集団ストーカー
本を読み終わり、しばらくすると魔導書を抱えた司書が話しかけてきた。
司書から魔導書を受け取り、国立図書館を後にした。
国立図書館からフレイヤのいるところまで歩いている間に考える。
もし魔王に集団ストーカーを仕掛けるとして、どれだけの人員が必要になるだろうか。
集団ストーカーの実行部隊を少なく見積もって300人として、魔王を監視・盗聴して実行部隊をサポートする情報部隊が100人、魔王の部屋に侵入する工作員、その他予備の人員などを含めて、ざっと500人ほど魔王軍の協力者が必要になる。
これだけの魔王軍の協力者を得るには、王国軍の武力が交渉の際に確実に必要になる。さらに、魔王軍の協力者が得られた場合、協力者が得た情報をこちらに送り、王国軍の方で情報を精査し、次の目標を達成するための指示を魔王軍の協力者側へ送る設備が必要となる。また、王国軍側にも得られた情報を精査する人材が必要になる。
これを実現するためには国王を説得する必要があるだろう。しかし、一国の王が勇者の落ちこぼれである自分と面会してくれる可能性はほとんどゼロだ。
考える。そして、チャンスが得られる方法を思いつく。
王国軍憲兵勇者隊隊長のアレフの発言であれば、国王も耳を傾けるかもしれない。
アレフは転生者だから集団ストーカーという単語は聞いたことがあるだろう。
とにかく、アレフを説得して国王との面会を設けてもらわなくては。
そんなことを考えているうちにフレイヤのもとへ辿り着いた。
フレイヤに魔導書を渡した後、アレフの明日の予定を聞いた。
なんでと聞かれたので、重要な話があるからと答えた。
すると、明日の午後6時には宿に戻っているはずと教えてくれた。
次の日の午後6時、アレフのいる宿に訪れると、アレフの他にフレイヤ、戦士のグラントと神官のクルト、つまり馬車にいた一行が待っていた。
アレフが言うには、重要な話をするのだったら、パーティで共有したいとのことだった。
私としては正直どちらでもよかったので、そのまま自分の考えていることを話した。
現在のように魔王軍と正面から戦っていては犠牲が大きい。だから、正面から戦うのではなく、魔王単独に狙いを定めて、孤立を誘うことによって、組織中枢を破壊していった方が効果的で犠牲が少なく済む。その際に集団ストーカーという手法を用いる。
集団ストーカーとは元々アメリカ中央情報局(CIA)において、麻薬カルテルや共産主義者、その他組織にとって不都合な人物を孤立させ、社会から抹消するために行われたプログラムの一種であった。それをCIAと蜜月の関係にあった創値学会が宗教批判者を弾圧するために採用し、日本に広がっていった。
そもそもCIAが創値学会と関係を持ったのは1950年代、日本の共産主義思想の調査を行ったときであった。合衆国では低所得者層の共産主義思想が危険視されており、占領下にある日本においても低所得者層の共産化が問題になると予想されていた。しかし、調査を行うと、日本において低所得者であっても、保守的な思想を維持している事が判明した。そして、その低所得者たちをさらに調査すると、創値学会という新興宗教団体に所属していることが分かった。そこで、CIAは創値学会が低所得者の共産化を抑える重要なシステムととらえ、その原理を利用するために接近して今の蜜月の関係に至っている。
話が少し逸れてしまったが、集団ストーカーの話に戻そう。
集団ストーカーでは不特定多数の人間によってガスライティングを行うことによって、ターゲットを心理的に追い詰める。ガスライティングとは、ターゲットに些細な嫌がらせ行為をしたり、故意に誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、正気、もしくは自身の認識を疑うよう仕向ける手法のことである。「ガスライティング」という名称は1938年にアメリカで作成された「ガス燈」という舞台劇から命名されている。
この手法の利点は、明確な悪意を持った行動として証拠を示すことができないため、他者と共有されにくいことである。そのため、ターゲットは疑心暗鬼になり、孤立しやすい。また、警察などの治安組織の網をすり抜けることができることもメリットである。
先ほど、国立図書館で「魔物にも心はある。」という本を読んだ。もし、魔王にも心があるのだとしたら、集団ストーカーによってノーリスクでそれを破壊することができる。
もし、魔王軍側に500人程度の協力者を用意出来たら集団ストーカーが可能になる。500人のまとまった協力者を用意するためには王国軍もとい国王の承認が必要になる。しかし、自分には国王と面会できる権限はない。そのため、王国軍憲兵勇者隊隊長たちの権限を使わせてほしい。
もし、集団ストーカー作戦が実行に移れば、時間はかかるかもしれないが、今までよりも遙かに少ない犠牲で魔王を追い詰めることができると考えられる。そのために力を貸してほしい。
以上のような内容をアレフ一行に話した。
転生者のアレフは少し理解した素振りを示したが、他の一行は何を話しているのかさっぱりという印象であった。
少しして、アレフが口を開いた。
「集団ストーカーは俺も転生前に耳にしたことがある。でも、それは、何というか、統合失調症の患者の言う妄想であって、現実のものではない。そんなもののために王国軍が力を割けば、魔王軍に対して劣勢になってしまう。」
「たしかに、そう思うのも無理はないです。しかし、卵が先かという話になりますが、統合失調症の妄想として集団ストーカーがあるのか、それとも集団ストーカーの被害の果てに行き着くのが統合失調症であるのかということになります。私は後者が事実であると考えています。」
「どうして、そう考えるんだ?」
「以前、酒場でなぜ私は転生時に特殊能力が貰えないか聞きましたね。」
「たしかに聞いたが、それと何の関係がある?」
「私は転生前、創値学会の広宣部に所属し、集団ストーカーによって30人以上の人間を自殺に追いやっています。だから、転生時に神から能力を貰えませんでした。」
あたりに一瞬静寂が流れた。その後、アレフが再度聞いた。
「つまり、集団ストーカーは実現可能なのか?」
「はい。確実に。」
私は答えた。
「国王陛下に謁見する用意をしよう。多分1カ月後位になるだろうから、その間に話をまとめておくように。」
アレフが国王謁見の約束をしてくれたため、私は宿を去った。
「本当にあいつの言うことを信じたの?」
私が去った後、フレイヤがアレフに聞いた。
「半々だな。」
アレフが答える。
「でも、どちらにせよ、一カ月後は面白いことになりそうだ。」




