。


 ——と思ったが、料理人に文才はない。三行書いて丸めて捨て、二行書いて丸めて捨て、結局箇条書きになった。


『ヴァレリア・ドーン殿


 提案書を拝読した。以下の条件で受諾する。


 一、この食堂の名称は「ダンジョン攻略支援拠点」ではなく「五十層食堂」とする。攻略支援は結果であって目的ではない。


 二、ギルドからの素材供給と運営支援金を受け入れる。月次報告も行う。


 三、客の選定にギルドは一切口を出さない。これは第四条の通り。


 四、追加条件——ギルドマスターが来店する際は、事前に連絡をくれ。混雑時に護衛四人は入りきらない。


 ソウマ・ヴェルト』


「最後の一文、必要?」


 ゲルドが後ろから覗き込んでいた。今日も帰らずに居座っている。


「必要だ。前回、護衛が入口を塞いで他の客が入れなかった」


「そういう実務的な問題か」


「食堂経営は実務の塊だ」


 手紙を封筒に入れる。次に五十層に来るA級冒険者に託せば、数日でギルドに届くだろう。


 ◆


 三日後。ヴァレリアからの返信が届いた。


『ソウマ・ヴェルト殿


 条件を全面的に受け入れる。

 名称は「五十層食堂」とする。

 護衛は二名に減らす。入口は塞がない。


 なお、正式認定に伴い、ギルド発行の案内書に食堂の情報を掲載する。

 冒険者向けの案内文が必要になるが、作成はこちらで行う。内容の確認だけお願いしたい。


 追伸——月光茸のスープをまた飲みたい。近日中に伺う。


 ヴァレリア・ドーン』


「追伸が本題だろ、これ」


「間違いないな」ゲルドが笑った。


 ◆


 ギルドの案内書に、食堂の情報が載った。


 効果は——即座に現れた。


「こんにちはー! ギルドの案内で来ました!」


「いらっしゃい。何人だ?」


「四人です! 全員Aランクです! よろしくお願いします!」


 今までは口コミだけで客が来ていた。ゲルドが酒場で話し、バルトが仲間に伝え、冒険者同士の噂で広まっていく。それが——ギルド公認になったことで、正規ルートで情報が流れるようになった。


 客が増えた。明らかに。


 一日の来客数が、今までの倍になった。


「ソウマ、手が足りない……」


 ミラが洗い物の山を前に途方に暮れている。石のカウンターに皿が積み重なり、棚の素材は午前中でほぼ使い切った。


「ああ……」


 嬉しい悲鳴だが、悲鳴であることに変わりはない。


 一人と一人で回せる食堂の限界が、見え始めていた。


 ◆


 夜。客が全員帰った後、ソウマとミラは片付けをしながら話していた。


「人を雇うか……」


「人って、人間?」


「人間でも魔族でもいい。料理の補助ができて、この深層の魔力圧に耐えられる奴」


「あ、それなら心当たりあるよ」


「え?」


「わたしの友達のルーン。石人族の子。前にスープ飲みに来たことあるでしょ? あの子、力持ちだし、料理にも興味あるって言ってた」


 石人族のルーン——確かに来たことがある。カウンターを磨いてくれた常連だ。無口だが真面目で、五十層の魔力圧もまったく平気だった。


「……声かけてみてくれるか」


「うん! 明日聞いてくる!」


 ミラが嬉しそうに奥へ駆けていった。


 ソウマは一人残って、食堂を見渡した。


 石のカウンター。結晶の照明。地熱のコンロ。


 三ヶ月前、一人で作ったこの場所が——少しずつ、一人じゃ回せなくなっている。


 それは、悪いことじゃない。


「……成長してるんだな。この店」


 独り言が、青い結晶に吸い込まれていった。

お読みいただきありがとうございます!


ソウマが出した条件——「攻略支援は結果であって目的じゃない」。

ギルド公認の「五十層食堂」が誕生しました。


でも客が増えた食堂を、二人じゃもう回せない。

第12話「石人族の見習い」——新しい仲間が加わります。


ブックマーク・評価で応援していただけると嬉しいです。

毎日19時ごろ更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ