表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1話:いわゆる異世界転生

「解読できたのですか……?」

 上目遣いでこちらを伺う可憐な少女。その瞳は僅かに潤み、長い睫毛が震えている。まさしく物語のヒロインと呼ぶに相応しい。

「一応、……はい」

「すごい! 内容を教えてはいただけませんか?」

「えっと……」

 なんて説明すればいい。たった今、読み終えたこの聖書によると――私は、悪役令嬢が主役の世界で、断罪される運命の「元ヒロイン」らしい。

 世界の破滅が先か断罪が先か…そんな最悪のチキンレースが、今始まった。


 *

 

 時計の針は深夜を回ろうとしていた。

「明日も出勤か……」

 金曜の夜。デスクに積み上がった書類を見て溜息をつく。

あと数分で20歳の誕生日。捨て子だった私の正確な誕生日は分からないけれど、拾われたこの日を、私は誕生日としてきた。

「……おめでとう、私」

 誰にも届かない声を漏らし、パソコンの電源を切った。

 

 とぼとぼと夜道を歩きながら、楽しかった学生時代をふと思い出す。

 友人とハマったRPG『救済の聖女』。聖女として転生した主人公がイケメンと共に魔王を倒す、王道の乙女ゲームだ。戦闘部分が苦手な友人のために、レベル上げやボス戦はすべて私が代行していた。

 キャラは格好いいが、甘いイベントは照れくさくて全て友人に渡し、私はひたすらRPGの攻略に徹していた。

 そんな思い出のゲームを題材にした小説を、ネットで見かけて気になっていた。タイトルは何だったか。「悪役令嬢」という言葉が入っていた気がするが……。

 スマホを取り出そうとしたその時だった。

 ――ドンッ!

「えっ!?」

 真横から強い衝撃を受け、視界が回転する。突き飛ばされるようにして、私は道沿いの堀へと落ちた。

「はぁっ!? 誰……っ」

 泥水を飲み込みながら叫ぶ。ここは酔っ払いがよく落ちる浅い堀のはずだった。だが、どれだけ足を伸ばしても底に触れない。

(死ぬの……?誕生日に、こんな……)

 意識が混濁し、大きな気泡が溢れた。


 *

 

「――おい! 聞こえるか!?」

 次に目を開けた時、視界に入ったのは見知らぬ黒髪の青年だった。

「っ! ゲホっ、ゲホッ!」

「無理に話すな。大丈夫だ」

(犯人、許すまじ……絶対捕まえてやる……!!)

 私は気力を振り絞って犯人が逃げた方向を指差し、再び意識を手放した。


 *

 

「目覚めなさい、聖女ヴィリアリナ」

 頭の中に響く声に目を開けると、そこは真っ白な空間だった。目の前には、ヴェールで顔を覆った神々しい女神。

 どこかで見たような、しかし現実離れした景色。

 (死んだのね……犯人、末代まで呪ってやる……)

 復讐を誓う私を他所に、女神は淡々と告げる。

「あなたは聖女に選ばれました。復活する魔王を王子アレンと共に討ち、世界を救うのです」

 …?どこかで聞いたような台詞であるゲームを思い出した。この台詞、この光景。間違いなく『救済の聖女』のオープニングシーンだ。

 けれど、私はヴィリアリナじゃない。人違いだ、私は死んだのかと聞こうにも、喉が動かない。淡々と説明されるHP・MPの概念、ステータスの確認方法。

 それらを処理していくと、女神が微笑んだ気がした。

「わたくしから祝福を授けましょう」

 ・初期レベル30

 ・装備一式(即死防止機能付き)

(……これ、当時の予約特典じゃない!)

 

 内心で突っ込んだ私に、女神は真剣な声を重ねた。

「一つ、注意があります。学園への入学まで、魔王に存在を知られてはいけません。聖女特有の能力……解呪、闇ダメージ無効、範囲回復などは決して使わぬように。さもなくば――」

 女神の声が止まる。

「あら? ……すでに使用したようですね?」

(えっ!?)

「わたくしの力で一度だけ隠してあげますが、次はありませんよ。」

 待って、一体いつどこで使ったというのか。

 

「では、二年間のチュートリアルを与えます。魔王を倒せなければ世界は滅び、あなたの魂は永遠に時空の狭間を彷徨うことになります。励みなさい。」

「ちょっと待って! せめて何が引っかかったのかだけでも――!」

 問いかけは届かず、視界は再び暗転した。


 *

 

「お嬢様、起きてください。朝食のお時間ですよ」

 目を開けると、アンナというメイドが立っていた。なぜか自然と名前が浮かぶ。

 ドレッサーに座り顔を上げると、鏡の中にいたのは、透き通るような銀糸の髪を持つ美少女――『救済の聖女』の主人公、ヴィリアリナだった。


 食卓で美形揃いの家族と当たり障りない会話を済ませ、自室にこもって情報を整理する。

「魔王復活までに自力でレベル60まで上げ、攻略後の王子のスキル(パーティレベル+20)を借りるのが最短ルートかな」

 魔王はレベル90。開幕の即死攻撃を耐えるにはレベル80で覚える『即死無効』のスキルが必須。周回前提の鬼畜難易度だが、生き返る保証もない今、ほいほい死ぬわけにもいかない。攻略相手は王子に絞って後はレベル上げに徹するのが良さそうだ。私は攻略サイトの知識も思い出しつつ、情報をノートに書き溜めていった。


 *

 

 翌日、屋敷の裏庭を散歩していると、生い茂る木々の奥に小さな洞窟を見つけた。

(……ここは、もしかして?)

 吸い込まれるように足を踏み入れると、ひんやりとした空気と共に、見覚えのある魔法陣が浮かび上がる。

「やっぱり! 『試練の間』だ!!」

 ここは序盤のチュートリアル会場であり、クリア後のレベル上げ専用施設。女神が言っていた「二年間のチュートリアル」とは、入学までにここでしっかり鍛えろという意味だったらしい。

 最初の扉はレベル30以上で解禁される。私は予約特典で得た初期レベルを武器に、その重い扉を押し開けた。


 魔法を使えるというのは、想像以上に楽しかった。

 私には光属性の適性しかないようだが、回復だけでなく攻撃も防御も工夫次第でどうにでもなる。毎日、帰れるだけのMP(魔力)を残して試練の間に籠る日々が始まった。

 MPは時間経過か薬で回復する。HPは怪我のほかに魔法による攻撃でも減少し、回復魔法か薬か治療で回復する。

 本来なら回復薬でMPを補って鍛錬を続けたかったが、近頃は魔物の活性化で討伐隊の需要が増え、薬の価格が高騰している。貴族といえどもあまりお金のない我が家では手が届かない値段だった。

 

 レベル40になった頃、先生も出来た。その人はどこからともなく現れては、魔物への立ち回りや、光魔法の効率的な運用を叩き込んでくれた。

 先生の教えもあり、学園入学の頃には私のレベルは49になっていた。

初めまして、もずくです。

読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ